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■夏の日の想い出・天下の回り物(15)
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それで私は空帆に連絡した。
「ローズ+リリーのライブですか!やります、やります!」
と乗り気である。ベースとドラムスに関して尋ねると
「ベースの上手い子ならたくさん居ますけど、ケイさん、KARIONのお仲間にもベースの凄く上手い人がいるじゃないですか」
おぉ!そうだった!!ではあの子を徴用しよう。
「ドラ娘(どらむすめ:ドラムスを打つ女子の意味らしい)は、上手い子ってなかなか居ないんですよね〜。腕力の問題あって。最初の2〜3曲はいいけど20-30分打ってるとテンポが乱れ出す子が多い。うちのバンドもドラムスだけ男子なんですよ」
「なるほどー」
「あ、ちょっと待って下さいよ」
と言って彼女は何か探しているようである。机の引き出しを開け閉めする音、何か本が崩れる?音などがする。
「あったあった。ここ、うちのバンドと対バンしたことのあるバンドなんですが、イグニスというバンドのレイアって子が凄くうまかったです。もしかしたらもうプロになってるかも知れないけど」
「そのバンドの人と連絡取れる?」
「ええ。ちょっと訊いてみます」
「うん」
それで連絡を取ってもらうとレイアはぜひやりたいということだったので風花に行って実際のライブでのプレイを見てもらった。
「この子筋がいいですよ。プレイも正確だしノリもいいし。腕は物凄く太いです。XANFUSの由妃ちゃんより太いかも」
「へー!」
「訊いてみたら中学高校ではバレーやってたんだって」
「それは凄い」
「背も高いですよ〜。170cmくらいかな。でも膝を痛めてバレー選手の道は諦めたらしいんですよ」
「それは残念だったね」
「でもこの腕の太さを見込まれて、結構あちこちから頼まれているらしくて、今4つのバンドのドラムスを兼任しているらしくって」
「わっ」
「でもプロのコンサートに参加するなんて、またとない機会だからやりたいそうです」
「じゃお願いしよう。その子学生さん?」
「大学はピカリー女学院英文科の4年生なんですけどね。ほとんど行ってないらしい」
「卒業できるの?」
「この学校で授業料の未払い以外の理由で卒業できなかった人はいないらしいです」
「それも凄い!でも就活は?」
「どうせ仕事なんか無いから、お姉さんのアパートに居候しながらバイトで食いつなぐつもりらしいです」
「お姉さんも大変ね〜」
彼女は本名が玲香らしいが「れいか」を「れいあ」と聞き間違えられて、それでもいいかということでステージネームにしているらしい。しかしスターウォーズのレイア姫由来ですか?とよく聞かれるそうである。
「それでレイアちゃん、演奏曲目の中にひとつのドラムスを2人で叩くというのがあってね」
「そんなのあるんですか!?」
「ピアノなら連弾だけど、ドラムスなら連打かな」
「へー!」
「もしよかったらその曲だけでも、うちの正ドラマーと一緒に何度か練習してもらえないかな。練習した日のギャラも払う。取り敢えず2時間×最低3回。状況次第で延長」
「行きます、行きます!」
(「最低3回」というのは2回で完成域に達しても3回分のギャラは払うという意味)
それで私は酒向さんの承諾も取ってふたりで一緒に『愛のデュエット』のドラムス部分を練習してもらったのである。風花に練習を見てもらったが、酒向さんは最初は面白くなさそうな顔をしていたものの、実際にレイア本人が来ると、可愛い子なので、やや鼻の下が長くなり、親切に指導していたらしい。
やはりサブ演奏者は女子という私の戦略がうまくいった感じだ。
サックスに関しては過去に何度もローズ+リリーのライブに協力してもらっているバレンシアの心亜(ココア)に連絡したら
「出ます!出ます!」
と、ふたつ返事である。
彼女は七星さんの弟子なので、彼女の出演は七星さんにとっても寛容になれるだろう。
「心亜ちゃん、フルートとかクラリネットは吹ける?」
「吹けますけど、フルートはミルク、クラリネットはレモンの方がうまいです」
「いや、ひとりでリコーダー、フルート、クラリネット、サックスを続けて演奏できる人が欲しいんだよ」
「演奏できればいいんですか?」
「そうそう」
「だったら、そのラインナップなら、私とミルクが行けます。金管が入るとレモンなんですが、レモンはフルートの音を出せないんですよ」
「微妙だね!」
「事務所からもほとんど放置されているし、最近はスタジオミュージシャンで食いつないでいるんで、色々な楽器ができるように心がけてはいるのですが」
バレンシアは現在ギターとベースの子が離脱して事実上の休止状態にある。ギターの子がリーダーだったのだが、後任のリーダーも決まっていない。メンバーはみんな20代後半なので、レコード会社も消極的である。
「だったら心強い。心亜ちゃん、ピアノは?」
「ダメです。電子キーボードなら何とかなるんですが、ピアノは強弱付けて弾けないんですよ」
「ああ。だったら電子キーボードなら行けるね」
「ええ。実はバレンシアのメンバーでピアノ弾ける子居ないんですよ。キーボード担当の是梨(ゼリー)もピアノは怪しい。あの子エレクトーンは7級持っているんですけど」
「そうだったのか。心亜ちゃん、マリンバは?」
「マリンバって太鼓か何かでしたっけ?」
「木琴の一種。だいたい木琴か鉄琴が弾ければ弾ける。シロフォン、マリンバ、グロッケンシュピール、ヴィブラフォンはだいたい演奏法が似ている」
「なるほどー。だったら、私はやはり強弱が怪しい気がしますけど、うちのミルクが弾けると思います」
「あの子、管楽器だけじゃないの?」
「中学高校ではヴィブラフォンやってたんですよ。でもバレンシア結成する時に、ヴィブラフォンはツアーの時に輸送費が掛かると須藤社長から言われて手荷物で持ち運べるフルートにしたんです」
「ああ、ケチな須藤さんらしい」
それで観月に連絡を取ってみた所、自宅にシロフォンとグロッケンシュピールは持っていて、マリンバとヴィブラフォンは持ってはいないものの大丈夫だと思うということであった。事前に練習できないかと言っていたので、祐天寺のXスタジオで空いている時は自由に練習できるように言っておくと伝えておいた。
私は再度ココアに電話して話し合い、結局、バレンシアからは、心亜(ココア)、観月(ミルク)、礼文(レモン)の3人が参加してくれることになった。3人とも様々な楽器が演奏できて、編成を組みやすそうなのである。
「ところでココアちゃん、男装とか抵抗は無い?」
「男装ですか?大丈夫ですよ」
「じゃもしかしたら男装してもらうかも」
「OKです。ちんちん付けてきます。ちなみに女装も大丈夫です」
「じゃもしかしたら女装してもらうかも」
「OKです。おっぱい付けてきます」
何のこっちゃ!?
ヴァイオリンに関しては、いつも頼んでいる鈴木真知子はこの時期ヨーロッパの幾つかのコンテストを歴戦するらしく国内に居ない。しかし彼女の友人の田中成美ちゃんが土日祝の公演には参加できるということだった。私にとっても旧知の子である。
彼女は高校生(若干怪しい気もするのだが多分女子高校生)なので、高松公演以外に参加できるだろうと思い、念のため確認したら、高松もOKと言う。
「水曜日は休みますから、帰りはそのサンライズ瀬戸に乗るルートで確保してもらえますか?」
「OKOK。助かる。でも学校いいの?」
「うちの学校は演奏活動を優先して学校休んでもいいんですよ」
「へー。ああ、芸能人とか多い学校には時々あるよね」
「うちの学校、芸能人多いですよー」
「なるほどー!もしかして品川区のD高校とか」
「いえ。北区のC学園です」
「わっ。そしたらもしかしてアクアちゃん知ってる?」
「同じクラスですよ」
「そうだったのか!」
「アクアの実態をだからかなり見てますけど、一応秘密ということで」
「あはは」
しかしアクアと同級生とは全く知らなかった。
「ところで田中さんはピアノは弾ける?」
「コンテストに出られるほどではないですけど、他のヴァイオリニストの伴奏ができる程度には」
「それはかなりレベルが高そうだ。ヴィオラとかチェロは?」
「小学校の学習発表会で弾けば拍手をもらえる程度には」
「充分だね。ギターはどうだろう?」
「ああ、大好きです。ヴァイオリンの練習の合間とかに息抜きでよく弾くんですよ」
「アコスティック?エレキ?」
「どちらも行けますよー。アコスティックはギブソンのL-00, エレキは同じくギブソンのSG持ってます。クラシックギターは自信無いけど」
「うん。クラシックギターの演奏が必要になることはないと思う。そしたらもしかしたら一部の曲でピアノやギターあるいはヴィオラやチェロを弾いてもらうかも知れないけど」
「いいですよー。あ、そうだ。ヴィオラとかチェロもあるんだったら、よかったら楽器を貸してもらえると少し練習しておきますが」
「だったら、後で誰かに持って行かせるね」
それで妃美貴に彼女の家まで、ヤマハ製のヴィオラとチェロを持っていってもらった。
「まだ誰に何の曲を弾いてもらうかは確定していないんですよ。決まったらすぐ連絡しますので」
と妃美貴には言っておいてもらった。
帰ってきた妃美貴に
「お疲れ様」
と声を掛けたら
「本人は居なくてお兄さんがいたので預けてきました」
と言っていた。
「へー。お兄さんがいたのか」
「お兄さんも高校生らしいんですけどね」
「ふーん」
成美ちゃんはアクアと同級生だから高校2年生である。その兄も高校生なら年子?でも、お兄さんと言っておいて実は本人の男装かも知れないよな、という気がチラッとした。
さて、ヴァイオリンはソロを担当する人以外にあと4人欲しいのだが、これはまたアスカに頼んで揃えてもらった。みんなローズ+リリーの音源製作やライブではおなじみの人たちであった。
伊藤ソナタ・桂城由佳菜・前田恵里奈・生方芳雄
「あのぉ、蘭若先生からは『ドレス着てね』と言われましたけど、女装しなくてもいいですよね?」
と生方さんからは確認の電話があったが
「そのあたりは任意で。生方さんに合う男性用衣裳・女性用衣裳どちらも用意しておきますので」
などと風花は答えていたが
「男性用衣裳でお願いします!」
と彼は言っていた。
毎度おなじみのセクハラだ!
なお彼女たちは高松公演への出演もOKということで、田中成美ちゃん同様、サンライズ瀬戸で帰京することになる。この結果高松公演は別途伴奏者を手配しなくても、他の公演と同じ伴奏者で行けることになった。
そういう訳で函館公演の後、仙台から東京へ運ぶのは6人と確定した。
座っての移動ならワゴン車でもいいが、それでは寝られないので、マイクロバスを使い、各々1列独占して寝て行けるようにする。ドライバーは2人用意して1時間半程度で交替させる。
対象となるのは伊藤ソナタ・桂城由佳菜・前田恵里奈・生方芳雄・田中成美・谷口翼だが、座席前方から生方・田中・伊藤・桂城・前田・谷口と並べて、悪いが田中成美ちゃんを男女の緩衝領域として使わせてもらう。彼女は女性男装者なのか男性女装者なのか、どうもよく分からないのだが、たぶん男性の隣でも女性の隣でも問題は少ないと思われる。
もっとも生方さんについても伊藤ソナタは
「よっちゃん、香り付き汗拭きシートで汗は拭いた上で、女の子パジャマを着てくれたら、私の隣で寝てもいいよー」
などと言っていたが。
(セクハラは続く)
愛のデュエットはこういう組み合わせで演奏することにした。
左が男性(男役)で右が女性(女役)である。
ピアノ連弾 月丘+翼
リコーダー・フルート・クラリネット・サックス 心亜(男装)+翼
ヴァイオリン・チェロ・ギター 鷹野+成美
ドラムス連打 酒向+レイア
男性演奏者が少ないので、一部女性演奏者に男装してもらう。
翼には5つの楽器を続けて演奏してもらうが、男性側はピアノだけ月丘さんで、管楽器はココアに男装して務めてもらう。
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