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■夏の日の想い出・東へ西へ(7)

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「それで今回のドライバーが『性転換した上島君』な訳ね?」
と星原さんはにやりと笑って言う。
 
「はい、性転換した元上島雷太です。よろしくお願いします」
と千里は笑顔で言った。
 
ずっと性転換ネタは嫌そうな顔をしていた龍虎もこれには少し笑った。
 
「これ私の国内A級ライセンスです」
と言って千里がライセンスを見せる。
 
「それ凄いね」
と言って上島先生が千里のライセンスを覗き込んだ。
 
「A級ライセンスって凄いね。レーサーなの?」
と鈴木さんも言うが
 
「レーサーの人たちが持っているのは国際A級ライセンスで、これは車を趣味とする人たちがサーキットとかで車を走らせるのに持っている国内A級ライセンスなんですよ」
と千里は説明した。
 
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「ああ、国内と国際ってあるんだ!?国際が上なのか!」
と鈴木さんが感心したように言い、
 
「ケイちゃん知ってた?」
と訊く。
 
「国際A級が国内A級の上というのは知ってましたが、私もこのライセンスは初めてみました」
と私は言う。
 
「国内Bから始まって国内Aを取って、その後、国際C,B,Aの順だっけ?」
「うん。実際には国際C以上は取るのに物凄くお金も必要だし、高い技能も必要。職業ドライバーでないと、取るのも維持するのも困難だよ」
 
「ああ、維持にも条件があるんだっけ?」
「うん。毎年いくつものレースに出て上位に入ってないとランク落とされる」
「厳しいね」
 
「国際A級なんて、超絶凄い技量を持つ人の証だから、取得したまま何もしないで勲章みたいに維持することは許されない。ちゃんと高い技量を維持していることを実際のレースで証明できなければいけない」
 
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と千里が言うと、星原さんたちも頷いているが、私はその話って音楽の世界についても言えるよなと思った。過去にどんなに売れたアーティストでも、今ちゃんと実力があることを証明できなければプロ歌手は名乗れない。
 

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「じゃ君、この車の最高速度 290km/hで走ってみる?」
と星原さん。
「そうですね。サーキットでなら試してみたいですね」
と千里も言った。
 
「中央道で走ってみればいい」
「まだ逮捕されたくないので」
「軟弱な」
 
「高岡はそれだけの技量もないのに300km/hで走って事故起こしてしまったんですよ」
と上島先生が厳しい顔で言う。
 
「『性転換前の上島君』はサーキットで最高速を経験していたね」
と星原さん。
 
「テレビ局の企画で、鈴鹿にも行きましたし、富士スピードウェイがリニューアル・オープンしたらすぐそこにも行きました。2度ともフォーミュラドライバーの井原慶子さんが運転するこの車の助手席に乗せてもらいました。車のスペック上は290km/hですが、鈴鹿でも300km/h越えたし、直線が長い富士では320km/hまで行きました」
 
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富士スピードウェイは開業当初から構造的に事故の起きやすさが指摘されており1974年には超絶危険であった30度バンクが廃止されたが、その後も事故が後を絶たなかった。更には老朽化も目立ってきたので、2003年にいったん閉鎖して大規模なリニューアル工事をおこない、2005年に再開した。
 
「気持ち良かったろ?」
 
「鈴鹿で2度とごめんだと思ったのですが、再度富士に行かされました。井原さんから、何だか怯えてると言われました」
 
「あははは。上島君も体当たり芸人扱いだな」
と星原さんは笑っている。
 

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そういう訳で車を借り受けて、千里の運転で八王子のホテルまで移動した。
 
「エンジン音が凄いね」
「まあこの音だけで目立つよね」
 
「でも私も富士スピードウェイは何度かフェラーリで走りましたけど、運転している分には特に怖くは無かったですよ」
と運転席の千里は言う。
 
「たぶんあれは助手席だから怖いんだよ」
と助手席後ろの後部座席に座る私は言った。
 
「ああ。そういうものかもね。富士スピードウェイで200km/hで走っても怖くないのに、富士急ハイランドの絶叫マシンに雨宮先生に言われて乗せられた時は死ぬーと思ったし」
と千里が言っている。
 
「それもしかしてAYAのアルバム『絶叫マシン』ということは?」
と私は訊いた。
 
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「ケイも私たちとは別日程で絶叫マシンに乗せられたとその時聞いた」
「うん。私もあれは死んだと思った」
 
すると助手席に座る上島先生が
「ああ。僕がダウンしてた時に雨宮グループ総出で対応してくれたアルバムか。あれは済まなかった。でも僕も富士急ハイランドは、例の時に死んだ」
と言っている。
 
2年前、上島先生が支香と浮気していたのがバレて、アルトさんが怒って家出をした。アルトさんは何日も友人たちにさえ連絡せずにあちこち放浪していたのだが、私と政子がうまく接触できて自宅に連れ戻すことができた。上島先生は土下座して謝り、再度ふたりだけで三三九度をやり直したらしいが、アルトさんは上島先生にお詫びに丸一日富士急ハイランドでのデートを要求した。それで上島先生は次々に絶叫マシンに乗せられたらしい。
 
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そして・・・どうも上島先生の浮気はそれ以降、停まっている雰囲気もあるのである。あれは本当に反省したのだろう。アルトさんの家出はきっと最後通告だったのだ。
 

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やがて私たちも八王子のホテルに到着。駐車場に駐めていたら周囲の視線が凄かった。
 
先に着いていたメンバーに声を掛け、レストランに入って個室(というよりパーティールーム)で食事をした。
 
龍虎は実は喪主でもあるのだが、むしろ話題の中心で、みんなから可愛いとか褒められるし、学校での出来事なども政子やコスモスがうまく引き出し、川南や夏恋が色々ネタバレをして恥ずかしがっていた。
 
「で、その男湯脱衣室から追い出された後、君はどうしたのだね?」
「いや、それはその・・・」
「なぜ答えられん?」
 
しかし色々話を聞いていると、どうもこの子の「友だち」というのは女の子ばかりのようだというのに気付く。彼の話題の中に、男子っぽい名前が全く出てこないのである。
 
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龍虎がトイレに立った時、政子も一緒に席を立った。強制的に女子トイレに誘導するつもりだろう。もっとも龍虎は今女性用の喪服を着ているから、それで男子トイレに入ろうとしても拒否されるか叱られそうだ。
 

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ふたりが居なくなったら、自然に11年前の事故の話が出た。
 
「後でFAXに印字されている時刻を確認したら3:15だった」
 
と上島先生が言う。
 
「それが『疾走』の歌詞だったんですね?」
と私は確認する。
 
「そう。その夜は、ちょうど音源制作が一段落した後で、僕と雨宮と下川の3人で僕のアパートで飲んでいた。高岡はいい詩を夕香が書いたから、曲を付けてと書き添えていた。詩の本文は夕香の字で、そのコメントだけ高岡の字だった」
 
事故当時高岡さんは夕香さんと一緒に八王子市内のマンションに住んでいた。他のメンバーは質素にアパート暮らしであった。
 
「八王子から事故現場までは250kmくらいある。でも事故が起きたのは警察によると4:51だったらしい」
と上島先生。
「つまり平均で時速150以上出していたってことですか」
 
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250km÷96分=156.25km/h
 
「夫が言ってましたが、途中警察の覆面パトカーに目撃されたものの、そのパトカーは振り切られてしまったらしいです。その目撃時刻から考えても速度180km/hくらいで走っていたということのようです」
と志水さん。
 
「ポルシェの暴走車はポルシェのパトカーでないと捕まえきれないからなあ」
と田代父が言う。
 
「オービスには全く映っていなかったらしい。つまり高岡はオービスの場所を把握していて、そこではスピードを落としていたんだな」
と上島先生。
 
「けっこう意識はしっかりしてますね」
 
「たぶん本人はこのくらいお酒飲んでても大丈夫と思ってたんじゃないかね。この話は龍虎のいる所では言えないけど、あいつ飲酒運転の常習犯だったし。でも事故現場は直線が8km以上続いた先に突然急カーブが連続する場所なんだよ。しかも急勾配の下り坂だし。直線の間に容易に300km/hを越えたと思うね」
と上島先生。
 
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「アルコールが入ってなくてもその速度では厳しい道だったかも知れませんね」
と私は言った。
 
高岡さんと夕香さんの遺体からは高濃度のアルコールが検出されている。
 

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少ししんみりとした雰囲気になりかけた時、政子が龍虎と一緒に戻ってくる。
 
「龍虎ったら、私がトイレしている間に逃げようとするんだから」
と政子。
「だって、トイレ終わった後で、トイレ内に立って待っているのって凄く変です。ボク、痴漢と間違われないかとヒヤヒヤでした」
と龍虎。
 
「君は女の子にしか見えないから、そういう誤解はありえない」
と政子。
 
「まあ龍が、男子トイレにたたずんでいたら、通報されるよね」
と川南は言っていた。
 

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夜中過ぎに出発した。
 
高岡さんたちは250kmをわずか1時間半で走破したのだが、私たちは安全運転で行くから純粋な走行時間だけでも3時間掛け、途中休憩もはさむのでこの時間に出ることにした。
 
冬の夜中だから寒い。全員しっかり防寒具を着て乗り込む。
 
先頭を走るポルシェには、運転席に千里、道案内役の上島先生が助手席、私は助手席の後ろで、龍虎は運転席の後ろである。実は龍虎は車の中でいちばん安全な席に乗せている。そして千里と私、上島先生と龍虎が言葉を交わすことが多いので、お互いが見えやすいように互い違いに座っている。
 
またポルシェの後部座席(カイエンなどのセダンタイプを除く)は元々非常用で狭いので、身体の小さな私と龍虎が乗るのも合理的である。
 
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ポルシェには田代夫妻も志水さんも乗せないというのは、私と支香と川南との三者会談で決めた。田代夫妻を乗せると志水さんに悪いし、志水さんを乗せると田代夫妻に悪い。それで一時は支香さんが乗るつもりだったが、支香さんと上島先生は浮気した過去があるので、ふたりが一緒に乗るのにアルトさんが露骨に反対した。それで結局私がここに乗ることになったのである。
 
あと2台のマジェスタは最初コスモスと夏恋が運転し、途中で田代父と川南に交代すると言っていた。このように乗車している。
 
アルト・政子・コスモス・川南・暢子 
田代夫妻・志水・支香・夏恋 
 
コスモスは実は運転がかなりうまく国内B級ライセンスも持っている。事務所から免許証を取り上げられて運転禁止されていた時期も、しばしばプロドライバーに同乗してもらった上でサーキットで走っていた。
 
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ポルシェに続いてコスモスたちの車が走り、最後を支香たちの車が走る。実は現場を正確に知っているのが上島先生と支香だけなのである。志水さんも龍虎が幼い頃、亡き夫に連れられて何度か現場に行ったことがあるらしいが、正確な場所はあやふやらしい。
 

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千里が運転するポルシェは制限速度ジャストの安定走行で走って行く。多数の車が追い越していくが、千里も私も上島先生も全く気にしない。龍虎には寝ているように言ったので、渡された毛布を身体に掛けて寝ていた。
 
私は千里の眠気防止も兼ねて最初いろいろ話しかけていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていた。上島先生も寝ていたようである。
 
3時頃、途中のPAで休憩し、マジェスタの方はどちらも運転交代した。SAではなくPAを使ったのは、御飯を食べ始めて時間を取る子が出ないようにする配慮である。10分ほどの休憩ですぐ出発する。
 
「醍醐君は交代しなくて大丈夫なの?」
と上島先生が訊くが
 
「私は過去に48時間連続運転したこともありますから。10分程度のトイレ休憩の繰り返しだけで」
と千里は言う。
 
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「それは凄いね!」
 
「それいつ寝る訳?」
「もちろん、運転しながら寝る」
「あぶない人だ」
 
私は20日に千里が5時間連続運転して大阪に行った後、午前中いっぱいデートして、6時間連続運転で東京に戻ってきて2時間バスケの練習をし、そのあとまた車を運転して千葉に戻ったというのを麻央から報告されたことを思い起こしていた。26日もほとんど休憩無しで高岡まで往復している。そういえば9月に千里が運転するエスティマで宮崎に行った時も、本人は何度か仮眠したと言っていたが、あれも実は連続運転ではなかったのだろうか?
 
「脳を全部眠らせたら事故るけど、運転は脳の5%程度でできるんだよ。だから脳のあちこちを順番に使って計画的に部分的に眠らせ、部分的に運転させれば問題無い。念のため私は最低20%程度は起こしておく」
と千里は解説する。
 
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「それ普通の人には無理」
「まあ私は普通じゃ無いから」
「やはりスーパーウーマン?」
「ううん。変態」
 
上島先生が吹き出していた。
 
「私も随分変態だと言われたなあ」
と私は言った。
 
「いきなり与えられた譜面を黙読で読んだだけで演奏できる人は天才なんだって。でも譜読みもせずにそのままマジ初見で弾いちゃう人は変態だと言われた」
と千里。
 
「ああ、それ私も同じ事いわれた」
と私は言った。
 
「それ何となく分かる。ケイ君も醍醐君も、そういう意味の変態なんだ!」
と上島先生が感心するように言った。
 

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■夏の日の想い出・東へ西へ(7)

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