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■夏の日の想い出・Long Long Ago(22)
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アクアは翌日(10/30 Sat)コスモスからの電話で昨日の方針が承認されたことを聞いたが、アクアは更に提案した。
「基本的にボクが全部歌うのはいいのですが、いくつかの曲で一緒に歌いたい人が居るのですが」
「ほう」
「キャット・ウォークで舞音ちゃん、ラピスラズリでラピスラズリの2人、リズミトピアで白鳥リズム、夕暮れ時のスピカで姫路スピカちゃん、ヴィーナスの涙で水森ビーナちゃん(芸名の由来がビーナス)、祭り太鼓で花咲ロンドちゃん(本名:大村祭梨)、川と花の物語で花ちゃんさん(本名?:川内峰花)、極楽鳥で甲斐姉妹(本名:緒方飛蝶・美鶴)、雪の恵みで水谷姉妹(芸名が水谷康恵・水谷雪花)、虹色の首飾りで花貝パールちゃんと恋珠ルビーちゃん、Voyage romantique で七尾ロマンちゃん」
「スピカとかラピスラズリとかは、曲名見てて私も思った。でもそれいいかも。あくまでアクアがメインボーカルで」
「はい」
「でも11曲だね」
「多すぎますか?」
「あ、分かった。『生命の水』(Wasser des Lebens) でアクアとデュエットすればいいんだよ」
「意味が分からないのですが」
「だからアクアとアクアのデュエット」
「ああ、そういうことか。いいですよ」
つまりアクアMとアクアFのデュエットである。
「これで24曲中の12曲がデュエットソングということで」
ところがこの案は制作会議で否決された!
「ボーカルはあくまでアクア。他の人が参加する場合は、楽器参加かコーラスの範囲まで」
ということになったのである。それでアクアが提案した人たちは次の形で参加することになった。
キャット・ウォーク:舞音=猫の鳴き声(with水谷姉妹)
ラピスラズリ:ラピスラズリ=コーラス
リズミトピア:白鳥リズム=タンバリン
夕暮れ時のスピカ:姫路スピカ=箏
ヴィーナスの涙:水森ビーナ=マリンバ
祭り太鼓:花咲ロンド=篠笛(ネオン=太鼓、夢島きらら=鉦鼓)
川と花の物語:花ちゃん=割れ目木鼓
極楽鳥:甲斐姉妹=フルート
雪の恵み:水谷姉妹=ビブラフォン連弾
虹色の首飾り;花貝パール・恋珠ルビー=コーラス
Voyage romantique:七尾ロマン=コーラス(with美崎ジョナ)
唯一『生命の水』だけが“アクアとアクアのデュエット”になる。
その他、§§ミュージックの歌手および信濃町ガールズたちに分担してコーラスを入れてもらうことにした。それで“ゼロティス”には固定のコーラス歌唱者は置かないことにした。
(*24) 十牛図は、悟りを求める過程を牛を探すという行為にたとえて絵に描いたもの。実際の絵は検索すると結構出てくる。↓はそのタイトル一覧。
1.尋牛 牛を探す。悟りを求める。
2.見跡 足跡を見る。悟りのきっかけを掴む。
3.見牛 牛を見る。悟りの境地を知る。
4.得牛 牛を捕まえる。悟りの境地に到達する。いわゆる“彼岸”。
5.牧牛 牛を乗りこなす。悟りをよくよく理解する。
6.騎牛帰家 牛に乗って家に帰る。悟りの境地から帰還する。いわゆる“如来”。
7.忘牛存人 牛のことは忘れてしまう。悟りのことは忘れる。
8.人牛倶忘 自分の存在まで忘れてしまう。
9.返本還源 全てを滅したことで物事の本来の姿が見える。
10.入店(鄽)垂手 世俗の世界にまみれる。
十牛図の凄さというのは6以降、特に10にある。悟りに到達することは単なるステップに過ぎないのに、多くの仏教者がそのことを忘れていて、悟りに到達することが目標のように思っている。現実の世界に戻ってきて、悟りの経験を踏まえた生き方をしていくことが重要。だから“破戒僧”一休のような生き方は、実は究極の仏教者の道のひとつなのである。
なお、雨宮先生監修・千里画“十娘図”というのが存在するらしい。
1,女の子の服に興味を持つ
2,女の子の服を着たいなと思う。
3.女の子の服を着てみる。
4,自分用の女の子の服を入手する。
5,女の子の服を着こなす。
6.女の子の服で普通に出歩けるようになる。
7.スカートなど穿かなくても女に見えるようになる。
8.自分の性別を意識しなくても女としてやっていける。
9.性別より人としての生き方を考える。
10.別に男の服を着ても気にしない。
雨宮先生は「スカートを穿かなくなったら女装の完成」と言っている。
アクアは10月31日(日)は『八犬伝』の撮影があったので熊谷の八犬伝村に出掛け、打ち上げ(実際にはお菓子と飲み物を配り『乾杯は各自で』と言われた)まで付き合ったが、翌日11月1日には朝から研修所(女子寮)内の、今回の歌唱録音専用(つまりアクア専用)で使用することになったB12スタジオに入った。
スピカが居るのでびっくりする。
「スピカちゃんが加わって・・・トリビュート版の方を録音するんだっけ?」
とアクアが言うと、海原先生は
「『インヴィア』の追加歌唱はアクアちゃんとスピカちゃんのデュエットなんだけど・・・まさか聞いてなかったとか?」
と言う。
「聞いてません!」
「それとトリビュート版との違いを出すために男の子っぽい声で歌ってというリクエストだったんだけど出る?」
と海原は心配そうに言う。
「出ますよ」
とアクアは男声で答えた。
「凄いね!女声が出せる男の子は時々いるけど、男声が出せる女の子は珍しい」
と海原先生が感心している。
あのぉ、私、男の子なんですけどぉ。
スピカは笑いを噛み殺していた!
(実はFはテレビ局にドラマなどの収録に行っている。今回補作の8曲はMが歌うことにした。トリビュートアルバムの26曲についてはまだ分担を決めていない)
それで昨日海原先生が仮伴奏音源を作ってくださった4曲
夕暮れ時のスピカ Spica under dusk
深き山に入りて (Deep Mountain)
極楽鳥 (Paradies vogel)
神曲 (Divina Commedia)
をこの日1日(休憩をはさみながら約7時間)で全部吹き込んでしまった。
アクアもスピカもほぼ一発できれいに歌ったので監修してくれた海原先生も若干の表現的な指導をしただけだった。
海原先生が
「文句の付け所がない。各々曲をよくよく理解してる」
と褒めてくれた。
「CDを頂いてから3日ありましたから、ずっと練習してました」
「私もずっと練習してました」
「忙しいのによく時間が取れるね!」
上島雷太は10月31日(日)、コスモスと一緒に、エレメントガードおよび4人のサポートミュージシャンと2人のコーラス歌唱者(いづれも“信濃町バンド”所属)が、制作をしているスタジオを訪れ、制作中に申し訳ないが、と言って、ワンティスのトリビュートアルバムをアクアが歌うことになったことを説明した。
みんな嫌そうな顔をしている!
ただでさえ死にそうなくらい忙しいのに!!
「そういう訳で、11月から12月に掛けて、ワンティスのアルバムの一部補作とトリビュートアルバムが制作されることになったのだけど、補作8曲、トリビュートアルバムの26曲を全てアクアが歌う。でも君たちは今『少年探偵団』の音源制作の方をやっているよね」
「はいそうです。あと数日で伴奏音源は完成すると思います」
「その後も、年末年始のライブの予定とかもあるよね」
「あります。実際、3月くらいまでの日程はほぼ埋まっています」
「それでトリビュートアルバムの伴奏は、このための臨時編成バンドに伴奏させることになったんだよ」
ほっとした空気が流れる。
「ただ、人数が必要だから、どうしても編成に数日掛かる。だけどアクアに少しでも余裕のある11月の内に集中して録音をしたいので、申し訳ないけど、先行して歌唱を録音したい8曲の内、伴奏ができてない4曲を君たちに伴奏してもらえないかと思って」
上島はそう説明すると昨日書き上げてニュー下川工房(*25)のスタッフに入力してもらったスコアを全員に配るとともに“Dグループ”の楽曲の暫定ミックス音源を聴いてもらった。
(*25)下川工房はその仕事の大半が上島雷太が書いた曲の編曲作業であったため、2018年3月の上島雷太の逮捕→謹慎に伴い、経営が行き詰まった。その後、ケイと雨宮が半分ずつ出資して経営再建。UDP(上島代替プロジェクト Ueshima Diversion Project)及び望坂拓美プロジェクトの作品の編曲と制作指導を請け負う会社として事業再開した。2019年4月にUDPが終了した後は、夢紗蒼依の編曲と制作指導も請け負うことになった。現在は、松本花子の編曲・制作指導を一手に引き受けているイリヤ工房に次ぐ、業界第2位の編曲工房となっている。
会長:雨宮、副会長:ケイ、で下川は社長である。下川は経営責任を取って退くと言ったが、雨宮は「あんたが指揮せずに誰が指揮する?」と言って、社長に留まらせた。新会社は債権者にできる限り補償したが、イリヤが独立した時に下川から要求された権利料(イリヤはこの支払いに物凄く苦労した)は雨宮がイリヤと交渉し、転換社債扱いにすることで合意した(つまりイリヤに返さなくてもよい)。この結果、イリヤはニュー下川工房の第3株主(約10%)となっている。
イリヤ工房の株は、イリヤと千里がほぼ半分ずつ持っていて、松本花子作品を一手に引き受けており、ニュー下川工房はケイと雨宮で90%の株を所有し、夢紗蒼依と望坂拓美の作品を一手に引け受けている。つまり業界地図がきれいに塗り分けられている。
松本花子 イリヤ工房 千里・青葉・イリヤ
夢紗蒼依・望坂拓美 ニュー下川工房 ケイ・雨宮・アイ
夢紗蒼依のローンチカスタマーはЮЮレコードで同社は夢紗蒼依の活用で有能な新人・再生歌手をどんどん売り出すことができるようになり、このCD不況の中で大きく成長している(実力派の歌手やバンドが多い)。松本花子のローンチカスタマーは§§ミュージックで、ここ2〜3年、§§ミュージックから多数のアイドルがデビューして、全員ちゃんとまともな曲をもらっているのは松本花子から充分な量の曲が提供されているお陰である。常滑舞音が1ヶ月単位で新曲を出したりするのも、松本花子の力で支えられている。
スコアを渡され、仮音源を聴いたエレメントガードのメンバーは言った。
「ああ、だいたい分かりました」
「どのくらいで伴奏音源できる?」
と上島が訊く。
「2日ですね」
「速いね!」
「このスコアで確定で、むしろいじってはいけませんよね?」
「そのままお願いしたい。ワンティス風にまとめているので」
「スコアが固まっていて、その通りに演奏するのであれば1日でもできますけど、念のため余裕を見て2日です」
「それを現在のスケジュールに割り込ませてもいい?」
「アクアちゃんの歌唱収録は、11月4日にする予定になっています。ですから、今日・明日この作業をしても、少年探偵団の方の伴奏は11月3日までに確定させられると思います」
「じゃ本当に忙しい所申し訳ないけど頼む」
「はい。やります」
ということで、エレメントガードの4人と、Fl, Tp, Sax, Vn のサポート4人、女声コーラス2人で上島から渡されたスコア通りの演奏を収録したのである。彼女らはだいたい1時間くらい練習して、録音するというパターンで休憩をはさみながら結局10月31日の1日だけで4曲の演奏を完成させてしまった。
(コスモスは帰ったが、上島が監修しながらウナ重とかステーキとか差し入れてくれるので、メンバーは「豊作豊作」と言いながらしっかり食べてしっかり演奏した)
元々超多忙なアクアに関する作業をするので、とにかく仕事が速い。そして彼女たちは11月2日には、少年探偵団の作業に戻り、そちらも2日の夕方には完成となった。それでコスモスの提案で11月3日は完全オフになり、全員自宅で死んだように眠った。コスモスは各自の自宅に豪華なお弁当を昼・夜、デリバーしてあげた。
エレメントガードたちが10月31日に作り上げた演奏は、ニュー下川工房の技術者の手で11月1日の内に仮ミッスクされ、伴奏音源の形になった。
それでアクアとスピカは11月1日に“Cグループ”の4曲を吹き込んだのに続いて11月2日には“Dグループ”の4曲も吹き込むことができた。これも1日で完了した。
髪の長い少年 (garçon aux cheveux longs)
雪の恵み
キャット・ウォーク (cat walk)
虹色の首飾り
これであっという間にワンティスのアルバムの補作の方はできあがってしまった。
それで、これに上島が手配した女子音大生によるコーラスなどを加えた上で、11月5日以降、『ワンザナドゥ』に収録されなかった12曲を集めたアルバム『インヴィア』は下川監修の下で、マスタリングに入る。楽曲順については、上島・海原も入ってこの3人で確定させることにした(他メンバーはこの3人に一任)。
(雨宮は敢えて元のワンティス版には関わらず、千里やケイを通してトリビュート版に関わるつもりでいる。コスモスやケイにしても雨宮が関わってくれることで、他のメンバーから注文を付けられるのを回避できるので、積極的に雨宮に意見を求めている。「雨宮先生がこう言ったので」と言えば、「だったらいいか」と言ってもらえる)
アクアは11月3日は祝日なので、テレビ局を数軒掛け持ちして仕事をした。そして11月4日(木)には、予定通り、少年探偵団の主題歌を含む27枚目のシングルの歌唱録音を行なった。
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