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■夏の日の想い出・ホームワーク(2)

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§§ミュージックのアクア以外の出演者、一般の俳優さんたち、オーディションで集めたエキストラさんたちを使っての撮影は10月から進められていたのだが、アクアと葉月は10月中は『君はダイヤモンド』の撮影をしていたので、全く時間が取れない。
 
そこで10月中は、アクアの役は、主として佐藤ゆか・竹中花絵(スピカの従姉)・菱田ユカリ・須舞恵夢を代役に使って撮影が進められていた。いつもこういう役に使われることの多い白鳥リズムは、この物語ではひじょうに出番の多い宰相中将役なので、アクアの代役までするのは無理であった。
 
ちなみに佐藤ゆかと竹中花絵が女性貴族の衣装を付けて男君(尚侍)の役、須舞恵夢・菱田ユカリが男性貴族の衣装を付けて女君(中納言)の役である。
 
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主人公兄妹の妹の方の役と言われて喜んでいた?須舞恵夢と菱田ユカリは男性貴族の服を着せられてがっかりしたような顔をしていた!
 
なおこのドラマの監督をしているのは『君はダイヤモンド』の監督をしている河村貞治さんの奥さん、美高鏡子さんである。つまり夫婦で別々の映画を同時進行で撮っていたことになる。
 

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アクアや葉月が絡む部分は11月に集中して撮影する予定だったのだが、ここで(山村にとって)想定外のことが起きてしまう。
 
これまでMとFのふたりで行動していたアクアが『君はダイヤモンド』の撮影が終わり、いよいよ『THE とりかへばや物語』のアクアを使っての撮影が始まるという11月3日の夕方、統合されて1人になってしまったのである。
 
「すまん。体力的に辛いとは思うけど、何とか2人分頑張ってくれ」
と山村は、1人になってしまったアクア(F)に言った。
 
「無理です。死んじゃいます」
とアクアFは言う。
 
「そこを何とか」
「無理なものはできません」
 
このあたりは特にアクアFは妥協しない。アクアが2人あるいは3人だった時期でも、労務問題について最も強く主張していたのがFだったので、山村はいちばん面倒な子か残ったなと思いながらも、彼女を説得するため妥協案を出した。
 
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「だったらレギュラー以外の全ての仕事を他の子に回す」
「それなら何とか頑張ります」
「頼む」
 

それで本来アクアでアサインしていた仕事を山村は、できるだけ、ラピスラズリ、石川ポルカ、花咲ロンドなどに回そうとしたのだが、ラピスラズリはいいとして、ポルカやロンドでは、放送局などが納得しないことが多い。それで、姉妹会社である♪♪ハウスの白河夜船社長に頭を下げた。
 
「松梨詩恩ちゃんや、米本葵心・栗原リアあたりを貸して欲しい」
「田倉友利恵や花咲鈴美・木原扇歌は?」
「番組によっては、そのあたりで納得させる」
 
「実はもうひとり、羽鳥セシルって子を年明けくらいに売り出すつもりなんですよ。1月以降に放送される番組でなら使えるんだけど」
 
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「新人なら放送局に売り込める。その子の写真とかプロフィールある?」
「ちょっと待って」
と言って、白河社長は、羽鳥セシルの写真を出してきた。
 
「可愛いね!」
と山村は一発で羽鳥セシルが気に入った。
 
「誕生日は2005.2.25 東京都H市生まれ。大会その他の入賞歴は無い。全くの新人」
「そんな子、どこで見つけたの?」
「雨宮さんが見つけ出してきたんだよ」
「へー。あの人がね。2005年2月なら・・・高校1年生か」
「そうそう」
「女子高生なら使い手があるよ。ラピスラズリは中学生だから遅い時間の番組に出せなくてさ」
 
しかし白河は山村の言葉に注文を付けた。
 
「女子高生じゃなくて男子高生だけど」
「なんですとぉ!?」
と山村は驚く。
 
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「だって水着写真におっぱいあるじゃん」
「ああ。女性ホルモン飲んでたらしいよ」
「お股に突起が見られない」
「睾丸は取ったんじゃない?たぶん」
「じゃ、既に中性か」
 
「アクアちゃんみたいに性転換手術を受けさせて完全な女の子にしてからデビューさせようかという意見もあるのだけど」
 
「アクアって性転換手術してんだっけ?」
と山村は訊いた。
 
「今更そんなの隠さなくたって、アクアちゃんが女の子なのは全国民が知ってるよ」
「うむむ」
 
確かにアクアは女の子アクアが残ったのだけど、自分の性別のことは発表しないで欲しいと本人が言っているからなあ、と山村は思った。
 
(アクアのFとMが交替で“表”に出るようになったことを山村は知らない)
 
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しかしアクアの代役を割り当てられることになったことから、羽鳥セシルはいきなり11月8日以降、超多忙になってしまうのである。
 

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結局、羽鳥セシルは『THE とりかへばや物語』にも出演することになる。
 
帝の侍女で帝の女性関係を記録する係となっている“中将の内侍”という役である。超長い髪のかつらに平安女性貴族の衣装を着せられ「重い!」とセシルは思った(もっともアクア・高崎ひろか・品川ありさ・松梨詩恩・今井葉月以外の女優が着ているものは内側の服が化繊なので少しだけ軽い)。
 
帝役の姫路スピカ(男装)に付き従って、宣耀殿に行く。帝の居所である清涼殿から尚侍(アクア)の居所である宣耀殿に行くには、飛香舎→弘徽殿→常寧殿と経由していく必要がある。それで実際にはハリボテで廊下だけ作られている飛香舎や弘徽殿を通過して行く。
 
宣耀殿の尚侍(ないしのかみ)の部屋の前で中将の内侍が部屋の中にいる侍女に声を掛けると、侍女役の山口暢香が戸を開けるので、帝(スピカ)が中に入る。それで帝が尚侍と逢瀬をする間、セシルは外で待っているのだが、ここで時間がかかるので眠ってしまうというシナリオである。実際にセシルは眠ってしまった!ので、それをしっかり撮影され、後から「きゃー」っと思った。
 
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セシルは10月の段階では自宅のある都内H市から通いで土日だけ都心に出て来て、アサインされた仕事をしていたのだが、11月8日以降、突然多忙になり、とてもH市まで帰られない状況に陥ってしまう。
 
学校には欠席したまま、都心のホテルで寝泊まりするハメになったので、保護者から「学業優先ということになっていたはず」とクレームが入ることになった。
 
それで白河社長・山村に、コスモスまで入って協議したところ、当面アクアの多忙が続くことから、セシルについても3月くらいまでほとんど休みが無くなる見込みであることが確認される。それで彼女を都心の学校に転校させようという話になってしまったのである。保護者側もちゃんと授業に出られるのなら転校までは容認すると妥協してくれた。
 
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それで山村がコネを使って、アクアが通っていた赤羽のC学園に編入させてもらえることになった。そして、醍醐春海から「尾久のマンションが空いている」という話があったので、そこに引っ越してくることにしたのである。尾久駅から赤羽駅までは、宇都宮線で5分なので通学は全く問題無い。しかし彼女を電車には乗せたくないので、通学および、学校から仕事場までの交通は、コロナが落ち着くまでは、付き人に送迎させることにした。山村は彼女に
 
「コロナのワクチンあるんだけど、打っておく?」
と訊いたので
「もう日本でも接種できるんですか?お願いします」
とセシルは答え、山村は彼女にドイツ製のワクチンを打ってあげた。
 
(山村は今井葉月(F+M)・佐藤ゆか・竹中花絵・菱田ユカリ・須舞恵夢にもワクチンを接種したが“替えの利かない”アクア・白鳥リズム・姫路スピカには接種していない!)
 
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「ところでセシルちゃんって男子だよね?」
「ん?」
「C学園は女子高なんだけど」
「あ!忘れてた」
「やはり性転換させちゃう?」
「いや、誤魔化すから大丈夫」
「じゃよろしく」
 
ということで、セシルは山村の“誤魔化し”により、女子生徒として転校してくることになるのであった(有印私文書偽造および行使)。
 
「編入試験とか無いんですか?」
とセシルは尋ねたが
「ああ。代役の子に受けさせといた」
などと山村が言うので
「そんなのいいんですかぁ!?」
とセシルも呆れる(建造物侵入罪)。
 
本人もH市の学校では、男子生徒ではあっても、女子制服で通学していたらしい。それでも彼女は女子生徒として転校してねと言われて「うっそー!?」と驚いた。しかし女子生徒をすることには興味があったようで、性別のことをバッくれて転入することに同意してくれたようであった(但しこの時点でセシルは転校先が女子高であるという話までは聞いていない)。
 
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「睾丸は無いんでしょ?」
「手術受けちゃいました」
「最近はそういう子多いなあ。だったら女子生徒で問題無い気がする」
 
実際これだけ女らしければ、バレることはなかろうとコスモスなどは思った。
 
「まあ少し落ち着いた所で性転換手術しちゃえばいいよね」
などとコスモスと白河社長は電話で話し合った。
 

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その日、政子は叫んだ
「きゃー!これ練乳じゃない!?」
 
政子は今の時期には珍しいイチゴのパックをマンションを訪ねてきたお父さんからもらって食べようとしていたのである。
 
「何掛けたの?」
と私が訊くと
 
「これは歯磨きだ!」
などと言っている。
 
ちなみに私やお父さんは砂糖を掛けて食べようとしていた。
 
「それは悲惨だね」
「だって、練乳のチューブも歯磨きのチューブも似てるんだもん」
 
そうか?
 
「まあラミネートチューブって、元々は歯磨きのために作られたものだけどね」
とお父さんはウィスキーを飲みながら言う。
 
「これって割と新しいものですよね?たぶん」
「昔は金属のチューブに歯磨き粉は入っていたよ。たしかライオンがこういうチューブを開発して、その権利が切れた後、他の歯磨き粉メーカーが使い、それから練乳とか、パン用のスプレッドとか、化粧品なんかにも使われるようになったね」
 
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「絵の具とかが金属チューブですよね」
 
「ラミネートチューブの利点は搾り出しやすく最後まできれいに使えることなんだけど、欠点は空気が入り込みやすいことなんだよ。だから空気に触れて変質しやすい、絵の具とか薬品とか、空気に触れること自体がまずい接着剤とかでは昔風の金属チューブを使っている」
とお父さんは説明する。
 
「なるほどー」
 
「ところでこれ何とかなる?歯磨き粉味のイチゴは美味しくない」
「どれどれ」
 
私は歯磨き粉を掛けてしまったイチゴを丁寧に洗い、キッチンペーパーで水分を拭き取り、またガラスの容器に盛ってあげた。ちなみにお父さんが持ち込んだイチゴは全部で25個で、政子の皿に13個、私とお父さんの皿には6個ずつ載っていた。なお大輝はベビーベッドですやすや眠っている。あやめは政子の実家である。
 
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政子はよくよく確かめて練乳を掛ける。
 
「美味しい」
「良かったね」
 

政子のお父さんは定年退職になるまで百貨店の店長さんでお店で様々なコロナ対策を工夫していたので、私はお父さんと音楽制作現場でのコロナ対策などのことで意見を交換していたのだが、イチゴを食べていた政子は唐突に言った。
 
「アルバムのタイトルを変えよう」
「へ?」
「アクロスとか楽しくないよ」
「そぉ?」
「アクアを題材にして、七色のドレスを着せたアクアを愛でるのとかならいいけど」
「それは却下。でも何かアイデアあるの?」
 
「ホームワークがいいよ」
「へー!」
 
「だって、みんなコロナで外に出られなくて、家の中でお仕事してるでしょ。だからホームワーク」
 
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「それはタイムリーだけど、どういう曲目で揃えるわけ?」
「国語、算数、英語、理科、地歴公民、音楽、体育、家庭科、道徳、学活」
「ああ、それはいけるかも」
「こないだから少しずつ書いてた、新ABCの歌とか英語の宿題になるよね」
「なると思う」
「DNAさんからお手紙着いたは医学?」
「まあ生物でもいいかな」
「女の子の作り方は保健体育かな?」
「精子と卵子を結合させて作るのなら保健かも知れないけど、材料を混ぜ合わせて作るなら化学だったりして」
「ああ。理科を化学、生物、地学、天文とかって分ける手もあるよね」
「物理が無いの?」
「ああ、それを入れてもいいよ」
「まあ地歴公民は、地理、歴史、倫理、政経、現社とかって分けてもいいでしょうね」
とお父さんも言う。
 
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夏の日の想い出・ホームワーク(2)

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