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■夏の日の想い出・虹の願い(4)
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1月26日(水).
この日、政府の依頼によるポーランドでの仕事を終えた明智小五郎がやっと帰国した。空港での検査で陰性が確認されたが、10日間の自宅待機となる。
この日数の数え方は、18時までに帰国して誓約書を提出、アプリで登録した場合、翌日(27日)を1日目と数えて、10日目(27 28 29 30 31/ 1 2 3 4 5)の2月5日23:59まで自宅を離れられない。万一自宅から遠く離れたりすると、最悪氏名公表(接触した人に注意を促すため)などの処分が課される。
自宅では、個室で家族とも接触しない状態で過ごし、食事も紙の使い捨て食器に盛り、文代さんが部屋のドア前に置き配する。トイレに行く時はメッセで報せて家族と接触しないようにし、トイレ使用後は消毒する。手拭きなどを共用しない(小五郎は自分のハンカチで手を拭く)。風呂は必ず最後に入る。着替えも洗濯機には入れず、とりあえず部屋に置いた洗濯籠の中に置いておく(出張中の服と隔離5日目に洗濯したが、文代はマスクをして使い捨て手袋をして洗濯物に触った)。
一人暮らしの人の場合、自治体の食事配送サービスが利用できたのだが、今回のオミクロン最流行時には待機者が多すぎて自治体も手が回らず、このサービスが利用できなかったりして、かなりの苦情が出た。
要するに帰国はしたものの、直接小林が会うこともできず、文代ともできるだけ接触しないようにしなければならないので、外国に居るのと大差無い!
一応、スマホを通してのチャットで、文代と小林は明智に今回の事件に関する中間報告をした。
「うん。その方法で問題無い。相手はこちらの心理の隙を突いてくるから、常に様々な可能性を考えて」
と明智は指示した。また村正社長に電話をして、帰国の報告をした。帰国はしたものの、自宅待機になっているので、10日後の2月5日23:59までは外出できないこと、しかし必要な処置は文代や小林を通じてさせるから安心してほしいということを伝えた。
しかし明智の声を聞き、とにかく国内に居ると聞いただけで、村正氏はかなり安心したようだった。
1月27日(木).
村正社長が朝、個人秘書の運転するレクサスLS500h に乗り、自宅を出て会社に向かおうとしていた。秘書がリモコンで門を開けようとしたら、門に何か紙のようなものが貼り付いていることに気付いた。
「何でしょう?ポスターでも飛んできて貼り付いたのかなあ」
と秘書は車を降りて紙を剥がした。
首をひねっている。
「どうした?」
と言って、村正社長が降りて見に行く。
「何でしょうね?これ」
と言って秘書が見せるのは、A4のPPC用紙に大きな文字で“10”と印刷されたものである。
「二十面相の予告だ。あと10日という意味なんだ」
と紙を握りしめながら村正社長は呟いた。
村正社長から電話で報告を受けた明智は言った。
「二十面相のいつもの手口ですよ。予告で相手を不安にさせるんです。惑わされないようにしてください。警備は現状でも充分なはずです」
1月28日(金).
“9”とだけ書かれた葉書が配達された。警察にも届けたが、大阪の郵便局で受け付けられたものということが分かっただけで、それ以上のことは不明だった。指紋などについても、多数の郵便局員の指紋が付いているだろうし、犯人は指紋を付けないように気をつけているだろうから何も分からないだろうという話であった。
1月29日(土).
朝7時、村正邸に電話が掛かってきた。ここの電話番号は電話帳にも載っていないし、会社でも、ごく少数の人間しか知らない。それで概して安心して取ることができる。
「はい、村正でございます」
と村正社長の奥さんが受話器を取って答えたら
「あと8日だぞ」
という男の声がして電話は切れた。
奧さんの様子が変なので、社長が訊く。
「どうした?」
「何かしら?男の声で“あと8日だぞ”って」
村正社長にはすぐ分かった。
「それは二十面相から、あと8日で仏像を盗みに来るという予告だ」
「え!?」
と驚いた妻は続けて
「きゃー!」
という声を挙げた。
1月30日(日).
村正邸の庭の芝生が7の文字に刈られていた。
「これ元に戻るまで数ヶ月かかる」
と庭師さんが憤慨していた!
1月31日(月).
玄関のドアの外側に6月のカレンダーが貼られていた。
玄関の所に詰めている警備員は怪しい人影は見なかったと言う。
「門、庭、玄関、とだんだん近づいて来ている気がするんですが」
と村正氏は心細くなって明智に電話した。
「これが二十面相のいつもの手なんですよ。相手の心を不安にさせて穴を作ることが目的ですから、気をしっかり持って下さい」
「はい」
2月1日(火).
図書室で、本を探していた、村正氏の孫娘・紗耶香(演:水谷雪花)が何かの気配を感じて横を見ると特撮ドラマの戦闘員のように顔まで全身くろずくめの男が居て、その胴体部分に大きく“5”という文字が白いペンキで書かれていた。
「キャー!!!!!」
と悲鳴をあげる。
美術室で入口の番をしていた女性警備員が駆け付けてくる。
「どうしました?」
「あそこに」
と言って指さす。
「おい、待て」
と言って、警備員が男の方へ駆け寄るが、男はひょいと図書室を出ると外からカンヌキを掛けてしまったようである。
警備員がドアを揺するが開かない。
警備員はスマホで玄関の所にいる同僚に連絡した。
ところが黒ずくめの男は玄関には向かわなかった。邸の奥に向い、勝手口から出ようとしたのである。
ギクッとする。
そこに家事手伝いの女だろうか、可愛いメイド風のユニフォームを着た20歳くらいの女性(演:太田芳絵)が立っている。
「どけ」
と男は言った。普通の女なら、こんな格好の男を見たら怖がって逃げるだろうと男は思った。
ところが女は平然としている。それどころか、こちらを睨み付けているのである。
「二十面相君?それとも手下さんかな?」
「きさま、まさか小林か!?」
「ああ、本人みたいだね。こういうのに手下を使うような君じゃないよね。楽しいから。君って楽しいから泥棒してるんだもんね」
「そんなことは無い!」
と二十面相は怒ったように言う。
「そこに居て。今警備員を呼ぶから」
と言ってメイドに化けた小林はスマホを出すと、警備員の業務用スマホに電話して、こちらに賊が来ていることを伝えた。
(このシーンは演技しているのは太田芳絵だが、声をアクアが後でアフレコした。元々三田雪代が出る予定が、他の番組の撮影日程がずれたため、たまたま空いていた太田に出てもらった。彼女は3月で退団予定だが、これが最後の地上波出演かなあ、最後がアクアの代役って最高!と思って出た。彼女は元々演技はうまい)。
黒ずくめの衣裳の二十面相は焦った。まだ品物を盗ってもいないのに、捕まってたまるか!
後ろを向いて逃げようとしたが、小林は二十面相の下半身に飛び付きタックルするようにした。二十面相は動けない。
「離せ」
「僕は腕力では君にかなわないけど、数分間君を動けないようにするくらいはできるよ」
そんなことをしている内に警備員が駆け付けてくれた。手錠を掛ける。
「くそう!!」
「ありがとうございます。すぐ警察を呼びます」
「よろしく」
そういう訳で今回、二十面相は犯行前に捕まってしまったのである。二十面相にしては珍しい失態であった。
メイドに化けた小林は二十面相を警備員たちに任せると、立ち上がって明智に報告するため、タックルした時に落とした自分のスマホを拾い上げた。
この時、さすがの小林も一瞬油断してしまった。
勝手口のドアが開いたのである。小林と同じユニフォームを着た本物の家事手伝いの女性(演:斎藤恵梨香)がエコバッグを両手に持って入ってきた。
「あっ」
と小林は声を挙げた。
二十面相は物凄い勢いで警備員たちを撥ねのけると、勝手口に突進する。そして本物の家事手伝いの女性と身体を入れ替えるようにして横を抜け、外に走り出してしまった。
「待て」
と言って、女性警備員たちが追っていく。
小林はふっと息をつくと、二十面相に倒された女性の手を取って起こしてあげる。
「君、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
と言って女性は立ち上がった。
「あれ?あなた新人?」
「ごめんね。ボクは明智探偵事務所の助手で小林というんだ。村正社長にお願いしてユニフォーム1個分けてもらって、警備会社のアプリもインストールさせてもらって、目立たないように警戒してたんだよ」
「嘘!?小林さんって男の人よね?」
「そうだけど」
「女の子に見える!」
「女装はだいぶ練習してるから」
「可愛い!このままメイドさんにならない?」
「勘弁して。女の子の格好してるのは恥ずかしい」
(放送時「嘘つけ!」という声多数)
「でも私、もしかしてまずい時に入ってきた?」
「不可抗力だよ。気にすることないよ」
「ごめん!」
この場面は実はアクア不在の時間帯に太田芳絵と斎藤恵梨香のみで撮影している。しかし2人とも堂々とした演技で、監督が喜んでいた。
結局、警備員たちは二十面相を見失ってしまったようである。
「すみません。せっかく捕まえていただいたのに」
と小林に謝る。
「いや、間の悪い時はあるものだよ。お疲れ様」
と小林は彼女たちをねぎらった。
「でも手錠掛けたのに」
「あいつは手錠抜けの名人だからねぇ」
村正氏は警備会社に頼んで、警備員の数を増やしてもらうことにした。今回賊が勝手口から出たということから、勝手口・非常口、図書室の入口と、念のため家族玄関の所にも居てもらうことにしたのである。
ただ、女性の警備員がそんなに居ないと言われ、男性の警備員にも入ってもらうことにした。それでこのような配置にする。
男性警備員:表玄関→図書室入口(廊下)→非常口→通路入口(美術室内)
女性警備員:表玄関→家族玄関→仏殿内→勝手口
(再掲)
表玄関の所は男女の警備員が揃うが、玄関の所には受付も居るので、むろん変なことはできない。受付はふだんは朝から夕方までしか人が居ないのだが、信頼できる社員数名にお願いして交代制にし、24時間誰か居るようにしている。警備会社に任せっきりにしないのは、“身内”でないと異状に気付かないケースがあることを想定したものである。
(仏殿に入るには、↑図上側の廊下から、図書室を通り美術室から細い通路を通る以外は道が無い)
しかし浸入した賊を小林がいったん確保したことから、村正氏は明智探偵事務所への信頼を高めたのである。
なお、図書室入口には本来カンヌキなど無かったのに、どうも賊が万一の場合のために勝手に取り付けていたようである。村正氏はここに(カンヌキは取外して)セキュリティゲートを作って、電子キーを持っている人しか通れないようにしてもらった。
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