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■夏の日の想い出・天下の回り物(2)

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記者たちがここで食い下がったのは、実は春都の曲を皮切りに、夢紗蒼依の楽曲がЮЮレコードからどんどん出始めたのである。
 
新人としてデビューしたのは、この春に限っていうと島田春都だけなのだが、ЮЮレコードの歌手で上島雷太から楽曲をもらっていた歌手が、みんな夢紗蒼依の楽曲で新譜を出した。
 
更に、一部、上島事件の余波で他のレコード会社を首になった歌手がЮЮレコードと契約してこちらから新譜を出すという例が出始めたのである。
 
この結果、ЮЮレコードの営業成績が物凄いことになってきた。
 
夢紗蒼依の曲は、取り立てて凄いということもないのだが、しっかりした作りで、結構なレベルのプロの作品であることが感じられた。
 
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最初は誰かプロ作曲家の変名ではとも囁かれた。
 
それはこの人の作品が“枯れて”いて、若い作曲家の作品とは思えなかったからである。それで実は既に別の名前で売っている作曲家なのでは、少なくとも30歳以上だろうという意見が最初からあった。
 
しかし、実際問題としてこのくらい書けるような国内のプロ作曲家・セミプロ作曲家は今年は、ほぼ全員上島代替作戦に駆り出されている。それでひょっとしたら韓国か台湾あたりの作曲家では?という説も浮上し、それらの国の作曲家で夢紗蒼依と似た傾向の曲を書いている人を探す人たちもあったが、なかなか該当しそうな人は見つからなかった。
 

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この2018年という年は、後から考えると、日本のポップミュージックにおける作曲家の勢力図が大きく塗り変わった年であったと思う。
 
だいたい毎年日本国内でリリースされるCDはシングル・アルバムあわせて1万枚くらいで、その中に含まれる楽曲数はだいたい6万曲、内、新曲は4万曲程度と推測されるが、いわゆるプロの作曲家による作品はだいたいその中の1割の4000曲程度であろう。
 
これまでは、その4分の1に相当する1000曲程度を上島先生が書いていて、“東郷誠一ブランド”の曲が300曲程度、醍醐春海を含む雨宮グループの作曲家も300曲程度、マリ&ケイの作品が150曲程度、ヨーコージ、スイート・ヴァニラズ、後藤正俊、田中晶星、香住零子、といった中堅作曲家と呼ばれる人たちの作品が全部で200曲程度で、これで合計2000曲くらいだった。
 
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ところがこの年、夢紗蒼依の名前で発表された作品は最初の頃こそ月に数曲程度だったものの、夏以降急増して最終的には2019年春までに300曲ほどに及んだ。ここまでの数をひとりで書く[のは不可能なので、恐らくは20-30人くらいの作曲家集団なのではと言われるようになる。しかし作品の品質がひじょうによく管理されていて、素人っぽい作品が無いので、恐らく数人のかなり熟練した管理者がいて、その人たちが品質管理をしているのではとも言われた。
 

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更にあと2つ新興勢力が登場した。
 
ひとつが夏頃から活動しはじめた松本花子さんという作曲家である。この人は最初演歌の作曲家として認識された。
 
実は上島先生の作品の3割くらいが演歌だったのだが、そもそも演歌の作曲家は作品の生産ペースが遅い人が多い。それで上島先生から楽曲の提供を受けていた演歌歌手のほとんどが、当面の活動自粛(上島先生の作品利用が上島先生からJASRACへの要請によりロックされていたため、ライブにも使えない)か、引退かを迫られた。
 
(このロックは多くのプロダクションからの連名での要望に応えて解除され、8月以降は上島先生の作品は歌うだけならOKになった。著作権使用料はUDPに対して損害賠償額の一部として支払われた:寄付ということにすると贈与税を取られるので損害賠償という名目にした)
 
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ところが6月頃から「近々演歌の大物作曲家が活動開始するらしい」という噂がどこからともなく立つようになり、結局、木ノ下大吉先生の監修で、松本花子さんの作品が提供され始めたのである。
 
木ノ下先生は1990年代から2000年代に掛けて活動した作曲家であるが、2010年に失踪騒ぎを起こして、その後引退してしまった。そして現在は沖縄に住み、琉球文化と琉球音楽の研究をしている。2017年春からは沖縄県と鹿児島県の国立大学で特任教授として琉球音楽の講座を持っている。また古いウタキを管理するノロとして2015年春から活動し始めた元アイドル・明智ヒバリのサポートもしている。
 

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9月に松本葉子作詞・松本花子作曲のクレジットで原口猛瑠の新譜が出た時、木ノ下先生にインタビューを試みた記者があった。しかし木ノ下先生は
 
「松本葉子・花子のことは公表しないことにしているから」
と言い、経歴だけでなく、年齢・性別まで非公開というので押し通した。
 
「葉子・花子というのは姉妹でしょうか?」
「ああ。姉妹ということでもいいよ」
と木ノ下先生が言ったので、以後“松本姉妹”という呼び方が定着する。
 
「しかし性別も非公開って、まさか葉子とか花子という名前で男性なんですか?実は姉妹ではなくて兄弟とか?」
 
「勝手な憶測をしないように。全て非公開だから」
 
松本姉妹の作品はどうも7月中旬くらいから提供され始めたようで、演歌作品では、年間100曲くらい書いている海野博晃作品を越える大勢力に成長して行く。
 
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「松本姉妹が気になりませんか?」
と聞かれた海野は
 
「助かった」
とコメントした。
 
「え!?」
 
「だって、上島がああなったから、俺の所に作曲依頼がいつもの年の10倍押し寄せてたんだよ。だから作曲料を1曲300万円にした」
 
「ひゃー」
「だってそのくらい提示しないと、とてもじゃないけど断り切れないんだもん。でも松本姉妹が量産してくれているから、こちらへの依頼が減って、ほんとに助かっている」
 
「なるほどー」
 

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松本姉妹は演歌だけかと思っていたのだが、どうもポップスも書くようで8月から歌う曲が無くて困っていた多数のアイドル歌手に提供され始める。
 
それも何だか可愛い作品が多い。それでたちまち松本姉妹も人気となり、木ノ下先生の所にたくさん松本姉妹への作曲依頼が舞い込むようになった。
 
上島騒動の影響でこの春から事実上歌手活動停止状態にあったFlower Lights(バラエティ番組などには出ていた)なども松本姉妹から提供された楽曲を使って10月に新譜を出すことができ、年末のツアーを予定通りできそうということになって、とても喜んでいた。
 
そしてもうひとつ私は面白い話を聞くことになる。
 
東郷誠一さんのゴーストライターは現在、東郷E:吉原揚巻、東郷F:樋口花圃、東郷G:三田夏美、東郷H:醍醐春海、東郷J:大宮万葉、東郷K:紅型明美、の6人がメインとして認識されていたのだが、最近何人かの歌手に提供された“東郷ブランド”の作品が新たな作曲家の作品のようだというので“東郷L”と呼ばれていたのだが、その東郷Lが松本花子(松本姉妹)なのではないかというのである。
 
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私もネットの論客たちが指摘していたポイントを確認すると、確かに同じ人の作品と考えてもいいような雰囲気だった。
 
東郷誠一先生は木ノ下大吉先生の兄弟子・東城一星さんの弟子なので、いわば甥弟子であり、木ノ下先生経由の作品が東郷ブランドに参加するのは不自然ではない。
 
しかし・・・ネットの論客たちはやがて彼女(?)の活動に驚くようになる。
 
「松本花子の作曲ペースが信じられない!」
 
松本姉妹の作品は8月に発表されたものだけでも60曲、9月に発表されたものは東郷L作品まで入れると100曲を越える。こんなペースで楽曲を書くのは、(上島雷太先生でもなければ)普通の人間には無理である。
 
結局、この「松本葉子・松本花子」というのは、恐らく30-40人の作詞家・作曲家の集団ペンネームなのだろうという結論に達する。実際歌詞の傾向から少なくとも松本葉子は4人以上いるという分析をしていた人もあった。言葉の使い方などから明らかに文化圏の違う歌詞があるというものであった。
 
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「たぶん上島がダウンしたことから、ビジネスチャンスと思った誰かが、セミプロクラスの作曲家を集めて作曲プロジェクトを作ったんだと思う」
 
「それがたまたま2つ重なって、夢紗蒼依と松本花子になったんだろうな」
 
「でも両者の楽曲はかなり対照的だ」
 
「夢紗蒼依の作品って物凄く緻密」
「うん。かなり難しい和音とかも使われている」
「というか無調っぽい曲もある」
「臨時記号も多い。むしろほとんどの作品に含まれる」
「結構歌うのに難易度がある。音程も広い」
「おそらく音楽大学の学生とかを動員している」
「歌詞にも結構難しい単語や文語的表現が出てくる」
 
「松本花子の作品って凄く素朴」
「変化記号がほとんど無い」
「シの使用頻度が凄く小さい。ファも少ない」
「だから歌いやすい。音程もたいてい1オクターブちょっと」
「たまに和音の間違いとかもある」
「おそらく趣味で打ち込みとかやってた連中を集めている」
「歌詞もわりと素人っぽい素朴なのが多い」
「難しい単語がまず使われていない」
 
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「しかしどちらも情報漏れが無いのが不思議」
「守秘義務だけはしっかり守らせているんだろうな」
 

“イリヤ”こと峰川伊梨耶(みねかわ・いりや)さんは2012年春に音楽大学の作曲科を卒業して、下川工房に入社。ポップスのアレンジャーとして仕事を始めたのだが、すぐに下川工房の中でも注目株となる。2014年には下川先生の勧めで“イリヤ”ブランドを確立。編曲したスコアに"Il y a"というサインをするようになった。
 
Il y a(イリヤ)というのはフランス語で「そこにある」という意味。英語のThere is に相当する言葉である。彼女にはローズクォーツやローズ+リリーの楽曲を随分たくさん編曲してもらった。
 
そして2018年2月に下川工房から独立して自分の工房“イリヤ”アン・ステュディオ(Il y a un studio - 直訳すると「ひとつの工房がある」)を設立した。
 
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ところがその直後に上島騒動で楽曲制作が停滞することになり、彼女は雇ったスタッフの給料を払うのに、親戚に頼み込んでかなりの借金をしたらしい。
 
私もそのことに気付いて、彼女と接触し、これまでたくさんお世話になっているし、借金を肩代わりしましょうか?と言ったら彼女は意外なことを言った。
 
「実は名は明かせないのですが、ある有名作曲家さんから、親戚に借りたお金も、工房を開くのに使ったお金も全部肩代わりしてもらったんですよ」
というのである。
 
ともかくも誰かが救済したようだというので私は胸をなで下ろしていたのだが、その彼女の工房がこの夏から松本花子作品の編曲を手がけるようになったのである。そのために彼女の工房はスタッフを20名に増員した。それでもほとんど暇が無いらしい。月間100曲生み出す松本花子であれば当然そのくらい必要になるだろう。
 
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つまりイリヤの借金を肩代わりしたのが“松本花子”の仕掛け人だということになるようだ。イリヤさんは「有名作曲家」と言ったので、松本花子プロジェクトには誰か、恐らくは私も名前を知っているような大作曲家が絡んでいるということのようである。
 
ちなみにその作曲家さんについて「木ノ下先生や(弟の)藤吉先生ではないし、東郷先生でもありませんよ」と彼女は言っていた。
 
「木ノ下先生は窓口になってくださっただけなんですよ。東郷ブランドの方はうちの工房は関わっていないんです」
 
と彼女は言っていたので、その作曲家は木ノ下先生と関わりのある人ということにはなるのだろうが、現在の日本の流行音楽の世界で木ノ下先生と関わりのある人は数百人いそうなので、ここからは見当がつかない。
 
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「私だったりしてね」
などと、政子はその話を聞いて言った。
 
「マリちゃんなの?」
と私は訊く。
 
むろんマリの財力ならイリヤ工房の借金(多分5000万円くらい)の肩代わりは全く負担にならない。
 
「でも私なら多分《作曲家》ではなく《作詞家》と言われているだろうし」
と政子。
 
「そりゃそーだ」
 
「でも面白くなってきたね。上島先生の作品が使えなくなって音楽業界がパニックになったけど、冬が驚異的なスピードで作品を書いているし、夢紗蒼依、松本花子、望坂拓美、と量産作家が出てきて、これで完全に上島先生の作品数はカバーできる」
 
「うん。私もうこのペースで作品書かなくてもいいんじゃないかという気もするけど、約束は守らないといけないから、約束した数までは書くよ」
 
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もっとも実際にはかなりの数を大西典香、福井新一、琴沢幸穂などが代筆してくれている。私はそれらを入れて、夏までにたぶん60曲くらいは書けたのではないかと思っていた(正直もう何曲書いたか分からない)ので少しペースダウンしてもいいかなとは思い始めていた。
 
私のことばを聞いて政子は少し考えるようにしてから
 
「ふーん」
とだけ言った。
 

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夏の日の想い出・天下の回り物(2)

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