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■夏の日の想い出・Long Long Ago(25)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-03-21
青葉たちが郷愁飛行場に着陸すると、なんとコスモス本人が迎えに来てくれていたので仰天する。この超多忙な人が自分で迎えに来てくれるなんて!
それでコスモスの運転するベンツSクラスに乗り、一緒にホテル昭和のコテージ“桜” (No.7721)に入る。
20歳くらいの女性が居て、
「おはようございます、大宮先生」
と挨拶した。
姫路スピカちゃん!?と思ったが少し違う。
「竹中花絵ちゃんだったっけ?」
「済みません。南田容子です」
「ごめーん!」
「スピカと竹中花絵と南田容子は3人顔立ちが似てるからね。三つ子ユニットとして売ってもいいかもね」
などとコスモスは言っている。
「このコテージを作業終了まで自由にお使い下さい。食事、おやつ、お酒、好きな物を頼んで下さい。こちらで支払いますので。制作期間中、南田をアシスタントとして付けます。彼女はギター・ベースとキーボードが弾けます。またCubase を使えますので、入力作業などのアシスタントにお使い下さい。運転免許も持っていますので、お使い、コンビニなどでの買物などにも自由に使って下さい。お酒の相手や性的ご奉仕は勘弁して下さい」
「そんなことはしないよ!」
コテージの中には、小型のグランドピアノ Yamaha C1X, エレクトーン STAGEA, 電子ドラムスセット Yamaha DTX6K-XFS、電子キーボード Yamaha YC88、そしてパソコンが2台あって、いづれも KORG i3 (61鍵)が接続されている。また外付けSSDが5台置いてあった。コテージの居間が楽器でほぼ一杯になっている。
青葉は2台のパソコンを起動し(起動が速いので SSDマシンと分かる)、CPUとメモリーを確認した。11700K (core i7 Rocket Lake-S) 3.6GHz MM=128GB SSD=2TB.
充分なスペックである。このマシンで松本花子自体が楽々動く!
さすがにあのシステムを外に持ち出すことは許されないけどね。
「このコテージは特別仕様で防音になっていますので、夜中でも楽器の音を出して大丈夫ですので」
とコスモスは言う。
「へー」
実は夏には常滑舞音の制作をやったコテージである。あの時、若葉が防音仕様に改造してくれた。壁・屋根を二重化し、外屋根は重たいスレート屋根で、更にサウンドプルーフを貼ったので、実は内部の音も外に響かないが、豪雨の中でも雨音が内部に響かない。
「楽器や機材は、取り敢えず使うかなと思われるものを用意しました。欲しいものがあったら言ってください。すぐ準備します」
「そうですね。何か思いついたら」
これだけあれば充分な気がする。しかしこれだけの楽器を半日程度で集めるコスモスは本当に実行力がある。どうかした会社ならこれだけ揃えるのに1ヶ月かかりそうだ。
コスモスは、今回の制作が行われるに至った経緯を説明し、また楽曲の簡単な解説などもしてくれた。
「それで4つのアルバムが制作されます」
1.『ワンザナドゥ』2004年1月か2月に発売される予定だったCD
2.『インヴィア』↑制作の過程で最終作品に残らなかった楽曲をまとめたもの
3.『The Way to Xanadu(仮題)』アクア歌唱のトリビュートアルバム。音楽の理想境を求める旅路。
4.『Returned the Town(仮題)』理想境から戻って来た後の町中の風景。
「大宮先生にお願いしたいのは、実はアクアが歌う2枚のアルバム26曲のアレンジなんです」
「ああ」
「トリビュートアルバムのコンセプトは、当時のワンティスと同程度の年代のアーティストに演奏させて、当時の雰囲気を再現しようということなのですが、昔の楽曲のアレンジのまま、今の歌手に歌わせるのは、古い袋に新しい酒を盛る行為です」(*29)
(*29) マタイ伝9.16-17 だれも織りたての布から布きれを取って、古い服に継ぎを当てたりはしない。新しい布切れが服を引き裂き、破れはいっそうひどくなるからだ。新しいぶどう酒を古い革袋に入れる者はいない。そんなことをすれば、革袋は破れ、ぶどう酒は流れ出て、革袋もだめになる。新しいぶどう酒は、新しい革袋に入れるものだ。そうすれば両方とも長もちする。
「だから20歳のアクアに歌わせる曲のアレンジは今20代の人にアレンジして欲しいんですよ」
とコスモスは言う。
「いや、実際ここに来る機内でワンティスのアルバムを聴きましたが、今の時代にこの状態で売っても、今の人には受け入れられないと思いました。趣旨は分かりましたけど、大会が終わってからでもいいですか?」
「それがアクアは11月だけが空いているので、その間にできるだけ多く歌わせたいんです」
「うっ・・・」
「大宮先生にしても26曲のアレンジをまともにしていたら、それだけで多分3ヶ月かかってしまうと思います。それでどうでしょう?桜蘭有好にあらかた編曲させてその後、大宮先生に調整して頂くというのでは?」
「それなら行けるかも知れないね!」
桜蘭有好というのは、松本花子の作曲・編曲システムの中で、青葉が自分の好みで調整しているサブシステムである。青葉が羽鳥セシルに提供している曲は、この桜蘭有好が生み出している。(*30) しかし松本花子にディープに関わっているコスモスだから出て来た提案だと青葉は思った。
「アクアは11月5日からスケジュールが空きます。それまでにできたら伴奏音源を2曲程度は完成させておきたいんです。そのためには11月3日くらいまでにスコアが2曲あるといいなと思って」
「分かった。大会前はあまり時間が取れないけど、取り敢えず今月中に2曲くらいは仕上げるよ」
「ありがとうございます!」
(*30) 青葉は松本花子ラボのシステム面を管理している矢島さんと話した結果、桜蘭有好のコピーマシンを1台作り(桜蘭真知)、それをアクア専用に調整することにした。真知はアリス・リデルの妹・マチルダから取ったものである。このように必要に応じて簡単に分身を作れるのが、全てをパソコンで処理している松本花子の良い所である。
それでコスモスは取り敢えず帰っていった。
現在は10月30日の11:30頃である。
青葉はパソコンにインストールされているソフトも確認した。基本的なソフトのほか、Cubaseもインストール済みである。音源もKOMPLETE 13が入っている。なんかここだけで伴奏全部作れるんじゃない?バンド無しで!
でも正確なコンピュータ演奏ではなく、不正確でも“若い”伴奏が欲しいのだろう。
青葉はこのコテージで南田容子と一緒にお昼を食べてから、用意されているパソコンから松本花子システムに接続する。容子が入力してくれていた最初の曲『忘れられた座席(Forgotten Seat)』のmidiデータをUSBメモリから読み込む。
コスモスとしては『ザナドゥへの道』が本命と考え、『タウンソング』の方は半ばウォーミングアップを兼ねて作ってもらえばいいという考えのようで、制作はそちらから始まる。
「容子ちゃん、伴奏まで全部入力してくれたんだね」
「はい」
「この後は、メロディーとギターコードだけでいいから」
「分かりました!かなり楽になりますね」
「伴奏まで入れるの大変だったでしょう」
「はい、頑張りました」
それで青葉は、容子が入力してくれた『忘れられた座席』のmidiデータからメロディーだけを抜き出し、ギターコードを指定してから、それを松本花子システムに投入した。そしてポップロック風のアレンジを桜蘭有好(翌日からは桜蘭真知になる)に指示した。
そして郷愁プールに行き、一泳ぎしてきた。
2時間泳いで、プールから戻る。1時間仮眠した後でパソコンを見ると、もうアレンジが出来ていたので、それをCubaseに読み込み、手調整を掛けて行った。
(青葉が泳いでいる間に南田容子は2曲目の入力をしていたようである。キーボードで弾きながらギターコードを確認していたようだ)
(10/30)夕方、コスモスから連絡があり、伴奏者を決めるのにオーディションをするから見ていてくれないかというので、コテージ内に用意されている大型モニターで東京のスタジオの様子を見た。
ColdFly5のメンツが呼ばれていた。なるほど、うまい手だと思う。彼女たちは上手い!でも、ColdFly20が所属していた元の事務所に遠慮して?、放送局などがあまり使ってくれない(ColdFly20は昨年夏に解散した)。だから“上手いし名前も通っているのに時間が取れる”という、貴重なバンドなのである。しかもColdFly5は、§§ミュージックの友好プロダクション♪♪ハウス所属なので使いやすい。
ColdFly5のメンバーがひとりひとり渡された譜面を演奏していた。青葉は、若いのに上手いなあと思って見ていた。
が
ある人物のところで顔をしかめる。
青葉はコスモスに電話をした。
「ですよね」
とコスモスも同意見のようである。そしてコスモスは言った。
「リアちゃん、あんた悪いけど、何か他の仕事をお世話してあげるから、今回のプロジェクトからは外れて」
「はい、すみません」
栗原リアはショックだったようで、泣きそうな顔をしそうになったが何とか我慢した。
「では退席します。お仕事よろしくお願いします」
と言って礼をして退場した(*31).
リーダーの田倉友利恵も「仕方ないか」みたいな顔をしている。キーボードの米本愛心も首を振っている。
それでColdFly5はリア以外の4人が使用されることになった。
4人に仕事の趣旨を簡単に説明してからいったん退場させる。その後入れ替わりで入ってきたのは、Flower Sunshine の7人である。彼女たちは・・・時間が取れるだろうな。実力は分からんけど!
リーダーの桜井真理子は、キーボードが得意ということだったが、キーボードは埋まっているのでヴィブラフォンが打てないかと打診され「やります」と即答していた(即答するのが気持ちいいと思った)。実際に打ってもらったら、うまいので採用する。
安原祥子はフルート・ウィンドシンセ・ピアノ・ギターが弾けるということだったので4つとも演奏してもらったが、どれも上手かった。では君はその中のどれかで使うよと言われた。
立花紀子は「フルート得意です」と言うので吹かせたが・・・
少なくともプロの音源として使えるものではなかったので、不合格を通知した。「えーん」と泣き真似をしていた!(この辺りはリアより芸人としての耐性がある)が彼女のフルートは根本的に勉強し直した方がいい。きっとまともな指導を受けたことがない。でもちょっと面白いキャラだなと思った。
(立花紀子はフルートに憧れていて、フラワーライツを始めてからもらった報酬で自分でフルートを買い練習し始めた。でも前の事務所ではアーティスト教育のシステムも無く自己流で練習していただけである。自己流にしてはうまい部類)
他の4人はギター弾けますとかピアノ弾けますと言ったが、いづれも素人未満だったので不合格とした。彼女たちのレベルに比べたら立花紀子のフルートはまだマシだ。それで結局フラワーサンシャインは桜井と安田だけが使われることになったが、コスモスは立花紀子に訊いた。
「あんた運転免許持ってる?」
「はい」
「免許取ってからどのくらい運転した?」
「免許自体は高3の時に取ったんですけど、在学中は運転禁止されていたので、この春からですけど5000kmくらいかな」
「自分の車?」
「はい。5年ローンで買ったミライースです」
「事故とかは?」
「4月に、雨の日にうっかりエアコン切ったらいきなりフロントガラスが曇って視界喪失して壁にぶつかってヘッドライト交換しましたけど、その後は事故起こしてません」
コスモスが青葉に電話してくる。
「この子、アシスタントに使えません?容子に入力関係を手伝わせて、紀子に雑用やお使いをさせるというのは?」
「その子、面白そうだから採用」
ということで、立花紀子は2ヶ月間、熊谷で青葉のアシスタントをすることになった。他の4人は、信濃町ガールズに準じた基礎教育を施すことにした!
この日のオーディションでだいたい伴奏者は固まったのだが、コスモスは言った。
「トランペットの吹ける人がいないですね。大宮先生は誰か心当たりありませんか?」
「そうですね・・・」
と少し考えた時に、ある人物のことを思い出した。
「男でもいいですか?」
「むしろトランペットは女性奏者が少ないですよね。その人の性格によっては」
「女性から警戒されないタイプなんですよ。彼がいても女性は平気で着替えとかしちゃうし、背中のファスナーあげるの頼んだりするし」
「男の娘ですか?」
「ノーマルな男性だと思いますが、様々な事情でよく女子と間違われます」
「ああ、そういう人なら問題ありません。うちの事務所にはそういう子多いし」
コスモスは少し誤解した気がするなあと思ったが、いいことにした!
「高岡の人?」
「はい。でも金沢の銀行に勤めてるんですよ」
「銀行ですか!」
「銀行と交渉してみますよ。こういう大きな組織は、小さな会社と違って、1人や2人抜けても人の都合が付く気がします」
「じゃそれお願いします。あと、フルートとサックスでいい人いません?サックスは安原祥子でも合格点だけど、もう少しうまい人がいたらいいなと思って」
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