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■夏の日の想い出・ホームワーク(16)

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そしてやがて、愛人のまゆみと別荘で密会しようとしていた家元が殺される。まゆみは取り調べを受けるが、自分が別荘に来たときには鍵が閉まっていて、灯りもついていなかったので、しばらく待って家元が来なかったのて帰ったと主張する。まゆみがもし犯人として逮捕されると、まゆみの娘・たつみは法的には相続権が残るものの、道義的に辞退に追い込まれる可能性が高い。家元の地位継承も困難。すると、長女の夏子、三女の冬子(セシル)が有利になる。
 
とすると、推理小説的にはそのどちらかが犯人っぽい。しかしモナが谷里さんは汚れ役をしないと言っていた。となると、私が犯人なのかも?とセシルは思った。
 

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ところが、キャサリン(メミカ)は、犯人は夏子の夫・頼信であると指摘した。アリバイ作りのトリックについても詳しく説明する。
 
本人もそれを認めて事件は解決した。
 
彼の供述から、この事件は家元の関係者を全員殺し、長女・夏子が家元の地位と財産を相続した所で、夏子まで殺して自分が全部独り占めする計画だったと自供する。
 
夏子まで殺される予定だったという警察発表から夏子に同情が集まる。残った娘である、冬子・たつみも「家元と財産の相続は辞退する」と表明したので夏子が新しい家元に就任した。冬子とたつみが彼女を祝福する言葉を述べた。
 
そしてその就任式の翌日、拘置所内の夏子の夫が、隠し持っていた毒薬で自殺した。キャサリン(メミカ)は恋人の一郎(前田智士)に語る。
 
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「これは本当は夏子さんへの愛情から計画したものだと思う」
「夏子まで殺すつもりだったんじゃないの?」
「そう主張することで、夏子に同情が集まるようにしたのよ」
「なるほど!じゃ夏子は共犯なの?」
「それは違う。夏子は何も知らなかった」
「どういうこと?」
 
「頼信はおとなしい性格で、仕事もあまりできず、経済的にも夏子に依存していた。その夏子が、後妻の涼子とその娘の秋子の地位が一派の中で上昇したことから、邪魔者扱いされ、いつ破門されてもおかしくない状況になっていた。それで自分を愛してくれた夏子を助けるために自分の身を犠牲にしたのよ」
 
「うーん」
 
「だから、後継者候補No.1の秋子とその母涼子は当然殺すとして、本当は夏子と冬子の2人くらいを残して他の子供は皆殺しにするつもりだったんだと思う。夏子には必ずアリバイがあるようにするから、冬子が疑われて後継者の地位を失うと考えた。でも私が彼を犯人と指摘したから、たつみは命拾いした。そして予定通り、全て自分が単独でやったことであると主張して適当なタイミングで自殺する。実際、夏子が次の家元に就任したのをニュースで聞いて、彼は満足して死んだんだと思うよ」
 
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「あまりにも大きすぎる愛情だ。でも夏子さん、本当に知らなかったのかなあ」
 
「まあ気付いていたかも知れないけどね。でも彼の愛情が無駄にならないよう知らない振りをし通したのだと思う。イエスを知らないと言ったペテロの気分だったかもね」
とキャサリンは言った。
 

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「しかし最後まで生き残る役になるとは思いも寄らなかった。犯人役でもなかったし」
とセシルは深夜、ドライバーの森下さんに尾久のマンションまで送ってもらいながらつぶやくように言った。
 
「セシルちゃんの役柄は元々アクアちゃんに割り当てられていたものですよ。だから、生き残る設定だったんじゃないですか?アクアちゃんが殺されて途中退場したら、ファンから苦情が来るもん。もちろん犯人役なんてあり得ない」
と森下さんが言う。
 
「ああ、そういうことか!」
とセシルは声をあげたが、次の瞬間、奇妙なことに気付く。
 
「だったら、アクアちゃんは女の子役だったの?」
「そりゃそうでしょ。アクアちゃんの女装を映さないと苦情が来ますよ」
「あはは」
 
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2020年12月24日(木)クリスマスイブ。
 
この日、全国を衝撃的なニュースが駆け巡った。
 
人気女性グループ・マラナーズのメインボーカル・斉藤ルニカがコロナ陽性であることが発覚したのである。ルニカは20日に収録されたバラエティ番組に出演していた。この出演者の中に発熱して検査の結果コロナ陽性が確認されたタレントがおり、どうもこの撮影中に感染が起きたようである。出演者全員が濃厚接触者と判断され、PCR検査を受けていてルニカの陽性が発覚した。彼女以外にも陽性と判断された人が数人おり、各事務所は対策に奔走する。
 
ただちにルニカ以外のマラナーズのメンバーも検査を受けたものの陰性ではあった。しかしルニカの濃厚接触者として、全員自宅待機ということになる。
 
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マラナーズは紅白歌合戦に(紅組から)出場予定だった。
 
しかし紅白は一週間後である。出場は困難と思われた。事務所ではルニカ抜きで強引に出演させることも考えたようだが、NHK側から「できたら遠慮して欲しい」と言われたこと、そもそもルニカ抜きでは代わりのボーカルを務められそうな子がいないことから、出場断念した。
 

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NHKでは代替の出場者を検討した。
 
マラナーズの事務所に代わりに出場できるような知名度あるいは成績のある歌手が見当たらないことから、16時頃、その親会社である、∞∞プロに要請がある。鈴木社長は事務所の中堅歌手・村井鞠代に連絡して、出場を要請した。彼女は紅白に出たことはないものの、経歴が長く知名度は抜群である。今年は特にゴールド・ディスクになるヒット曲があった。
 
ところが・・・
 
「紅白なんて嘘みたい!でも、ごめんなさい。熱が出て寝込んでいます」
「まさかコロナじゃないよね?」
「インフルエンザと診断されました」
「インフルかぁ!」
と鈴木社長は天を仰いだ。これが18時頃だった。
 

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20時頃になって、秋風コスモスのスマホが鳴る。見ると∞∞プロの鈴木一郎社長なのですぐ取る。
 
「はい、伊藤です」
「コスモスちゃん。12月29日から31日まで、高崎ひろかちゃんか姫路スピカちゃんあたり空いてない?」
 
「うちのカウントダウンイベントはありますが、必要なら欠席させます」
 
「助かった。実はマラナーズの代替出演者、こちらに任せると言われて。でも女歌手ではスケジュールの動かせない子ばかりでさ。男歌手なら居たんだけど性転換させる訳にもいかないし。念のため訊いてみたけど、紅白は出たいけど、そのために性転換手術して男を廃業するのは嫌だと言うし。それで、そちらのその2人の内のどちらか出場してもらえない?」
 
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万一性転換しても出場したいと言ったら性転換させるつもりだったのだろうか?
 
コスモスは即決した。
 
「では高崎ひろか、お願いできますか?」
「分かった。すぐNHKに伝える」
 
それで高崎ひろかは今年も紅白に出場することが、1週間前になって急遽決まったのであった。
 
つまりこの年は§§ミュージックから5組も出場することになったのである。
 

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私とコスモスは、アクアプロジェクトの実質的なリーダーである和泉も加えて3人で話し合った。
 
「最近、アクアの扱いが、ほぼ女の子タレントになっていると思うんだよ。少し揺り戻しを掛けない?」
 
「そうなんだよね。なんかアクアの出演依頼で、ドラマ関係が女役ばかりなんだよ。やばいと思っている」
 
「こないだは『とりかへばや物語』の撮影で、レギュラー以外全部断るハメになったから、これ幸いと、全部他の女子タレントに振り替えたけどね」
 
「それで、松梨詩恩も、米本愛心も、羽鳥セシルも、超多忙になっちゃったみたいだけどね」
 
「代替できるのが女子タレントしかいなかったね」
「うん。普通の男子では務まらない仕事ばかりだった」
 
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「新しいイメージはやはり“王子様”という路線がいいと思っている」
と和泉は言った。
 
「ああ、それはいい路線だと思う」
と私も賛成する。
 
「アクアはデビュー当初の頃から、わりと王子様っぽい衣装で歌っていたね」
「もっとも、王子様の服の長い丈の上着がドレスと勘違いされて、アクア様が女装してる!とか言われたけどね」
 
「女装程度は構わないけど、王子様っぽい雰囲気は主張しようよ」
「アクアが王子様役をするドラマか映画を企画しようよ」
「ああ、それはよいことだ」
 
「でも女装は構わないんだ!?」
「だってあの子、女装好きでしょ?」
「まあ好きだけどね」
「だいたい個人では男物の服は持ってないみたいだし」
「個人的に持ってなくても衣装として用意してあげればいいよ」
 
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そういう訳で、アクアには以降、王子様っぽい服を着せていくことにしたのである。
 

「ところであの子、まだちんちん付いてんだっけ?」
と和泉は訊いた。
 
「多分、とうとう去勢に踏み切ったと思う。明らかに体臭が変わった。でも多分まだちんちんは付いてるし、それを切っちゃうつもりは無いと思う」
とコスモスが言う。
 
「とうとう去勢したか!」
「やはり自分でも声変わりしたくないと思ったんだと思うよ」
「それはいいことだ」
 
ということで、アクアの去勢については異論は全く無い。むしろ声変わりが起きる前に踏み切ってくれて良かったという意見である。
 
「でもタマタマが無くても本人は自分は男の子だと思っているし、将来もしちんちんまで切ったとしても、やはり自分は男の子だと思っていると思う」
 
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「おっぱいはあるの?」
「あると思うよ〜。無いように見せたりするのは偽装」
「まあ、あれだけ女性ホルモン飲んでたら、おっぱいは膨らむよね」
 
「でも胸が無いように偽装できるもんなんだっけ?」
「やり方はあるみたいね」
「まあいいや、おっぱいあるくらいは大きな問題では無い」
 
と、これも問題なしということで意見がまとまる。
 
「だったら夏にドラマで男子水着姿になったのが、胸の無いアクアの見納めか」
「まあ胸の無いアクアには需要無いし」
「確かに」
 

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「あの子、女の子と恋愛するつもりは無いとは思うけど、好きな男の子とかはいるんだっけ?」
と和泉が訊くとコスモスは
 
「好きな人はいると思う。最近あの子の恋愛に関する演技が“本物”になった。あれは恋の経験が無い女優にはできない演技」
と言う。
 
「あの子、女優なんだっけ?」
「女役をする時は女優、男役をする時は俳優」
「確かに」
 
「面倒を引き起こしやすいから、温泉とかにはできるだけ入れないようにしてるけど、トイレは女子トイレしか使わないし」
 
「まあ、あの子が男子トイレに入ろうとしても注意されるよね」
「それは昔からだね」
 
「でその相手は?俳優さん?」
「分からない。相手が男か女かもよく分からない」
「あの子はバイかもね」
 
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コスモスは、とうとう彩佳が龍虎と寝たという話は彩佳本人から聞いていたのだが、彼女以外にも意識している男性か女性がいる気がしていた。彩佳と寝たのはきっとMだろうから、それはFの好きな人かもとコスモスは思ったが、誰なのかは見当がつかなかった(彩佳と寝たのがまさかFだとは、さすがのコスモスにも、思いもよらない。なおコスモスは唯一人、アクアが2人に戻ったことにこの時点で気がついていた)。
 
「恋で悩んだら、私に相談しにくかったら、花ちゃんかマリナちゃんにでも言えと言ってる」
 
「ああ、花ちゃんには相談しやすいかもね」
「§§ミュージックの“お姉さん”だからね。同期でもあるし」
 
「とんでもアドバイスが欲しい場合はマリナかな」
「ああ。非常識な回答しそう」
「でも世の中、非常識な対応が意外に状況を打開するんだよね」
 
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