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■夏の日の想い出・東へ西へ(18)
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目次 8
時間索引 #
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スタジオでの作業が終わった後、4人でお茶を飲んでいて、ゆみはAYAデビューの時の様々なゴタゴタのことを語った。
「まあ相性悪いなとは思ってたのよね〜。でも芸能人のユニットなんてそんなものかもと思って割り切ることにした。だって、漫才のコンビとかでもプライベートでは全く交流が無くてお互いの電話番号も知らないとか、楽屋では一言も口を利かないとか、そもそも楽屋は別なんて人たちもいるじゃん」
「お互い別の楽屋に居て、ステージに登る直前に並ぶなんて、それ自体が名人芸みたいなペアもいるらしいですね」
と玲羅が言う。
「まあだからステージ以外であまり話をしなくてもいいかとは思っていたんだけどね。なんか話が合わない感じもあったし。あすかちゃんは洋楽専門らしくて横文字の歌手の名前がたくさん出てくるけど、私全然分からなくて。あおいちゃんは何故芸能界に入ろうと思った?という感じのお嬢様っぽい人で、少しとろい感じで。だからあのふたりがペアを組んで他の事務所からデビューすると聞いて『空中分解しないか?』と思ったけど、それ以前にこちらの事務所から訴えられて活動停止・隠退に追い込まれたからね」
「当時、ゆみちゃんはその卍卍プロから誘われなかったの?」
「誘われたけど、私はH出版社と契約している身ですから、マネージメント契約を結んでくれというのなら、そちらと交渉してください、と言った」
「なるほどー」
「まああの3人の中ではあすかがダントツで可愛くて、あおいも美人タイプだし。私は顔は人並みだから、向こうはあの2人だけでいいと思ったのかもね」
とゆみは言うが
「ゆみちゃんも可愛いのに!」
と他の3人は言う。
ゆみは更に自分の小さい頃の話を織絵・青葉・玲羅にした。これまで話したのは過去に3人だけであった。そしてゆみは、その“父”がこの6月に亡くなったことも話した。
玲羅が言った。
「ゆみさん。お墓参りでもしてきませんか。生きてた頃はいろいろあったろうけど、死んでしまったら、もうみんな仏様ですよ」
「そうだねぇ」
「私もそれがいいと思う。それで自分の心に決着を付けなよ」
と織絵も言った。
それで、そろそろ帰ろうかと言ってお店を出ようとした4人は玄関のところで∞∞プロの鈴木社長にバッタリと遭遇した。
鈴木社長は織絵とゆみが歌った『Take a chance』のビデオを見るとふたりのユニットに“XAYA”と命名した。また織絵に自分の所と契約しないかと誘った。
ゆみは翌11月24日(振)、カイエンを札幌に置いたまま単身、飛行機で東京に戻った。そして私のマンションを訪れると旭川のスタジオで制作した『Take a chance』の音源とビデオを見せてくれた。
「面白いものを作ったね〜」
と言って、動画を見ながら、私はゆみも織絵も精神力をかなり回復させていることを確信した。
ゆみと私たちは翌日から27日まで一緒に今年のアルバム『雪月花』の最後の曲となる『Step by Step』の音源制作を行った。
この収録の最中にはAYAの元マネージャー高崎充子がPolar Starのリーダー・杉山さんと一緒に姿を見せ、歌っているゆみに笑顔で手を振った。ゆみは驚いて会釈していたが、充子と杉山さんは特にゆみとは話さず、すぐに帰ってしまった。
この制作が11月27日に終了。残るは麻布先生と有咲によるマスタリング作業となった。これにはサウンドプロデューサーである七星さんが立ち会うことになる。
ゆみと織絵のユニット“XAYA”が歌う『Take a chance』の楽曲およびビデオの権利関係については鈴木社長が関係各者と協議して調整、11月30日の夕方、大手動画サイトに掲載された。たちまち物凄い数のビューカウントとなり、AYAのファンもXANFUSのファンも熱狂した。
「音羽はアメリカに行っていると聞いたけど、じゃ、AYAもアメリカに行っていたわけ?」
「たぶん光帆経由で連絡を取り合って会ったのでは?」
「これもアメリカからアップロードしたのかな?」
そしてこのビデオが公開される直前、その日の朝一番に光帆は事務所に対して専属契約の解除申入書を提出した。
さて、ゆみが札幌に置いていったカイエンだが、実は織絵が乗って苫小牧まで走り、11月29日18:45の大洗行きフェリーに乗り込んだ。そして11月30日14:00に大洗港に到着した。織絵の乗るカイエンは17時前に、恵比寿の私のマンションに到着した。
一方で契約解除の申し入れをした美来(光帆)は事務所を出た後、★★レコードに行って、町添部長・加藤課長・福本さんと今後について話し合っていたのだが、その後、18時頃、私のマンションを訪問した。
私と政子が美来と話し合っていた時、音も立てずにそっと美来の後ろに忍び寄っていた女性が、いきなり美来の目のところに後ろから手を当てると
「だ〜れだ?」
と訊いた。
「オリー!?」
と言って驚いたように美来は後ろを振り向いた。
ふたりが熱くキスしているのを見て、私と政子は静かに席を立った。
同じ11月30日の午後、まだ織絵が大洗港に到着する少し前くらいの時間に、テレビ局の会議室に10人のメンツが集まっていた。明日収録する『性転の伝説』の打ち合わせなのである。
集まっているのは、武者プロデューサー、東国ディレクター、審査員長の荻田美佐子、ハルラノの慎也と鉄也、事務所社長の山口さん、ローズクォーツのタカ(審査員)、アクアと付き添いの秋風コスモス、そして司会の古屋疾風である。
「今日の話の内容は1月2日の放送が終わるまで一切口外しないということでお願いします」
と最初に武者プロデューサーが一同に念を押した。
「しかしアクアちゃんって可愛いね〜」
と慎也が言う。
「まあ慎也とアクアちゃんが今着ている服のままでも並んでいたら、多くの奴が服装とは逆に、慎也が男でアクアちゃんは女の子と思うよな」
と鉄也が言うが
「いや、それ以外には見えねぇ」
とタカが言っている。
「でもどうして慎也さん、お化粧してスカート穿いてるんですか?」
とアクアは率直な質問をした。
「俺、女だから」
「うっそー!?」
「正確には生まれた時は男だったけど、手術して女になった」
「そうだったんですか!」
「まあ、こいつが女だってのがとても信じられないのと同じくらい、アクアちゃんが男の子だってのは信じられない」
と鉄也。
「アクアちゃんはやはり高校くらい出たら性転換する予定?」
「僕別に性転換するつもりはないです。僕はふつうの男の子です」
「いやふつうの男の子には見えない」
「ふだんはスカートとか穿くんでしょ?」
「穿きませんよぉ」
「恥ずかしがらなくてもいいのに」
「こんな可愛い子を男にしてしまうのは、絶対世の中の損失だと思う」
「同感。君は絶対女の子になるべきだよ。嫁さんにしたいって男はいくらでもいるよ」
「そうそう。ちょっと手術受けてくればいいじゃん」
「女の子になるとか手術とか勘弁してくださーい」
とアクアは言っている。
「でもちんちん無くしたいと思ってるんでしょ?」
「無くなると困りますー」
と言いつつ、アクアはさっきトイレで見たことはきっと何かの間違いだよね、などと思っていた。
「そういえばタカ子さんも今日は男装なんですね」
とアクアは訊いた。
「俺、普通の男だし。なんかテレビ局の番組では最近、女装させられてばかりだけどさ」
「普段は女装なさらないんですか?」
「俺は女装趣味は無いよ」
「うっそー!?」
「ああ、タカはもう後戻りできないくらい、女装者だと思われているよな」
「アクアちゃんにも、なぜセーラー服じゃなくて学生服を着てきた?と質問したい気分だ」
と古屋疾風さんは言っていた。
「僕、セーラー服は持ってません」
とアクアは言うが
「そのくらい買ってもらえばいいのに」
と荻田美佐子さんから言われ
え〜?どうしよう?とアクアは思って、ドキドキした気分になった。
こないだの写真集撮影でもたくさんセーラー服を着たことを思い出す。そのセーラー服の下には、キャミソール、ブラジャー、パンティーを着けていて、その下には豊かなバストと・・・・女の子のお股があったりして!?
桜井さんたちとの写真集の編集作業、美原さんたちとのビデオ編集作業を私はローズ+リリーのツアー準備、KARIONのアルバム制作作業と並行して進めていた。
まず写真集の編集がだいたい11月下旬までにまとまり、印刷に取りかかる。紅川社長はこの印刷を強気に30万部も印刷指示した。通常のアイドルの写真集売上はトップアイドルでも10万部程度である。
一方でビデオクリップの編集は12月初旬にずれ込んだ。
結局6本のビデオで構成している。先頭に、お姫様を助けてモンスターと闘う『Aqua Fighter』(BGM ハイライトセブンスターズ『Hurry Up!』)を置く。
つまりアクアは冒頭振袖で登場する!
その後次のようなクリップを並べる。
『Aqua Rock』アクアが様々な楽器を演奏する。服装は色とりどりの戦隊風?。
BGM:ローズ+リリー『恋人たちの海』
『Aqua Marine』ビーチでのアクアを撮影したもの。海兵さんのブルードレスや水兵さんのセーラー服などを着ている。
BGM:スイートヴァニラズ『浜風の誘惑』
『Aqua Town』街でのアクアを映したもの。服装は数種類のアロハシャツの他、パイロット風の衣装、ライダースーツなども混じっている。大型バイクに跨がるアクアが収録されているが、むろん跨がっているだけである。
BGM:AYA『スーパースター』
『Aqua Fall』マノア滝への往復の様子を編集したもの。ワンカットだけコスモスと並んでいるシーンが入っている。
BGM:篠田その歌『Drinving Road No.10』
『Aqua Holiday』アクアの1日を描いたもの。
BGM:Golden Six『Golden Aqua Bridge』
使用している楽曲は全て既存曲だが、この中で冒頭のハイライトセブンスターズ以外の5曲はアクア自身に歌わせて収録したカバー版となっている。特に『Aqua Rock』ではギターとピアノも本人が演奏している。(それ以外の楽器演奏はスターキッズに協力してもらった)
『Aqua Holiday』の最後は、空港でのアクアを撮影したものだが、アロハシャツとホワイトスラックスを着ていたアクアを、そこに現れた数人の戦闘員が拉致して、ムームーを着せてしまい、アクアが困ったような表情をするという場面で終わっている。
つまりアクアは冒頭に女装(日本女性の正装である振袖)で登場して、最後は女装(ハワイ女性の正装であるムームー)で締めているのである。
これはムームーを着たアクアの写真・動画があまりに可愛かったため、紅川社長自身が
「これ出しちゃおうよ」
と言って、収録を許可したものである。コスモスは「いいんですかぁ?」と言っていたが紅川さんは「まあこの程度はおふざけということで」と笑って言っていた。
ちなみにこの場面はアロハシャツとホワイトスラックスで微笑んでいる場面までは実際のホノルル空港で撮影したものだが、拉致してムームーを着せるところは実は茨城空港内で撮影している。後ろで行き交っているのは国内で調達した外人さんのエキストラである。アクアが拉致されているのをちらっと見るが、そのまま通り過ぎるという演技をしてもらっている。
(合成ならそもそもこちらを見ないし、人の多い空港で撮影すると騒ぎになる)
このビデオクリップも紅川社長と町添部長は10万枚のプレスを指示した。この手のビデオDVDは普通はせいぜい売れても5万枚程度である。
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