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■夏の日の想い出・天下の回り物(10)
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「もしかして会長がお持ちの株を私に買い取ってもらえないかとか?」
「うん。そういう話なんだよ」
「幾らですか?」
と私は単刀直入に訊いた。
「僕としてはタダであげてもいいんだけど、そうすると贈与したとみなされて高額の税金を掛けられる可能性があると思うんだよ」
「面倒くさいですね〜」
「そういう訳で昨年度の経常利益が20億円だったから、その5倍で100億円とかではどう?10年払いでいいけど」
私は苦笑した。
「そのくらい全然平気です。会長###銀行の口座はお持ちですか?」
「うん。あるけど」
「口座番号を教えて下さい。今、振り込みますので」
「今現金で持っているの〜!?」
さすがにこの金額はネットバンキングでは振り込めないようだったので、私はその日の午後銀行の窓口に行って振り込みの手続きをした。すると顔見知りの支店長が出てきて
「唐本様、本当にこの金額でよろしいですか?」
と尋ねられた!!
(銀行の一般的な振り込み用紙には一応百億の桁までは印刷されているのだが、私もこの振込用紙の桁を全部使ったのは初めてであった)
更に900億円もの現金が普通預金口座に半年以上入ったままになっていることに気付いた支店長は投資信託でもしないかと勧めてきたが、丁重にお断りした。
しかしそういう訳で私は§§ホールディングのオーナーになったのである。ただしこのことはマリには秘密である!私がアクアの事務所のオーナーになったと聞いたら、アクアに無茶なことを言い出しかねない!性転換してね。これはオーナー命令ですとか。
なお、紅川さんは私が払ったお金を利用し、∞∞プロの鈴木社長、○○プロの丸花社長、ζζプロの兼岩会長と共同で芸能人年金基金を立ち上げ、長年芸能界で活躍した人の引退後の生活支援をするシステムを作ることになった。この基金は当初210億円で設立された。200億ではなく210億にしたのは紅川さんの出資額を49%以下に抑えるためだろうと私は想像した。
コスモスは私が§§ホールディングのオーナーになったと聞いて驚いたが、
「何か知らない人に所有されるんじゃなくてケイさんなら安心です」
と言っていた。私は彼女にこれまで通り、自由な才覚で経営して欲しいと言った。
「分かりました。頑張ります。もう結婚適齢期は逃しちゃうけど、私は仕事に生きる女です」
「結婚かあ。コスモスちゃん、好きな人とかいないの?」
「全然居ないんですよね〜」
「ちなみに好きなのは男の子?女の子?」
「男の子が好きですよ〜。アクアにバージンあげちゃおうかとも思ったんですけどね。もらってくれませんでした」
「その話、他の人にはしない方がいいよ〜」
「ゆりこからも言われました」
私が§§ホールディングのオーナーを継承して間もない頃、アクアに関して重大な事故が起きた。
その日、アクアはサブマネージャー高村友香が運転するベンツSクラスに乗って放送局に行く途中であった。普段は「白いアクア」を使うのだが、実は昨日、そのアクアを運転していたもうひとりのサブマネージャー緑川志穂が乱暴な運転の車を避けようとして縁石にぶつけてしまったのである。但しこの時はアクアは乗っていなかった。
(実際にはコスモスはその「乱暴な車」はパパラッチではないかと言っていた)
それで白いアクアが修理中だったので、この日はたまたま紅川さん所有のベンツが空いていたのでそれを借りたのである。
さてこの日の状況だが、高村が運転していて放送局に入ろうとしたらゲートの所に唐突に年配の女性が、よろけるような足取りで出てきたのである。
高村は焦った。ブレーキが間に合わない!ハンドルで避けるしかない!しかしどこに?通行人もいるので歩道は駄目だ。高村は目の前に街路樹があることに気付いた。ここにぶつければ歩行者も怪我させないし、車のスピードも殺せる!
そう瞬間的に判断した高村は物凄い急ハンドルで運転席がその樹木に正面衝突するように進路変更したのである。むろん同時に急ブレーキも踏んでいるが、自分が正面衝突するようにしたのは助手席にいるアクアを守るためである。
門の所にいた警備員さんがすぐに救急車を呼ぶ。救急車が来た時、高村は
「私より助手席の子を先に運んで!」
と言ったが、救急隊員は
「君の方が怪我が大きい。助手席の子は大した怪我はしていないようだよ」
と言い、高村を救急車に乗せる。
「高村さん、アクア君は僕が病院に運ぶよ」
と出てきてくれた放送局の見知ったスタッフが言うので
「すみません。お願いします」
と言って高村は病院に運ばれていった。
さて・・・
今回の事故では車は門内に進入しようとしていた時で車が低速だったこと、そして車がベンツだったという要素が大きかった。高村はフロントグラスを突き破り車内に飛び込んできた枝で頬を少し切っていたのと腕にも切り傷があり、右手小指を骨折していた他はそんなに大きな怪我は無かった。
結局小指の骨折は全治2ヶ月だが、それ以外はすぐに治ると言われた。顔の傷も跡は残らないだろうと言われた。入院の必要も無かった。アクア自身は無傷であった!念のため全身検査されたものの、何も異常は無いと言われた。
ちなみにアクアの送迎は1日交替なので、翌日は緑川が運転し、高村は翌々日にはもう仕事に復帰した(アクアもさすがに当日は休みにしてもらった)。
なおこの日事故に遭ったのは実際にはアクアMであったらしい。医者に精密診断をされながらMは「自分で良かったぁ」と思ったという。これがFだったら
「アクアは性転換していた!」
というニュースが翌日の新聞に載って大騒ぎになる所だった(病院には大量の記者が押し寄せていたので、女の子の身体だったら誤魔化しようが無かったところである)
それにMは反射神経が3人のアクアの中でも最も良いので、高村が
「アクアちゃん、頭をヘッドレストに付けて!」
という声に反応して、予め頭を後ろにやっていたのも、怪我が無くて済んだ要因だったかもとMは思ったらしい。
事故の様子は門の警備員が全貌を見ていた。通行人の目撃者も多数あった。そして事故の原因となったベテラン女優さんも証言してくれた。
ネットの反応。
第一報が流れた時は「アクアが乗った車が事故」というのでアクアを心配する声が多かったが「アクアは無事。無傷」という報道が出ると「良かった!」という声と共に、ドライバーに非難が集まる。
「運転していたのは誰だ?高村か?緑川か?桜木か?死刑にしろ」
などと厳しい声。
社長の秋風コスモスはその日の夕方19時に緊急記者会見をして状況を説明した。
(すぐに記者会見しないと、本当に高村が殺されかねない!)
・ベテラン女優さんはドラマで共演していた男性俳優さんがふざけて驚かしたのにびっくりして飛び出してしまったこと。
・運転していたのは高村であるが、飛び出して来た女性を轢かないように、歩道の通行人にぶつけないように、車道を走っている車と万が一にも接触しないように、しかもアクアに怪我させないようにと、自分自身が樹木に正面衝突するようハンドルを切ったということ。つまり樹木にぶつけて車の勢いを止めようとしたのだと説明した。
・このことは単に女性を避けようとしただけなら不自然な車の曲がり方を現場に居た多くの人が見ていて証言してくれているし、防犯カメラにも全貌が映っていたし、車のドライブレコーダーにも
「アクアちゃん、ヘッドレストに頭を付けて、目をつぶって、顔を手で覆って!」
「木にぶつけるから」
という高村の声が入っていたことでも裏付けされた。
(実際には助手席部分のフロントグラスは割れず、ヒビが入っただけだったので、アクアは無傷で済んだ)
・プロのドライバーに映像を見てもらったが、普通の運転者なら、そもそも女優さんを避けることが困難だったと思うと言った。通常ブレーキを踏む時の反応時間は若い人でも1秒と言われる。1秒あればほんの3-4mほど前に飛び出した人を避けきれない所だった。20km/hの車は1秒間に5.5m進むのである。しかしプロのレースドライバーには0.1-0.2秒で反応できる人がいる。
・同じくプロのドライバーさんの意見で、自分を犠牲にして、他の人には誰も怪我をさせないようにした瞬間的な決断力が凄いと言っていた。普通はパニックになってどうすればいいか考えつかないものである。それを少なくとも0.2秒程度以内にしていないと、あそこまでの急ハンドルで街路樹にぶつけることはできなかった。その急ハンドルもかなりの腕力を必要としたはずだ。
このコスモスの記者会見を受けてドライバーに対するネットの意見が180度変わる。
「高村さん、すげー!」
「さすがA級ライセンス持ち!」
高村友香は大型二種や大型自動二輪免許も持っているが、四輪の国内A級ライセンスも持っている。もっとも取ったのはもう5年くらい前で、当時はかなりハマっていて年間10回くらいサーキットに行っていたものの(愛車はインプレッサ)、アクアのサブマネージャーになった後は、忙しくて全く行っていない。
「高村さん、早く良くなるといいね」
という声が圧倒的となり、実際§§ミュージック宛にお見舞いが大量に届いて高村本人がびっくりした。
ネットでは
「しかしこのくらいで済んだのはやはり車がベンツだったからでは?」
「普段の(トヨタ)アクアならもっとひどい怪我していたかも」
という声も出ていた。
なお事故の原因を作ったベテラン女優さんと、その根本的な原因を作った男性俳優さんは平謝りであった。
・破損した車は弁償する。
・怪我した高村さんの治療費、アクアの診察費はむろん全て出す。
・損傷した街路樹の植え替えなどの原状回復は責任持っておこなう。
・休業補償を含む損害賠償の交渉には誠意をもって応じる。
ふたりから豪華なお見舞いの品が届いて、アクアも高村もびっくりした。
車の問題についてコスモスはすぐに手を打った。
アクアの送迎に使用する車をトヨタ・アクアではなく丈夫さでは定評のあるボルボ車に変更することにし、これは山村マネージャーが翌日午前中!に調達してきた、Volvo V40 PHV !? (Color:White)という特殊な車を使うことにした。これを早速調達してきたその日から送迎に投入した。
Volvo V40はボルボ車の中では最もコンパクトな車種である。
コスモスが心配したのは、あまり大きな車を使うと先輩の俳優や歌手などから
「売れてると思っていい気になって、でっかい車に乗っている」
と思われることである。
それでできるだけ小さな車を使おうと考えていた。V40 は 4370×1800×1440 というサイズで、車体のサイズで言うとプリウスの 4540×1760×1470 よりも少し小さい(幅は4cm広いが)。今までのアクア3995×1695×1455よりは大きいものの、それほどの“巨大感”は無い。
V40はVolvoのロゴさえ見なければ外車とは思われないコンパクトさである。(ついでに言うと、Volvoの車体前面のエンブレムは一見Nissanのエンブレムに似ている)
ボルボは現在高級車を中心にPHV(プラグインハイブリッド車)を導入しつつあるが、まだV40のハイブリッドは存在しない。ところがこの山村が調達してきた車は元はV40のガソリン車だったのを改造してハイブリッドにしてあるのである。改造には大量の電池を搭載するなど極めて大きな工程が必要だったと思われるが、車の床を本来の高さより3cm高くする(結果的に天井が3cm低くなる)だけで改造を達成している。それでちゃんと構造変更などの認可を取っているのが凄い。
それでV40のハイブリッド車という珍しい仕様の車が存在しているのである。恐らくは何か別のプラグインハイブリッド車のパワートレインを丸ごと持って来て載せ替えたのではないかと思われるので、改造費はハイブリッド車1台買える価格が掛かっていると、話を聞いた私は思った。元々そういう車を所有している人を知っていて、大枚(きっともう1度そういう改造ができる程度)を積んで譲ってもらったのだろう。
が、その件で千里(千里2)が笑っていた!
何なんだ!?
そういえば山村さんは千里ともAYAのゆみとも旧知という話だったが、どういう関わりだったのだろうか。
ちなみにこの車は通常はモーターだけで動作するのでこれまで乗っていたアクアと同様、とっても静かな車である。PHVなので夜間などにコンセント(200V)から充電していれば結果的にガソリンはほとんど使わない。また、室内高が低くなる問題は、乗るのが女性と、元々身長の低いアクアなので、むしろ快適になる感じだった。
なお、西湖の送迎車もこれに合わせて変更された。丈夫さについてボルボよりは少しランクとして落ちるものの、アウディA3のPHVを使うことにした。これは一週間ほどで調達され、学校や放送局などにも車種・ナンバーの届け出を済ませた。
アクア送迎車 Volvo V40 4370×1800×1440 1496cc (Plugin Hybrid) White
西湖の送迎車 Audi A3 (ETRON) 4330×1785×1465 1394cc (Plugin Hybrid) White
実は・・・アクアの送迎車と西湖の送迎車はサイズも似ているし、どちらも白いハイブリッド車である。コスモスはこの2台の車を出し入れすることにより、“目くらまし”をするつもりなのではと私は思った。
要するに葉月をアクアの影武者にする意図があるのだろう。
葉月、アクアと間違えられて拉致されて女の子に改造されちゃったりしないよね?と私は少しだけ心配した。
なお、この2台はどちらもガソリンはハイオクである。これはドライバーが混乱しないようにそろえたのもあるだろう。普段西湖のドライバーをしている桜木ワルツや河合友里も、忙しい時はアクアを担当することもある(西湖は人手が足りないとタクシーで移動しろと言われる)。
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