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■夏の日の想い出・天下の回り物(9)
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(C)Eriko Kawaguchi 2018-08-11
「お疲れ様でした」
と声を掛け合って、西湖はスタジオを出た。
スタジオへの出入りは学校の制服を着なければならない定めなので、西湖は通学しているS学園の夏制服(ブラウスとチェックのスカート)を着ている。
しばしば無視されてしまうのだが、一応西湖は高校生なのでお仕事は夜10時で終わりである。これがアクアの場合は超人気アイドルの特例(光GENJI通達)で労働法の適用外らしく、深夜近くまで撮影が続く。
(この通達が適用されるのは国民的な超人気アイドルのみなので、過去にふつうのアイドルが適用対象外と認定されて事務所が摘発された例がある)
アクアさん大変だよなあ。よく体力もつよなあ、などと思いながら西湖は帰ったらすぐ寝ようと思う。あくびが出たりする。
玄関はもう閉まっているので、通用口を出て、地下鉄の駅の方に向かおうとしていた時、数人の人影が寄ってきた。何だろう?と思ってそちらを見ようとした西湖はいきなり口と鼻の所に何か薬のようなものを染み込ませた綿のようなものを当てられた。
何?何?
と思うが意識が遠くなっていく。その遠くなって行く意識の中で
「アクア確保」
という30代くらいの女性の声が聞こえた気がした。
西湖が意識を失って崩れるように20代くらいの男性の腕に支えられると一緒にいた女性は
「これがアクアちゃんか。女子制服よく似合うね。この女子制服にふさわしくないものは取ってしまおうね」
などと言っていた。そのままそばに停まっているレクサスの後部座席に西湖を乗せる。そして車は静かに夜の町に出た。
1時間ほど走って郊外の病院に入る。運転していた男性が西湖を抱えて手術室に運び込む。
スカートがめくられ、パンティが下げられる。
「あれ?女の子なのでは?」
「偽装しているんです」
と言って、運び込んだ女性は接着剤の剥がし液とハサミを使ってタックを解除した。
「へー。うまく偽装するもんですね」
と医師は感心しているようである。
ついでに陰毛を全てハサミで切り、シェーバーで短くなった毛も全部剃ってしまう。
「じゃ去勢手術しますよ」
「よろしくお願いします」
それで手術が始まる。医師は部分麻酔をすると、陰嚢を少し切開して睾丸を1個ずつ取り出し、精索を結索すると切断した。切開した陰嚢を縫合して手術は終了する。
「よかったねぇ、これでもう男にならなくて済むよ。君の可愛い声は永遠だよ」
などと女性は言っている。
そして患者の性器をもてあそんでいたが、ふと思いついたように言った。
「先生、いっそのこと、このおちんちんも取ってしまえません?この子にはこんなもの、ふさわしくないわ」
「まあいいですよ。取った後はどうしますか?何も無い状態にしますか?それとも女の子のように割れ目ちゃんを作ります?」
「何も無いのは可哀相だから、割れ目ちゃんを作ってあげて」
「分かりました」
それで医師は患者に全身麻酔を掛けると、まずペニスを切断する。そして、その付近の皮膚を巧みに加工して、女の子のような形にしてくれた。手術は2時間ほどかかった。
手術終了後回復室に運び込まれる。
やがて西湖は意識を回復した。
「アクアちゃん。目が覚めた?あなたを男にしてしまう毒素は除去したからね」
と女性は声を掛けた。
西湖はまだボーっとしていたものの言った。
「すみません。私、アクアさんじゃないですけど」
「え!?」
「でも男の子なのに女子制服を着ているなんて、アクアじゃなかったら誰なのさ?」
「私、アクアさんの代理を務めている今井葉月です」
「嘘!?だって葉月ちゃんは普通の女の子だよね?」
「何かみんなから誤解されちゃって、女の子だと思い込まれているんですけど、私、男の子です」
「うっそー!?だってタマタマもおちんちんも取っちゃったよ」
「え〜〜!?」
慌てて西湖は身体を少し起こすとパンティを少しさげてそこを見た。そこにはいつものように女の子のようなお股がある。でもこれは本来偽装されたもののはずであった。
西湖はおそるおそるそこに触った。
割れ目ちゃんが開ける!?
本来ここは偽装なので割れ目ちゃんは接着剤で固定されており開くことはできないはずなのである。これをアクアや西湖は「とじ目ちゃん」と呼んでいる。(「閉じ目」なのか「綴じ目」なのかは意見が別れる)そしてその「とじ目ちゃん」の中には、実はおちんちんが隠されているはずなのだが、西湖が今割れ目ちゃんの中をまさぐってもおちんちんは見当たらない。
「うっそー!?無くなってる」
どうしよう?ボク女の子になっちゃった!??
その時、病室に西湖も顔を知っている有名女性歌手が入って来た。
「手術終わった?」
と西湖のそばに居た女性に尋ねる。
「手術は終わったのですが・・・」
と女性は言う。
「誰これ?」
と女性歌手は言った。
「ごめんなさい。間違って別の男の娘を拉致してしまったみたいで」
「え〜〜!?」
と言ってから、今入って来た女性歌手は西湖の顔をじーっと見た。
「あんた今井葉月ちゃんだったっけ?」
「はい、そうです、松浦紗雪さん」
「その名前はここでは言わないで」
「ごめんなさい!」
「でもごめん。アクアを拉致する所をうっかり間違ってあんたを拉致して去勢してしまったみたいなんだけど、あんた、タマタマ必要だった?」
「えっと・・・」
「無くてもいいよね?タマタマなんて」
「あのぉ、おちんちんも無くなっているようなんですけど」
「あら、そうなんだ?でも、おちんちんも要らないでしょ?それにおちんちんもタマタマも無かったら、戸籍上の性別を女の子に変更できるよ。あんた、女の子になりたかったんだよね?」
彼女はアクアのデビュー前からのファンなので、西湖の性別も知っていた。
「なりたくないですー」
「そう?でもせっかく女の子になっちゃったんだから女の子として生きて行けばいいよ。可愛い服も着れるしさ。あんたくらい可愛ければお嫁さんになってという男の人もきっと居るって」
え〜?ボクお嫁さんになるのぉ?と西湖は困ったような顔をした。
「そこで目が覚めたんです」
と西湖が言うのを聞いて、桜木ワルツは大笑いした。
「でもそれ現実に松浦紗雪さんはそのくらいのことしかねないよ。ローズ+リリーのマリちゃんも危ない。このふたりは特にお金も持っているから怖い。他にも数人危険な人がいるし、暴走したファンが似たようなことをする可能性もある。強制性転換じゃなくても誘拐とかされる可能性もあるし。アクアに護衛をつけるべきかも知れないなあ」
などとワルツは言っている。
アクアさんに護衛か。ボクにまでは護衛はつけてもらえないだろうな。拉致されてほんとに性転換されちゃったら、どうしよう・・・
「ところで西湖ちゃん、パスポートの件だけどさ」
と桜木ワルツは訊いた。
「あ・・」
「どうする?間違ってますと言って再発行申請する?」
「どうしましょう?」
「西湖ちゃんがこのまま女の子になってしまうのなら、そのままでもいいけど、男の子として生きて行くのなら、あれはまずいよ」
「私そのあたりが分からなくなってきて」
と西湖は言った。
昨夜見た夢で自分が女の子に改造されてしまった時の様子を思い出す。女の子の形になった股間を触った感触がリアルに蘇る。ドキドキする。
「取り敢えずパスポートは放置で」
と西湖は言った。
「分かった。放置で」
とワルツも答えながら、この子、本当に女の子になりたい気持ちが出てきているのかもという気がする。
ワルツはふと気になって訊いた。
「あんた、健康保険証持っているよね?」
「はい」
「見せて」
それで西湖はバッグの中から国民健康保険被保険者証を取りだして見せる。
「これ、性別:女って書いてあるけど」
「うっそー!?」
「西湖ちゃん、パスポート申請した時に、身分証明書に健康保険証とか生徒手帳とか見せてない?」
「そのふたつを本人確認に提示しました」
「あんたの生徒手帳は女になっているよね?」
「はい、そうです。S学園は女子校ですから、生徒も女子です」
「だからパスポートが女で発行されたのかも」
「あ、そうかも!」
「だったらあんた、男のパスポートを取ることができなかったりして」
「うっ・・・」
「西湖ちゃんが男だということを示す公的書類がまるで無かったりしてね」
とワルツは笑いながら言う。
「ボクどうしよう?」
と西湖はマジで悩んだ。
「いっそのこと本当に性転換手術しちゃう?」
とワルツが冗談(と思う)で言うと
「でもあれって手術したら1ヶ月くらい入院しないといけないですよね?その間のアクアさんの代理のお仕事が」
などと西湖は言っている。
ワルツは顔をしかめた。
「自分の身体のことより仕事を心配するって、あんたホントにワーカホリックだね!」
ところで1月程前の7月23日、「§§プロ」の最大の稼ぎ手であった桜野みちるがWooden Fourの森原准太との結婚、それに伴う引退を発表したが、§§プロはこれで大きな稼ぎ手が居なくなってしまった。
一時は秋風コスモスが社長を務める「§§ミュージック」への吸収も検討したようだが、そもそも若いコスモスに自由に腕を振るってもらうために、彼女より年齢の高いタレント・歌手を全部「§§プロ」に集めた(正確にはアクアをはじめとする若手を§§ミュージックに分離して年齢の高い人は残留させた)経緯があるので結局、§§プロは鈴木社長の∞∞プロに吸収してもらうことにした。
それで紅川さんは引退して郷里の宮古島に戻るということだったが、その件で私は紅川さんから個人的に相談された。
「僕は自分の息子が心配なんだよ」
「ご子息は何をなさっていたんでしたっけ?」
「息子は今30歳で九州大学の工学部を出た後九電(九州電力)に勤めていたんだよ」
「エリートじゃないですか!」
「でも26歳の時に地元で泡盛作りをしたいといって結婚したばかりの嫁さんを連れて宮古島に戻ってきてね。当時嫁さんが妊娠中だったことあり祖母さん(紅川社長の母)は凄い喜びようでね」
「そりゃ喜ぶでしょう」
「まあ泡盛の工場作る時は私も建築費を借りる保証人になってやったんだけどね」
「駄目だったんですか?」
「本人が泡盛作りの経験が無い。加えてこれまで営業経験も客商売の経験も無い。電力会社なんて独占企業で殿様商売だからさ。それにそもそも泡盛の売上げは10年くらい前をピークに年々減少している」
「あぁ・・・」
「2年で倒産して借金だけが残ったよ。結局息子一家は今福岡に出て住宅管理会社に勤めている。借金は少しずつ返して行っている」
「自分で返すのは偉いです」
「借金の肩代わりなんて絶対しないから。そんな甘いことしたら駄目になる」
「会長も息子さんもしっかりしていると思います」
「それで心配しているのは、僕が死んだ時に、僕が保有している§§ホールディングの株を息子が相続した場合に、経営に口出しをしてこないかということなんだよ」
私は考えた。
「会長、先日引退するというお話を聞いた時にも少し思ったのですが、もしかして健康に不安がおありなんでしょうか?」
「糖尿は抱えている。これはやはり若い頃無茶やり過ぎたからね。だけどそれ以外は特に不安は無いよ」
「それは良かった」
「でもこの年になると同年代の友人がどんどん死んで行っている。それも昨日まで元気にしていたのがという話も結構聞いてさ」
「そうですねぇ」
「だから僕に何かあった時にコスモス君が困り、アクア君にも影響が出るようなことが起きては困るんだよ」
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