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■夏の日の想い出・戯謔(14)
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目次 8
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「でも千里が代理母さんで妊娠って、また細川さんの子供?」
と美緒が訊く。
「いや、川島さんの子供」
「誰それ?」
という訳で、美緒は千里が結婚して、新婚4ヶ月で夫が死亡したことというのを全く知らなかったようである。
「うっそー!?結婚したのなら結婚式に呼んで欲しかったぞ」
「あれ、誰も結婚式に出席してないんだよ」
「式あげなかったの?」
「それがどうも契約結婚だったみたいでさ」
「へ?」
それで若葉が説明する。
川島さんはゲイで女性と結婚する意志はなかったものの、親からうるさく言われて誰かと取り敢えず形だけでも結婚したかった。千里は彼氏の細川さんが別の女性を妊娠させて腹いせに他の人と結婚したかった。ふたりの利害が一致したのでふたりは結婚式を挙げたものの、実際にはふたりは共同生活をしていた気配が無い。
結婚式を挙げたあと、川島さんは千葉の実家に居て、千里は結婚前から住んでいた世田谷区のアパートにそのまま居た。途中で川島さんが名古屋に転勤になったが、名古屋でも千里は川島さんのアパートとは別の所にワンルームマンションを借りていて、事実上そこに住んでいた。つまり2人は一度も同居していない。
川島さんの遺品の中からお兄さんが、2019年2月の日付が記入され、川島さん・千里の双方が記入して捺印した離婚届を見つけた。それに結婚前に千里は桃香に「結婚するけど1年後に離婚するから」と言っていたらしい。だからふたりは最初から結婚して1年後に別れるつもりで、偽装結婚したのではないかと多くの人が推測している、と。
青葉はこの話を初めて聞いたようで「え〜〜?」という顔で聞いていた。あれ?この話が出た時、青葉もいなかったっけ?と私は不思議に思った。確かにあの話はお母さんに知れたらショックだよということで、人には言わないようにしようということになったのである。ただ千里の友人関係には結構伝搬したようだ。
だいたい若葉が知っているし!
「そういう訳で、結婚式には友人をほとんど呼んでいない」
と若葉は言う。
「なるほどー」
「でも孫の顔が見たいという川島のお母さんの要望で代理母さんに赤ちゃんを産んでもらうことにしたみたい」
「ああ、それで代理母さんなわけか。千里は細川さんの赤ちゃん2人産んでいるしね」
と美緒が言うと
「え?そうなの?」
と多くの声。
「それ私一度細川さんと話したんだけどさ、とりあえず長男の京平君は間違い無く千里と細川さんの子供なんだよ。DNA鑑定書も見せてもらったよ」
と私は言う。
「それを細川さんの別の愛人の阿部子さんに産んでもらったんだっけ?」
と少しだけ事情を知る小夜子が言う。
「いや、細川さんは阿部子さんと正式に婚姻していた。もう離婚したけど」
とカノンが言う。
「うん。あの時は千里かなり落ち込んでいたけど、負けるな、取り返せと煽っておいた」
と美緒は言っている。
「どうもその別の女性と婚姻関係を結んだのをうまく利用したみたいなんだよ」
と若葉が言う。
「千里は元男性という建前だから、子供が産める訳がないということに科学的にはなっているでしょ。それで本当は千里が産んだんだけど、阿部子さんが産んだことにして出生届けを出したのではないかと、これ一部で言っていた話」
と若葉が言っているが、そのあたりも多分和実から聞いた話だろう。
「藁の上からの養子(*1)ってやつか!」
「やはり千里、子供が産めるんだ!」
「その時期千里がせっせと搾乳して、それを細川さんち届けさせていたのを何人かが見ている」
「ほほお」
(*1)「藁の上からの養子」とは産まれたばかりの赤ちゃんを養子としてもらい受け、実子として出生届けを出したものを言う。「藁の上」とは産褥の寝床のことである。昔はかなり多かったと思われるが、その両親の実子などが裁判を起こすと、親子関係が否定されてしまい、辛いことになるケースもある。
川島信次の兄・太一がこの「藁の上の養子」であり、太一は実は戸籍上の両親のどちらとも血縁が無い。彼は戸籍上の父・川島厳蔵の恋人・露菜が産んだ子で、露菜は産後まもなく亡くなった。その子が自分の種でないことは知っていたものの、厳蔵は跡継ぎが欲しかったので、自分の妻・真須美の子として出生届けを出した。
「これ凄く不確かな情報なんだけど、千里は小学4年生の時に卵巣と子宮の移植を受けたのではないかという話があった」
とリノン。それは多分蓮菜からの情報だろう。
「でもそれ誰のを移植された訳?」
「千里自身から体細胞を採取して、それをIPS細胞に変えて、女性器を育てて移植したという説」
「その頃IPS細胞なんて無かったと思うけど」
「もうひとつは千里は元々女なのではないかという説」
「そのほうが余程信じられる気もする」
「でもそれでは千里が自分は元男だと言う理由が不明」
「千里の2人目の赤ちゃん、私見せてもらったけど可愛い女の子だったよ」
と美緒が言っている。
「へー!見たんだ!」
「じゃ結局千里って同時進行で2人子供作っていたのか」
「子宮は2つ無いから、1人は代理母さんに産んでもらったとか?」
「うん。そういうことのような気もする」
「忙しい奴だ」
実際この時期、川島さんの(遺伝子上の)子供が、緩菜ちゃん・由美ちゃん、幸祐ちゃんと、3人同時進行で出来つつあったのだが、そのことを私が知るのは数年後である。3人とも川島さんの死亡後に生まれた“忘れ形見”である。
出産者 卵子母 親権者
緩菜(2018.9)美映 千里 貴司
由美(2019.1)(潘)桃香 千里
幸祐(2019.4)波留 波留 波留
「だけど契約結婚であっても、新婚4ヶ月で死なれたらショックだろうなあ」
「そうなんだよ。茫然自失状態になっていた。やはり好きだったんだろうね」
「まあ嫌いなら契約結婚でさえしないよな」
「でも千里はしばしば高崎に来るから、頻繁に会っていたけど、全然そんなそぶりも無かった」
と美緒は言う。
「まあ2人も子供を同時進行で作っていて、頑張らなきゃと思っていたのかもね」
「なるほどね」
実際に美緒が会っていたのは千里3のはずである。千葉の玉依姫神社で販売しているだるまを仕入れに毎月高崎のだるま製造所に行っているのである。ただ、あそこの神社の清掃作業には精神的なリハビリも兼ねて千里1を行かせている、と千里2は言っていた。
この日は子連れの人と療養中の人は20時頃までに退出、妊娠中の政子も寝せて、その後美緒がお酒を出してきて(子供は清紀さんが連れて帰った)、最終的にはこのあたりのメンツで結局朝まで飲み明かした。
私、青葉、美緒、花野子、梨乃、美空、七星、詩津紅、妃美貴、小風、光帆、音羽
(光帆と音羽は0時すぎにやってきた。風花も居たが寝ていた。鱒渕は途中でタクシーで帰した。青葉は何度も桃香と連絡を取り合っていた)
光帆が「アクアがカウントダウンに現れた原理」についてしつこく訊いたが「秘密」で押し切った。
「でも誓ってアクアにハードな移動はさせてないよ」
「レイアちゃんは結構ハードだったんじゃない?」
と梨乃。
「まあアクアとレイアでは扱いが違う。何十億稼いでくれるタレントは大事に扱うよ」
と私は言ったが
「ケイは百億稼いでいても、体当たり芸人並みの扱いをされている気がする」
と花野子が言っていた。
「マリが精密機械だから、私はその分荒い扱いになる」
「たいへんね〜」
1月4日朝、仙台に行っている千里から青葉に電話が掛かってきて、もうすぐ生まれそうだからサポートを頼むということだった。青葉はそのまま妊婦さんをヒーリングしていたようだが、8:58に「生まれた」と青葉が言い、私のマンションでは、その時起きていた人の間で拍手が起きた。
「男?女?」
「女の子。名前は由美」
「名前がもう決まっているんだ?」
「信次と、男なら幸祐、女なら由美と話していたんだよ」
「へー」
電話を替わって、美緒、花野子、そして私も千里を祝福した。
「しばらくそちらに居るの?」
「うん。出生届けが受理されるまでこちらに居るつもり。少し時間が掛かるかも知れないけど」
「・・・受理されるのに時間が掛かる訳?」
「下手すると裁判所の審判をやる必要があるかも」
「そんなに難しいの!?」
「初めての試みなんで、市役所がどう出るか読めない。冬は詳しいことは聞かない方がいいけど、うまく行くことを祈ってて」
「分かった。聞かないけどうまく行くといいね」
その件では青葉も詳細は聞いていないと言っていた。
「弁護士さんとかなり話していたようですよ。代理母さんが中国国籍だから、そもそも日本の国籍にする所から難しいみたいです。信次さんが生きていたら何の問題も無かったんですけどね」
と青葉は言っていた。
実際には千里たちの作戦はうまく行ったらしく、中旬には桃香と千里は生まれた赤ちゃん・由美ちゃんを連れて東京に戻った。そして月末には千里の養女として無事入籍できたようである。むろん日本国籍であり、中国との二重国籍とかでもないと桃香は言っていた。
この経緯については千里が言ったように、聞かないことにした!
千里たちの所は生まれたが、我が家の赤ちゃんを抱えたママ(政子)は
「お腹が重たーい。さっさと出てきてくれないかな」
などと言っていた。
元々体重が45kgくらいしか無かったのが60kgを越えているので、確かに辛いんだろうなという気がする。出歩くのもおっくうのようだし、出歩いていて転んだりしたら怖いので、運動もマンションの中を歩き回ったり、座ったまま手足を伸ばしてヨガっぽいことをしたり程度にさせておく。
アクアのツアーは1月6日(日)の関東ドームで終了。私もこれには顔を出して、打ち上げにも参加した。打ち上げといっても、タレントさんが、ごく数人を除いては女子ばかり、しかも未成年率が高いので、アルコールは一切入らない打ち上げで、出ている話題もキンプリの誰推しかとか、超特急の誰が好きかみたいな若い男性タレントの品定めの話、ファッションの話などが多く、私は付いていけん!と思っていた。
西宮ネオンはその手の話題は分からないようで、結局信濃町ガールズにいる数人の男子と話していたようだが、今井葉月は普通に女の子たちとガールズトークをしていた!
今年の震災復興支援イベントだが、今回は極めて深刻な問題があった。それはローズ+リリーが出ないということは、2つの問題を引き起こす。
(1)トリを務められるアーティストが居ない
(2)大きなキャパの会場を満杯にできない。
会場としては、これまでこういう場所を使っていた(右端は売上額≒寄付額)。
2013 福島 奏楽堂(1000)無料イベント
2014 東京 新宿文化ホール(1800)1600万円
2015 宮城 宮城県みちのくスタジアム(8万)3.2億円
2016 福島 福島市みどり総合体育館(6000)・球場(2万)4.36億円
2017 宮城 宮城ハイパーアリーナ(7000)2.24億円
2018 岩手 岩手県文化センター・アポロ(8000)2.56億円
順番から行くと今年は福島という感じである。それでどこかを使うかという問題なのだが、球場は過去に2度使っているが(選んだのは★★レコード)、やはり寒い!という根本的な問題があった。それで今年目を付けていたのは、郡山市の郡山中央体育館である。キャパは7000人でバスケット男子リーグに所属するコネクターズの本拠地にもなっている。2016年に使用したみどり総合体育館(6000)よりも少し広い。
私は小風・花野子と3人で出てくれそうなアーティストをリストアップしたのだが「うーん」と悩んだ。これが11月頃のことである。
3.9 AM アクア
3.9 PM §§ミュージックの歌手そろい踏み
3.10 AM アクア
3.10 PM Golden Six / Olive Lemon / Flower Four / KARION / XANFUS
「これどう考えても3月10日の午後は完売出来ない」
と小風は言った。
「まあ3月9日も微妙だけど9割くらいは行くかな。でも10日の方がより悲惨」
「KARIONもXANFUSも3000人くらいしか集客力は無いよ。それにジョイントライブは単独ライブほど客が入らない」
と小風は補足する。
単独ライブでなら1万動員出来るアーティストのジョイントライブをしたら、7000-800人程度しか動員出来ない。これはイベント業界の常識である。これは1組あたりの演奏時間が短くなってしまう問題と、あまり興味の無いアーティストの演奏を聴いているのがしばしば苦痛になるからである。
「ゴールデンシックスがトリを取る?それなら完売できる気がする」
と私は言う。
「やってもいいけど、これって元々08年組で始めたものだもん。私たちがトリを取るのは、KARION, XANFUS, Rose+Lilyのファンから反発が来ると思う」
と花野子は言う。
「AYAを担ぎ出せない?」
と小風。
「あそこの事務所は難しいんだよ」
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