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■夏の日の想い出・天下の回り物(22)

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ローズ+リリーの2年ぶりのツアーは10月14日東京・深川アリーナで終了した。この公演では幕間ゲストに桜野みちるを招いたが、この日はみちるは完全にこちらを食っていた。
 
司会役の品川ありさが私に言った。
 
「紅川会長がみちるさんの結婚を認めてくれたのは、やはり一時期はみちるさんだけで§§プロが持っていたからなんでしょうね」
 
「そうだと思うよ」
と私も言う。
 
今でこそ若い元気のいいタレントが10人以上いる§§グループだが、桜野みちるが2010年にデビューした後、品川ありさが2014年秋にデビューし、続いてアクアが2015年正月にデビューするまで、その間にデビューした海浜ひまわり・千葉りいな・神田ひとみ・明智ヒバリが連続してコケて、§§プロは結構苦しい内情だったのである。当時、もう秋風コスモス・川崎ゆりこもピークを過ぎており、桜野みちる1人であのプロダクションは支えられていた。
 
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品川ありさのデビューが成功する直前まで、紅川さんはあのプロダクションを畳もうかと思っていたのである。
 
紅川さんはその恩があるから、みちるのわがままを受け入れたのだろう。
 
「やはり私は契約通り26歳までは結婚できないですよね?」
などとありさが言うので
「それ19歳が心配することじゃないよ」
と私は言った。
 

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「だけど§§ミュージックって1999年組が多いよね?」
「そうなんですよねー。私と高崎ひろか、西宮ネオン、花咲ロンドと1999年が4人いるんですよ」
「その子たちが26歳になる2025年はひとつの区切りかもね」
「ネオン君は30歳まで結婚不可らしいです」
「まあ男の子は仕方ない」
 
「そうだ。知ってます?葉月は26歳まで“男性との”交際・結婚・妊娠が禁止らしいです」
「ああ、聞いてる。でもあの子見てたら、それでいい気もしてくる」
「本人も性別意識が揺れているみたいですね〜」
「取り敢えず女装には完全にハマっているよね」
 
「なんか男物の服は全部捨てたとか」
「女子高に入っちゃったから、今更男ですとは言えなくなっちゃったみたいで」
「ああ。女子高生として普通に生活して下着姿とかも見せていたのに、男でしたなんて言ったら、同級生に殺されますね」
「そうそう」
 
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「じゃ葉月はもう性転換しちゃうしかないのかなぁ」
と言うありさは半ば面白がっている感じだ。
 
「高校卒業したら外国に移住する手もあると思うよ」
と私が言うと
「なるほど!」
とありさは納得していた。
 
「それで身体も直して、一人の日系女優として新たな1歩を歩み始めるんですね?」
 
「いや、そういう意味ではないんだけど」
 

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今回のツアーのラストの少し前、2018年10月7日千里1の夫であった川島信次の百箇日法要が行われたが、千里1はこの法要の後、千葉市内の信次の実家を出て、世田谷区経堂の桃香のアパートに転がり込んだ。千里と桃香の共同生活は2015年春以来、3年半ぶりである。
 
千里1は四十九日の後、緩菜ちゃんの誕生以来、日増しに気力を取り戻して行っていたのだが、この時期にはかなり元気になっていた。作曲能力はまだ戻ってきていないものの、編曲はできるということで、雨宮派の作曲家の作品の編曲をするようになったようである。
 
それと同時に千里1はレッドインパルス2軍に復帰して午前中は横浜市内の2軍練習場で汗を流し、午後から編曲作業をしているようであった。私は彼女がバスケットの能力を復活させていくのと連動して音楽的能力も復活させてくるのではないかと思った。
 
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「レッドインパルスへの復帰は実はワールドカップが終わるのを待っていたんだよ」
と後で千里2は言っていた。
 
「9月30日まで千里3がスペインのカナリア諸島でワールドカップやってたからね。カナリアにいるはずの千里の別人格と首脳陣が思っている“十里”が日本国内の練習場に姿を見せたら変だから」
 
「それ疑問に思っていたんだけど、パスポートとかどうなっているの?スペインに行っていた3番さんは自分が結婚しているなんて知らないんでしょ?」
と私は尋ねる。
 
「実は元々村山千里の戸籍が2つあったんだよ」
「え〜〜!?」
 
「仮にM戸籍、F戸籍と私は呼んでいるんだけど、婚姻届けを出したのはM戸籍。だからM戸籍では川島千里になっているけど、F戸籍は村山千里のまま。だからパスポートも2種類存在する。私も3番も村山千里のままのF戸籍に基づいて発行されたパスポートを使っている」
 
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「2人でひとつのパスポートを共用して矛盾は起きない?」
「いや。矛盾を起こさないようにやりくりするのが大変なんだよ」
「大変だろうね!」
 
「1番にはさっさと村山の氏に復して欲しいんだけど、さすがに一周忌くらい終わるまでは無理だろうな」
「川島のお母さんの感情に配慮したら、そうなるだろうね」
 

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2018年10月11日に若葉が3人目の子供・政葉(ゆきは)を産んだ。この子は実はこの物語から60-70年後の世界で重要な役割を果たすことになる《やまと》の祖母になるという意味で血統的に重要な子なのだが、私はこの子の父親について、生まれた当日まで知らなかった。
 

 
若葉の出産に実際に立ち会ったのは、若葉の母、友人の麻衣、野村治孝・貞子夫妻、紺野吉博であった。治孝は若葉の第一子・冬葉(かずは)の父である。ただし人工授精であり、ふたりは恋愛関係などがあったわけではない。紺野君は第二子・若竹(なおたけ)の父である。ふたりは当時恋愛関係にあったし、紺野君は若葉と別れた後も、あれこれ若葉をサポートしてくれている。彼は若葉の会社ムーランの株主にもなっている。男性恐怖症の若葉が紺野君とはよく一緒に同衾しているようであるので、周囲は事実上ふたりが夫婦であるとみなしている。本人たちは「別れた」と言っているものの。
 
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それで私はてっきり政葉(ゆきは)も紺野君の子供だろうと思っていたのである。
 

夕方、出産した若葉本人から私に会いたいので来てくれないかという連絡があり、私は何だろうと思って病院に行った。この時、病室には他に誰もいなかった。
 
「出産お疲れ様」
「何度やっても産む時は命懸けって感じ」
「だろうね。私には体験できないことだけど」
 
「取り敢えずその子を抱いて欲しい」
と若葉が言うので、私はそっと抱き上げた。産まれたての赤ちゃんを抱くのはとっても怖いのだが、気をつけて気をつけて抱く。
 
「可愛いね」
「可愛いでしょ?」
 
「うん。とうとう若葉も3児の母になっちゃったね。同い年なのに凄いなあ」
などと私は言う。
 
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「冬だって2児の母じゃん」
 
私はギクっとした。
 
「もしかして政子のお腹の中の子の父親、知ってた?」
「当然」
 
「そっかー。あれ、政子が勝手に私の精子で人工授精してたんだよ」
「まあ、そんなこともあるだろうね」
「でも私の子供はその子だけだけど。2児って?」
 
「そこに1人目がいるじゃん」
と若葉は言った。
 
「へ?」
 
「その子は冬の子供だよ。だから政子ちゃんが産むあやめちゃんのお姉ちゃん」
「え〜〜〜!?」
 
私は唐突に昔のおとな向けの雑誌に載っていた漫画で10年ぶりに再会した女性が連れている子供を見て「結婚したの?」と訊いた男性に
 
「ううん。この子はあなたの子供よ」
と言っている場面を連想した。
 
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(どうしたらそういうことが起きるのか当時は理解不能だった)
 
「どういうこと?」
と私は尋ねた。
 
「冬の精子で人工授精したから」
「紺野君の子供じゃないの〜?」
 

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「高校1年の時、冬がもう性転換すると言うから、その前に精子を保存しようと言って4本保存したじゃん」
 
「あ、うん」
「あの精子は私と冬の共有物だったからね。だからこの1月に、その1本を使わせてもらった」
 
「うっそー!?」
 
私の同意書は?と聞きたい気分である。
 
「ところがその後、6月に《冷凍精子使用のお知らせ》なんてハガキが病院からうちに舞い込んだからさ」
「あぁ・・・」
 
「それで誰かが冬の冷凍精子を使ったことが分かった。その後、政子ちゃんが妊娠を発表したから、政子ちゃんも冬の冷凍精子で妊娠したんだなと察した。実際あれを使用できるのは《冬彦の妻》だけのはずだから、それって私と政子ちゃんにしかできないことなんだよね」
 
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「あの精子は一部が私と若葉の夫婦のもの、一部が私と政子の夫婦のものとして病院には登録されていたみたいなんだよ」
 
「冬の奥さんって他にはいないんだっけ?」
「居ないよぉ」
「怪しい人が何人かいるんだけどなあ」
「それ若葉のタロットで占われたことがあったような・・・」
 
「それでいくと冬はあと2人くらい子供ができるかもね」
「うーん・・・・」
 
と悩んでから私は言った。
 
「分かった。私は若葉とキスもしてるし、ほとんどセックスに近いこと何度かしているし、若葉に対しては責任があると思っているから、その子は認知するよ」
 
「女性が認知するのは不可能だと思う」
「うーん。。。そうかも知れない」
 
「実は(紺野)吉博にかなり言われてさ」
「うん」
「若竹はやはり彼に認知してもらおうと思っている」
「いいんじゃない?」
「それでついでに冬葉と政葉も彼に認知してもらおうかと」
「彼の子供じゃないじゃん」
「それでも彼は3人とも自分の子供のようなものと言っている。だから3人とも自分の子供にしたいと言うんだよ」
 
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「若葉がそれでよければいいと思うよ。私は異論無い。たぶん野村君も異論無い」
 
「私、結婚というものには拘束されたくないから、彼と法的に婚姻するつもりは無いんだよ」
 
「婚姻すればいいのに」
「でも子供の父親になってくれるというのは受け入れてもいいかなあという気もしてきてて」
 
「いいじゃん、父親になってもらいなよ」
「冬はそれでもいい?」
「いい。でも私もその子の誕生日とかには贈り物をするよ」
「うん。贈り物は歓迎」
 
そういう訳で私は、あやめの父になる前に政葉の父になってしまったのである。もっとも若葉は「あやめちゃんの母」「政葉の母」という意識でいればいいよと言ってくれたので、私もそう考えることにした。母が2〜3人いてもいいよね?
 
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若葉が政葉を産んだ翌日、10月12日に今度は高校以来の友人・仁恵が最初の赤ちゃんを産んだ。仁恵は昨年6月に結婚していた。
 
「なんかこうやって同世代が結婚して子供産んでいると無言の圧力を感じる」
などと親友の琴絵が言っていた。
 
「コト、彼氏は?」
「そんなのがいたら、圧力を感じるなんて言わないよ」
 

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2018年10月20日(土).
 
この日はローズ+リリーのライブは行われずKARIONのライブのみが旭川で行われたのだが、私は前日の19日(金)に旭川に入った。ただこの時、18日(木)に麦山貴里子から電話が掛かってきて「旭川へは新幹線乗り継ぎでお越し下さい。チケットも取っていますから」と言われる。それで私は和泉に都合で別行動になると連絡し、19日朝から東京駅に出かけた。
 
すると東北新幹線の乗り口の所に麦山が居て
 
「これチケットです。行く途中、このタブレットに入っているkarion2018summerという動画を見ていってください」
と言って、チケット、タブレット、ヘッドホンを渡された。
 
「ありがとう。この計画を進めてくれた人に御礼を言っていたとお伝え下さい。やはりダブルライブは体力的に無理だった気がします」
 
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「はい、お伝えします。焦らずに精神力を回復させてくださいね」
「はい」
 
「それとこれは朝御飯のお弁当とお茶です」
「何から何までありがとう!」
 
それで6:32の《はやぶさ1号》グランクラス1Aの座席に乗り込む。グランクラスはAの座席は独立シートで、BCは並びのシートである。1人旅の時はこのAの座席が気楽で良い。
 

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