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玲羅は4月から中学生になるので制服を用意する必要がある。ただ購入資金をどうするかというのが津気子の悩みだった。誰か譲ってくれそうな人は居ないかなあ、などとも言っていたのだが、千里(千里Y)が
「お金は私が出すから、新品で買ってあげなよ」
と津気子に言って代金分のお金が入った封筒を渡した。それで津気子は1月3日、玲羅を車に乗せてジャスコに連れていき、制服の採寸をしてもらいオーダーを入れた。なお千里Yは神社に出ている。
夕方、千里が神社から戻ってきてから津気子は言った。
「注文入れてきたよ。ありがとう。でもそういえばあんたのセーラー服って結局どうしたんだったっけ?」
「私もよく分からなーい」
と千里は答えた。
千里が着ているセーラー服にはネームが入っているので、オーダーしたものであることは確実である。でも他の人からもらったものもあった。
実を言うと、こうなっていた↓
青沼静子からもらったセーラー服→沙苗に譲った
神崎さんからもらったセーラー服→小春が使用
千里が着ているセーラー服は、千里が進学前の2003年2月2日に採寸だけして注文は保留してもらっていた所を、小春が勝手に注文を入れ制作されたものである。A大神が千里をデュプリケイトした時に、巻き添え?でセーラー服もデュプリケイトされて2着になった。A大神は、ミミ子に命じて「洗い替え用」にとこの制服を注文させ3着にした。更に3回デュプリケイトして、千里全員分のセーラー服を作った。
だからこの系統のセーラー服が実は6着存在して、千里RBYWGVの6人が着ている。(但しWとBは現在ほぼ休眠中)
A大神が残り3枚を買わずにデュプリケイトしたのは、1人の生徒が5着も注文したら転売目的では?などと不審がられるからである。
2005年1月4日(火).
千里の父の船は今年最初の漁に出た。少しでも漁獲を増やすため、例年より早い仕事始めとなった。母は朝3時に起きて父に御飯を食べさせ、港まで送っていく。他の奧さんたちと一緒に手を振って出港を見送った。しかし結果的にはこれが最後の“新年の出港”になったのである。
母の会社もこの日から始まった。直行すると長時間待つことになるので出港を見送ると、いったん帰宅して仮眠した。8時に千里に起こされ、会社に出掛ける。朝御飯とお弁当を千里が作ってくれていた。
「ありがとう。助かる」
と言って朝御飯を食べる、玲羅はまだ寝ているようだ。
千里は津気子に言った。
「玲羅の制服さ、私がお金出してあげるから新品で作ってあげなよ」
千里は津気子に封筒を渡す。津気子は一瞬またもらおうかと思ったがさすがに3万円を二重取りはできないと思い、言った、
「あんた一昨日にもそう言ってお金をくれたから、それで昨日、採寸してオーダーしてきたよ」
「あれ〜!?」
2日にそう言ってお金を渡したのは千里Yで、ここにいる千里は千里Rである!
1月4日から、山の中にある“早川ラボ”(早川家の旧別荘)での剣道の練習を再開した。12月31日からお休みにしていたが、眷属たちはしっかり除雪していてくれたのですぐ使える。
朝海岸に集合してジョギングする。そして保護者の車でラボに移動し、そこで夕方まで、みっちり鍛える。練習の参加者は下記である。
S中関係:千里、沙苗、公世、如月
R中関係:木里清香、田詩歌
指導者:道田大海、弓枝(公世の姉)
だいたい、千里−清香、沙苗−公世、如月−詩歌、大海−弓枝、というペアで練習する。たまに組み合わせをシャッフルするが、実力差がある場合は、上位者が下位者に胸を貸す感じになる。でも、弓枝(三段)と大海(四段)は積極的に中学生の6人と対戦して指導してあげていた。
沢田玖美子と前田柔良は、予備校の合宿に行っている。
例によって、清香はシャワーを浴びた後、裸で素振りとかしているが、公世はもう気にしないことにしていた。彼はそもそも周囲女子ばかりという中で、女性に対してほとんど不感症になっている。
「洗濯する時に男子下着があると面倒だから、あんたも女子下着を着けてよ」
などと姉から言われて、ショーツ・ブラジャー・キャミソールを渡されたものの
「取り敢えずパンツだけで勘弁して」
と言って、集中練習中はパンツだけ女子用ショーツを穿くことにした。
「せっかくブラジャーとキャミソールも5枚ずつ用意したのに」
と言われたが、取り敢えず逃げた。
しかしそれで早川ラボの物干しには夏の集中練習の時のように男物のトランクスが干されることは無かった。
「でも女子下着に慣れすぎると大会の時に女子下着を着けてリビドーでパワーアップする作戦は使えないな」
などと千里が言っていたが
「いや、そういう小手先の作戦じゃなくて本気でレベルアップしないといけないと思う」
と公世は言う。
「そうだ!来年の全国大会では大会の日に女の子に性転換してあげようか?そしたら性別検査も間違い無く女子と判断されるし」
「それ困るんだけど」
公世はまだこの時期は女子下着に“慣れすぎ”までは達していなかったので女子下着を着けているとかなりドキドキし、普段よりパワーが出る気がした(もう男子下着に戻れなかったりして)。
また早川ラボは立ってトイレを使うのが禁止(そもそも便座を上げられない)なので、座って便器を使用するが、これにはかなり慣れてきた。
公世は夏頃までは全然姉の弓枝に勝てなかったのだが、全国大会から戻ってきてから、やっと1本取ることができるようになった。しかしなかなか勝てない!10回に1度勝てる程度である。
「なぜ男子の全国5位になった人が普通の三段の女子高生に勝てない?」
と2人の対戦を見ていて詩歌が首をひねる。
「弓枝さんは実力的には既に四段レベルだとは思うけどね。でも要するに、全国大会では『こいつ女なのでは』と相手が思って無意識に手加減してしまったのだと思う。だから公世(きみよ)ちゃんは今年が正念場」
と沙苗が解説した。
「なるほどー」
「いくら女だったとしても昨年5位の相手には向こうも本気になるだろうからね」
「警戒されるでしょうね」
「剣道雑誌はたぶん優勝候補のひとりと書くだろうね。千里や清香ちゃんもそうだろうけど」
「書くでしょうね」
「あと弓枝さんは公世ちゃんの癖を知り尽くしてるから、攻撃パターンが先読みできるのもあるよ」
「あぁ」
合宿中に、九重がヒグマを1頭捕獲したので、
「新鮮な内にいただこう」
などと言って、獲れたての熊肉を味わったが、
「ここはワイルドだ」
と詩歌が驚いていた。
「でも私たちが卒業した後は、町中に移転させたほうがいいな」
「ひとつ間違えば、こちらが熊さんの御飯になりかねないからね〜」
千里は、自分の卒業後にここを監視してくれる子が必要だなと考えていた。ヒグマを簡単に倒せるパワーのある子をできたら2〜3人、スカウトしないと。人間でも精霊でもいいけど。
(人間でヒグマを倒せるのは、千里とか天津子とか歓喜・紫微のレベル以上なので、めったに居ないと思う)
1月4日(火).
きーちゃんは旭川法務局留萌支局を訪れ、早川平太の委任状を添えて、早川ラボの土地を天野産業名義に登記変更した。
千里の個人名義にしてもいいのだが、それをするには千里が未成年であるため、保護者同意書を取ったりして手続きが面倒になる。それで、仮に天野産業名義にしておくのである。天野産業の帳簿には、この土地代に相当する額の借入金を計上している。
2005年1月5日(水).
千里Yは三箇日も終わったので、また三重県の河洛邑に行き、光辞の朗読をすることにした。光辞も千里がどんどん朗読したことから、残りはあと少しになってきている。このまま行けば、今年の夏くらいには全て朗読が終わるかなと、千里は思っていた。
留萌13:30- 14:28深川14:40(ライラック9号) 15:00旭川/旭川駅前15:15- 15:50旭川空港/旭川16:25(ANA326便) 18:20名古屋(*4)
名古屋空港にはいつものように真理さんが車で迎えに来てくれていて、彼女の車で、千里は河洛邑に入った。
(*4) 名古屋空港は2005年2月16日まで基幹空港として使用された。2月17日に中部国際空港が開港して主要路線はそちらに移動した。千里が三重に行くのに名古屋空港を使ったのはこれが最後である。
筆者はこの年、2度名古屋出張があり、1度目は名古屋空港を使い、2度目はセントレアを使用した。名古屋中心部まで電車で入れるのがいいなあと思った反面、空港のレストランの相場が高くなり、しかも地元の店が少なくなっていた(最近は知らないが)のが残念だった。
千里Yが三重に行っている間、留萌は事実上千里Rだけの状態になる。
母は例によって千里が
「三重に行ってくるね。17日くらいに戻る」
と言って出掛けた様子だったのが、毎日千里を見るので
「まあいつものことか」
と思った。
もっとも千里Rは毎日練習でくたくたになり、買物したり夕御飯まで作る余力が無い。
それで買物して村山家の夕飯を作るのは、ほぼコリンの仕事になっていた。
「小春はYちゃんに付いて三重に行ってるし。ひとりで大変だよお」
とコリンは弱音を吐いていた。
コリンは村山家に長時間滞在すると身代わりがバレそうなので、夕食を作るとたいてい小春の家に戻ってそちらで寝るようにしていた。母と玲羅は最近夜は千里が居ないなぁとは思うものの、気にしないことにした。朝はちゃんと起きてきて朝御飯とお弁当を作ってくれるし!
でも千里が中学を出て旭川か札幌に出たら、村山家の食卓はどうなるんだろう?とコリンは余計な心配もしていた。
三重に来た千里(千里Y)は、ふとあることに気付いて、真理さんに尋ねた。
「お母さん(藤子さん)はどこかご旅行か何かですか?」
すると真理さんは困ったような顔をして言った。
「母は実は10月から大阪に引っ越して、そちらに住んでいるんですよ」
あぁ・・・・また1人減ったのか、と千里は思った。
その内、全員居なくなったりして!?
And Then There Were None.