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■夏の日の想い出・戯謔(20)

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「今回のアルバムってもしかして凄い低予算で作られてる?」
と小風は訊いた。
 
「Simple Collectionよりは制作費大きいよ」
「あれこそ低予算だろね!」
 
Simple Collectionというのはローズ+リリーのヒット曲をピアノ演奏だけで歌うというコンセプトのアルバムで、私とマリとピアニストの美野里の3人だけの演奏である。これは★★レコードではなくアメリカのFMIから販売されている。日本ではネット書店大手のArtemisから買うこともできる。大手のCDショップで直輸入して販売している所もある。
 
だいたいひとつのアルバムを500万円くらいの低予算で制作し、アメリカで12ドルで販売されているが、日本のArtemisは1800円の価格設定にしている。今まで出した分は全て100万枚以上売れており、こちらの取り分は売上げの約半額に相当する700-1000万ドル(7.7-11.0億円)ほどである。
 
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物凄くコストパフォーマンスが良いが、それは通常のアルバムが売れているからこそであり、これだけで成り立つビジネスではない。
 
歌詞は原則として英語だが、要望に応じてスペイン語版、フランス語版を出した作品もある。最終的には全ての作品に出すことになるかも知れない。日本語版だけは契約上出せないのだが、音源自体は制作している。
 
これを始めたのは、ひとつは原点を忘れないようにしたかったこと。もうひとつは、千里の勧めで、村上社長就任以来経営が不安定な状態が続いている★★レコード以外のルートを開拓しておきたかったことである。海外版という名目で他のレコード会社との契約に成功した。
 

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なおこれまでの“オリジナル・アルバム”の制作費はだいたいこの程度である。
 
2013『Flower Garden』1億円 290万枚
2014『雪月花』3億円 340万枚
2015『The City』4億円 195万枚
2016『やまと』3億円 320万枚
2017『郷愁』8億円 148万枚
 
『郷愁』は無茶苦茶無理をして、スタッフや演奏者たちにも無理をしてもらって多大な費用が掛かり、しかも売れ行きが良くない!
 
正直楽曲の品質にも不満が残ったし、精神的に疲れてしまった。更に2018年は上島事件の余波で、全く制作活動ができなかった。『郷愁』が実質的な失敗作であったことから、次のアルバムは失敗が許されない。しかしちゃんとした品質のアルバムを作るには、私自身の制作能力が回復しなければダメだと、この時期私は思っていた。
 
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海外では2017年のアルバムがあまり出来が良くなく、その後アルバムが発表されず、マリの妊娠まで報道されて、ローズ+リリーは実質活動終了したと考えている人もあるようである!
 

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「どうしましょう?」
とその日、鱒渕さんは困ったように言った。
 
「村上社長がローズ+リリーの次のアルバムは『恋物語』というタイトルで行こう、と言っているのですが」
 
「懲りない人だねぇ」
とその日来ていた千里は言った。
 
「前回自分が提案したタイトルで散々な結果になったのに」
「全くだね」
 
「前回迷惑を掛けて申し訳なかったから今回は絶対ヒットしそうなのを考えたとおっしゃるんです」
 
「だからそれが迷惑なのに」
 
「どうしましょう?また山村さんにお願いしましょうか?」
と鱒渕さんが言ったが、千里が
「必要無い」
と言い切った。
 
「ケイたちは自分たちが予定している通りのアルバムの制作を進めていればいい」
と千里は言う。
「でもそれでは発売できないのでは?」
と鱒渕さん。
 
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「そのアルバムが完成するのって、秋くらいでしょ?」
「たぶんそのくらいになると思う」
 
「その時点で村上さんは★★レコードの社長ではないよ」
と千里は言った。
 
「それって・・・予言?」
 

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千里は黙って自分のバッグからタロットの箱を出した。中身を出してヒンズーシャッフルをする。そして言った。
 
「冬、『十二月(じゅうにつき)』と『星たちの歌』のどちらを先に制作しようか迷っていると言っていたよね」
 
「うん。実はそうなんだよ」
 
「3枚並べるよ。次期アルバムはどれにすればいいか」
と言って千里は
「十二月、星たちの歌、恋物語」
と言いながら、タロットを1枚ずつ2度並べた。
 
そして表に返す。
 
十二月 聖杯の王女 月
星たちの歌 剣の10 剣の3
恋物語 剣の4 金貨5
 
「すっごい明快!」
と政子が驚いた表情で言う。
 
「次は十二月がいいということか」
と私。
 
「剣の4だとお休みで貧乏になるんですね」
と鱒渕さん。
 
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金貨の4は剣を4本地面に刺して洞窟の中で休んでいる若者。ライダーなら寝ている戦士である。金貨の5は灯りの点いた窓の外を歩く浮浪者の図である。
 
「つまり寝てるのと同じってこと」
「費用だけ掛かって成果は出ないんだろうね」
「郷愁の二の舞だな」
 
「でも星たちの歌、ひどい」
 
剣の10は磔(はりつけ)にされた裸の男に剣が10本刺さっている図である。ライダー版なら倒れた男に10本の剣が刺さっている。剣の3は血の付いた剣が3本落ちていて男が悲嘆にくれている。ライダー版なら心臓に突き刺さる3本の剣である。
 
「その企画は没にした方がいい気がする」
「そうしよう」
「多分時期が来てないんだよ」
「ああ。そうかも知れない」
 
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「もしかしたら来年以降ならいいんですかね?」
と鱒渕さんが言う。
 
千里は「1年後、2年後、3年後、4年後、5年後」
と言いながらタロットを並べた。
 
表に返す。
 
1年後 金貨4(閉ざされた要塞)
2年後 棒10(棒と一緒に穴に落ちる)
3年後 聖杯9(幸せそうな恋人)
4年後 剣5(木の上に晒された前王)
5年後 聖杯8(杯がこぼれて悲しむ若者)
 
「では3年後、2022年に」
「OK」
 

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その数日後、私が銀座のエヴォンに居たら、千里がやってきた。それで少し話していたのだが、私はどの千里なのか判断に迷った。
 
「今何時だっけ?」
と言ったら千里が赤い折り畳み式のガラケーT008を出して開き「16:28だよ」と言ったので、ああ、2番だったかと認識した。
 
「そうそう。冬はこのこと知っておいた方がいいと思うから言うけど、ここだけの話。村上さんは次の株主総会で解任される」
 
「マジ?」
 
そうか。そういう情報持っていたから、先日村上社長の意向は無視しろと言ったのかと私は思った。
 
「村上さんが社長になってから★★レコードは極端に売り上げを落としている。その問題で大口株主の間で不満が出ているんだよ。この業界は、集団アイドルを抱えているKGレコード以外は軒並み売り上げを落としているけど、その中で売り上げを伸ばしているЮЮレコードみたいな所もある」
 
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「ЮЮレコードは宮城イナイの事業でも大きな利益を出していたし、今年は夢紗蒼依をやってるからね」
 
と私は言う。
 
「ああ。夢紗蒼依はЮЮレコードと組んでうまく行っているみたいだね」
と千里も言う。
 
宮城イナイは3D-CGで作られた仮想アイドルである。プロジェクトチームが自作したスーパーコンピュータで作成された立体映像がまるで本物の人間のように動いている様は実写にしか見えない。5分間のCG作成に一週間以上掛かるらしいが、ビデオ付きCDが毎回数十万枚売れているし、コンサートの動員も良い。
 
「イナイの日常」と称する短いビデオが頻繁に動画掲載サイトにアップロードされるので、知らないと本物の女子高生アイドルかと思ってしまう。
 
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イナイの場合、私たちがやったような、誰かの動きをリアルタイムで変換するのではなく最初から全部作成された立体映像を流すので、Muse-3より遙かに遅いスーパーコンピュータでも、充分処理可能である。
 
夢紗蒼依については、ЮЮレコードは現在、夢紗作品の約半数を買い取り、社長みずからが実施する試験にパスした歌手にどんどん渡しているのである。これがかなりの売上げになっている。
 
またЮЮレコードはタブレットへのBGM配信(有線放送のタブレット版)を運営しており、これがまた大きな利益を出している。
 
ただ今、千里が言った言葉に私は何か違和感を感じたのだが、私はどこが変なのか考えたが分からなかった。
 

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「まあそういう訳で、詳しいことは言えないけど、今水面下で村上さん・佐田さんを解任しようという根回しをしている人たちがいる。一方で村上さんたちを支援するグループもいる。最近★★レコードの株価があがっているのに気付いてなかった?」
と千里。
 
「知らない。上がってるの?」
 
「世間では業績が悪化しているのに株価が上がっているので仕手筋が入っているのは間違い無いと見ている」
「うーん・・・」
 
「村上さんたちが解任されたら多分町添専務の昇格か、あるいは松前さんがカムバックして社長になる。そしたらケイたちの思う通りに制作させてくれる。なんか若葉から、村上さんがまたローズ+リリーの制作に口出ししてきたとか聞いたけど、村上さんの意向は気にせず作業を進めればいいよ」
 
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「もし解任されなかったら?」
「その場合は町添さんが会社から追い出される。冬たちもそれに付いていけばいいんだよ」
「なるほど」
「違約金要求されたら10億でも20億でも向こうの言う分払えばいい。そのくらいすぐ取り戻せるから」
 
「うーん・・・」
 
千里はバッグからタロットを出した。
 
「1枚引いて」
「うん」
 
引いたら審判のカードであった。
 
「分かった。村上さんの意向は黙殺して、こちらの予定通り進めよう」
「それで失敗したら100億円くらいは補償してあげるよ」
「いや、それは自分の責任で行動する」
 
「冬も★★レコード株少し買っておいたら?町添さんか松前さんが社長になったら期待で高騰するよ」
 
「そうだなあ。だったら400-500万買っておこうかな」
「けちくさいこと言わずに、男ならもっとどーんと買えばいいのに」
「女だよ!」
「女ならもっと度胸で行こう」
 
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「千里はいくらか買ったの?」
 
「私は大したことないよ。200万株しか持ってない」
「・・・・それ物凄い量のような気がするんだけど」
「発行済み総株式の4%程度だよ。5%保有すると大量保有報告書を出さないといけないから、それより少ない量にした。丸山アイも若葉も2A16もやってると思う。彼女たちがどちらに与(くみ)するつもりかは知らないけどね」
 
「千里たちが仕手筋のような気がする」
「人聞きが悪い。少なくとも私は仕手筋が動き出す前に目立たないように少しずつ買い集めたよ。値上がりし始めたのは私が買い終えた後。それでじわじわと値上がりしているから売るべきタイミングを待っているだけだよ」
と明るく千里は言った。
 
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「物凄い言い訳!」
 
「言っておくけど、私は誰とも★★レコードの経営に関する話はしてないからね」
 
「話し合ったら違反だよね!」
 

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「あ、そうそう。2A17さんは娘さんからお金借りて2000万円分買ったらしい」
「へー」
と言いながら、それ誰だっけ??と考えている。
 
「それで利益が出たら性転換手術を受けたいと言って、奥さんから許してもらったんだって。もし損失が出たら性転換も禁止だし、一生娘さんの奴隷として働くと」
 
「2A17って誰だったっけ?」
と私は尋ねた。
 
「ひまわり女子高2年A組17番森野眠美(もりのたみ)」
「えっと・・・」
「峰川伊梨耶さんのお父さん」
「伊梨耶さんのお父さんって、MTFなの?」
 
「ただの女装趣味だと思うけどなあ。ただ女装するのに邪魔なおちんちんを取りたいだけじゃないの?子供3人も作ればもう、ちんちんは用済みだろうし」
 
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「普通の男の人は用済みとは考えないと思うけど」
 
「あの人、学校の先生しているから性別移行なんかできる訳がないからね。そもそも奥さんと離婚する意志は無いから戸籍上の性別も変更不能だし」
 
と千里は言っていたが、伊梨耶さんのお父さんがそういう人とは全く知らなかった!
 
 
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夏の日の想い出・戯謔(20)

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