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■夏の日の想い出・Long Long Ago(5)
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(C) Eriko Kawaguchi 2022-03-06
8日の仕事だが、理史の方は15時から昨日中断したドラマ撮影の続きを撮影したいという連絡があり(多くの仕事が地震で中止になったので逆に人が集められると判断したらしい)、龍虎も夕方までの仕事はキャンセルになったが、17時からの仕事はあるということだった(リハーサル役で葉月が16時に行ってくれる)。これは、りっちゃんが2人を車で送って行ってくれることになった。
それで午前中に川口市の理史のマンションの様子を見に行ってみることにし、朝食を食べた後で“アクアのアクア”#11に乗り、一緒に川口市に行ってみた。
ところが入れない!ロープが張ってあるのである。
「ちょっと管理人さんに訊いてくる。龍は車に戻ってて」
「うん」
それで理史が管理人室で聞いてきた所、階段が一部崩れて危険な状態になっており、取り敢えず立入禁止にしているということだった。今後改修して使用しても大丈夫か、建築会社に調査させる予定であるという。恐らく最低でも半月程度は使用困難と思われるので、転居する場合はすぐ敷金の返還をするという。
現時点では、荷物の取り出しについても、貴重品の持ち出しに限り、30分以内にしてほしいと言われた(崩壊の恐れが無いと判断されたら退去のための荷物搬出はできるようになる“かも”とのこと。現時点では確約できないらしい)。
理史は通帳などの貴重品に、パソコンやカメラなどは実は全部八王子のほうに置いていたので、緊急に持ち出さなければならないものは無い。取り敢えず管理人さんには携帯の番号を伝えておいた。
車に戻り、龍虎にかいつまんで状況を説明する。
「このマンションって古かったんだっけ?」
「建ったのは2000年頃だったはず」
「手抜き工事だったりして」
「あるかも知れないなあ」
(後日“姉歯”物件だったことが判明した)
「提案。もう八王子に引っ越しておいでよ。一緒に住もうよ」
「それ、どちらの事務所からも猛反対されると思う」
「面倒くさいなあ」
「龍が物凄い人気なんだから仕方ないよ」
しかし、取り敢えず善後策を考える間は八王子で暮らさざるを得ないようである。
なお今回の地震の余震とみられる有感地震は下記で、あまり大きなものは無かった。
10月07日23:44 M3.2 震度1=千葉市
10月08日05:11 M3.6 震度2=練馬区 1=足立区,八王子など
10月09日11:16 M3.5 震度1=足立区,八王子など
10月10日09:57 M3.1 震度1=練馬区
10月8日の夕方、私が恵比寿のマンションに帰宅すると、なんとうちの父と政子の父が来ていた。やはり地震が心配で被害が出てないか見に来てくれたらしい。最初電話して在宅していた政子に話を聞いたものの、さっぱり要領を得ないので(政子に訊くこと自体間違っている)、実際に来てみたという。
政子の父は1955年生で、2020年8月に65歳で42年間務めた百貨店を退職した。現在はK市の自宅で、パソコンを5台並べて株式の投資をやっている。資金は退職金の半額(半額は奧さんにあげた)だが、ここ1年ほどで300万ほどの利益を出したらしいので、結構投資センスは良いようである。
「もう少し投資額増やしたいなあ。政子貸してくれない?」
とか
「信用取引やってみたいなあ」
とか言っているが、奧さん(政子の母)から禁止されているらしい。
「今はビギナーズラックだよ。信用取引で失敗したら追い証(おいしょう)が恐いよ」
と奧さんは言っているようだ。
2000年に音速通信の株価がいきなり200分の1まで急落する騒ぎがあり、大量の自殺者が出たと噂されているが、みんなそれまでどんどん上昇していた音速通信の株を担保に二階建て・三階建ての取引をしていた人たちが、担保価値が無くなったことにより、担保分の現金支払い(追い証)を求められて破綻したものである。
追い証に比べたらFXのロスカット(為替相場が急変動した時に投資額がいきなり消去されてゼロになってしまう)なんて可愛いものである。
1997年頃は1単位20万円くらいだった株価が当時は200万円まで高騰していた。20万円時代に例えば50単位を1000万円で買っていた人は、当時その株式が1億円の価値があると認められて、それを担保に信用取引をしていた。ところがそれがいきなり1万円に暴落したので担保不足が発生する。50単位は50万円の評価になるから株を担保に入れていた人は1億円−50万円=9950万円を現金で支払うことを求められた。自殺者が出る訳である。自殺しなかった人でも短期間の資金調達にはかなり苦労している。それで音速通信の創業者社長の重富音康氏には、いまだに恨みを持っている投資家が多い(あれだけの騒動があったのに会社が潰れてないのも凄いけど)。
なお重富氏は、龍虎が父の“遺品代わり”として使用しているポルシェ40th editionの元のオーナーである。この経緯は書き出すと長くなるのでここでは省略する。
うちの父は1958年生まれで、2018年12月27日をもって35年半勤めていた会社を定年退職した。その後、再就職を試みたものの、ひとつの会社一筋に生きてきた人なので潰しがきかない。社内資格はたくさん取っているが、他の会社でも通用する資格は運転免許と危険物取扱者・フォークリフトなど程度である。結局再就職先を見付けられず、私の勧めで2019年4月に放送大学に入った。心理学系の学科を取る一方でNHKの語学講座で、フランス語・スペイン語などを勉強している。要するに現在は大学生である!
「学割が利くらしいよ」
「そうか。冬のお父ちゃんは女子大生になったのか」
「女子ではないから男子大学生だと思う」
その日は、部屋の片付けをしながら子供の遊びのことが話題になっていた。最近の子供たちはゲーム機ばかりしてるという話から、色々昔の遊びの話になる。缶蹴りとかグリコ・チョコレイト・パイナップルとか話している内に
「社長部長とかだいぶやりました」
「うちもやりました」
などと話が出てくる。ところが話している内に何か違う?ということになった。結局、政子の父が言う“社長部長”と、うちの父が言う“社長部長”は別の遊びであることが判明した!
政子の父がいう“社長部長”とは、ドッヂボールのボールを使った遊びで、円陣を作り、参加者は、社長・部長・次長・課長・係長・平1・平2・・・・・などと役職名が付く。それでボールを持った人は相手の役職名を呼んでその人に向けてボールを投げる。ボールが飛んできた人はそれをキャッチして、誰かの役職名を呼び、その人にボールを投げる。
・自分の所に飛んできたボールを取れなかったらアウト
・自分が呼ばれたのではないのにボールを取ったり、取ろうとしたらアウト
・役職名を呼んだ人が常識的に取れる範囲の外に投げたらアウト
(よくあるバリエーションは必ずその人の前でバウンドさせなければならないというルールのもの。各々の陣地として線を引く場合もある)
アウトになった人は最下位ランクに降格し、その人より下位ランクの人が1つずつ昇格して並ぶ順番も入れ替わる。最下位ランクの人が失敗した場合は、新人→バイト→便所掃除→乞食→幽霊→ごきぶり→石ころ→砂粒、などと更に落ちていく。誰かがミスして降格されたら平(ひら)に戻れる。
うちの父が言う“社長部長”は昇格や降格のシステムは同じなのだが、プレイ内容が全く異なる。教室内に、横1列に椅子を並べて、座っている人の中で左端から、社長・部長・課長・係長・平1・平2・・・・・などと役職名が付く。社長役の人が音頭を取って、両手を打つ→左手で左膝を打つ→右手で右膝を打つ、という動作を繰り返しながら「社長・部長」とか「社長・係長」などと、自分の役職名に続けて誰か別の人の役職名を呼ぶ。呼ばれた人は「部長・課長」などと別の人の役職名を呼ぶ。
・自分の役職名を言い間違ったらアウト
・次に渡す人の役職名を言えなかったらアウト
・存在しない役職名を言ったらアウト
・他人が指名されたのに自分だと思い込んで発言したらアウト
アウトになったら最下位ランクに移動して反対側の端に行き、その人より下のランクの人たちは昇格するので隣の椅子に移る。最下位ランクの人が間違ったら、その人の椅子は他の人から離され、窓際族→見習い→ゴミ集め→貧乏人→オバケ→地獄、などと更にランクダウンしていく。椅子もどんどん他の子から離される。誰か他の人が失敗したら平に戻れる。
「ひょっとすると同じルーツの遊びかも知れないですね」
「もしかすると屋外式と屋内式なのかも」
などと2人は懐かしそうに話していた。
「へー。そちらは部長と課長の間に次長があったんですか」
「そちらは平の下は窓際族ですか」
などと双方の役職名の違いにもお互い興味深げである。
「自分の役職が何かというのをしっかり意識する必要があるんだけど」
「遊んでると、それが分からなくなるんですよね〜」
「結構強い人がいて、長時間社長をキープして」
「それでその人に失敗させようと、みんなそこに渡して」
「社長指名が続いている時にフェイントで課長とかに渡してフライングさせる」
「社長と課長って音が似てるから」
などとプレイ・テクについても2人は楽しそうに話していた。
マリナの姉・風山歩は、ずっと代々木の雑居ビル(マリナが設立したオフィス・キロメートルの事務所)で寝泊まりしているのだが、10月7日の地震の後、川口市が震度5強だったと聞いて、少し心配になった。それで落ち着いて来た10月9日(土)、娘の詩(うた:今年の6.10生)をスペーシア(詩が産まれてからマリナが「健診とか連れてくのに必要だよ」と言って買ってくれた。駐車場も借りてくれた)のベビーシートに載せて、川口市の自宅に行ってみた。
アパートの建っていた所は焼け野原である!
うっそー!?地震で火事が起きて焼けちゃったのかなあ。
そして
《風山さん、048-***-****までご連絡ください》
という看板が立ってる!
ちょっと恥ずかしいよぉ!と思いながら表示されてる番号に電話してみる。
「○○荘に住んでいた風山ですが」
「ああ。ご無事でしたか!御主人もご無事ですか?」
「はい、生きておりますが」
「実は火事で○○荘が焼けてしまって。安否が確認できないのが、お宅一家だけだったんですよ。焼け跡をかなり捜索したものの、遺体とかは無いので、おそらく外出しておられたのだろうと思って、看板を立てていたのですが」
「やはり一昨日の地震で火事になったんですか?」
「地震?いえ、火事があったのは7月なんですが」
「え〜〜!?」
だったらあの看板、3ヶ月くらい立ってたのか?
なんて恥ずかしい。まるで行方不明者じゃん!
(充分行方不明者だと思う)
「実家かどこかにおいででした?」
「あ、いえ赤ちゃん産んでたので妹の家にずっと滞在していたもので」
「ああ。妹さんの家でしたか。それで賃貸契約は解除になりますので、敷金を返還します。それと火災保険から保険金が出ていますので、それと、あと火元の入居者から損害賠償が支払われていますので、その分配金をお渡ししたいのですが、○○不動産○○支店まで来られます?」
「行きます!」
「では印鑑と本人確認書類を持ってきていただけますか?契約者の風山早太さん御本人にいらして頂きたいのですが」
「すみません。夫は長距離トラックの運転手で全国飛び回っているので、年に数回しか帰宅できないのですが」
「ああ、それで火事にも気付かなかったんですね。でしたら委任状を書いてきてもらえませんか」
「分かりました。連絡して委任状を郵送してもらうことにします」
それで歩は夫の早太にメールし、早太が鹿児島!の営業所で委任状を書いて投函(でも翌日は京都まで走った)。委任状は10/15(金)に代々木のオフィスに到着した。
歩はそれを持って不動産会社に行き、敷金・保険金・分配金で、合計約200万円を受け取った。燃えてしまった家電・家具とか食器(友人の結婚式の引出物でもらった高そうなのがいくつもあった)・和服(10年以上着てない)などの価値を考えると微妙な金額という気もしたが、まあこのアパートにはほとんど行ってなかったし、日常生活に必要なものは全部代々木に持って来てたからね!
でも200万は思いがけないボーナスだなあ。何買おう?(その前にクレカの残高とかを清算すべき)
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