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■夏の日の想い出・ホームワーク(12)
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その日、§§ミュージックの男子寮(世田谷区用賀)の木下宏紀の部屋に姉の春恵が訪ねてきていた。この寮は基本的に部外者は立入禁止なのだが、四等親までの親族(つまりおじおばまで)の場合、予め発行済みの写真付き親族証を受付で提示すれば中に入ることができる。
「これ、進路関係の書類、お母ちゃんに書いてもらったの持って来た」
「ありがとう」
「でもあんた、本当に大学受けるつもり?」
「この大学ならボクの学力でも入れると思うんだよね」
「だけど、時間あるの〜?仕事忙しいんじゃないの?」
「今のところ、テレビとかに出るのは週に2〜3回だから、両立できると思うんだよねー。まあ忙しくなったら退学してもいいし」
「他にレッスンとかもあるんじゃないの?」
「歌、楽典、ダンス、ピアノ、ギター、フルートを習ってる」
「やはりスケジュール的に無理がある気がするなあ。それに大学生は学業優先にはしてもらえないでしょ?」
「うん。西宮ネオンさんとかも、授業時間無視してどんどん仕事入れられるから結局退学しちゃったし」
「そりゃそうだよ。学業優先は高校生までだよ」
姉があくびをする。
「眠かったら少し仮眠する?ボクの布団で良ければ使って」
「じゃ借りようかな。昨夜、徹夜でレポート書いてたから」
「学生さんは大変だねー」
「リモート授業だからレポートが多いのよ。あんたも大学入ったら、大変になるよ。来年4月の時点ではどう考えてもまだコロナは終息してない」
それで姉は宏紀の布団に潜り込むと眠ってしまう。宏紀は机で宿題をやっていたのだが、ふと自分がけっこう汗を掻いていることに気付く。そういえばダンスのレッスンの後、汗を流していなかった。レッスンの後にドラマ出演(チョイ役だが)があったので忘れていたのである。
「汗を流してこようかな」
と呟くと、バスルームに行き、お湯を溜めた。ここのお風呂はお湯の深さを設定してお湯を出せばその深さで自動的に停まってくれるタイプである。宏紀はお湯が溜まる間、部屋に戻り宿題をしていた。
やがて給湯が停まった音がするので、再度バスルームに行く。ここは1DKの部屋で、8畳の個室とDKがあり、DKに隣接して洗面台兼脱衣室があり、この洗面台の所から、左側にトイレのドア、右側に浴室のドアがある。
宏紀は着ていた服を洗濯したかったので、キッチンで服を脱ぐと、そこに置いてある洗濯機の中に放り込んだ。洗濯槽内に結構服が溜まっているので、スイッチを入れて回す。そして裸で浴室に入った。
最初にあの付近を軽く洗い、それから髪を洗って、顔を洗い、腕と胸を洗う。胸は軽くマッサージもする。乳首を中心に、胸の外縁付近を丸く刺激していく。その後、お腹付近も洗う。
再度デリケートな部分を今度は手に石鹸を付けて丁寧に洗う。左手で開いて押さえておき。その間に右手の指でよく洗う。その後、左手でシャワーを持ちお湯を当てながら、右手でソフトに洗ってきれいに洗い流す。洗い終え手を放すと敏感な部分はすぐ隠れてしまう。
その後、足を洗い足の指の間はゴシゴシと擦るように洗う。再度身体全体にシャワーを掛けてから、湯船に浸かった。
10分くらいゆっくりと湯船に浸かってからあがる。脱衣場に置いているバスタオルで身体を拭き、更にフェイスタオルで髪の水分を取る。
そして居室に戻ろうとして「あっ」と思う。
居室には姉が寝ている。
着替えを持って来ていない。
さっき着ていたのは洗濯機に入れて洗っちゃった。
夏以降一人暮らしになって、着替えを持って浴室に行くという習慣が無くなっていた。
「お姉ちゃん、まだ寝てるよね?」
などとつぶやき、そっと台所と居室の間のドアを開ける。姉はまだ寝ている。ホッとする。
それで衣装ケースの所に行き、服を取り出そうとしたのだが、途中でスマホの充電ケーブルに引っかかり、転んでしまった。
凄い音がする。
姉が起きてしまう。
こちらを見る。
「ごめーん。お風呂入るのに着替え持ってってなくて」
と宏紀は言ったのだが、姉は顔をしかめている。
「あんた、まだちんちん付いてたんだっけ?」
「付いてるけど」
もっとももそれはほとんど毛の中に隠れている。この子、きっと女湯パスすると春恵は思った。中学生女子くらいには見える。
「とっくの昔にそんなの取っているものと思ってた」
「ボクは男の子だよー」
「玉だけ取ったんだっけ?」
「玉もあるし取るつもりもないけど」
「じゃ女性ホルモン飲んでるだけ?」
「飲んでたら、おっぱい大きくなってるよー」
確かに胸は全然無い。でも全体的な体型は女の子のボディラインだ。なで肩だしウェストがくびれている。全体的に脂肪がついていて丸みをおびた体型である。腕も足も細い。そして肌が羨ましいくらいに白い。
本当に睾丸を除去してないのかは大いに疑問があるが、もし存在していても既に機能停止している気がする。女性ホルモン飲んでないなんて絶対嘘だ。だいたい乳首がかなり発達している。これはもう、男の子の乳首ではない。女性ホルモンが利いてなければあり得ない。
(ローズ+リリーのPVはこの時点でまだ公開されていない)
「ホルモン飲んでもあまり膨らまないのなら、高校卒業する前に、豊胸手術する?」
「何のために〜?」
「だって女の子になりたいんでしょ?」
「別になりたくないよー。ボク女の子と結婚したいし」
宏紀は、どうしてみんなボクが女の子になりたいと思っていると思うんだろうと疑問を感じながら、女の子のように可愛い声で答えた。
宏紀は衣装ケースから、ショーツ、ブラジャー、キャミソールなどを取りだして身につけ、可愛いTシャツを着てスカートを穿き、可愛いトレーナーを着る。それを見ながら姉はニヤニヤしていた。
「どうかした?」
「ううん。別に。そのスカート可愛いね」
「フェリシモで買ったぁ。でも下着はプリリが多いよ」
「ああ、あんたにはそのくらいがいいだろうね」
「ここの寮ってスカート派の男の子多いから、スカートで寮内歩いていても気兼ね無いんだよねー」
「ふーん」
スカート派はいいけど“男の子”なのかどうかについては疑問があるなと姉は思う。
「ところでヒロって、ヒゲ剃りは電動シェーバー?手で剃る?」
「ヒゲ?そんなの生えたことないから剃ったことも無い」
「なるほどねー。足のむだ毛とはは剃刀?」
「ボクあまりむだ毛は無いから、月に1回くらい剃刀で剃ってる」
「羨ましいな」
などと姉は言っている。
「ヒロ、ナプキンは何使ってるんだっけ?」
「センターインだけど」
「なるほどねー」
と言ってから姉はふと気付いたように言った、
「私、うっかり同じ色のマニキュア2つ買っちゃったんだけど、もし良かったらヒロ片方使う?」
「どんな色の?」
「これなんだけど」
「あ、可愛い色だね。こういう色好きー。じゃもらう」
「OKOK」
「ありがとね」
『とりかへばや物語』の撮影は11/22日以降、急速にスピードアップした。
これまでストーリーに沿って撮影していたのを、どうも撮影の順序をかなり入れ替えているようだなというのを出演者たちは感じていた。順序が入れ替えられているので演技をしていて混乱する出演者もいたが、ひとつひとつのシーンの撮影の前に監督が状況を説明してくれたので、何とかなっていく。
また恐らく一部の場面をカットしたのだろうと多くの人が考えていたのだが、実は当初の脚本からカットしたのは、矛盾点に気付いて削除した一部のシーンのみである。逆に一部追加されたシーンもあった。結果的には鱒渕さんが苦労して作ってくれた“省力シナリオ”は使用せずに済んだようである。
一応テレビ局には12月14日にはアクアを『少年探偵団』の撮影に参加させますと私は約束していたのだが、本当に間に合うか全く自信が無かった。しかし、22日以降のスピードアップの結果、12月5日には、一部の役者さんのみで撮るシーンを残して“暫定クランクアップ”するに至った。少なくともアクアの登場シーンは全て撮り終えることができた。
それで12月6日(日)からはアクアは『少年探偵団』の撮影に入ることができて、小池プロデューサーが大喜びしたのであった。結局、代役の中村昭恵(北里ナナ役)・木下宏紀(小林少年役)で撮影したのは11/29撮影分のみである。アクアは12/6の第2回全体撮影に参加した後、12/7には、11/29に中村・木下が演技した部分を単独で撮影し、編集で差し替えることになった。
「しかし2人でやってても結構辛かったねー」
「でも一安心かな」
と“暫定”クランクアップした夜、アクアFとアクアMはコーラで乾杯しながら自宅のリビングで語り合った。
「朝4時には1人になっちゃうけど、8時には自然分離するから、ほとんど2人いるのと変わらないよね」
「このままずっと行けるのかなあ」
「まあ1人になってしまった時はなった時だよ」
「本当に1人になった時、どちらが残ってもおかしくない気がする。まあFが残った時は過労死しないようにね」
「ほんとにどちらが残るか分からないよねー。でも残った方はマジで過労死するかも知れない。11月4日から21日まで本当に死にそうだったもん」
「こうちゃんさん、ボクたちが2人いることに気付いてないよね?」
「あの人、にぶいからね」
「女の子側が残ったと思ってるから、性転換させられる心配も無いし」
「これ当面秘密にしとこうよ」
「でないと仕事をどっさり入れられるの見えてるもんね」
『とりかへばや物語』の撮影は12/6以降は、アクア、今井葉月、姫路スピカ、リセエンヌ・ドオを除いた人たちで3日間だけ摂り続けられ、12/8に正式撮了となった。
アクアと葉月は休む間もなく『少年探偵団』の撮影に入ったのだが、姫路スピカとリセエンヌ・ドオは、実はライブがあったのである。
そのため、スピカ(帝役)の登場シーンは、12/3には撮影終了するように撮影を進めていた。
2020年12月6日(日).
姫路スピカ、バックバンドの乙女地区、コスモス、山鹿クロム(須舞恵夢)、スピカのマネージャーの本田覚の合計8名は、朝から郷愁飛行場に駐機した千里のG450に乗り込んだ。管制官からの離陸許可を得てこの長い滑走路を飛び立つ。そして1時間ほどの飛行の後、小浜のミューズ飛行場に着陸した。
ミューズ飛行場は今日オープンしたばかりで、その着陸一号機となった。一号機がムーラン・エアが所有する2つの空港の間の飛行だったというのは美しい、と小浜に来ている若葉が言っていた。
そして姫路スピカは念のため午前中は仮眠させておいて、山鹿クロムをリハーサル役に使って、午前中にリハーサルをした。
「え?このドレスを着るんですか?」
「女の子のスピカちゃんのリハーサル役だからね」
「ドレス着るの嫌?」
「いえ。着たいです。でも着てもいいんですか?」
「お仕事だからね」
それでクロムは嬉しそうにドレスを着て、スピカの演奏曲目を歌ってくれた。このリハーサル用衣装は、本番用衣装のレプリカである。内側は安い生地が使用されているが、いちばん表の生地は本番用と同じシルクなので、ライティングの確認には使える。
11時頃にリハーサルが終わり、バックバンドのメンバーが休憩を取る、
12時には、東京に居るリセエンヌ・ドオが、あけぼのテレビ内のスタジオで前座の演奏を始める。
そして13時。いよいよスピカの演奏が小浜ミューズシアターで行われた。司会は監修のために来ているコスモス自身が務める。今回は、司会を任せられることが多い川崎ゆりこはまだ『とりかへばや物語』の彼女の担当(左大臣)分の撮影が残っていたので、既に終わっているコスモス(右大臣の一の君)が司会も兼ねることにしたのである。
10月・11月の品川ありさ・高崎ひろかのライブは3000円で実施したのだが、今回は普通の生ライブの料金に近い、6000円(税込み)という設定にした。ありさ・ひろかの倍額設定である。
スピカはこれまでの全国ツアーでは8万人程度しか動員実績は無い。それでどうなることかと思ったのだが、結果は(発表しないものの)テレビだけでも60万回線(タイムシフトを含む)の接続があり、私もコスモスも驚いた。売上としては、高崎ひろかや品川ありさと大差無い金額になってしまったのである。
この売上は、現在国内で最高の人気があるバンド・ハイライトセブンスターズのネットライブ売上より多くなった!
これは鈴木社長の手前でも、数値を公表しなくて良かったと私とコスモスは言い合った。スピカのクラスで生ライブに近い値段設定で売上がハイライトセブンスターズを上回ったとあらば、鈴木さんはきっと激怒する(激怒されても困るのだが)。
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