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■夏の日の想い出・天下の回り物(14)
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さて2018年のローズ+リリーの秋のツアーであるが、昨年がアルバム制作で死んでいて、その後春は上島騒動でとても余裕がなくて、結果的に2年ぶりのツアーになったこと、そして10周年記念ツアーであることから、演奏曲目を30曲にしてくれないかと★★レコードの佐田副社長から要請があった。
「マリが妊娠中なので充分な休憩が必要なのですが」
「では途中2回休憩を入れて3部構成+アンコールというのではどうだろう?」
「まあそれしかないですよね」
2回の休憩を入れて30曲演奏すると、演奏時間はどうしても3時間に及ぶ。
それで3時間やるとなると、何時に始めるかという問題がある。佐田さん側で各会場と終了時間について交渉してくれたところ(実際に交渉に当たったのは佐田さん直下のメディアミックス推進室だが)、全ての会場で22:00までに確実に撤収するなら21:30までは目をつぶるということになった。そのため★★レコード側から撤収作業を手伝うスタッフを派遣する。
しかし21:30エンドとなると、開始は18:30になる。
私は町添部長と話し合い、休日の場合は開始を思い切って17:00まで繰り上げることにした。それで実は影響を受けるのがKARIONのライブだ。
元々はKARIONのライブを13:00-15:15にやって1-1.5時間の移動で私がローズ+リリーの会場に入り、2時間近く仮眠を取って19:00開演、21:15エンドという想定をしていた。ところがローズ+リリーが17:00スタートならKARIONを11:00には始めないと間に合わない。
結局、KARIONは9:00開場10:00開演12:15終了という、異例の午前中ライブということになった。KARIONの事務所の畠山社長が不満だったようだが、私の体力を考えるとやむを得ないよなぁと妥協してくれた。
さてこのスケジュールを前提に演奏者を集めることにする。
私はいつものようにある程度高校生・大学生の演奏者を使いたいと思った。できるだけ若い人のパワーを取り込みたいのだ。
ここで問題なのが、翌日が平日という公演で演奏者が東京に戻れるかという点と水曜日の場合、夕方東京から移動して公演に間に合うかという問題であった。まずは妃美貴が時刻表を調べてくれた。
「東京に帰さないといけない人は第2部で上がりというのでいいですよね?」
「うん。そういう曲の配列にしよう」
「それならだいたいこの連絡でいけます」
9月09日(日)函館17:00/18:50 (別記)
9月12日(水)千葉18:30/20:20 In:OK Out:OK
9月17日(祝)宮城17:00/18:50 Out:仙台20:17-22:24東京
9月19日(水)静岡18:30/20:20 In:東京16:26-17:51静岡 Out:静岡21:20-22:47東京
9月24日(振)長岡17:00/18:50 Out:長岡19:59-21:52東京
9月26日(水)高松18:30/20:20 無理
9月30日(日)大阪17:00/18:50 Out:新大阪19:50-22:23東京
10月3日(水)横浜18:30/20:20 In:OK Out:OK
10月8日(祝)別府17:00/18:50 (別記)
10月10日(水)大村18:30/20:20 (別記)
10月14日(日)東京17:00/18:50 Out:OK
あっさり無理という判定になったのが高松で、これは地元の演奏者を現地調達するしかないということになる。帰りはサンライズ瀬戸を使う手もあるのだが、公演自体に東京から辿り着けないのである。
10月8,10日の別府と大村だが、現実問題としてこれは9日(火)を休んでもらった方がいいのではないかと妃美貴は言った。確かに8日の深夜に別府から東京に戻り、1日おいて10日にまた長崎へというのは辛すぎる。
「9日は学校を休んでもいい人というのを条件にしましょうよ」
「それがいい気がするね」
そうした場合、10日のイン(来場)は問題ないのでアウト(帰宅)だけ考えればよいが、こうやって翌朝の授業に間に合うのである。
《用意した車で北九州空港近くのホテルへ移動。北九州5:30-7:00羽田》
大村から北九州空港までは2時間半で行くのである。鉄道の移動だと大変なことになるのだが、長崎自動車道・九州自動車道・北九州高速を走ると短時間で辿りつくことができる。
実は8日も同じ方法で別府から東京に帰れるのだが、それを1日おいて2度やるのは体力的にあまりにもきつい。
「車での移動というのを使うと、函館からも朝までに帰れるんです」
と妃美貴は言う。
《新函館北斗19:37-23:01仙台:用意した車で東京へ。AM3:30頃到着》
「うん。これは手配できる。あとはそれが何人くらいになるかによって手配する車のサイズが変わるね」
そういう訳で人の手配を始めたのだが、ツアーは1ヶ月半に及ぶので、その間継続的に出られる人を集める必要がある。これがカウントダウンや夏フェス、復興イベントなどとはまた違った部分である。長丁場なので若い人でないと体力的に無理である。時間の自由が利く人が理想的だが、体力面を考えると高校生・大学生はむしろ主力になりそうでもある。
今回、龍笛に関しては千里2に照会してみると
「いいよー」
ということだった。彼女は土日は試合がフランス時間の夕方20:00-22:00なので、その時間帯は日本の夜中3:00-5:00に相当し、そこにぶつからないので行けるらしい。平日だと練習時間となる午前9-12時が日本の17-20時で公演時間にまともにぶつかる。
「いやそれが水曜とか一部日本の祝日になる月曜もあるんだけど」
「練習だし、身代わりを置いておけば平気」
私は一瞬その「身代わり」にされる子の悲鳴を聞いた気がしたが、気のせいだろう。
「じゃ、よろしく」
「ただね」
「ん?」
「千里3がこの時期は代表合宿やってたりスペイン遠征やってたりするんだよ」
「あぁ・・・」
「そのことを知っている人が私がステージにいるのを見たら変に思うだろうから私は覆面して“謎の男の娘”ということで」
「了解〜」
しかし密入国者が覆面して演奏するなんて、まるでアングラ音楽だ!
青葉は就活の最中なので厳しいということであった。
彼女は現在大学3年生だが、既に就職活動の真っ最中である。アナウンサー志望なのだが、アナウンサーの就活は3年生の夏休みから始まる。既に東京のキー局5つの内4つは落ちて現在◇◇テレビのみ残っている(青葉はNHKは受けていない)。二次三次と振り落とされて今10人ほど残っているらしいが、この時点で複数の局を併願していた子たちが、どこか1つの局だけに絞り込まれている。◇◇テレビに残っている10人の中で採用されるのは2人か3人、生存率3〜4分の1という所らしい。
笙については鮎川ゆまが南藤由梨奈の活動日程にはだぶっていない(実は今年は半ば休眠に近い状態らしい−今年はこういうアーティストが多い)ので出られるということで、お願いする。ゆまにはついでに色々他にも吹いてもらうことにする。
「ゆまは男装するのは問題無いよね?」
「私、普通にしてても男にみられるし」
「そういえばそうだった」
彼女にドレスを着せると、男が女装しているようにしか見えないので、これまで参加してもらったケースでもだいたいズボン型の衣裳を使用している。彼女はラッキーブロッサムをしていた頃は、いつも軍服だった!プライベートにはそもそもスカートを持っていないと言っていた。
私はセットリストとにらめっこしていて、フルート奏者とクラリネット奏者が1人ずつ欲しいと思った。ローズ+リリーの「いつもの」演奏スタッフの中では詩津紅がクラリネットの専門家、風花がフルートの専門家ではあるが、詩津紅は今回ほとんどの曲でヨーロッパ遠征と重なる美野里に代わってピアノを弾いてもらうことにしているし、風花は基本的に演奏の管理者なので、あまり演奏自体には参加させたくない。風花が舞台袖に控えていないと演奏者が楽譜の解釈など演奏上の問題で相談したいことが起きた時に妃美貴や鱒渕では対応できないのである。
それで夏フェスに出てもらった、青葉の友人・上野美津穂(Cla)と田中世梨奈(Fl)に連絡してみたらふたりとも「参加したいです!」と言ってくれたのでお願いすることにした。
「平日もあるんだけど」
「休むから平気です」
「日曜や祝日の月曜で、やはり朝までに金沢や富山に帰れない日もあると思うんだけど」
「全く問題ありません」
まあ本人たちがいいと言っているのだから、いいのだろう。
世梨奈は
「あのぉ、ところで、実は後期の授業料を払うのに少しお金が足りなくて」
などと言っていた。
「じゃ前払いしてあげるね」
「助かります!」
「ところで世梨奈ちゃんはピアノは弾けないよね?」
「すみませーん。下手です。私が『猫踏んじゃった』を弾くと猫が踊り出すと言われます」
そういうピアノプレイも楽しい気はするが・・・
「じゃ誰かお友だちで上手い人居ないかなあ。青葉を徴用するつもりだったんだけど就活と作曲で忙しいみたいで」
「ピアノなら青葉の作詞担当をしている日香理さんがわりと上手いです」
「おぉ!!」
「でもプロのコンサートで弾けるかは少し微妙かも知れないし・・・あっそうだ」
「うん?」
「私たちの1つ下の学年で谷口翼って子がいるんですよ。ピアノが物凄く上手くて。東京音大の2年生なんですが」
「エリートじゃん!」
それでその子の連絡先を教えてもらい、風花にコンタクトを取ってもらった。演奏も聴いてみてもらったが、
「この子、美野里ちゃんや冬ほどではないけど、私や詩津紅より遙かに上手いよ」
ということだった。
それでスケジュールが取れるならぜひお願いしたいと伝えたところ、水曜日はバイトのために授業の無い日にしていたのに、そのバイト先が無くなっちゃったという話で、ツアーへの参加をOKしてもらった。
「凄く可愛い子だったよ。ドレス着せたらお姫様みたいに見えそう」
と風花は言っていた。
「へー。それは凄い」
風花が女性の容姿を褒めるのは珍しいなと思って私は聞いていたのだが、私はこの時、もう少し風花の言い方を聞いておくべきだった。
「富山公演で『苗場行進曲』をやった時に行進に参加してるって」
「ああ。でもあの時は演奏は聴いてないもんね〜」
彼女は現在東京音大の管楽器コースに所属しており、ピアノの他にフルート、クラリネット、オーボエ、トランペット、トロンボーン、ホルンなども学んでいるが(東京音大は多くの管楽器を学ばせる方針らしい)、実は高校時代に青葉や美津穂たちの“合唱軽音部”ではバリトンサックスも吹いており(ジャンケンで負けてバリトン担当になったらしい)、サックスは4種類(ソプラノ・アルト・テナー・バリトン)とも吹けるということであった。非常に頼もしい存在である。
「じゃ彼女にはサックスやフルート・クラリネットもお願いと伝えておいて」
と私が言うと、風花はなぜか笑っていた。
「何かおかしかった?」
「ううん。じゃ“彼女”に伝えておくね」
何なんだ〜?
「そうだ。サックスの楽器自体は持ってないらしんだよ。高校時代も学校の備品を吹いていたらしくて」
「じゃ楽器貸し出しておいてよ。アルトサックスとバリトンサックスを頼むことになると思うから」
「了解、了解」
「マウスピース代も渡しておいて」
「OK」
私はギター・ベース・ドラムスのサブ演奏者が欲しいと思った。3時間の公演は歌う私とマリも重労働だが、それ以上に「物理動作」が大きい伴奏者たちの体力も消耗する。
それで私は近藤さん・七星さんとも話し合い、公演の「第2部」の伴奏をサブ演奏者に任せることにした。
この場合、できたら20歳前後くらいの女性が欲しい。それは女性演奏者は多少技術が劣っていても「女だから仕方ない」と思ってくれる観客が多いことと、もうひとつ、こちらがもっと重要なのだが、近藤さんたちが「自分たちの地位がおびやかされる」不安を持たなくて済むからである。
私は世梨奈に相談してみた。
「私たちの年代で、ギター、ベース、ドラムスの上手い人ですか。『合唱軽音部』のメンツだと、ギターは空帆がうまいですよ」
「ああ。彼女はうまかった」
「ベースとドラムスもあの子に訊いてみた方がいいかも」
「ありがとう。訊いてみるよ」
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