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■夏の日の想い出・ホームワーク(13)
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(C) Eriko Kawaguchi 2021-01-17
『少年探偵団IV』の撮影だが、アクアが欠席した11/29は北里ナナとそっくりの少女歌手・南山ハナというのが登場し、本人は生き別れになったナナの双子の姉妹であると主張し、それが本当なのか?
といった話を撮影する予定だったのだが、アクア抜きでこんな面倒くさい話を撮っていたら、あとで差し替え編集が大変になる。実際この話では、小林少年、北里ナナ、南山ハナ、小林少年が変奏した北里ナナ、という4つの役柄をアクアが1人で演じなければならない。それでこれは代役だけでは無理、ということになり、予定を変更し、本来は5話目でやる予定だった『宇宙怪人』の話を撮影した。
原作では、二十面相はハリボテのUFOを伝書鳩に運ばせるというトリックを使うのだが、現代ならそんなものは簡単に見破られてしまうので、ドローンのUFOを飛ばす設定にして、実際に円盤状のドローンを制作し、夕闇の中で飛行させて撮影した。映りやすいように地上からレーザー光線のライトを当てている。これは東京でやると騒がれるので、結局適度に大都会である福岡市で早朝、天文薄明開始直後の時間帯に撮影している(福岡空港の稼働開始前にしてくれと言われた)。背振山から海の方向へ飛ばして、志賀島北端で回収している。
実際原作でも、アメリカの仲間は金持ちだから無線操縦で円盤を飛ばした、などと書かれている。
(二十面相だって、鉄塔王国とか“月世界”とか作ったりしていて、相当のお金持ちだと思うのだが)
北里ナナはUFOを見て驚くシーン、宇宙怪人と遭遇して勇敢にもそれを追いかけたものの見失い
「あれ?美少女歌手の北里ナナちゃん?どうしたの?」
「今宇宙怪人を追いかけてきたんです。怪しい人物を見ませんでしたか?」
という会話を虎井博士と交わす、などといった場面があった。
原作の『宇宙怪人』には(松島)ナナは登場しないのだが、要するに女装のアクアを放送しないと視聴者から苦情が来る!ので強引に入れた場面である。
(少年探偵団は1年目は小林の女装シーンは数回しか無かったのに、年度が進むにつれ、どんどん頻度が上がっている!)
「あのぉ、この台本で、どうして北里ナナが出てくるんですか?物語に全然絡んでないと思うんですけど」
と台本を見たアクアが質問したりする。
「いや、関係無くてもナナちゃんを映さないと苦情が来るからさ。小林少年の女装でもいいよ」
と監督は答えていた。
そしてアクア本人が入って初めて撮影されることになった、12/6撮影の第2話は、怪人二十面相が、人気上昇中の美少女フルーティストが吹く豪華なフルートを狙うという話だった。
元々はロマノフ王朝の姫君が使っていた品で、美少女の祖父がロシアの亡命貴族から脱出の手助けをしてもらった御礼にもらい、祖父の奥さんが吹いていたものが、孫娘に伝えられた、などという触れ込みになっている。
この美人フルーティスト役に新人の羽鳥セシルが起用されたのである。実を言うと羽鳥セシルがフルートが上手いので、この話が脚本化されたというのが実情だった。
この話にも北里ナナは、この美少女フルーティストの友人として登場している。(あくまで女装のアクアを映したいという要望に押されている)
セシルが吹くフルートは、この話が放送される予定の1月中旬から2月一杯まで放送局のエントランスに展示する・・・予定だったのだが、密になると困るという政府からの要請で、放送局の上の階に設けた特別展示室に展示し、見るには予約が必要ということにした(観覧自体は無料)。すると予約がびっしり入り、結局展示は3月いっぱいまで延長された。
セシルは吹き替え無しで本当にこの特別なフルートを吹いており、演奏の音も本人が吹いた音を放送で流している。また同局のお昼の情報番組が彼女をスタジオに呼んでリアルでこのフルートを吹いてもらうということもしていたが、彼女の演奏は、本職の人たちからも『充分上手い。音大生レベル』と褒められ、笑顔でお辞儀しておいた。もっともセシル本人は『音大生といってもピンからキリまであるよな』と内心は冷静に受け止めた。
事件では、セシル演じる美人フルーティストはフルートごと誘拐されてしまい、それを友人の北里ナナが小林少年と一緒に助け出すという展開になっていた。例によって二十面相はイミテーションのフルートと、美少女に変装した小林少年に欺され(アクアは女装すべし!)、油断している間に捕縛されるという展開である(二十面相は目利きのはずなのに、偽物で欺される話がわりと多い)。
撮影は、北里ナナ:アクアと小林少年:葉月、北里ナナ:葉月と小林少年:アクア、と2回撮影して合成している。
アクアと葉月は長年コンビを組んでいるだけあって、お互いに相手が1回目の撮影でしたのと同じ動きをし、同じ速度でセリフを言うのだが、セシルも1回目と2回目で完全に同じ動きをし、同じ速度でセリフを言ったので「合成しやすい。助かる」と監督から褒められた。
また“美少女に変装した小林”が二十面相を断罪するシーンは、“変装を解く”直前まで実際にはセシルが演じている。そのセリフ回しが堂々としていて演技力があるとセシルは褒められた。
「君、男言葉で話すのもうまいね」
と感心されたが、セシルはちょっと内心冷や汗を掻いた。
セシルはこの回の演技で多くの人から注目され、結局3月にもう一度出演することになった。
12月10日(木)、浜梨恵真(羽鳥セシル)はその日いつものようにお昼までで学校を早引きし、運転手の山口さんに送ってもらって放送局に向かったのだが、車内で
「セシルさん、これ穴吹さんから渡しといてと頼まれました」
と言って何かの紙の束をもらう。
「これは?」
「報酬の明細らしいですよ」
「枚数多いですね!」
「たくさんお仕事しているから。振込額は最後のページの一番下に合計かあると思います。振込先は届けられている###銀行の口座だそうです」
「分かりました。ありがとうございます」
チラッと最後のページの最後の行を見る。
「8万2千円か。まあ最初はそんなものかな」
と呟いて、恵真は明細をバッグの中に入れた。
恵真は先日当ててしまったナンバーズの振込金112万円の内、30万円を即母に返した。そして残り82万円の内、30万円は常用口座の###銀行に移動しておいた。つまりみずほ銀行に52万円と###銀行に30万円になっていた、その内20万円ほどを使っていたので、残りは10万円になっていた。しかし今日お給料をもらったから、残高は18万円になったと計算する。
「取り敢えず5万円くらい降ろしておこう。足りないから後でみずほ銀行から移動しておかなくちゃ」
と思い、その日仕事が終わってから深夜のコンビニに行く。手数料を取られるけどしかたないよなと考えながら、お金を引き出す。
それ以外に突然食べたくなったカツサンドとお茶、それにお供えする稲荷寿司を買ってマンションに戻った。
冷凍していたシチューをレンジで温めながら、お稲荷さんをお供えした後、カツサンドは食べちゃう。
「疲れた時はやはりお肉だよね」
などと思う。
恵真は今降ろしたお金の明細書を見て、違和感を覚えた。
恵真の頭の中では残高10万の所に事務所から8.2万円振り込まれたから18.2万円になっていたと思っていた。そこから5万降ろせば残高は13.2万のはずである。ところがATMの明細書を見ると残高は8万2千円に見える。
「おかしいな。なんでこんなに少ないんだろう?」
と思って悩む。
悩んでいたら、鏡の中から“サユ”さんが出て来た。
「エマちゃん、どうしたの?」
「いや、なんでお金がこんなに少ないんだろうと思って、18万円あった所から5万円引き出したから13万になったと思ったのに、残高が8万円しかないから」
するとサユさんはATMの明細を見て言った。
「エマちゃん、ちゃんと桁を数えなよ。これ8万2500円じゃなくて、825万円だよ」
「へ?」
と声をあげてから、恵真はしっかりと桁を数えてみた。
「嘘!?なんでこんな凄い金額が口座にあるの〜〜?」
と恵真は思わず声を挙げる。
「1桁間違える人は時々いるけど、2桁間違える子は珍しい」
などとサユさんは言っていた。
(実際は残高10万円の所に11月分の報酬820万円が振り込まれて830万円になった。そこから5万円下ろしたので残高は825万円である)
「あと、この中から半分くらいは2月に税金として国に納めないといけないから、必ず半分は残しておいてね」
「分かった!それ取ってなかったら怖いね!」
2020年12月14-18日(月〜金)の5日間、あけぼのテレビで19:00-20:00の枠(普段は§§ミュージックの自主制作番組が放送されている枠)を使って、花ちゃん(山下ルンバ)の5日連続ライブが放送された。
元々花ちゃんは器用な人で、オーディションの時は物凄く可愛いアイドル歌手のような歌唱で上位入賞している。しかし彼女は「ほんとうの花ちゃんが分からない」と多くの人から言われるほど、様々な面を持っている。激しいハードロッカー、清楚なクラシック演奏家、大人びたポップシンガー、等々。
それで、川崎ゆりこが提唱して“様々な花ちゃん”を鑑賞するライブをやろうという話になったのである。
(『とりかへばや物語』の撮影が延びて、通常番組の制作が予定通り出来なかったという裏事情もある)
会場は仙台の“織姫”を使用し、普通のネットライブの形式で行う。
私たちは山下ルンバの知名度で、果たしてパネル参加の視聴者が集まるか懸念したのだが、§§ミュージックの全アーティストのファンクラブ全会員にDMしてみた所、5日間×(画像参加1000名+スピーカー参加2000名+書き割り用写真提供4000名)=35000人の枠に対して希望者が8万人もあり、倍以上の競争率となった。
むろん山下ルンバのファンクラブの人は優先したので、全員抽選無しで画像参加(本人が希望すれば音声参加)してもらうことができた。
初日、12月14日(月)は、“アイドル花ちゃん(川内峰花)”と称して、とっても可愛い白のプリンセス・ドレス(実はアクアが以前PVで着用した物!)を着て登場する。髪型もアイドルっぽいボブカットである。アクアのバックバンド・エレメントガードをバックに、北里ナナの曲、花ちゃん自身が紅型明美などの名前で様々なアイドル歌手に提供した曲などを歌った。
この日のライブを観た人の中には、今度新たに§§ミュージックが売り出す新人アイドル歌手のフロモーションだろうかと思った人もあったようである。
12月15日(火)は、“ロッカー・山下ルンバ”と称して、身体にピッタリした露出の多い赤い人工レザーのボンデージっぽいコルセット(自前 **)で登場する。髪はアフロヘアーである(ネットでは爆発ヘアと書かれていた)。メイクも真っ赤な口紅など、ド派手メイクである。
品川ありさのバックバンド・フィフティースリー(東海道五十三次!)をバックにして、ヴァニラ・ニンジャやリリックスといった海外のガールズロックバンドの歌を1時間格好よく歌った。
(**)表面だけ皮革に見えるように加工したものを“合成レザー”、不織布に樹脂を染み込ませ、芯からしっかり皮革のように作った丈夫なもの(クラリーノなど)を“人工レザー”という。なお§§ミュージックではポリシーとして、天然皮革・天然ファーは使用しない。ウールやビロードは、その動物を殺さないのでOK。
なお、花ちゃんは以前フィフティースリーのベースを担当していたので、旧知の仲間であり、息の合った演奏をしていた。一部の曲では花ちゃん自身がベースを弾きながら歌った。
12月16日(水)は“民謡歌手・高橋隼海花(すみか)”(*1)と称して、振袖(自前の加賀友禅)に日本髪で登場する。自身で津軽三味線を弾きながら、友人の太鼓・尺八・明笛の人(*2)に入ってもらい、出身地(彼女は佐賀県生まれ)九州の民謡を中心にたっぷり1時間歌った。「黒田節」「博多どんたくの歌」「おてもやん」、「長崎ぶらぶら」「おはら節」「刈干切り唄」「シャンシャン馬道中唄」など、知名度の高い歌を中心に歌った。リアルタイムの視聴率としては、5日間のパフォーマンスの中で最も低かったが、タイムシフトを入れると80万回線くらいは接続があった。最後は「博多祝い歌」で締めていた。
「今日はたぶん年齢の高いファンが増えたと思う」
とアルト社長は言っていた。
(*1)花ちゃんは実際に高橋流の津軽三味線の名取りである。
(*2)中学の同級生らしい。佐賀空港からホンダジェットで連れてきた。この飛行機可愛い!とはしゃいでいた。
12月17日(木)は“ポップシンガー・紅型明美”と称し、ツモリチサトさんのカジュアルなスーツを着て登場する。髪は自毛をポニーテールにしている(昨日の日本髪も自毛で結ったもの)。姫路スピカのバックバンド乙女地区をバックに、“大人のポップス”という感じの曲を歌った。
ちなみに乙女地区のベース以外は、以前花ちゃんと一緒に、桜野みちるのバックバンド・チェリーズをやっていたメンツである。桜野みちるが引退し、入れ替わりで山下ルンバがデビューした後、花ちゃん以外のメンバーが新たなベーシストをスカウトして、乙女地区を結成し、スピカの伴奏を務めることになったのであった。
そして最終日12月18日(金)は“ピアニスト・竹本和恵”と称し、イブサンローランのシックな黒のドレスで登場する。髪はゆるふわロングである。スタインウェイのコンサートグランドの前に座り、いきなりショパンの“ノクターン”を演奏する。その後、サティ『ジムノペディ』、ベートーヴェン『エリーゼのために』、パダジェフスカ『乙女の祈り』、ワルトトイフェル『女学生』、ハチャトリアン『剣の舞』、シューマン『トロイメライ』、モーツァルト『トルコ行進曲』など、小学生でも知ってそうな名曲を1時間弾きまくった。最後はショパン『別れの歌』で締めた。
この日の演奏はタイムシフト視聴が物凄く多く、最終的に400万回線を超えて、花ちゃん本人がいちばんびっくりしていた。リアルタイムでの視聴率が最も高かったのは、初日のアイドル版であった。
「花ちゃんの色々な魅力をファンに知ってもらえたと思う」
と企画を立てた川崎ゆりこは言ったのだが・・・
ネットでは
「5人の違ったタイプの演奏者の魅力を伝える企画、面白かったね」
「§§ミュージックってアイドルだけじゃなくて、いろんなミュージシャンがいるんだね」
などという声が沢山あるのに桜野レイアが気付く。
「要するに出演したのは全部別人と視聴者は思ったみたいね」
とレイア。
高崎ひろかが笑いをこらえていた。
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