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■夏の日の想い出・東へ西へ(10)
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目次 8
時間索引 #
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私と政子は11月7日・金曜日の昼過ぎに旅行用の荷物とパスポートを持ってマンションを出、成田に向かった。
なお、写真家の桜井理佳さん、映像作家の美原友紀さんは、いづれもロケハンも兼ねて先行してハワイに行き、撮影のシチュエーションを練っているという話であった。
それで私たちが空港の指定された集合場所に行ってみると、龍虎とコスモスが来ている。
「コスモスちゃんも一緒?」
「田所さんが一緒に行く予定だったのが、彼女が腹痛でダウンしたんですよ。沢村さんにあんた代わりに付いていってと言ったら、あの子、パスポート持ってないと言って」
「あらら」
「それでパスポート持っている人で誰かアクアの付き添いができそうな人?というので慌てて探して、場合によっては∞∞プロにお願いしようかという話もあったようですが、アクアのことを分かっている人でないと絶対問題が生じると社長が言って、私が付き添うことになりましたが。。。ケイさんは?」
「町添部長から今回の写真撮影とビデオ撮影のプロデュースを頼むと言われた」
「わっ。プロデューサーさんでしたか。でもなぜ町添部長から話が来るんですか?」
「私も何がどうなっているのやら?」
「でもコスモスちゃんはパスポート持ってたんだ?」
「2年前に私もハワイで写真集撮ったから、その時に作ったんですよ」
「なるほどー。でも龍ちゃんはパスポート持ってたの?」
「今回超特急で作りました」
「よく間に合ったね!」
「海外での撮影になったので、先週の週末の予定が今週になったらしいです」
「そうだったのか」
やがて★★レコードの富永純子さんが来る。AYAの他20-30組の女性アイドル、女性シンガーソングライターなどを担当している人である。
「みなさんお疲れ様です。こちら航空券です」
と言って、龍虎、コスモス、そして私と政子に航空券を配る。
「名前・年齢・性別が間違ってないか確認してください」
と富永さんが言う。
「すみません」
と龍虎が言う。
「何か違ってた?」
「性別がFになっているんですが」
「ん?Fは女性だから間違い無いよ」
「私、男ですけど」
「何!?」
それで龍虎はパスポートを見せる。確かに Ryuko Nagano sex:M と書かれている。
「あんた男なの〜?」
「そうですけど」
「取り敢えず修正しよう。来て」
と言って、富永さんは龍虎を連れて急いで航空会社のカウンターに走って行った。
「ね。衣装とか大丈夫だよね?ちゃんと男物の衣装を用意してるよね?」
と私はコスモスに訊いた。
「私もそれ不安だ」
とコスモスも言った。
そして案の定であった。
「私、女の子アイドルとばかり思っちゃって。可愛い女の子の服ばかり調達して現地に送っちゃったよ」
とチケットを変更してきた富永さんは言う。
「ぜひ可愛い女の子の服を着せて撮影をしましょう」
と政子がニコニコ顔で言う。
「勘弁してください」
と龍虎。
「さすがに男の子にビキニの水着とかは着せられないな。何とか対応してもらう」
と言って富永さんは現地のスタッフに電話して、何でもいいしお金はいくら掛かってもいいから、男性用の格好いい衣装を大量に調達してくれと依頼していた。
「サイズ、えっとアクアちゃん、サイズはSだよね?」
と富永さんが確認する。
「この子は女性用の5号でフィットします。3号でも行ける場合がありますが、直接試着せずに選ぶなら5号が安全だと思います。男物の服はサイズが合いません」
とコスモスが言う。
「何て不便なサイズなんだ。日本の5号というと、えっと・・・アメリカでは2号か」
と富永さんはスマホに換算表を表示させて言っている。
「念のためスリーサイズは?」
「B70-W55-H82」
「ブラジャーのサイズは?」
「B65でいいと思いますが、この子、ブラはつけません」
「あっそうか!男の子はブラジャー使わないか。取り敢えず女性用のコスプレ衣装という線で調達させよう。場合によっては現地でニードルワークかな」
と言って電話で依頼を出していた。
「まあでもアイドルにはそもそも普通の人よりサイズが小さい人多いもんね」
と富永さん。
「そうなんですよねー」
「しかし私どこで勘違いしたんだろう?町添部長から、100年に1度の美少女って聞いた気がしたんだけど」
「100年に1度の美少年では?」
と私は言ったが、もしかして町添さんもアクアを女の子と思い込んでいるのでは、とものすごーく不安になった。
「たぶん美少年と言われたんだろうなぁ」
と富永さん。
「100年に1度の美少女に改造してしまいましょう。ちょっと病院に連れて行って」
と政子。
「時間があればそれでもいいけど」
と富永さんは言っている。
「少女への改造は勘弁してください」
と龍虎。
「でもパスポートがMになっているのを見なければ、あんた女の子としか思えない」
「すみませーん」
飛行機は成田を18:55に発ち、ホノルル空港に“同日”6:30に到着した。私たちは翌日の撮影がかなりハードになることが想像できるので、ぐっすりと熟睡しておいた。海外は初めてという龍虎については少し心配していたのだが、ぐっすりと寝ることができたようだ。
寝られる時にちゃんと寝ることができるか、というのはアイドルとしてやっていけるかどうかの運命を分ける。アイドルというのは超ブラックなお仕事で、物凄く体力を使う。それに耐えられないと壊れてしまう人もある。どうも明智ヒバリはそれで休業に追い込まれてしまったっぽいが、政子もハードスケジュールに耐えられなくて一度壊れてしまった口だ。
しかし、どうもアクアは大丈夫のようである。
入国手続きをしてから桜井さん・美原さんと落ち合う予定のホテルに向かう。
ホテルのラウンジに私たち5人が入っていくと、私も会ったことがある桜井さん、直接会ったことは無いもののテレビで何度か顔を見たことのある美原さんがいて、こちらを見て立ち上がり笑顔で会釈した。各々助手と思われる女性を連れている。
「アロハ〜」
と桜井さんがにこやかに言う。
「こんにちは」
とこちらも挨拶して、お互いに自己紹介しあった。
お互いの役割も確認しあう。
「じゃ今日は桜井さんの写真撮影を中心にやって、その間に美原さんにも被写体を見てもらって明日のビデオ撮影のイメージを膨らませてもらう。そして明日はビデオ撮影だけど、その間にいい雰囲気の所があったらすかさずスティル写真も撮るという線で」
と富永さんがまとめる。
「そうですね。2日しか時間が無いから、それで行きましょう」
ということで、一行はホテルで朝食を取った後、最初の撮影予定地のビーチに向かった。
ここで調達した衣服を持ってきた現地スタッフのナカムラさんと落ち合う。
「こんにちは〜。どんな感じの服を持って来ました?」
と言って桜井さんが車に積んである服を見る。
しかし顔をしかめる。
「なぜこんなに男っぽい服ばかりなの? もっと可愛い服は無かった?」
と桜井さんが言う。
あぁぁぁ、やはりと私は思った。
「すみません、この子、男の子なので」
と富永さん。
「何ですと〜!?」
と桜井さん・美原さんが同時に声をあげた。
龍虎は困ったような顔、コスモスは例によってポーカーフェイスだが、政子は笑いをこらえきれない様子だ。
「美少女アイドルの写真集を作ると聞いたんだけど?」
「いえ、美少年アイドルです」
「私も100年に1度の美少女と町添さんから聞いた気がする」
と美原さん。
「済みません。町添は何か勘違いしていたみたいで」
と富永さんが謝る。
「ちょっと待ってよ。私、女の子の写真撮るつもりでイメージワークしてたのに」
「済みません。性別を変更してください」
「面倒だから、本人の性別を変更してよ」
「今病院に連れて行って手術してたら、撮影が間に合わないので」
「仕方ないな。じゃ30分待って。考え直す」
「はい」
それで撮影はいきなり30分休憩である。桜井さんも美原さんも椅子に座って目を瞑り、必死に考えているふうだ。
結局、アクアはアロハシャツとホワイト・スラックスというハワイでの男性の正装を着せられる。もっとも・・・
「このアロハシャツ、レディスじゃん」
「すみません。この子、身体が女の子体型で、レディスでないと合わないんです」
とコスモスが説明する。
「女の子になりたい男の子?」
「あまりに可愛いんで、女の子になっちゃいなよと唆す人は多いですが、本人は女の子にはなりたくないということで」
「ふーん。まあいいか。あ、このスラックスもレディスだ」
「それでないとサイズが合わないので」
それで着せてみる。
「このスラックス、身体にピッタリしているのに、お股がまるで女の子みたいなラインだ」
「その点はあまり気にしないことにしましょう」
結局、ホワイトスラックスの上に着るアロハを数種類交換して撮影していた。更にビーチということで、旅客船クルーの制服のような衣装、リゾートウェアっぽい服、更に海兵隊のブルードレス風の詰襟衣装、海軍水兵風のセーラー服まで着せる。実はこのあたりはハワイのテレビ局で女の子アイドルに着せたことのある衣装らしい。今回はテレビ局からこの手の女の子の男装用衣装を随分と借りたようである。
「セーラー服なら、下はスカートにしたいな」
と桜井さんが言うと
「スカート姿の公開は勘弁してください」
と本人も言うし
「女装写真は困るので」
と富永さんも言うので、諦める。
「じゃ、次、水着になる?」
と桜井さんは言ったが
「この子、しょっちゅうブラジャー着けさせられているので、実はブラ跡が付いてるんです。それとイメージ戦略上、上半身の裸は見せないほうがいいだろう紅川が言っておりまして」
とコスモスはまた説明する。
「うーん。。。だったら女の子水着つけさせる?」
「それは例によって公開できないので」
「公開しなきゃいいんでしょ?なんかこの場所でこの被写体の水着写真を撮らなかったら私、後悔しそうでさ。女の子水着ある?」
「実はあります」
と富永さん。
「じゃ着けてみよう」
と桜井さん。
「え〜〜!?」
と龍虎は言ったものの、車の中で着替えてくる。
「可愛いじゃん」
「あんた、やはり女の子なのでは?」
「男です〜」
「女の子水着がこんなに可愛い男の子なんてあり得ない」
「そんなこと言われても」
「だいたい、男の子が女の子水着を着たら、お股に膨らみができるはずなのになぜできない?ちんちんもう取っちゃった?」
「付いてますけど、僕のは凄く小さいんです」
「ふーん。まあいいや。深くは追及すまい。実はついてないかもというのは内緒にしてあげるよ。でもあんた胸は無いね」
「男なんで、胸は無いですー」
「バストパッド入れる?」
「それだと女装になります!」
「女装したいんでしょ?」
「したくないですよー」
結局、バストパッドは勘弁してもらったものの、龍虎は数種類の水着(ワンピースタイプやタンキニ)を着せられて、たくさん写真を撮られていた。一応コスモスと富永さんが、この写真は公開しないということで、桜井さんに念を押していた。
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