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■夏の日の想い出・戯謔(19)
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目次 8
時間索引 #
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H教授
H教授は偉大な研究者だった。
国立中央大学を首席で卒業、
24歳で世界的発見をして博士号を取った。
あっちからもこっちからも
講演の依頼があって
ジェット機でせわしく走り回った。
学長になってけろ、という話もよく来た。
そんなことしてる内
教授は研究に集中できないのが辛くなった。
そこで山の中に引き篭り
電話もテレビもつけず新聞もとらずネットもせずに
一日中研究に没頭し始めた。
H教授は幸せだった。
山の中で、試験管とフラスコと顕微鏡を友とし
ポケモンもせず、ユーチューブも見ず、女も抱かず
もちろん男の子も男の娘も抱かずに
朝から晩までES細胞の開発をしていた。
ある年、日本の研究者がIPS細胞の技術を確立した。
だけど通信手段を持たないH教授はそんなこと知らなかった。
相変わらず一日中ES細胞の研究をしていた。
H教授は世界中で一番幸せだった。
続・H教授
H教授は幸せだった。
朝から晩まで研究三昧。
電話も鳴らなきゃTVもしゃべらず
誰の邪魔も無い平和な毎日。
しかし、ある日、女が来た。
道に迷ったの。泊めて。
教授はぶっきらぼうに「いいよ」と言い
中に入れて飯を食わせ、布団を敷くと
さっさと部屋に戻り研究再開。
《何だか変人みたい・・・・・でも》
H教授は幸せそうだった。
試験管を持ちパソコンを叩く
その顔は輝いていた。
女はそこに居ついた。
H教授はこの世で最高の悦びを知った。
続・続・H教授
H教授は幸せ者。
誰も来ない山奥で 毎日毎日研究三昧
電話も無けりゃ 押売も来ない。
朝から晩まで好きな研究やっている。
家事をする時のぞいては
ねぇ、あなたぁ、お腹が空いたぁ。
OK。ちょっと待っててね〜。この硫酸を片付けるから。
よしよし、御免ね。今夜は胡桃入り、山鳥のフライだよ。
かいがいしく御飯を作り、奥さんに食べさせて
洗濯、掃除、お裁縫。何でも来いの、便利な旦那。
奥さんはとってもハッピネス 教授もとってもハッピネス。
朝はキスで目を覚まし 夜はたっぷり楽しんで
ハネムーンは続く、どこまでも 野を越え山越え谷越えて
でも、ある日 奥さんは、甘い声で教授にねだる。
ねぇ、ツイッターがしたい〜。
うんうん。よしよし。させてあげるよ、まいはにー。
教授は通信会社に伝書鳩を飛ばした。
続・続・続・H教授
H教授は幸せ者。
毎日好きな研究をたっぷりやって、
可愛らしい奥さんと甘い生活。
奥さんも幸せだった。
家事なんて何もしなくていいし、
山の中の食べ物は美味しいし。
教授は毎日畑を見て、家畜を育て、猟にも出て、
小麦を挽いて、パンを焼いて、
お米を搗いて、ご飯を炊いて
かいがいしく、奥さんのお世話をしていた。
もちろん研究もたくさんした!
公演とか講義とかしなくていいし
学生の就職の世話もしなくていいし
ここには学長選挙も無いし!
ふたりはとっても仲良し。
山の木の実の名前、だいぶ覚えたな。
鳥さん、動物さん、ごめんね。
でも美味しいから食べさせてもらうね。
ツイッターで友だちとやりとりするのも
また楽しいし。
ただここの回線って遅いのよね〜
物理層(*1)が伝書鳩で出来てるから!
でもH教授は、奥さんのツイッターでIPS細胞のことを知り、
ES細胞で研究した結果をIPS細胞に応用して
また新しい発見をしてしまった。
それで一躍時の人となって
あっちこっち引っ張りだこ。
H教授は忙し者。
続・続・続・続・H教授
H教授は忙し者。
何万人もの人の命を救う偉大な研究をして
世界中で有名になってしまう。
おかげで1年くらい、
あちこちの学会に顔を出したり外国とかにも行って来て
忙しい日々を送った。
本も書いたし、テレビにも出たし。
賞もたくさんもらったし。
公演、会議、審査委員、
富豪の邸宅に招かれて一流の料理人のディナーを食べ
でっかい車に乗せられて、
あちこち連れ回されて。
大臣さんに会って、作家さんに会って、タレントさんに会って、
坊さんに会って、どこだかの社長さんに会って、
陛下の園遊会にも顔出して。
さすがに少し疲れてきた。
少し楽しかったのは若い研究者たちとの集まり。
1ヶ月ほど泊まり込んで、彼らに自分の技術を全部伝えた。
どこだかの大学の研究室に迎えたいという話も来たけど
奥さんとの生活を続けたいから
全部断っちゃった。
だって僕の料理を美味しいと言ってくれるしね。
それで山の中の家に帰ると
奥さんがたっぷりキスして迎えてくれた。
お帰り。今日は猪仕留めたわよ。
おお、今夜はごちそうだね。
“3人”で仲良く御飯を食べて、
教授はまた研究室に閉じこもって研究を続ける。
H教授は幸せ者。
(*1) OSI参照モデルではネットワークの構造を下から、物理層、データリンク層、ネットワーク層、トランスポート層、セッション層、プレゼンテーション層、アプリケーション層と7つに分類する。
1990年頃、日経MIXのTRY(一種の時間差チャット。現代でいうとmixiのつぶやきに割と近い)で議論した時に出た意見で、サンタクロースにメールを送ると、最後の拠点から先の物理層はトナカイ便で送信されるのではという説があった!
トナカイがネットの物理層になるのであれば、伝書鳩が物理層の一部になっていてもよいと考えられる。凄まじく遅い速度になるであろうが。
(明治時代の電報黎明期には、電信網がまだ到達していない町村も多く、そこへ向けて送られた電報は大都市から先、郵便で届けられていた)
演奏の収録作業は、私自身も楽器を演奏する側で入って2月中旬から収録を始めた。だいたい前述の少数の演奏者で収録したのだが、『ポーコ・ア・ポーコ』はオーケストラをバックに録りたかったので、郷愁協奏曲で協力してもらった♪♪大学の学生オーケストラに協力を求め、土日に2日がかりで収録した。
まずは1日練習した上で、日曜日の午前中に市民会館に行ってPV用の映像を撮影した後、午後からスタジオに入って4時間ほどの練習の後、小休憩してから録音したら、ひじょうに良い音になった。
政子は2月3日にあやめを産んだので、3週間後の2月24日で床上げとした。本人は回復の速度も速く、
「もう平気平気」
と言っていたのだが、その日までは寝せておいた。
そして2月25日から、アルバムの歌唱録音に入った。
既に伴奏音源は半分くらいできている。政子は妊娠中も毎日発声練習は欠かしていない。休んだのは陣痛が始まってから出産後3日目くらいまでである。
歌唱録音をする一方でPVの制作も進めた。
『異端修道士の洞窟』では異端と認定されて殺される牧師役がサウザンズの樟南、殺される不美人の修道女が私、生かされる美人の修道女がマリ、襲撃グループのリーダーで、マリを殺そうとした所で仲間から殺される役が獄楽である。襲撃グループの他の4人は同じサウザンズの在杢・稲邑・釜倉・釣丘である。
つまりサウザンズ総出演のビデオであった。
子供たちは∞∞プロ系列のプロダクションで子役を扱っている劇団桃色鉛筆の子供たちに出演してもらっている。
「男の子と女の子を5人ずつというオーダーだったんですが、今日は別の所で女子だけの仕事があってそちらにかなり行ってまして、女の子3人と男の子7人しか調達できなかったんですよ。男の子2人に女の子の服を着せましょうか?」
と劇団のマネージャーさんが申し訳なさそうに言った。
「いや、男女混じっていればいいので、そのままの性別で問題ないですよ」
と私は答える。
「もちろん本人が女の子の服を着たければぜひ女の子の服で」
と政子が言うので
「よけいなこと言わない!」
と注意した。
そういう訳で男の子が女の子の服を着せられることもなく、男の子7人と女の子3人で撮影した。
『戯謔』は西宮ネオンと桜木ワルツに出演してもらった。
1番の歌詞では2人に唐風の服装をしてもらい、2番では現代の日本風の服装をしてもらっている。
『ムーラン・ドゥ・ラ・ギャレット』は§§ミュージックの研修生たちに踊ってもらい、都内のライブハウスで撮影した。ライブハウスで演奏しているのはスターキッズである。
そして若葉が作ったムーラン福島店に“ムーラン”(Moulin)の名前の通り水車が作られていたので、これの夜景を撮影させてもらって、ビデオに組み込んでいる。福島のムーランは市街地に作られた水車のある福島店と、アブクマーズの新本拠地として若葉が建設した体育館のそぱに準備した福島ムーランパーク店とが、日替わりで交代営業するトレーラーレストランである。ランチ主体のお店なので、和食と中華の交代制にしている。
『ポーコ・ア・ポーコ』はオーケストラをバックにPV撮影している。この曲ではスターキッズはお休みである。
『ワンチャンス・トライ』ではバスケットのシーンは私がオーナーをしている千葉ローキューツと、マリがオーナーをしている江戸娘にマジな試合をしてもらいその映像をたくさん使用している。歌詞にある残り3秒からの逆転シュートは、日本代表PG.原口紫から184cmの黒川アミラに超ロングパスを出し、アミラがダンク気味の豪快シュートを叩き込んで、その後の歓喜の様子まで撮影した。
ガンマンの対決シーンは、不気味に迫ってくる相手ガンマンが私で、残り1発しか弾丸が残っていないガンマン役がマリである。
『Cat People』は全身黒ずくめの衣装を着た丸山アイちゃんに演技をしてもらった。彼女がそういう衣装を着けると物凄くセクシーなのである。あの歌を見た千里が「これは絶対アイちゃんがいい」と言って、多忙な彼女を担ぎ出してくれた。
演奏時間が8分以上に及ぶ長い歌『H教授』では、H教授を大林亮平に演じてもらった。H教授の家に居座ってしまう女はマリである。IPS細胞の発見者は山中伸弥教授のそっくりさん!山奥深夜さんに出演してもらっている。
「久しぶりにこのネタで仕事した!」
とご本人は言っていた。それ以外の出演者は○○プロに集めてもらった。丸花さんが「この歌はドラマ化したい」と言っていた。
ラストは顕微鏡を覗いているH教授と、そのそばで赤ちゃんにおっぱいをあげている女という図で終わっている。これは相手役をマリが「亮平にして欲しい」と指名し、生まれたばかりのあやめと一緒に出演したのである。
私は「いいの〜?」と驚いて言ったのだが
「これだけ大胆に見せておけば、誰もまさか亮平が本当のパパだとは思わない」
などと言っていた。
「あのぉ、あやめの父親は私だったのではないかと」
「あ!勘違いしてた!」
(どうも本格的にあやめの父親は亮平君と思い込んでいたようである)
「ごめーん。次は亮平の子を産むね。今度こそは男の娘を産まなきゃ」
「そんなのどうやって産むわけ?」
「男の子を産んでタマタマを取れば」
「それ傷害罪だから」
ちなみに、マリはAB型、あやめはB型であるが、大林亮平君はA型である。それだけ見ればあり得る組み合わせに見えるのだが、亮平君の両親がともにAB型なので亮平君はAA型ということになり、マリとの間にB型の子供は生まれない。必ずA型かAB型になる(実際2年後にマリと亮平の間に生まれた大輝はA型である)。
そういう背景もあるので、こういうビデオを公開しても問題無いのである。
なお以前『内なる敵』のPVでは大林亮平のそっくりさんの太林亨平とローザ+リリンのマリナに夫婦役を演じてもらっているが、今回はどちらも本物の出演となった。
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