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■夏の日の想い出・天下の回り物(21)
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(C)Eriko Kawaguchi 2018-08-19
『青い豚の伝説』の後は『キュピパラ・ペポリカ』『マイ・ハッピー・デイ』、『お嫁さんにしてね』『天使に逢えたら』『フック船長』と続く。
『フック船長』の途中で鳴りだした目覚まし時計がなかなか止まらない。宮本さんが踏んだり投げたりしても停まらなかったのが、やがて、取り出したお玉で叩いたら停まる。
それで品川ありさが「あ、お玉だ」と言うと、そこに多数お玉を持ったスタッフが入って来てステージ上の演奏者に渡す。それでありさが
「それでは最後の曲は?」
と言ってマイクを客席に向けると
「ピンザンティン!」
という声が返ってくる。そして最後の曲『ピンザンティン』の演奏が始まる。客席でも多数のお玉が振られる。私たちも座ったままお玉を振りながら歌う。酒向さんはスティックの代わりにお玉でドラムスを打っている。鷹野さんはお玉の端で!ベースを弾いている。
「サラダを作ろう、ピンザンティン、素敵なサラダを」
「サラダを食べよう、ピンザンティン、美味しいサラダを」
会場は興奮の中、幕が降りた。
私とマリはずっと座りっぱなしなので、その姿勢がかえってきつく、楽屋で大きく伸びをして軽い体操をする。私はポカリスエットを1本飲む。マリはコカコーラ・ゼロとマクドナルドの“名古屋名物みそかつバーガー”を食べている。ハンバーガーなど食べたらゼロカロリーの飲料でも焼け石に水ではという気もするが、まあ少しはカロリーを控える気になっているのだろう。
「風花、ずっと座りっぱなしはかえってきついから、2〜3曲に一回立ち上がって身体を動かしたい。特に第3部は疲れが溜まってきているから辛かった」
と私は言った。
「明日以降はそうしようか。ちょっと七星さんとやり方を考えてみるよ」
「うん」
会場ではアンコールを求める拍手が続いている。
「よし行こうか」
私たち2人、スターキッズの5人とキーボードの詩津紅、ヴァイオリンの千里、フルートの世梨奈、クラリネットの美津穂、合計11人でステージに出て行く。拍手が止む。
ノーアナウンスで『影たちの夜』を演奏する。私たちは立ったまま歌う。客席も総立ちである。ここまで残っている演奏者がぞろぞろとステージに上がり、思い思いに身体を動かしてダンスする。興奮の中、曲は終了し、拍手が鳴り響く中、私とマリ以外の演奏者は退場する。
私たちは
「アンコールありがとうございます」
と挨拶し、ふたりで軽い掛け合い漫才のようなトークをする。
「では本当に最後の曲です。『あの夏の日』」
私たちが話している間に○○プロの男性スタッフの手でグランドピアノが中央前面に移動されている。私たちは今日はふたりでピアノの前に座り、私の前奏に続いて一緒に歌い出した。
この10年間、ほんとにまあ色々なことがあったよね〜と私は思っていた。しかしマリもママになってしまうし、ローズ+リリーがこんな大会場でライブをできるのも今回が最後かなあ、などと私は思う。すると今回のツアーはひとつひとつのライブを一期一会(いちごいちえ)として大事にしていかなければという気持ちになる。
美しい和音で終止。
そのピアノの音の残響が消えるのと同時に割れんばかりの拍手。
私たちは立ち上がって一緒に観客に向かってお辞儀をした。物凄い拍手の中、品川ありさの「本日の公演はこれにて完全に終了しました」のアナウンスが流れ、私たちは退場した。
この日の公演は予定通り20時に終わり、出演者一同(但し18歳以上)で20時半から札幌市郊外のジンギスカンのお店で打ち上げをした。
「愛のデュエットは直前に組み替えたけどうまく行ったね」
「やはりみんなレベルが高いからだよ」
当初はこういう予定だった。
Pf.月丘,翼 Recorder/Fl/Cla/ASax.心亜(男装),翼 Vn/Vc/Gt.鷹野,成美 Dr.酒向,レイア
ところが翼が男の子だったと知って私は焦ったのである。心亜と組む所は心亜に女装してもらうことにしたのだが、ピアノの所も問題だった。
「月丘さんに女装してもらう?」
「それお客さんが逃げ出すから」
などと話していたら
「女性のピアニストは多いから誰かと代わればいい」
と七星さんが言うので
「あっそうか」
と私も気付き、風花に交替したのである。しかしそうなると風花がフルートまでは吹けることに気付き
Pf/Recorder/Fl.風花,翼 Cla/ASax.心亜,翼 Vn/Vc/Gt.鷹野,成美 Dr.酒向,レイア
という組み合わせにした。それで午前中にリハーサルをしたのだが、今度は鷹野さんのチェロが酷く下手だという問題が発覚する。合奏する成美ちゃんが一瞬顔をしかめた。
「その演奏はさすがに客に聞かせられない」
ということになって宮本さんが代わってくれたのである。彼はチェロの専門家でギターもうまい。ヴァイオリンはそれほどでもないのだが、鷹野さんのチェロより遙かにマシなので、宮本さんで行くことにして、最終的にこうなった。
Pf/Recorder/Fl.風花,翼 Cla/ASax.心亜,翼 Vn/Vc/Gt.宮本,成美 Dr.酒向,レイア
「済まん。面目ない」
と鷹野さん。
「おたかさん、うまく行ってない時は早めに言ってよ。場合によっては誰か人を手配しないといけない場合もあるし」
と七星さんから言われていた。
「チェリストはヴァイオリニストほど多くないからインペグ屋さんに頼む場合もすぐ調達できない場合もあるしね」
と風花。
「でも鷹野さん、ヴァイオリン族は全部弾けると言っていたのに」
と私は言う。
「実はチェロだけが苦手で」
「なるほどー」
翌日は日中に移動して函館で公演をした。
私たちはこの日から「ずっと座ったままでもきついので何曲かおきに立って歌います」と言い、この日は下記の曲で立った。
『振袖』『ダブル』『Heart of Orpheus』『言葉は要らない』『愛のデュエット』、『キュピパラ・ペポリカ』『フック船長』『ピンザンティン』『影たちの夜』
これで随分楽になった。どの曲で立つかは次の公演でも少し調整した。
セットリスト↓
『ヴィオロンの涙』『郷愁協奏曲』『ふるさと』『硝子の階段』『振袖』『坂道』『かぐや姫と手鞠』『紅葉の道』『雪虫』『ダブル』『灯海』『夜ノ始まり』(休憩)『同窓会』『花園の君』『Heart of Orpheus』『雨の金曜日』『砂の城』『言葉は要らない』『Long Vacation』『愛のデュエット』(幕間)
『コーンフレークの花』『青い豚の伝説』『キュピパラ・ペポリカ』『マイ・ハッピー・デイ』『お嫁さんにしてね』『天使に逢えたら』『フック船長』『ピンザンティン』
(アンコール)『影たちの夜』『あの夏の日』
私たちはこの後、10日に東京に戻り、12日の千葉公演をする。そして9月15日には埼玉公演があった。この日は午前中に大宮サウンドシティでKARIONのライブを行い、夕方からは大宮アリーナでローズ+リリーのライブというダブルライブである。正直体力が足りないなあと思いながらも私は朝、恵比寿のマンションを出て佐良さんの運転するリーフで大宮駅そばのサウンドシティに向かった。
ところが私の記憶はここで途切れている。
ふと気がつくと、私はどこかの楽屋で横になって寝ていた。が近くにいるのがどうもKARIONのスタッフではなく、ローズ+リリーのスタッフっぽい。
「あれ?私どうしたんだっけ?」
「冬、疲れてるでしょう?まだ寝てていいよ」
「今何時?」
「2時すぎだけど」
「え!?KARIONのライブは?」
「とっくに終わってるよ」
「まさか、私KARIONのライブ欠席しちゃった?」
と言って青くなる。
「何言ってるの?。冬、そちらを終えてからこちらに来て、疲れたからと言って寝てたじゃん」
と風花は言う。
「だったら私、KARIONのライブに出たの?」
「普通に歌ってたし超絶ピアノプレイしてたじゃん」
とどうもKARIONのライブから流れて来たっぽい川原夢美が言う。
「うっそー!?」
「まさか記憶が無いの?」
「無い」
「やはりかなり疲れているね」
「マジで明日からKARIONの蘭子は立体映像にした方がいいかも知れない」
「今日のKARIONライブは全部カラーのホログラフィにできる形で撮影したらしいから、明日は無理だけど、来週以降ならホログラフィで出せるらしいよ」
「ちょっと待って」
それでこの日、私は蘭子としてKARIONのライブに出た記憶のないまま、ケイとしてローズ+リリーのライブに出たのである。
この日のローズ+リリーの幕間ゲストはKARIONだが、この“KARION”は全てが立体映像であった。ただし“リアルのKARIONの4人”は会場の駐車場に駐めている“電脳車”の中に居て、そこで立体映像の動きや、お客さんの反応に応じて声だけ出しているのである。この電脳車はKARIONの幕間パフォーマンスをする時はずっと会場そばに居る。
これをやっている間、美空と私は会場を出てそちらの車に移動するのだが、タイミング的には美空は『Long Vacation』を演奏し終わったところで移動し、私はその次の『愛のデュエット』が終わってから移動する。
しかし実際には私は会場を出た後、その車には入らず「V1作戦」で麦山さんという女性の車に乗っている。
「適当に走り回りますから寝ててくださいね」
というので後部座席で服を着替えて寝せてもらっていた。
それで電脳車では私と声が似ている代役さんが和泉たちと一緒に声を当てているのである。
16日は福島、17日は仙台で「ダブルコンサート」をしたのだが、その両日も私は朝KARIONライブのためにホテルを出ているのに、お昼過ぎまでの記憶が途切れているという状況であった。私は朝私をホテルからKARIONの会場に連れて行ってくれる佐良さんに尋ねてみた。
「私、昨日ちゃんとKARIONの会場に入りました?」
「入って行ってましたけど、何か?」
何かが起きているような感じではあったのだが、どうも私以外何も変なことは感じていないようである。和泉にもさりげなく訊いたのだが、やはり私はちゃんとKARIONのライブに出て、そのあとローズ+リリーのライブ会場に移動しているらしい。
私は和泉が当初言っていたように、KARION出演分を全部代替されているのではという気がした。
私は美空に電話して立体映像に声を当てている代役さんについて訊いてみた。すると、年齢は30代くらいだと思うが、色々な声色を出せて、冬子の声を出すのもうまいよ、などと言っていた。
つまり、KARIONライブに出た蘭子と、ローズ+リリーの幕間演奏で立体映像に声を当てた人物は別人のようである。
私は考えるのを辞めた。
実際問題として1日にKARION、ローズ+リリー2つのライブを掛け持ちするのは体力的に厳しいと思っていた。2014年のダブルツアーは何となくノリでやってしまったものの(2013年が比較的ゆとりのあるスケジュールだったこともある)、今年はこれまでの疲れが取れていなくて正直ローズ+リリーのツアーだけでもきつかった。それを、8月いっぱい事実上の休暇のようなものになったおかげで何とか体力回復したのである。
「とにかく自分に与えられたものを頑張るだけだ」
と私は思い、KARIONライブについては、考えないことにしようと思った。
実際今回のツアーでは
「ケイちゃん、苗場の時よりは随分元気になっていた」
「蘭子ちゃんも、凄く元気だった」
という声が随分あったのである。
「ケイ、KARIONと2回歌ってよく頑張るなあ」
という声には罪悪感を感じたが。
おそらくは私の体力がまだ回復していないので2回公演ではどちらも演奏品質が落ちてしまうと危惧した和泉が、丸花さんあたりと共同で代理作戦をしているのだろうと考えた。実際丸花さんからは「何でも相談してね」と言われたし「昔は一緒に悪いことしたね」などとも言われている。
ただ幕間のKARIONパフォーマンスについては世間的には、立体録画したものを流していて客席とのやりとりもサクラだろうと思われていたようである。リアルなのにと美空は文句を言っていたが。さすがにあれを生でやるのは体力の限界を越える。
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