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■夏の日の想い出・東へ西へ(15)

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「お姉さんはもう刑期は終わられたんですか?」
とゆみは訊く。
 
「刑期は未決勾留期間を差し引いて2012年11月までだったのですがも2011年3月に刑期の3分の2が過ぎたところで仮釈放されたんです。でもその直後に東日本大震災が起きたので、姉はその復旧ボランティアに行ったんですよ」
 
「わあ」
 
「最初の頃、崩れた家とかの片付けなどの作業ばかりしていたそうです。それで大量の遺体を見て、その人たちの菩提を弔いたいと言って、姉は頭を丸めて得度したんですよ」
 
「凄い・・・」
 
「愛知県の女性専用の修行寺で修行して、住職の資格も取ったんです。でもその後、本山の偉い坊さんに菩提を弔うのもいいけど、若い人にしかできないこともあると言われて、いったん尼さんは辞めて、この春、北海道で造林会社に就職したんですよ」
 
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「おぉ」
 
「自分がたくさん建物燃やしてしまったから、その罪滅ぼしにたくさん木を植えたいと言って」
 
「偉いと思う」
 
「私に損害額の補償してくれたのの借金返せなくてごめん、とか言ってましたけど、それは私は気にしてないです。それより姉がそういうことで社会に貢献してくれていることが嬉しいです。人はそれぞれ自分ができることでこの世のために働けばいいんですよ」
 
「自分ができることで・・・・か」
 
「だって自分ができないことはできないじゃないですか?」
「ですよね!」
 
「自分にはできないとか言って諦めるなとか言う人あるけど、できないことはできないですよ。そういう精神論みたいなの、私はあまり好きじゃ無い」
と陽子は言う。
 
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「ああ、蔵田孝治さんとかもそういう意見だった」
とゆみ。
 
ゆみは蔵田と同じ事務所なのだが、蔵田のライバルの上島雷太からずっと曲をもらっているという微妙な立場である。ただ同じ事務所なので、色々話す機会も多かった。
 
「蔵田先生は自分のできることを物凄く深く掘り下げていく人ですね」
と陽子も言う。
 
「あ、そうか。チェリーツインって、結構蔵田さんからも曲を頂いてますね」
「デビュー曲を頂いたんですよ。それで大きく注目されたんですよねー」
「そうだったのか」
 

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マウンテンフット牧場では山本オーナーが
 
「おお、また芸能人さんがいらっしゃった」
と言って、焼肉で歓待してくれた。
 
「この牛肉、美味しい!
「うちは肉牛は育ててないんだけど、これは近くの別の牧場の牛なんですよ。北見牛ですよ」
「へー」
 
「でも色々芸能人さん、いらっしゃるんですか?」
 
「蔵田さん夫妻、しまうららさんは常連になっちゃいました。醍醐春海さんもこれまで結構な回数来てますね」
と桃川さんが言う。
 
「わぁ、醍醐先生が」
 
それで、ゆみは実は今回の北海道旅行は醍醐先生に勧められてきたことを言う。
 
「だったら、最初から縁があったんですね」
「でもそれなら醍醐先生もお人が悪い。最初からここに寄って下さるよう、おっしゃれば良かったのに」
 
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と山本さんは言うが、ゆみは多分醍醐先生は自然と自分がチェリーツインのメンバーと遭遇してここに誘われることを予想していたのだろうと思った。あの先生の言葉は、しばしば予定調和を引き起こすことをゆみは思い起こしていた。
 

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食事の席に小学5−6年生くらいの女の子がいる。
 
「この子はどなたかのお子さん?」
とゆみが訊くと
「ああ、私の娘です」
と桃川さんが言う。
 
「ああ、桃川さん、結婚なさってたんですか?」
「いやあ、結婚はしてないんですけどね」
「じゃシングルマザー?」
 
「限り無く結婚に近いと思うけどな」
と紅さやかさんが言う。
 
「実は彼氏の子供なんだよね」
「うん、まあ、戸籍上は私とは親子関係が無いんですよ」
「でも遺伝子上は親子だし」
「戸籍上は叔母と姪だよね」
「ひょっとしたら叔父と甥ではという説もある」
「へ?」
桃川さんは苦笑している。
 
「なぜそうなるんです?」
「話せば長くなるんですが」
「聞きたい」
「じゃ、あとで子供が寝てから」
「はい」
 
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「しかしせっかく遠路はるばるお越し頂いたことだし、チェリーツインの演奏をお聞かせしては?」
とオーナーの妹、英代さんが言う。
 
「よし、それでは失礼して」
と言ってチェリーツインのメンバーが立ち上がる。楽器を持ち込んできてセットする。普段楽器は別棟のほぼチェリーツイン専用になっているE棟という所に置いてあるらしく、そこは防音設備も入れて、いつでも練習できるようになっているらしい。桃川親子・少女X・少女Yもそちらで寝泊まりしているという話であった。
 
「紅姉妹は?」
とゆみが訊くと
「一応E棟は原則女性のみということで」
「ラウンジや楽器練習室は構わないけどね」
 
「そもそもあのふたりは住所不定無職だし」
「ふらふらと山歩きばかりしていて、定職に就いてないんですよ」
「へー」
 
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「でもチェリーツインの活動のおかげで年収が300万円を越えている」
「住所不定無職で年収300万円って凄い!」
 
「しかし、AYAさんにまで《紅姉妹》と言われている」
「しまった。男の人だった!」
「なぜかあのふたりは姉妹と言われる」
「実は片方は性転換しているのではという疑惑はあるけど」
と事務の時枝さんが言っていたら
 
「根も葉もない噂を広げないでよぉ」
と紅さやかが向こうから声を掛けていた。
 
やがて位置に付く。最前面に気良姉妹がマイクを持って立ち、その後ろに紅姉妹がギターとベースを持って立ち、その左右斜め後方広がるようにドラムスの桃川とキーボードの男性が立って、最奥に少女X・少女Yがスタンドマイクの前に立つ。ふだんのライブでは少女X・少女Yは大道具に擬態しているのだが、今日はふつうに素顔である。
 
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ゆみはキーボードの男性を見て「あれ?」と思った。
 
「キーボードの人は新加入?」
「ああ。臨時雇いです」
「どもー。臨時雇いの紅真珠です」
とキーボードの人は言う。
 
「あ、思い出した!ラッキーブロッサムのMonkeyさんだ!」
「はい。その節はお世話になりました。解散した後は放浪生活を続けていて、この牧場には半月ほど前に辿り着いたんですよ」
 
「この牧場は色々な人が漂着するから。私もだけど」
と少女X。
「私も漂着物」
と桃川さんが言っている。
 
「ふたりとも漂着してから既に7年」
と紅ゆたか。
 

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それでゆみはチェリーツインの生演奏を聴いたが、ああ、やはり生バンドっていいなあという気持ちが強まっていくのを感じた。途中でゆみ自身も席を立ち、少女X・少女Yと並んで一緒に歌う。すると物凄く気持ち良くて、気分がどんどん昂揚していくを感じた。ゆみは過去のライブツアーを思い起こしていた。ポーラースターの人たち、自分が休んでいるから今お仕事無いよね?申し訳無いなあ、などというのも考えていた。
 
この日。ゆみは《チェリーツイン専用》のE棟のほうに泊めてもらった。朝起きると、防音のラウンジで桃川さんがグランドピアノを弾きながら、ずっと譜面の調整をしているっぽいのを見る。
 
わあ、本当に頑張っているなあとゆみは思った。
 
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1月14日はその桃川さんの運転で旭川に移動した。桃川さんは娘のしずかちゃんを連れていた。
 
「すみません!お手数お掛けして」
「いえ。私も用事があったし、ついでにこの子を妹に会わせてあげようと思って」
「妹さんは別に暮らしてるんですか?」
 
「実は三姉妹なんですよ。いちばん上が函館、2番目がこの子で美幌、3番目は旭川に住んでいるんです」
 
「なぜそんなバラバラに?」
「いや、それも話せば長いことながら」
「そういえば、その子も桃川さんの遺伝子上の子供だけど、戸籍上は姪だとか言っておられましたね」
 
その話は昨夜ライブが盛り上がりすぎて遅くなり、結局、聞きそびれてしまったのである。
 
「じゃ、そのあたりも含めて旅の途中の与太話ということで」
 
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と言って桃川さんは長い長い物語を語り始めた。
 

桃川さんの話を聞いている内に、ゆみは涙が止まらなくなった。
 
それはとてもとても悲しい話の連続であった。
 
桃川さんが運転する、ゆみのポルシェ・カイエンはR39石北峠ではなく、R333を通って行った。端野峠(端野トンネル)・ルクシ峠(新佐呂間トンネル)を越えた後、大きく蛇行してから旭峠(旭野トンネル)を越える。更にジグザグの道が続く。
 
「なんか昨日に増して凄い道って気がします」
「ところが最近は旭川に出る場合、R39石北峠ではなく、こちらの道で北見峠を越える車が多いんですよ」
「へー。なぜ?」
「行けば分かりますよ」
と桃川さんは言った。
 
そして桃川さんの長い話の中で、三姉妹がバラバラに知人に保護されたあたりまで聞いた頃、車は突然快適な道を走り始めた。
 
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「なんかこれ凄くいい道じゃないですか?」
「でしょ。ここは旭川紋別自動車道です。丸瀬布(まるせっぷ)までは結構大変だけど、その先はすごーく楽になるんです」
 
ゆみは、そういう話も多いよなと思った。最初は大変でもその内楽になるものというのはよくある。
 
「こんな道があったんだ?あれ?でもETCが鳴らなかった」
「全線無料ですから」
「それは素敵だ」
「ただ比布(ぴっぷ)ジャンクションから先は道央自動車道になるので有料になります。だからみんなその直前の比布北ICで降ります」
 
「へー。あれ?ピップって、もしかして」
「ピップ・エレキバンのCMに使われた所ですよ〜」
「なんか懐かしのCM集とかで、会長さんが樹木希林さんと一緒にピップ・エレキバン!って言っているのを見たことある」
 
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「横矢勲さんって人らしいです。私たちが生まれる前にもう亡くなったんですけどね」
「へー」
 
(桃川はさりげなく嘘をついている。ピップ会長の横矢勲が亡くなったのは1986年であるが、桃川は1978年生。女性の年齢をごまかす嘘は日常茶飯事)
 

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桃川の長い長い話が終わったのは、北見峠を抜ける北大雪トンネルを抜けた頃だった。
 
このルートは本当にトンネルが多い。丸瀬布ICに乗った後、白滝トンネル、北大雪トンネル、かみこし(上越)トンネル、なかこし(中越)トンネル、愛別トンネルと長いトンネルが続く。
 
ゆみはたくさんもらい泣きしたが言った。
 
「でも春美さん、彼と一緒に暮らさないんですか?」
「そうだなあ。私も何だかあいつとは、半ば腐れ縁みたいなものだし。今更結婚とかも考えられないし。そもそもお互いの生活があるから、同居は不可能なんですよ。私も彼も仕事辞められないから引っ越せないんですよ」
 
「確かに難しいなあ・・・・。でも婚姻届だけでも出しちゃったら?単身赴任みたいなものということで。兄妹であっても、血はつながってないんだから、婚姻可能なんでしょ?」
 
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「義理の親子は結婚できないけど、義理の兄妹は結婚できるんですよね。でも、婚姻するには、私の戸籍上の性別を女に直さないといけない」
 
「直せないんですか?」
「そのためには、私の身体をちゃんと女の形に直さないといけない」
「そんなの、ちょちょいと手術しちゃえばいいじゃないですか」
 
「そっかー。手術しちゃうか」
「女になりたくない訳じゃ無いんでしょ?」
 
「自分の意識としては最初から女なんですよ。去勢した時は高校出たらすぐに女になる手術受けたいと思っていたけど、なんかずるずると20年間中性状態で来ちゃった」
 
そんな会話をしながら、ゆみは思っていた。最初に道東から道央へは女装男子、道央から道東へは男装女子と一緒だったが、今回は中性さんと一緒だったのか。
 
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「だったらやっちゃいましょう。思い切って。お金無かったら、私貸しますよ」
「お金貸しますよ、というのは数人から言われた」
「人間関係に恵まれてますね」
「全くです」
 
「これ、醍醐先生から習ったんですけどね」
とゆみは言った。
 
「ええ。この車が比布北ICで降りる時に、時計の数字を見て、数字が奇数だったら手術しちゃう。偶数だったらもう少し待つってのどうですか?」
 
「わっ。運命を賭ける時計ですね」
「そうそう」
「よし。賭けてみようかな」
 
「ああ。でも私も色々決断しなきゃ」
とゆみは言った。
 
「ゆみちゃんも、色々悩みが多いみたい」
「私もなんか子供の頃から色々あったなあと思って」
「しゃべっちゃいません?他人には言いませんよ」
「そうだなあ。春美さんの身の上話聞かせてもらったし。私も言っちゃおう」
 
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そう言って、ゆみは小さい頃からの自分のことを話し始めた。
 

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■夏の日の想い出・東へ西へ(15)

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