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■夏の日の想い出・ホームワーク(10)
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目次 8
時間索引 #
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その日、アクアMは唐突に思いついてアクアFに言った。
「ねえねえ、ボクたち朝8時に分離して夕方5時に合体するから、その後、ペンダントで分離するじゃん」
「うん」
「その合体前にペンダントを使ったらどうなるのかな?」
「あ、それは考えてなかった。もしかしてNちゃんを分離できないかな」
実はこれまで時々出現していたNが11/3以降は1度も出現していない。
それでその日、アクアFは16時すぎにMと交替して控室(アクア専用)に入った所で
「分離できますように」
と祈ったのだが、その時は何も起きなかった。
「Nちゃん、出て来てくれないのかなあ」
とがっかりしたのだが、その日は17時になっても合体せず2人のままだった。
「早めに使うと分離が維持されるのかも」
「だったらきっとペンダントを使った12時間後に合体するんだよ」
実際アクアは和城理紗にアクアの滞在している部屋(ホテル昭和のコテージ“桜”の一室)に居てもらい、気をつけてもらっていたら、本当に朝4時すぎに合体してしまったらしい。
それで2人の推測が当たっていることが分かる。
「これだと17時にいったん現場を抜けなくても撮影を続けられるね」
「うん。だいぶ運用が楽になると思う」
アクアFはその日は妊娠した右大将(男姿なのでアクアM)が権中納言(白鳥リズム)に導かれて、宮中から宇治の館に行く所を、郷愁村から郷愁飛行場に向かう細い“作業道路”(山道!舗装されていない)を使って屋外ロケした。
シナリオではこの車の中で男姿から女姿に服装をチェンジすることになっている。それで予め控室で小袿姿になり待機しているFと位置交換する。多くの出演者は小袿姿の上に束帯を二重に着ていて、牛車の中で脱いだのだろうと思っている。
牛車から女姿で降りるシーンを撮影した後で、自動車に乗り換えて(郷愁村と飛行場を結ぶ舗装道路を通り)、平安村に移動する。この時、アクアFは美高監督と同じ車に乗った。そろそろ16時だから、ペンダントを使わなければと思ってバッグから取り出す。するとそれを美高監督が見て
「きれいなペンダントね」
と言った。
「はい。これ友人のお母さんからもらったお守りなんです」
とアクアFは焦って言う。
しかしFは首をひねった。
「どうしたの?」
「なんかいつもと色が違う気がして」
すると美高監督は言った。
「もしかして、もっと紫色に見えてたとか?」
「そうなんです!今は凄く青い」
「これはたぶんカラーチェンジ・スピネルだよ」
「カラーチェンジ?」
「そのペンダント、再度そのバッグの中に入れてごらんよ」
「はい」
「それで懐中電灯か何かで照らしてみて」
「はい」
夜道を歩いたりする時のために、いつもバッグに入れている懐中電灯を取り出しバッグの中のペンダントに当ててみる。
「あ、いつもの色です」
「スピネルの中には、太陽の光の下では青くて、人工の光の下では青紫に色が変わるものがあるんだよね」
「へー!」
「こういうカラーチェンジ効果はアレキサンドライトが有名だけど、スピネルでも起こすものがあるんだよ。かなりレアだけどね、これは恐らくコバルト・スピネルだと思う」
「じゃこれかなりレアなんですか?」
「うん。カラーチェンジ効果があって、このサイズなら50-60万円したと思う」
「きゃー!そんな高価なものとは知らなかった」
「まあそのお友だちのお母さんにはよくよく御礼を言った方がいいね」
「はい」
アクアは今度自宅に帰ったら稲荷寿司をどっさりお供えしよう、と思った。
この日は監督とそんな話をしていたので、うっかり分離をお祈りするのを忘れていて、17時でいったん統合してしまったので、慌ててお祈りして再分離した(偶然にもFが残ったので助かった)。
しかし一瞬アクアが消えたので
「あれ?アクア君どこ行った?」
と現場では騒ぎになりかけた!
あけぼのテレビで有料番組を流す時に、無料視聴者は強制的に無料の別番組に切り替わるようになっている。この無料の別番組は、主として信濃町ガールズ(練習生メンバーを含む)の子たちのパフォーマンスが録画方式で流されていて、再放送・・・というより、サイクル放送が多い。つまり同じ番組がだいたい10回以上は流れる。
ある時期からネットで、この無料放送番組の“放送予想”が行われているのに気付いた私たちは、きちんと放送予定表を作り公表するようにした。すると、結構な視聴率の出るパフォーマンスも出て、特定のガールズのファンができるようになってきた。ファンの間では、この“有料放送中の無料放送”のことを“あけぼのテレビBチャンネル”と呼ぶようになっていた。
有料放送のチケットを持っているのに、わざわざ別アカウントを取って別のパソコンであけぼのテレビに接続し、飛ばされるようにしてBチャンネルを録画しておく、などという人も出てくる。
いっそのこと常時Bチャンネルを放送してもらえないかという要望も多く寄せられたので、私たちは8月から、このBチャンネルを常時放送に切り替えた。本放送(Aチャンネル)は、平日17:00-26;00, 休日8:00-16:00, 17:00-26:00の放送であるが、録画番組を自動で流しているだけのBチャンネルは24時間放送しておいてよいので、ノンストップ放送にした。Bチャンネルを放送しているサーバーは本放送のデーダセンター(群馬県桐生市・兵庫県姫路市)とは全く別の場所(非公開だが北海道石狩市)にあり、Aチャンネル(トリプルスター)とは全然別のネット業者(大手レンタルサーバー会社)の回線につながっている。これはあけぼのテレビの“常時接続可能回線数”外のものである。実際接続回線数を気にしなければならないほどのアクセスは無い。
そしてこのBチャンネルを“使いたい”と言ってきた人があったのである。
TKRの松前社長である。
「うちのアーティストのライブをそこで放送できない?」
と打診してきた。
TKRの主としてセミプロアーティスト(ヴェール・ダルジャン契約の人)たちのパフォーマンスを流したいということだった。大手のレコード会社は既に平日の21:00-22:00の枠でAチャンネルで新譜を中心とした曲紹介の番組を持っているのだが、TKRは、敢えてBチャンネルでやりたいということだった。
仙台のクレールで土日にライブをしていたような層である。ただクレールでのライブは東北の人でないと困難だったので、それを全国に広げたいということらしい。TKRが、全国10ヶ所(旭川・長岡・津幡・静岡・尼崎・呉・鳴門・鳥栖・都城・恩納)に設置する専用スタジオ、および東京のあけぼのテレビ、仙台のTKRスタジオからライブ中継すると同時に録画を9回再放送する。つまり10回放送するのを1パッケージとする。
TKRがあけぼのテレビに払う放送料は1バッケージ10万円という安い料金だが、元々無料で放送しているものだし、見込まれるアクセス数はせいぜい数百件(元々普段は数人からせいぜい20-30人を相手に演奏している人たちである)。こちらも儲ける気は無いので、当面それで行ってみることにした。
中継・録画の拠点にする所は、できるだけ大都市を避けている。そして何らかの使える施設のある所である。津幡は津幡のアクアゾーン内に設置するスタジオ、旭川は2年ほど前にアクアの『青い城の姫』のPVを撮影した時に、撮影用のお城を建てた土地(千里の知人の私有地)に、新たにスタジオを建設した。ここに建てていた城(建築費5000万円)自体は廃棄するには惜しかったので神奈川県内の紅川会長の私有地に移動(解体移築・・・だと思う)したのだが、土地はその後空いていた。
他の場所もだいたい関係者の私有地である。
恩納(おんな)は木ノ下大吉先生の御自宅のすぐ傍にある“北那覇リゾート”内に設置するスタジオを使用する。“北那覇”などと称しているが、那覇市の北端からでも30kmも離れている。詐欺もいい所である。このリゾート内には明智ヒバリ(照屋清子)がノロを務める明星御嶽(あけしょう・うたき)と伝統資料館もあり、ヒバリはこの資料館の館長も兼任している。ここを所有している不動産屋さんの社長(すっかりヒバリのファンになってしまった)の好意で、敷地内にスタジオを建てさせてもらえることになったのである。
セシルは白河夜船社長から
「君、お茶できる?」
と訊かれた。
セシルは勘違いした!
「すみません。社長さんは素敵な男性だとは思うのですが、私、男の人とお付き合いするのは、まだ心の準備ができてなくて・・・」
そばで聞いていた事務の穴吹早瀬が、吹き出した。
「あ、いやそういう意味じゃないよ」
と社長は照れてる!
「茶道の経験はあるかと尋ねただけだよ」
セシルは真っ赤になった!
「ごめんなさい!勘違いして」
「僕は商品には手を出さないポリシーだから」
と白河社長はまだ照れながら言っているが
「奥さんの件は?」
と穴吹さんから突っ込まれている。
「いや、その件は・・・」
と恥ずかしそうに口籠もっている。
セシルは答えた。
「茶道はやったことないです」
「だったら1度講習を受けてきてくれない?」
「はい、行ってきます」
それで穴吹さんに手配してもらい、カルチャーセンターの茶道教室を受けに行くことにした。
「折角お茶をするなら和服で行きなよ」
と言われ、衣装の和服を出してもらう。肌襦袢は新品を出してもらい身につけるが、セシルが教えられなくてもちゃんと着るので、
「和服は結構着てる?」
と尋ねられる。
「そんなによく着る訳ではないですけど、姉に教えられて、お正月とか和服を着ることあったし、夏にはお祭りとか見に行く時浴衣だし」
とセシル。
「じゃこの服もひとりで着られるかな?」
「自信は無いけど、やってみます」
と言ってセシルはお正月によく姉の服を借りて(女物の)和服を着ていた時のことを思い出しながら着てみた。
「うまいじゃん。おはしょりもちゃんと作って、帯まで自分で締められるというのは凄いよ」
「前で結んで180度回転ですけどね」
「いや自分で後ろ手で締められる人はいないと思う」
「そんなもんですかね。でも後に結び目作るのって面倒ですね」
「帯の結び目って昔は前に作っていたらしいね。太夫道中の太夫が前結びしているけど、あれが元々の流儀。ところが江戸時代後期の吉原で後ろに美しい結び目を作るのが流行って、その後、一般の人たちの間でも未婚の娘がそれを真似するようになった。でも既婚者は前結びだったらしい」
「未婚と既婚で違ってたんですか?」
「娘の帯はお母さんが結んであげられるから」
「なるほどー」
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