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■女子中学生・冬の旅(8)

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千里Yは河洛邑で今回、残る光辞の約半分を解読した。残りはもしかしたら毎週少しずつ送ってもらっている分で6月くらいに完了するかも知れないし、夏休みに来て総仕上げをすることになるかも知れないという所だった。
 
それで帰ることにする。
 
昨年の冬は大阪からトワイライト・エクスプレスに乗った。昨夏は上野からカシオペアに乗った。それで頂点2つの豪華列車を体験したのたが今回は
 
「カシオペアよりランクダウンして申し訳無いが、同じ列車に2度乗るのも芸が無いから」
と言われ、北斗星(上野→札幌)を使うことになった。前回は上野駅まで真理さんに付き添ってもらったのだが、なんか色々大変そうでもあるので
 
「上野駅まではひとりで行けますよ」
と言って、名古屋駅まで送ってもらった。
 
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これが1月15日(土)の午前中であった。
 
紀美・貞美の姉妹も名古屋まで一緒に行く。彼女たちはもう学校が始まっているのだが、土曜日なので付き合い、名古屋で少しショッピングを楽しもうということのようである。
 
名古屋駅まで行く途中、紀美が漏らすように言った。
 
「私も三重を出ようかな」
 
「大阪あたりの高校に進学する?」
と千里は訊いた。大阪には彼女たちの祖母・藤子が住んでいるから、そこに身を寄せる手があるだろう。しかしそれより彼女がこういうことを漏らすのは、あそこに居づらくなりつつあるのだろう。
 
「ちょっと行きたいなあと思ってる場所があるのよね」
「へー」
 
「ついでに男になろうかな」
「性転換するの!?」
「お姉ちゃんは男でもやっていける気がする」
 
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名古屋駅で、豪華な“ひつまぶし弁当”を買ってもらい新幹線のぞみのグリーン席に乗る。
 
名古屋14:47(のぞみ14)16:30 東京16;51-16:58上野
 
新幹線の中では熟睡していて、結局、ひつまぶし弁当を食べないまま東京駅で降りてしまった。
 

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発車時刻まで時間があるので、上野公園を散策した。上野大仏という案内表示を見て「そんなのあったんだ?」と思い行ってみたら顔だけだったので「それで有名じゃないのか」と思った。動物園まで見る時間は無いので、駅方面に戻る。
 
駅の近くまで来た時、信号の無い横断歩道で、作務衣姿で、80歳くらいのおじいさんが道を渡れずに困っているようだった。千里はそのおじいさんのそばに寄ると
 
「私が渡らせてあげます」
と言って、おじいさんの手を握る。握った瞬間、おじいさんが驚くような顔をした。なんだろう?と思う。
 
千里は向こうから来る車の運転手を見詰めて手をあげる。車が停まってくれる。反対方向から来る車の運転手も見詰めて手を上げる。それでそちらも停まってくれたので、おじいさんの手を引き、横断歩道を渡った。
 
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千里は停まってくれた運転手ふたりに会釈をした。
 

おじいさんが言う。
「ありがとうございます。せめてお名前を。私は四島画太郎(しじま・がたろう)と申します」
「村山千里と申します」
「どちらにお住まいの方ですか?私は水天宮の近くなのですが」
「北海道の留萌という小さな町なんですけどね」
「ああ。留萌には女学校を出てすぐの頃に一度行ったよ。まだ睦仁様が帝をなさっていた頃だったかな」
 
お茶目なおじいさんだなと思った。
 
睦仁というのは明治天皇のことである。女学校は5年だから、女学校を出たばかりなら17歳?明治45年(1912)3月(*11)に女学校を出てすぐ留萌に行ったのなら現在は109歳ということになる。しかしこのおじいさんは100歳越えには見えない。
 
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だいたい女学校って言ってるけど、この人、男に見えるし。それとも性転換した??あるいは女性だけど外見が男っぽく見えるだけ?声も男の声に聞こえるけど??
 
あるいはボケ始めているのだろうか。ジョークなのかどうか判別がつかない気がした。
 
「お気を付けて」
と彼?彼女?に言って別れる。その後、コンビニでお茶を買い、通りがかりのパン屋さんでパンを5個買う。上野駅の改札を通って中に入った。
 
(*11) 明治45年は7月30日まで。
 

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18:45くらいに北斗星3号(*12) は入線したので、乗り込む。部屋は9号車のA個室寝台“ロイヤル”である。上野−札幌間の運賃 16080円に加えて、ロイヤルの特急料金 20070円が加わる。やはり高級ホテルに1泊する感覚である。
 
(カップルなどで2人で利用することもできる。その場合、運賃・特急券はむろん2人分必要で、それに加えてベッドをダブルベットサイズに広げる料金9810円が必要)
 
ウェルカムドリンクにはお酒が色々用意されているようだが、未成年なのでお茶をもらう。部屋の設備は、ベッドの他に、トイレ・洗面台・テレビ・シャワー室などが装備されている。
 
「でも部屋のサイズはビジネスホテルのシングルルームだなあ」
「まあ列車内だから仕方ない。プライバシーが保たれる分だけで価値があるし、シャワールームがあるのは充分豪華」
「確かにね〜」
「B寝台個室はもっと狭いよ。ほぼベッドがあるだけ。テーブルももっと狭いし、椅子とかも付いてないし、トイレやシャワーも無い」
「なるほどー。そちらを見てからこちらを見ると豪華に見えるんだろうな」
 
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(*12) 北斗星は1988年3月13日に青函トンネルが開通したのと同時に運航開始された。初めての本州と北海道を結ぶ特急であった。最初は2+1(+1は臨時離列車扱い:後3便とも定期列車に移行)だった。更に多少設備の落ちる“エルム”も運行されていた。
 
1999年にカシオペアが創設された時に1日2便に減便され、2008年には青函トンネルの新幹線工事のため、1便減らされて1日1便になった。2005年当時は1日2便の時代で、北斗星1号・2号と、3号・4号は微妙に編成が異なる。
 

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千里は、しばらく車窓から外の景色を見ていた。既に日が落ちてから2時間ほど立っているので外は真っ暗である。
 
「お腹空いた」
 
「食堂車からルームサービスしてもらうといいね」
と小春が言うので、洋食のディナーを2人前注文する。むろんいつものように
 
「私たくさん食べるので」
と言っておく。
 
30分ほどで持って来てもらったので、小春と2人で食べる。
 
「美味しいね」
「さすが1人前8000円くらいするだけあるね」
「普通はこんな高いの食べないけどね」
「うちの家の一週間分の食材費だなあ」
「まあたまには贅沢もいいんじゃない?」
「まあね」
 

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食事が終わって、シャワールームでシャワーを浴びた後、冬休みの宿題の残りを何とか片付けた。苦手な国語や社会も頑張った。
 
今回は宿題をYがやってくれたのでGやVは助かったと思った。でもA大神から「あんたたちもやりなさい」と言われてコピーを渡されたので、結局やることになった。今回宿題を全くやってないのはRである。
 
千里Yは、宿題が終わった算数!の練習問題をする。花絵さんから渡されている問題集で三重に居る間も冬休みの宿題をするかたわら、毎日2ページずつやっていた。計算自体はかなりできるようになってきたが、まだ文章題は苦手である。
 

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この列車はこのように停まっていく。
上野1903 大宮1930 宇都宮2029 郡山2155 福島2231 仙台2331 函館641 長万部814 洞爺855 伊達紋別913 東室蘭934 登別948 苫小牧1019 南千歳1041 1115札幌
 
千里は郡山を出た所で
 
「頭が疲れたぁ」
と言って、ベッドに横になった。しばらくは小春とおしゃべりしていたが、30分もしないうちに眠ってしまった。小春は千里の毛布をちゃんと直してから、自分も千里の中で眠った。
 

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「Vちゅん、山分けしよう」
とGは言った。
 
「何それ?」
と千里Vは訊く。
 
「名古屋のひつまぶし弁当。Yちゃん食べずに放置してるから、もらっちゃおうよ。今冷凍御飯もチンしてるから」
 
「ああ、御飯を水増しするといいよね」
「ひつまぶしは三度楽しむ」
「それ聞いたことある。どうするんだっけ?」
「1杯目は、そのまま食べる。2杯目は薬味を掛けて食べる。3杯目はお茶漬けにする」
 
「そこまでうなぎがもたないというのに1票」
「そうかも」
 
実際、2人で分けて食べると、そのまま食べた時点でうなぎの残りが少ない感じだったので、2杯目をお茶漬けにした。
 
「でも美味しかった」
「やはり本場のひつまぶしはいいね〜」
 
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「ひまつぶしに、ひつまぶしを食べるとか」
「それは言い古されているダジャレだ」
 

千里Yは、翌日朝8時にモーニングコーヒーを持って来てもらったので起きた。ぐっすり眠った感じだった。朝御飯は小春と一緒に食堂車に食べに行った。洋朝食を2つ頼む。
 
パンにサラダとポテト、ハム・ソーセージ・スクランブルエッグ、ヨーグルト、フルーツ、オレンジジュース、それに紅茶(コーヒー)といった所。
 
「少し良さめのビジネスホテルの朝食だなあ」
「まあ列車内だし」
 
でも嫌いなものが無いので完食できた。やはり和定食より洋定食だなと千里は思った。
 
あれ?そういえば、私、ひつまぶし弁当はどうしたっけ??
 
記憶が無いので、いいことにした。
 
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札幌駅に11:15に到着する、千里はケンタッキーのチキンセットを食べて一息ついてから旭川に移動した。
 
札幌13:00(スーパーホワイトアロー13)14:20 旭川
 
終点までなので寝ていったが「深川、深川」というアナウンスを聞いて慌てて降りようとして、小春に止められた。
 
「小春が居なかったら、私絶対降りてた」
「いつも留萌行きに乗り換えるのに深川で降りてるからね〜」
 
終点・旭川駅で降りてからはタクシーに乗り、天子のアパートに行く。
 

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天子のアパートに入り
「おばあちゃん、あけましておめでとう。私三重県に行ってたから、これお土産」
と言って、名古屋駅で買っておいた赤福を渡す。
 
すると天子は困惑したように
「あけましてって、あんた1月2日にも来たじゃん」
と言った。
 
「あれ〜〜!?」
 

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千里(千里Y)はこの日は天子のアパートに泊まり、翌日(1/17)夕方、留萌に帰還した。
 
旭川駅前17:00(特急バス)18:49 留萌駅前
 
しかし留萌に辿り着くと千里Yは、
 
「ただいまぁ。疲れた」
と言って消えてしまった!
 
それで仕方ないので、千里の荷物は小春がタクシーで自分の家まで持ち帰る。
 

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「ただいまー」
と言って、家に入ると、源次が居るのでびっくりする。更に小さな女の子キツネまでいる。
 
「どうしたの?」
「小春さん、お帰りなさい。この子、ヒグマに襲われて大怪我した所を千里さんに助けられたんですよ。取り敢えず体力が回復するまでぼくが面倒を見てる所です」
と源次は説明した。
 
源次の言う千里というのは、多分千里Rのことだろう。
 
「へー。可愛い子だね。名前は?私は“こはる”」
「“いと”です。でも、おばあさん、実体が無いみたい」
 
“あばあさん”と呼ばれたのには少しカチンと来る。これでもまだ15の乙女だぞ。バージンだぞ。セーラー服行けるんだぞ。でも怒るのもおとなげないので笑顔で相対する。
 
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「私は実はエイリアスなんだよ。実体は別の場所にあるのよね」
「へー。すごーい」
「あんた身寄りは?」
「旭岳の生まれですけど、もう親離れしてるから、母や兄姉の行方は分かりません」
「だったら、あんた私の養女にならない?」
「おばあさん、優しそうだから養女になってもいいかな」
 
それで小春は彼女を自分の養女にし、小っちゃい“いと”だからということで“こいと(小糸)”と呼ぶことにした。
 
小糸の子孫は、小春の苗字“深草”を継ぎ、代々千里に従った。それで小町の系統(幡多)と2系統のキタキツネの眷属体制ができることになる。
 
深草小春=小糸−小絹−小綿
幡多小町−小里−小滝−小道
 
 
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女子中学生・冬の旅(8)

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