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■夏の日の想い出・ホームワーク(5)

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(C) Eriko Kawaguchi 2021-01-11
 
2020年11月16日(月)。
 
NHKから今年の紅白歌合戦の出場者が発表された。私たちは例年通り、出場は(打診はされたものの)お断りしている(フォーク歌手やロッカーのようなポリシー的なものではなく、マリが長時間のリハーサルに耐えられないため)のだが、§§ミュージックのタレントで、今年は、アクア・ラピスラズリ・白鳥リズム・品川ありさの4組が出場することが発表された。ラピスラズリと白鳥リズムは初出場である。
 
先日の“総選挙”の通りなので、ファンの間にも大きな動揺は無かった。初出場となった、ラピスラズリ・白鳥リズムのファンの間ではおめでとうメッセージが大量に飛び交っていた。
 

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11月16日から東京北区尾久(おぐ)のマンションで暮らすようになった恵真だが、ここ1週間ほどのホテル暮らしに比べると、だいぶ落ち着いた暮らしができるようになった。
 
ホテルの妙に柔らかいベッド、薄い毛布?(布団?)だけの寝具にはどうも馴染めなかったが、母たちが自宅から持って来てくれた自分の布団に寝るとぐっすり睡眠を取ることができる感じである。
 
洗濯機や冷蔵庫などは事務所の人から、前の住人さんので良ければそのまま使ってと言われたのでそのまま使わせてもらう(事務所の人が念のためクリーニングと消毒をしてくれた)。そのほか、母が炊飯器やIHヒーター、鍋や皿などを買って持ち込んでくれている。母から作っている最中に眠ってしまったりすると危険だからガスは使うなと言われた。
 
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ここ1週間ほどのホカ弁やファーストフードばかりの食生活はちょっと辛かったが、食料については、母と姉がお肉を大量に買ってきて小分けして冷凍室に入れてくれているし、タマネギ・ジャガイモ・人参なども置いていってくれた。お米も5kgを1袋置いてってくれているので、深夜(高校生なので“原則”22時で解放される)帰宅してから、それで晩御飯(夜食?)を作って食べている。朝御飯はたいてい食パンやコーンフレークなどにしている。姉が大量に冷凍御飯を作ってくれていたので、それを解凍して、料亭の味(インスタント味噌汁)と一緒に食べたりもする。自分で御飯を炊いた場合は、すぐ食べる分以外は全て冷凍用パックに詰めて冷凍してしまう。
 
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「タレントって、こんなに忙しい生活なのか。大変だなあ」
などと恵真は思っているが、むろんこんなに忙しいのは、ごく一部の人たちだけであることを恵真は知らない。
 
(松梨詩恩なども突然忙しくなり悲鳴をあげている。花咲ロンド・石川ポルカも悲鳴まではあげていないが、これまでの倍くらいの仕事をしている。松梨詩恩はよくこれまでアクアはこんな量の仕事をこなしてたよと思っていた。実際これまでのアクアの仕事の半分程度を、松梨詩恩・米本愛心・羽鳥セシルの3人で主として分担し、一部を他の子に割り当てているのに、詩恩・愛心・セシルの3人とも、超多忙になってしまったのである)
 

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それは恵真がこのマンションに入居してから4日目11/19の朝だった。
 
恵真はこの日、学校に行く前に一仕事して欲しいと言われていて、朝5時にマネージャーの村田さんが迎えに来ることになっていたので、恵真は4時には起きなきゃと思っていた。しかし昨夜は22時に仕事が終わる予定が24時近くまでずれこみ、美咲マネージャーに送られて帰宅したのが24時半、寝たのが1時半である。
 
さすがに起きられず、スマホのアラームが鳴ったのにも気付かず寝ていたら、トントンと肩を叩かれる。
 
「はい!?」
「エマちゃん、時間だよ、起きなきゃ」
と声を掛けてくれたのは、5-6歳くらいの女の子である。今どき珍しい和服を着ている。
 
スマホを見たらもう4:30である。
 
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「わ、こんな時間。でも君誰?」
「私はサユだよ」
「どこから入ってきたの?」
「あっち」
と言って、女の子は奥にある神棚の鏡を指さす(恵真は、窓が無くて落ち着くので神棚のあるサービスルームで寝ている **)。
 
「へ?」
「じゃお仕事大変だろうけど、頑張ってね。そうそう。今日ナンバーズ買うなら8052を買ってねって“かんな”さんから」
とその“サユ”という女の子は言った。
 
「8052?」
と恵真は今言われた数字をリピートした。
 
女の子は本当にその鏡の方に戻って行き、姿を消した。恵真は彼女のお尻にシッポが生えているような気がした。
 
(**)窓からは妖気がわずかに漏れ込んでくるのだが、これまでマラはその霊的な力で撥ね除けていたし、筒石は豪快なのでその程度はものともしていなかった!つまり“普通の人間”には窓の無いサービスルームがいちばん寝やすい。
 
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西湖の学校では、来年3月の卒業式を控えて、3年生の進路調査が行われていた。レベルの低い学校だけあって、大学進学希望者は少数である。なお大学進学希望者はこの春から毎日放課後に受験生向け補習が行われ、多くの子がそれに参加していた。文佳などは大学進学希望らしい。
 
「すごーい。文佳ちゃんどこ行くの?」
「青山を狙っているんだけどね」
「よくそんなレベルの高い学校受けるね!」
 
青山は"MARCH"の一角である。つまり関東の私立では早慶の次にランクされる。
 
「でも1組の香住ちゃんは横浜国大狙ってるよ」
「すごーい!国立とか」
「もし合格したら、うちの高校からは10年ぶりの国立合格者になるらしい。今の所C判定なんだけどね」
「すごーい」
 
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と、こういうレベルの高校である。西湖たちのクラスに多い芸能人の子はほとんどがそのまま就職・・・というより芸能活動に専念予定である。しかしその中で1人だけ大学、しかも国立を受けると言っていた子がいた。
 
何でも目立つことをしたがる紀子である!
 
「マジで受けるの?」
「どこ狙ってるの?」
「東大」
「それは地球が爆発でもしない限り不可能」
「人類がほぼ滅亡して、地球上の全人口が東大の定員より少なくなったら可能性があるかも知れない」
 
「と言われたんで、ランク下げて埼玉大学の教育学部。埼玉大の中ではいちばん偏差値が低い」
「学校の先生になるの?」
「私、ピアノ弾けるし、フルートも吹くし。音楽教育コースを狙っている」
「ピアノ弾けても、歌が音痴じゃ無理だと思う」
「えーん」
 
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西湖も一応担任の先生と面談をしたのだが
「芸能活動に専念します」
「まあ、あなたはそうでしょうね」
という会話だけで5秒で終了した! 三者面談も省略された!!
 
母には一応電話して「面談はあったけど、それで終わったから」と伝えておいた。母はそれは了承した上で
「あんた、卒業前に性別を変更しない?」
と再度言っていたが、西湖はあらためて拒否した。
 
なお母には桜木ワルツのことは伝えているし、ワルツ自身、わざわざ九州から出て来てくれた母と一緒に黒部座の本部まで行き、西湖の両親に挨拶して“同棲”することに承諾を得ている。西湖は多忙すぎて行けなかったのだが
 
「今どき、レスビアンも珍しくないわよね」
などと母は言っていたらしい。もっともワルツは西湖Mの方と結婚するつもりだし、自分の母には「西湖は仕事上“女の子タレントのアクア”の代役をしているから常時女装しているけど医学的には男子だから」と説明している。ワルツの母は「ああ、歌舞伎の女形(おやま)みたいなものか」と言っていた。西湖が若いこともあり、まだ正式な婚姻届は出さないと言っており、正式に届けを出す前にはワルツは父も連れてくると言っていた。
 
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むろん西湖が分裂していることを西湖の両親は知らない。また西湖の両親は、西湖が密かに性転換手術を受けたものと思っている。
 
そして、この時点では西湖自身、自分が11月頃に1人になってしまうなんて話は全く聞いていなかった!
 

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11月3日の夕方、千里は3年半の分裂状態に終止符を打ち、1人に戻った。それに連動して、アクア・西湖・桃香もいったん1人になってしまったので3人とも慌てることになる。
 
桃香は取り敢えず11月4日は季里子には“出張授業”に行ってくると告げ、塾は休んだ上で千里のマンションに居たら、美映が緩菜を連れてきて「貴司を買い取って欲しい」と千里に申し入れる場面に遭遇した。千里は買い取りに同意し、5000万円の“代金”と交換に貴司と美映の離婚届け、貴司と千里の婚姻届の内貴司の分が記入済みの用紙を千里に渡し、緩菜も千里に預けて大阪に帰ってしまう。
 
貴司は帰宅したら自分が“売却された”ことを聞いて仰天するが、美映と電話で喧嘩した上で、離婚に同意(離婚届けは既に提出されている)、千里と結婚したいと言った。
 
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桃香は2人に別れていたのが1人になってしまったし、千里からは身を引き、季里子との生活だけをしようかとも思ったが、それだと浮気を我慢できる自信が無いと悩んでいたら千里が貴司と“寝て”いる間に唐突に2人に戻ってしまった。これ幸いと1人は季里子の家に帰宅した。つまり塾を休んだのは1日だけである。
 
この後、桃香は5日朝、30分ほどだけ1人に戻ったのを最後に、その後は安定して2人の状態になり、1人は“季里子の夫”で“来紗と伊鈴の父”、1人は“千里(1)の夫”で“早月と由美の母・京平と緩菜の父”として生きていくことになる。“季里子の夫”の桃香は季里子ひとすじで浮気はしないが、“千里(1)の夫”の桃香は、わりと自由に色々な女の子との恋愛を楽しむ。桃香が2人いることを知っているのは千里(2と3)と京平くらいだが、たまに入れ替わっていることがあるのは千里(1)にも内緒である。
 
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2人の桃香は同性であることを除けばアクアFとMに近く、片方がお酒を飲むと他方も酔うので、運転などには気をつけている。2人を見分けることができるのは、千里2・千里3・京平くらいである。緩菜はわりと欺されている。青葉は桃香の分裂に気付いていない。
 
なお“季里子の夫”の桃香は、翌年2021年4月に季里子とパートナーシップ宣言することになる。つまり4月には次の3組の結婚式がほぼ同時に行われる。だから実は千里は重婚はおかしてないのである。
 
桃香B×千里1
桃香A×季里子
貴司×千里2
 
F神社の辛島宮司が千里たちの結婚式をおこなってよいか占って吉と出たのは、重婚のようだが実は重婚ではないからである。
 
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西湖はそれまでもしばしば1人になったり2人になったりしていたので、11/3夕方に唐突に1人になってしまった時も特に慌てなかった。ただ次2人になったのが11/4の夜だったので「今回は長かったなあ」と思った。1人しかいなかったので11/4は学校は休み、1人だけになった西湖が仕事には行った。11/5朝、2人いるので、 いつものようにFが学校に行きMは午前中仮眠してから仕事に行こうと思っていたのに、また1人になってしまったので困った。
 
困っている所に、いつも西湖のマンションに出入りしている“おキツネさん”たちが出て来て、京平さんという偉いオキツネさん?を呼んできてくれた。京平さんは西湖にペリドットの指輪を渡し「この指輪を填めて2人になれるよう念じたら、2人になれるよ」と言った。
 
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それで西湖は11/5以降、毎朝8時頃2人に分裂し、午前中はFが学校に行き、午後からはMが仕事に行くという生活を送ることになる。2人は分裂から9時間ほど経った17時頃に統合されるようであった。
 

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いちばん混乱したのがアクアである。アクアは3人から2人になってしまった1月以降、1人にまで統合されるのは時間の問題と意識し、その時期はたぶん10月頃、遅くても11月までには1人になると千里から予告されていた。それでFは多分消えるのは自分だろうと覚悟を決め。“自分が存在していた記念に”ヌード写真の撮影もした(実際には水着写真のみを公開)。
 
更に3人のアクアがいた記念のアルバムも制作し、2人のアクアが主演した映画『君はダイヤモンド』まで撮影した。11/3夕方に1人になってしまってから、とうとう“時が来た”んだと認識し、残った側のアクアFは泣いた。
 
しかし11/4の夜遅く、唐突にMが復活する。5日朝にはまた1人になってしまうのだが、今度はMが残ってFが消えたので、Mは自分が消える側だったのかといったん自分を納得させたのにと戸惑う。しかしMとFは、どちらが残るかは「統合の時に前に立っていた側」であるという“法則”に気付く。
 
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数ヶ月前に千里さんが言っていた“ゲッターロボ”の合体の話がヒントになったのだが、恐らく千里さんは自分がこういう状態になることを知っていたのだろうとアクアは思った。
 
その後、アクアは毎朝8時頃に2人に分裂して夕方17時頃に統合されるようになったので、17時頃、必ず仕事先のトイレなど(**)で落ち合い、日替わりでFとMが“表に出る”ようにした。つまり毎日日中と夕方以降で別のアクアがお仕事をするようにしたのである。もっとも完全に2人いた時に比べれば仕事の負荷は大きかった。
 
それで山村マネージャーに言って、取り敢えず時代劇スペシャルの撮影をする間は、レギュラー以外の仕事は、他の子に代わってもらうことにした。
 
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しかし毎朝8時頃分裂して夕方17時頃統合されるのがとうにも不思議な気がする。
 
「好きな時に分離できたら楽なのに」
とアクアは思っていた。
 
(**)“平安村”での『とりかへばや物語』の撮影では、和城理紗に頼んで、アクア専用控室を作ってもらった。主演俳優なのだから、そのくらい用意するのも不自然ではないので美高監督は了承して設置してくれた。
 

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