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■夏の日の想い出・Long Long Ago(4)
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理史は地震があった時は(アクアとは別の)ドラマ収録中だった。出演者やスタッフに怪我は無かったものの、スタジオの機器が落ちたり倒れたりして、収録作業の継続は不可能である。
それで収録は中止となった。解散となるが、帰宅はおそらく困難だろうと思った。ホテルを取ろうと思い、スマホで近くのホテルを検索しようとするが、通信回線が輻輳している感じでまともに表示できない。
参ったなあと思い、とりあえず放送局を出る。放送局には自分の車(CR-Z)で来ているのだが、車で帰ろうとしたら渋滞で酷い目に遭うのは間違い無いので放送局に置いたまま表通りに出てみた。
カプセルホテルとかでも空いてないかな、などと思っていたら、後ろから肩をトントンされる。
「龍!?」
「バイクで迎えに来た。一緒に八王子に帰ろ」
「うん」
龍虎がヘルメットを渡すのでそれをかぶる。手袋も渡されたのを着けた。
それで龍虎が持って来ていたバイクNinja250のリアシートに座り、龍虎に抱きついて乗って、渋滞している車の列を颯爽と抜け、八王子に向かった。インカムが付いているので走行しながら会話できる。
「こういう時は二輪の出番だよね〜」
「でも運転気をつけて」
「OKOK」
「そちらは仕事は終わってたの?」
「お仕事はMがしてたから」
「なるほどー」
(深夜に掛かる仕事はMが引き受けていることが多い)
「Mは歩いて帰宅中」
「あぁ、それも大変だ」
しかし八王子から走って来たにしては六本木まで来るの早すぎないか?とは思ったものの、あまり気にしないことにした!
「川口市は最大震度の5強だったみたいよ」
「うっそー?川口市付近が震源?」
「震源は千葉市みたい。でも千葉市は震度5弱」
「なんで〜?」
「きっと揺れの振幅の大きい所と小さい所ができるんだよ」
「それはあるかもねー」
それで2人は0時頃には八王子の自宅に帰ることができた。川口市のマンションは悲惨な状態になっているかもしれない気がしたが、明日になってから考えようと理史は思った。
八王子の家はきれいにしていた。
「ここは地震の被害は?」
「大したことなかったよ。多少物が落ちたり倒れたりはしたけど、りっちゃん(*2)が「片付けておくから、理史迎えに行ってあげて」と言うから任せて出た。でももう片付けは終わってるみたいね」
「ああ。竜崎さんが居たんだ?」
「まあそもそも彼女がいるから、この家は維持できてるけどね。ボクひとりじゃ買物とかもできないし」
「買物する時間無いだろうし、龍がスーパーで買物してたら、サイン求める列ができちゃうよ」
「あはは、本当にそうなりそうで恐い」
(*2) 竜崎由結:りっちゃん:は実際には龍虎自身の眷属。建前的には個人的な付き人ということにしている。
竜崎由結は、この家の“西の対”に住んでいる。西の対の1階は真ん中に廊下が通っていて、その両側に母屋の部屋と同じ仕様の部屋(各部屋バス・トイレ付き)が3つずつ、合計6個ある。竜崎由結はその部屋の内の1つをもらっている。なお西の対の地下はプールである!また由結は“龍虎の眷属”なので、Mから頼まれた仕事もするが、この八王子の家ができてMとFが別れて住むようになってからはFに付いていることが多くなった。
「こういう時は取り敢えずたくさん食べよう」
などと言って、龍虎は冷凍室から牛肉を出すと解凍する。解凍している間に野菜を切り、ホットプレートを出して焼き始めた。
「すごーい。牛肉だ」
「オージービーフの赤身だけどね」
「龍ってそういう所で贅沢しないよね」
「贅沢な暮らしは多分生活習慣病の元。霜降りとか絶対使わない」
「僕も霜降りはあまり好きじゃない。ただの脂だし」
「御飯たべる?パンにする?」
「楽なほうでいいよ」
「どちらも楽だけどね。御飯もチンするだけだし。じゃパンをトーストするね」
と言って、龍虎はバゲットをパンナイフでスライスするとオーブントースターに入れてトーストする。
「ワインかビール飲む?」
「じゃビールもらおうかな」
「OKOK」
と言って、龍虎は冷蔵庫からクロンバッハの瓶を出してきて栓を開け、同じく冷蔵庫で冷やしていたビールグラスに注ぐ。
「ボクももらっちゃおう」
と言って、龍虎は自分のグラスにも注ぎ、乾杯して一口飲む。その後は、ホットプレートで焼いているお肉をつまみながらおしゃべりした。
「ここは停電とかにはならなかったのかな」
「太陽光パネルで電気作ってるから」
「あっそうか!東電から電線で引いてるんじゃなかったんだったね」
「ガスも使ってないし、ある意味最高に災害に強い家かもね。水道だけは水道局から引いているけど、それも非常時には簡易浄水した水が使える。トイレの流す水とかは中水システムを使用しているし、凄く環境に優しい家」
雨水を溜めて浄水してプールやお風呂の水に使っているが、この水は実は飲むこともできる(飲める水でないとプールに使うのは問題がある)。またプールやお風呂の排水をトイレを流す水として使用している。
「『大工と鬼六』の収録やってたんだっけ?」
「それは9日からなんだよ。今日は『青い桜たち』をやってた。今日が最終回の収録だったんだけど、収録は中止」
「ああ。でも理史は『大工と鬼六』に入っちゃうし、他の人もそれぞれ次の予定があるのでは?」
「へたすると、最終回の放送が3月くらいになるかも」
「年末年始で忙しい時期に突入するもんね〜」
「お互い、身体をいたわっていこう」
「全く全く」
食事が住んだ後は、2人一緒に龍虎の個室に入り、取り敢えずキスしてから、シャワーを浴びる。
「一緒にシャワーする?」
「僕は向こうで浴びてくる!」
と言って理史は隣の自分の部屋のシャワーに行った。
龍虎が身体を丁寧に洗って身体を拭き、下着だけ着けてベッドに腰掛けていると、ガウンだけ着た理史が入ってきた。
「ガウンなんか着なくてもいいのに」
「いや、裸ではいかにも“したい”って感じだし」
「したいんでしょ?」
「そりゃしたいけど」
という所に龍虎がキスをする。
そのままベッドに倒れ込むが
「今日は疲れてるから1回だけでいい?」
などと理史は言っている。
「じゃ舐めてあげるよ」
「え〜〜?」
それで龍虎はフェラをしてあげた。彼はあっという間に逝ってしまった。
「えーん。こんなにすぐ逝ってしまうってもったいない」
などと言っている。
「いつでもできるのに」
と言って手で揉んであげてたら、出たばかりでさすがに大きくはならないものの気持ち良さそうである。声など出している。でも理史はすぐ眠ってしまった。
ほんとに疲れていたようだ。
ボクも疲れたけどね〜、と思いながら龍虎も彼のそばで眠った。
翌日(10/18).
理史はコーヒーの香りで目覚めた。
「おはよう。コーヒーどうぞ」
「ありがとう」
と言って起き上がり、皿ごと受け取って飲む。
「お供えしてきてから、朝御飯にするね」
「おそなえ?」
「理史はまだ見てなかったかな。見る?」
「うん」
それで理史はガウンだけ羽織ってから龍虎に付いていく。龍虎は豆御飯?の小型の丸いおにぎりが山盛りに載った大皿を持ち、部屋から出てリビングを出ると、西の対との南側渡り廊下に出る。その左手にドアがある。
「あれ?そんなところに部屋があった?」
「ちょっと目的があって作ってもらった」
と龍虎は言って、中に入る。理史も続けて中に入る。
「サンルームができたんだ!」
「あったかいよ。冬の間はここで休んでいてもいいかも。セックス禁止だけど」
「こんな外から丸見えの所ではセックスできないと思う」
龍虎は、おにぎりの載った大皿を、向こう側の壁に置かれた棚の上に載っている鏡?の前に置いた。
「その鏡は?」
「これさあ」
と言って龍虎は、白い金属製の鏡を手に取る。鏡の裏側には火山?か何かの模様が作られている。
「ここに置かせてと言って、こないだ醍醐先生が置いてったんだよ」
「へー。それは白銅か何か?」
「ステンレスだよ」
「ステンレスなのか!」
「フェラ系じゃなかった、フェライト系ステンレスと言ってた」
今わざと間違ったろう?と理史は思う。昨夜のフェラは気持ち良かったけど。
(ステンレスには主に、ほぼ鉄とクロムで出来ているフェライト系ステンレスと、鉄・クロム・ニッケルが主成分のオーステナイト系ステンレスがある。フェライト系は磁石が付くが、オーステナイト系は磁石が付かない)
「お守りみたいなもの?」
「うん。これは旭岳と繋がってるんだって。だから方位角約15度に向ける。ここに線が引いてあるからそれに合わせればいいんだけどね」
と言って龍虎が指さす所を見ると、マジックで直線が引かれている。
「15度の方向というと、北北東?旭岳というと北海道の?」
「うん。16方位でいえば北北東、24方位でいえば癸(みずのと)の方位」
「なんか難しい」
「ボクもよく分からないけどね」
「このサンルームは実はこの鏡を置くために作ってもらったんだよ」
「へー!」
「この鏡を置いてる部屋はセックス禁止なんだよね。だからボクの部屋には置けない」
「なるほどー!」
「だからここではキスまではいいけど、セックスは禁止。セックスは自分の部屋に戻ってから」
「OKOK」
それで龍虎は鏡を線が引かれている位置に戻す。
「Spieglein, Spieglein. Wer ist die Schönste im ganzen Land?」
(鏡よ鏡、この国で最も美しいのは誰?)
と龍虎は言った。
理史は唐突にドイツ語が出て来て「うっ」と思ったが、このセリフは覚えている。
「Frau Ryuko. Du bist die Schönste im Land」
(龍虎さんです。君がこの国で最も美しい)
「ボクはフラウなの?フロイラインじゃなくて?」
「僕の奧さんだからフラウだよ」
「えへへ」
「ヘアではないし」
「さすがにボクはヘアではない」
「Mちゃんはヘアとかミスターと言われると照れてるね」
「あの子、自分が男という自覚が希薄だから。よく女装してるし」
「女装させてるのでは?」
「可愛い服着るの好きみたいだしね」
「かえって龍のほうが男装してる」
「ボクが男装した姿と、Mが女装した姿が雰囲気が近くなるのもある」
「あ、そうか」
「ぼくとMは顔の作りは完全に同じだけど、ボクは自分が女という意識が明確になってきたから女っぽい顔になってきて、男装のMとは結構雰囲気が違う。でもボクの男装は女っぽさが抑制されるし、Mの女装は少女っぽくなるから似た雰囲気になるんだよ」
「だったら2人1役は終わるの近いと思う」
「男女両役をしてたらね。女役しかしなくなったら、また2人とも同じ雰囲気になるかもね」
「確かに男装アクアの需要はあまり無い」
「でもそのおにぎりは・・・豆御飯?」
「お赤飯だよ。北海道方式」
「赤飯なんだ!」
「赤飯というと、この付近では小豆と一緒に御飯を炊くけど、北海道では炊きたての御飯に甘納豆を混ぜる。これは北海道方式で作ったお赤飯」
「そういう作り方もあるのか」
「元々はお赤飯って赤米で炊いた御飯のことだったらしいね」
「赤米と黒米の御飯は番組で食べたことある」
「赤米を作らなくなったから、その代替で小豆とか甘納豆を使うようになったんだろうね」
「それでお供えがお赤飯なんだ?」
「うん。これを毎朝おそなえする。ボクができない時には、りっちゃんに頼む」
「竜崎さんがする日の方が多くなりそう」
「まあできる時はボクがする」
「それで夕方に下げるの?」
「ああ。すぐ無くなっちゃうから」
「なんで?」
「恐がらずに出ておいでよ」
と龍虎が声を掛けると、たくさんのキツネの子供たちが出て来て、美味しそうにおにぎりを食べ始めた。
「可愛い!」
「可愛いよね。実は地震で落ちたり倒れたりしたものを片付けてくれたのも主力はこの子たちだったんだよ」
「へー!」
ひとりの女の子キツネが理史に声を掛けた。
「あたし、ミチ。お兄ちゃん、よろしくね」
「うん。よろしくー。僕はサトシだよ」
と理史も答えた。
その時、理史は気付いた。
「ねね、前から池とかあったっけ?」
サンルームの側面ガラスを通して、大きな池が見えているのである。
「先週帰宅したら出来てたからびっくりした」
「先週できたんだ!」
「じゅうちゃんさんによれば、南側に池があるのが風水的にいいんだって。釣殿もあるよ」
↓再掲
「あはは、そこにあるのはやはり釣殿か」
「池を作るのに削った土を北側に積み上げて、小さな丘ができてるし」
(多分プール設置のために掘った土も一緒に積み上げている。敷地内に降った雨を地中のパイプで南池に集め、これを浄水してプールに使用する。実は南池は雨水の貯水池である)
「何それ?」
「北に玄武棲む丘陵あり、東に青龍棲む清流あり、南に朱雀棲む湖沼あり、西に白虎棲む大道あり。四神相応の地にするんだって」
「んじゃ賭けてもいい。きっと年内には表側に小川ができてる」
「やはり、そう思う?」
「裏手には道路が通るね」
「ラリーとか始まったりして」
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