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■女子中学生・冬の旅(18)

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さて、東京まで行き日本橋人形町の、どこにでもありそうな(1960年代ならどこにでもあったような)家で子牙と会った千里Vはどうったのだろうか。
 
3人が通された部屋は火鉢による暖房だった。明かりは裸電球である。この家にはテレビが無いようだったが、仙人みたいな人にはテレビは不要だろう。
 
3人は掘りゴタツ(*30) に座って話したのだが、最初にきーちゃんから
 
「足を伸ばすと火傷するから気をつけてね」
と千里は注意された。
 
千里も掘りゴタツなんて知識としては知っていたものの、実物を見たのは初めてであった。コタツの中央で炭が燃えているので、そこに触らないように気を付ける必要がある。きーちゃんは
 
「まるで1960年代の家みたい」
などと言っていた。
 
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でも火鉢の上に載せた金網で焼いたお餅を頂いたのは美味しかった。
 
「ちゃんと杵と臼で撞いたお餅ですね」
と、きーちゃんは言った(きーちゃんは室蘭でもこのタイプの餅を頂いた)。
 

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(*30) 部屋の一部の床板が取り外されていて、そこから深さ50cm程度の凹みが作られており、その底面中央で木炭や練炭・炭団(たどん)などを燃やし、その上にこたつの枠組みを置いたもの。こたつに当たる人は、膝を曲げて椅子に座るようにして座り暖を取る。
 
明治の終わり頃に、正座の苦手な来日外国人さんにより考案され、昭和に入った頃から全国の家庭に普及した。
 
こたつをどかした状態は囲炉裏(いろり)に似ているが、一般的に足が底面に着かないように囲炉裏よりかなり深いものが多い。しかし家の構造によっては、そんなに深く出来ず、30cm程度しかないものもある。足を中央の方にやると火傷するので注意が必要。特に掘りが浅くて足が余ってしまう場合、足を横座りに近い形で斜め横にしないと、まっすぐ前に伸ばすと火傷する。
 
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靴下を履いておくの推奨。
 
凹みの底で燃料を燃やすと、二酸化炭素(分子量44)は空気(平均分子量28.8)より重いので、燃焼で発生した二酸化炭素が底面に溜まり、どうしても酸素不足による不完全燃焼を起こして一酸化炭素を発生しやすい欠点がある。絶対どこかに隙間がある昔の日本家屋ならいいが、サッシ窓の住宅では換気に充分気をつける必要がある。
 
1960年代には、現在の電気コタツのヒーター部分に、ヒーターの代わりに豆炭を入れた四角い金属の箱(空気を通すため側面に多数の穴が空いている)を格納する方式の豆炭コタツが登場し、これに移行した家も多かった。
 
豆炭コタツは場所を移動できるのが最大のメリットだった。豆炭は石綿!の上に並べていたので、火傷する危険も低かった。また、熱源が上部にあるので、こちらの方が一酸化炭素中毒を起こしにくい。
 
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昔の電気コタツは発熱量が小さくあまり暖かくなかったので“東北地方では”(*31) 結構遅い時期まで掘りコタツ・豆炭コタツは使われていた。
 
(*31) 北海道ではそもそもコタツはあまり使用されない。寒すぎて身体の一部のみを暖めるコタツでは使いものにならないからである。
 
筆者は子供の頃、青森の親戚の家にお邪魔した時、掘りゴタツを体験した。美事に靴下に穴を開けた!
 

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「正直、子牙さんってとっくに亡くなっていたかと思ってたから連絡を受けた時は、びっくりしたんですけどね」
と、きーちゃんは言った。
 
「まあいつお迎えが来てもおかしくないと思う。寿命は尽きてるかも知れないけど、大喜利を生きがいに、日々暮らしているよ。“子牙”の名前自体は、孫娘の照子(てるこ)に譲った。だから自分は“先代・子牙”だよ」
 
と言って、先代子牙は2代目子牙の連絡先を紙に書いて、きーちゃんに渡した。
 
孫に譲るというのは、やはり霊的な才能が隔世遺伝するからだろう。沖縄の“ノロ”(*32)も孫娘が継ぐケースが多かったという。
 
「お孫さんっておいくつですか?」
「今は80歳くらいかな」
「だったら、先代・子牙さんは?」
 
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と千里が訊くと、彼は毛筆を取り、墨壺に付けて次のように半紙に書いた。
 
瞬嶽(長谷川光太郎)明治十九年六月三日生
虚空(楠本咲子)明治四十四年七月十七日生
虚空(久保早紀)平成六年十月五日生
羽衣(吉田那津乳)明治三十四年五月六日生
子牙(四島画太郎)明治七年七月二十八日生
子牙(五島照子)大正十一年十一月十九日生
 
「昭和生まれが居ないな」
などと言っている。
 
子牙は「これ写してもいいよ」と言ったので、きーちゃんは携帯で写真を撮った。千里はボールペンでノートに書き写した!(でも後で見ると、きーちゃんの写真は残っていなかったので千里が書いたメモを清書して共有した)
 
(*32) ノロは沖縄の伝統的信仰における正規の女性神職である。一時は政治に介入するほどの権力を持ったが現在は政治とは分離されている。現在沖縄全体に恐らく数十名のノロが居るものと思われる。
 
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民間の霊能者である“ユタ”とは全く異なる。
 

「虚空さんも代替わりしてたんですね」
と、きーちゃんは言った。
 
平成6年(1994年)生まれならまだ10歳じゃん。それでここ10年くらい虚空の噂を聞かなかったのか。恐らく名前を継がせた直後くらいに先代は亡くなったんだろうな。でも虚空の名前を継がせたということは、きっと物凄いパワーの持ち主なのだろう。
 
霊的な才能は5-6歳くらいでも極めて強烈に発揮する子たちが居る。ただしそういう子は暴走して自滅したり“転んだり”“堕ちたり”“取られたり”することも多い。しっかりした守護者・指導者が居ないとまずい。高弟に面倒を見させているのだろうか。
 
などと、きーちゃんが考えたが、子牙は否定する。
 
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「それは違う」
「はい?」
 
「虚空は単に生まれ変わっただけで同一人物だよ」
「どういう意味です?」
 
「まあ本人に聞いてみるといいね」
と子牙は楽しそうに言った。
 

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「ぼくも可愛い女の子に生まれ変わりたいな」
「ああ、いいんじゃないですか?」
「そして素敵な王子さまと結婚して幸せになる」
「最近ではそういう夢を持ってる女の子は少ないですよ」
「そうか?」
「だいたい王子さまと結婚したら凄く苦労しそうだし」
「現実は厳しいね」
 
しかし彼が書いた一覧を信用すると、子牙は明治七年(1874年)生まれということになり、現在の年齢は130歳ということになる。本当だろうか?それともこれもジョークなのだろうか。
 
この人、見た目は70歳くらいにしか見えないのに。それともここに居るのは大正生まれの孫娘の2代目(82)だったりして!?だったら本当にこの人、女だったりして??
 

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「ぼくは東京女子高等師範を出てずっと教師をしていた。最初札幌の第一中学校(現在の札幌南高等学校)(*33) で教えていたけど、大正八年(1919)に留萌高等女学校(*33) ができた時にそこの教師として赴任したんだよ」
 
「へー」
 
つまり留萌に来たことがあるというのは本当だったのか。明治天皇睦仁陛下ではなく、大正天皇嘉仁陛下の時代だけど!そして「女学校をでたあと」ではなく「女学校ができた時」に来た訳だ!でも女子高等師範と言ってるぞ??
 
(東京高等師範学校→後の東京教育大学:現在のつくば大学/東京女子高等師範学校→現在のお茶の水女子大学)
 
(*33) 戦前の中等教育は3つのコースに分かれていた。尋常小学校を出た後、普通以下の子は男女とも高等小学校(2年)に行くが、“物凄く優秀な”男子は中学校、“優秀な”女子は高等女学校(通称:女学校)に進学した。中学校・高等女学校はいづれも5年である。
 
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中学校に比べて高等女学校の試験は易しく、昭和初期頃の場合、女子で高等女学校に進学する生徒は、男子で中学校に進学する生徒の倍程度居た。これは“あべこべ物語”の所でも述べたように“兵隊や工員になる男にあまり知恵を付けさせたくない”という方針から来ている。中学校に行くのは官僚や将校、教師などを目指す社会の核になる男子たちである。
 
これに対して女子は、子供を育てる母親の教育は重要であるという方針から、しっかり教育した。特に女学校を出た女子の結婚相手はエリート男子と考えられるから、次世代のエリート育成のためにも女子の教養は大事と考えられた。
 
しばしば古い時代を描いた小説や漫画で、当時の女学校を現代の女子高校程度の雰囲気で書かれた作品は多いが、女学校に通っている生徒は、親に経済力もあり、かなり頭のいいエリート女子である。多分現代なら国立大学に通う女子たちのレベル。
 
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きーちゃんは千里に説明した。
 
「子牙さんが先日、物凄いポテンシャルを持つ巫女に偶然出会って、その子が北海道の留萌に住んでいるということだったが、その子と連絡を取る方法が無いだろうかと私にお手紙で相談されたんだよ」
 
「それで手紙に書かれていたその子の特徴が、千里を思わせたから、写真を送って、もしかしてこの子ですか?を聞いたら、確かにこの子だと言って。ぜひ頼みたいことがあるということだったから連れてきた」
 
「それはどんなことでしょう」
という千里の問いに対して、きーちゃんが言った。
 
「あまり楽しくない作業だと思うんだよね。だから嫌なら断っていい」
 
「セックスして子供を産んでくれとかでなければ」
と千里。
 
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「どうせぼくのチンポはもう立たないからセックスは不可能だけど、君のクリトリスに触らせて欲しいんだけど」
と子牙は言った。
 
「え〜〜〜!?」
 

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子牙は説明した。
 
「僕は少女時代から色々な術を覚えてきた」
 
あくまで少女時代を主張するのか!
 
「長い間生きてたからたくさんの術を覚えた。でも僕が消えてしまえば、それらの術も消えてしまう。誰かに伝えたいけど、ぼくは世界最高の霊能者だったから、これらの術を習得できる人は少ないし、また習得に時間が掛かる」
 
「お孫さんは学べないんですか?」
「あれがこの術全てを学ぶにはまだ200年掛かると思う」
「それは大儀ですね」
「それで、僕が習得した、あるいは編み出した術を君の身体にデッドコピーさせてもらえないだろうかと思った」
 
千里は一瞬身体全体に入れ墨を施された自分を想像した。
 
耳無し芳一!?
 
「でもそんな身体に書き込まれたら温泉とかに入れなくなるしー。紙に書くとかでは駄目なんですか?」
 
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それで子牙は千里の勘違いに気がつく。
 
「いや、君の身体の表面に文字や絵で書き込むんじゃないんだよ。君の魂にイメージそのままを書き込ませて欲しい」
 

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「それどうやるんですか?」
「ぼくが伝えたい術は全部で3000個近くある。これを両手の指と足の指の組合せをキーにして書き込んでいく。たとえば**の術なら、右手親指・左手人差指・右足中指みたいな感じにする」
 
「右手5パターン×左手5パターン×足の指10パターンで合計250パターン?」
と、きーちゃんは訊いたが、子牙は説明した。
 
「まず右手と左手の組み合わせのみで起動する術。これが最も重要な術になる。これが各指と掌との組み合わせで、6×6-1=35。掌−掌を除く」
 
「それから手の指1つと足の指の1つで起動する術。これがたまに使うかなという術で、10×10=100」
 
「それから天徳君が言った、左右の手と足の指の組み合わせが5×5×10×10=2500通り」
 
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「すみません。最後の×10(掛けるじゅう)が分かりません」
「これは1つのキーにぶら下げて10個ずつ書いていく」
「え〜!?」
「個別に起動したい時はその中の何番目と念じる。いわば心の指を使う」
「よく分からない」
 
「更に片方の手の親指と他の指で足の指をはさんで起動するものが4×2×10=80通り」
 
「合計して2715通り記録できる。約3000個の内、2代目に既に伝えたものが500個くらいあるから、それを外せば何とか足りるはず」
 
「なるほどー」
 

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「でも凄い沢山学ばれたんですね」
と千里は特に深い意味も無く言った。
 
「50の術を使うには500の術を覚えないといけないからね」
と子牙。
 
「そういうものですか?」
と千里は驚く。
 
「普通の知識などでもそうだけど、例えば君が将来何かの職業についてお仕事していく時、その仕事の中で様々な状況で23個の技術を使うことになったとするね。それなら、23個の技術だけを学校では学んでおけばいいだろうか?」
 
「どの23個を使うことになるかは分かりませんよね」
と、きーちゃんが言う。
 
「そうなんだよ。先のことは分からないから、自分が実際に使うことになるものだけを学ぶというのは不可能。だから100のものを覚えておいて初めて10のものを使うことができる。お医者さんとかも実際に患者を診察する時に見る病気の数は一生の間に200種類くらいも知れないけど、知識としては2000種類くらいの病気のことを知っていないと200個の病気を診断できない」
 
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「確かに風邪という病気しか知らない医者は熱が出てたら全部風邪と診断するかも」
 
「だから実際に使う技術より遙かに多くの技術を覚えておく必要がある」
「なるほど」
 
「試験の勉強だって、試験に出る問題だけを勉強できたらいいけど何が出るか分からないから、実際に試験に出る問題の数より遙かに多くの問題を練習する」
「何が出るか分かってたら、もはや不正行為ですね」
「人生はカンニングできないからね」
 
「こういうのを“必要な無駄”というんだよ。難しい言葉でいえば冗長性、リダンダンシーだな」
 
リダン男子?女の子ならリダン女子?などと千里は考えていた。
 

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「私どの指の組み合わせで何を起動するか覚えきれません」
と千里は言ったが、子牙は言った。
 
「君が使うわけではなく、君には伝えて欲しいだけだから問題無い。ある程度のレベルの者になら、どこに何が記録されているか分かるはず」
 
「そして各々の術を習得できる前提条件が揃っている者が君の所に来たら、君はその人に術を授けて欲しい」
 
「私が死んだら?」
「君の娘か孫娘で霊的な才能のある子が生まれた時に、その子にコピーして欲しい」
 
「娘さんでないといけないんですか?」
と、きーちゃんが訊くと
 
「男にはクリトリスが無いからコピーできない」
と子牙は答えた。
 
「性転換手術でクリトリスを作ったら?」
「性転換手術で作る人工クリトリスは亀頭部分だけで本体が欠落しているからこの作業の役には立たない」
「なるほど」
「身体の髄に響かせる必要があるからね」
「性感が開発されたりして」
「ああ、クリトリスが開発されて副作用として感じやすくなるかもね」
「まあ良いお嫁さんになれるかも」
 
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千里はよくは分からなかったもののドキドキした。
 
「性転換手術ではペニスは切除せずに、体内に埋め込んで亀頭だけ表面に出せば本物の女体に近くなる」
「侵襲が大きくなるのが問題ですね。ヴァギナ造るだけでも痛いのに」
 
このあたりの話はさっぱり分からなかった!
 

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女子中学生・冬の旅(18)

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