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■夏の日の想い出・天下の回り物(19)

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2018年9月8日、葉月が道内でPVの予備撮影をしていた日(アクアが都内で音源制作をしていた日)の夕方17時、ローズ+リリーの2018ツアー初日公演が札幌で始まった。
 
5分前に1ベルが鳴り、ロビーに居る客に客席に戻るよう促す。そして2ベルが鳴り、客電が落ちた後、緞帳は上がらないまま、その前に下手からマリ、ケイが登場すると物凄い歓声があがる。更に左右から伴奏者たちが入ってくる。
 
ファンファーレのような香月さんのトランペットの音色に続いて近藤さんのアコスティックギター、そして七星・ゆま・翼によるアルトサックス・テナーサックス・バリトンサックスの音が鳴り、世梨奈のフルートと美津穂のクラリネット、更に千里のヴァイオリン、鷹野さんのヴィオラ、宮本さんのチェロ、酒向さんのコントラバスの音が鳴り響く中、満を持して田中成美ちゃんのヴァイオリンソロが物悲しいメロディーを奏でる。しばし観客がそのメロディーに聴き惚れたところで、やっとマリとケイの歌が始まる。
 
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観客席から拍手が沸き起こる。
 
私とマリはいつものように3度唱メインで歌っていく。ただし所々、マリが基音を歌っている間に私のパートが自由に動いていく所もある。
 
全ての和音が三和音かせいぜい7thになっていて、その結果透明感のある音になっている。
 
美しいハーモニーの中で最後は成美ちゃんのヴァイオリンソロが悲しいモチーフを演奏して全ての音が一斉に停止する。
 
「こんばんは!ローズ+リリーです」
と私たちは挨拶した。
 

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ここで下手舞台袖に豪華な振袖を着た品川ありさが登場し
 
「皆さんこんにちは、今日の司会進行役を務めさせて頂きます品川ありさです」
と言うと
 
「ありりーん!」
という声が客席から掛かり、ありさも手を振る。
 
「普段のローズ+リリーのライブでは、ケイちゃん・マリちゃんが自分たちでMCをするんですけど、今回はマリちゃんの体力が足りないので、不肖私がおしゃべりを代行させて頂きます。よろしくお願いします」
 
というので拍手がある。
 
「また今回のライブではマリちゃんの身体にできるだけ負担を掛けないよう、マリちゃん・ケイちゃんには座って歌ってもらおうということになったのですがよろしいでしょうか?」
と、ありさが言う。
 
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「いいよー!」
「マリちゃん無理しないでねー!」
といった声とともに拍手。
 
それで上手からツアーに同行してくれる○○プロの男性スタッフ2人が座り心地の良さそうな椅子を持って来てくれるので、私たちは観客にお辞儀してからその椅子に座った。
 

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今回○○プロの男性スタッフが4人ツアーに参加してくれている。
 
「え?UTPからはマルちゃんだけなの?女の子1人ではどうにもならないでしょう」
と言って丸花さんが付けてくれたのである。
 
「てっきりUTPでそのくらいのスタッフは用意しているものと思ってた」
と丸花さん。
「あそこも人数が少ないから」
「ローズ+リリーのための事務所のようなものなのに」
「うちは委託契約ですから」
 
「でもローズ+リリーからUTPに払っているマージンが年間3000万円はあるでしょ。事実上経費無しでの3000万だからね。ツアースタッフくらい5-6人付けさせなきゃ」
 
「そうですねぇ。でも制作にあまり口出しもされたくないので」
と私は本音を言う。
 
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「ああそういうことか」
と丸花さんは納得したようである。
 
「だったら、うちに言いなよ。便宜を図るから。口出し無しで」
「分かりました。よろしくお願いします」
「ケイちゃんとは過去にたくさん『悪いこと』したしねぇ」
「そのあたりは言わぬが花で」
「うんうん」
 

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ありさが今演奏した曲について説明する。
 
「ただいま演奏した曲は本邦初公開、来年にリリースを予定しているアルバム『十二月(じゅうにつき)』に収録予定の『ヴィオロンの涙』でした。実をいうと前回のアルバムとして企画していたアルバム『四季』に入れる予定だったのですが、そちらのアルバムの企画が頓挫してしまったので、こちらに流用されることになりました」
 
とありさは背景も説明している。
 
「実はとても古い曲で、ケイが小学生の頃に書いた曲がベースなんですよね。さすがに当時の作曲技術は未熟だったので、曲の構造はかなり改訂されていますが、ヴァイオリンソロのメロディーや、サビの部分などは初期の頃からのものです」
 
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という説明にはざわめきが起きていた。
 
(実を言うと高岡さんと一緒に作った『フィドルの妖精』の直後にその余波で書いたような曲なのである)
 
「演奏者を紹介します。アコスティックギター・近藤嶺児」
 
「アルトサックス・近藤七星」
「ヴィオラ・鷹野繁樹」
「コントラバス・酒向芳知」
「都合によりまだ顔を見せておりません。緞帳の向こうで演奏してくれましたマリンバ・月丘晃靖」
 
ひとりひとりに拍手がある。
 
「以上、スターキッズ」
「トランペット・香月康宏」
「チェロ・宮本越雄」
「以上、スターキッズ&フレンズ」
 
「ヴァイオリン・謎の男の娘」
という声には多少のざわめきがあるが、過去に覆面の演奏者はローズ+リリーのライブに何度も出てきているので
 
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「オクトちゃーん!」
という声も掛かり、覆面をした千里が弓を左脇に挟んで、右手を振っていた。
 
「彼女の性別はよく分かりません」
とありさが言うと、客席からは笑いが漏れている。
 
「テナーサックス・鮎川ゆま」
という声には、かなりの拍手と歓声がある。
 
「ゆまく〜ん!」
という声が掛かって、ゆまも手を振っていた。ゆまの今日の衣装は自衛隊の下士官の夏制服のような白い軍服である。
 
「彼の性別もよく分かりません」
とありさが言うと、会場は爆笑である。
 
「バリトンサックス、ローズ+リリーのライブには初お目見えの谷口翼くん」
とありさが紹介すると
 
「つばさちゃーん!」
という若い女の子たちの声が掛かり、翼はびっくりしていた。
 
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「フルート・田中世梨奈」
「クラリネット・上野美津穂」
「これも都合により顔を見せていませんが、緞帳の向こうで演奏してくれたピアノ・近藤詩津紅。苗字は近藤ですけど、スターキッズの近藤嶺児とは別に親戚ではありません」
 
「そしてヴァイオリン・ソロを弾いてくれたのは女子高生ヴァイオリニスト、田中成美ちゃん。6月の***コンテストでは準優勝でした」
と紹介すると、大きな拍手とともに
 
「なるみちゃーん!」
という声が掛かり、彼女も笑顔で弓を持った右手を振っていた。
 
「ちなみにフルートの田中世梨奈とは特に親戚関係は無いそうです。田中という苗字は多いですからね」
とありさは補足する。
 
「そしてボーカルは、マリと」
マリが椅子から立ち上がってお辞儀をする。歓声と拍手が凄い。
 
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「ケイ」
ケイも立ち上がってお辞儀する。歓声と拍手。
 
「ふたりでローズ+リリーです」
 
それでまた物凄い歓声と拍手がある。満員の札幌スポーツパークが割れんばかりの拍手である。
 

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「この後は初登場の方があったら、その都度紹介していきます。それでは次の曲、『郷愁協奏曲』」
と言って品川ありさが袖に引っ込むとティンパニの大きな音が入るとともに緞帳がゆっくりと上がり始める。
 
ヴァイオリンが、トランペットが音を奏で始めて前奏を8小節演奏した所で停止する。ドラムスセットの所に移動した酒向さんのドラムスとともに、近藤さんのエレキギター、鷹野さんのベース、詩津紅の電子キーボードも音を出し始め、椅子に座ったままの私とマリも歌い始める。
 
曲のアレンジは原曲通りである。最初はスターキッズだけの演奏で歌ったあと、展開部ではオーケストラをバックに歌う。そして複雑な展開をたくさんやった後で再現部の所ではスターキッズも加わり、オーケストラとエレキバンドが一緒に演奏する。そして演奏は終止部まで行く。
 
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大きな拍手の鳴る中、品川ありさが登場して
「札幌C大学の時計塔管弦楽団のみなさんでした」
と紹介し、また拍手がある。
 
そこからありさがしばらくMCをしている間にオーケストラのメンバーが退場。会場運営スタッフの手でオーケストラのメンバーが座っていた椅子が片付けられ、マリとケイの椅子の位置も少し奥側に修正される。オーケストラが去った後には和楽器奏者が多数入って来て『ふるさと』が演奏された。
 

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「箏・若山鶴朋、琵琶・若山鶴朝、尺八・若山鶴鳴、鼓弓・若山鶴宮」
とありさが紹介するが、尺八の明奈と鼓弓の美耶はおなじみなので
 
「あきなちゃーん!」
「みやさーん!」
と本名で客席からコールされていた。
 
(あとで「明奈は“ちゃん”で私は“さん”か?」と美耶が悩んでいたが、11歳違うし、独身と既婚では仕方無い)
 
「三味線・若山鶴月、太鼓・若山鶴星」
と紹介すると
 
「月子ちゃーん」
「星子ちゃーん」
とこちらも本名で呼ばれていた。ふたりもこういう大観衆を前にするのは(復興イベントに続いて)2度目なので少し心理的に余裕ができたようで、笑顔で手を振っていた。
 
なお、星子が鶴星の名前を使うことにしたので、母親の聖見は鶴星から鶴聖に名前を変更している。月子・星子の姉妹をそのまま鶴月・鶴星にしてあげたかったので名前を移動したのだが、結果的には妹が母親の名前を襲名した形になって、お姉ちゃんは結構心情が穏やかでは無い。そしてこの姉妹がひじょうに優秀なので、ふたりの従姉である七美花は、お尻に火が点いた感じで、かなり対抗心を持っている。彼女も初めて追われる立場に立った。今回は複数の演奏会とダブるので七美花はツアーに呼ばなかったのだが「月ちゃん、星ちゃんと一緒にやりたかったぁ」と言っていた。
 
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「そして龍笛・謎の男の娘」
と紹介すると、客席には笑いが起きていた。
 

和楽器をフィーチャーして『硝子の階段』を演奏する。更にヴァイオリニスト4人も加わって、豪華絢爛な『振袖』を演奏する。
 
「ヴァイオリン、伊藤ソナタ・桂城由佳菜・前田恵里奈・生方芳雄」
と紹介される。
「これで第1部の伴奏者はほぼ出そろいました」
 
箏の友見と琵琶の恵麻が下がり、他にも結構下がって『坂道』を演奏する。美耶の弾く胡弓の音色が美しい。今回のツアーでは古い民家と田舎の情景が舞台上のセットになっているのだが、その背景に降りてきた映写スクリーンに富山市八尾(やつお)諏訪町の石畳の道の両脇に燈籠が並ぶ様子、そこを街流しの人たちが踊っていく様子などが映し出された。
 
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演奏が終わった所で「今流しました映像は今年9月3日の深夜、富山市八尾で撮影したものです」とありさが紹介し、撮りたてのほやほやの映像であったことを伝えた。
 
星子・月子がいったん下がるが次の『かぐや姫と手鞠』ではふたりが手鞠を持って出てきて撞き始めるので歓声があがっていた。
 
あらためて、ありさが
「手鞠を撞いてくれたのは月子ちゃん・星子ちゃんでした」
と紹介し、拍手をもらっていた。
 
2人はこれであがりである。今日はこのままホテルに帰すが、明日は函館から新幹線の乗り継ぎで名古屋まで帰ることになる。
 
(新函館北斗18:36-23:04東京(泊)東京6:00-7:34名古屋)
 

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更に『紅葉の道』『雪虫』『ダブル』『渡海』『夜ノ始まり』と演奏して、ここで休憩を入れる。
 
「10分間の休憩を頂きます。なおトイレは演奏中でも曲と曲の間でしたら席を立って移動してロビーに出てトイレに行くこともできますので、遠慮無く行ってください。席で漏らしたら大変です」
とありさが言うと、客席は爆笑になっていた。
 
休憩時間にはマリが女性看護師さんに体調をチェックしてもらうが
「買物に行ってきた程度ですね」
と言われていた。念のため10分間横になっているように言われるものの
「お腹が空いた」
と言って、ジンギスカンを食べていた。食べる量は栄養士さんから予め指定されており、いつものように「ジンギスカンの一気飲み」はできないので、不満そうであった。
 
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「食べ過ぎると難産になるからね」
「面倒くさーい」
 

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夏の日の想い出・天下の回り物(19)

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