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■夏の日の想い出・戯謔(15)

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「マリちゃんを出せばいいんだよ」
と若葉は言った。
 
その日私は銀座のエヴォンで生演奏を聴きながらお茶を飲んでいたのだが、そこに出産(10.11)後の養生期間が終わり床上げになって出てきた若葉が来たのである。花野子たちと話し合って悩んだ翌週くらいだったと思う。
 
「でも政子の出産予定日は2月25日で、復興支援イベントは今の所3月9-10日の予定なんだよ。無理だよ」
 
「もっと早く生まれる気がするな」
と言って、若葉はどこかに電話を掛けた。
 
「ブエノス・ディアス、千里」
などと言っている。電話を掛けた先は千里のようだが、どの千里だろう?
 
「アァ!ヴ・ゼット・アン・フランス!」
 
ふたりはしばしフランス語で会話していた!
 
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「それでさ。政子の赤ちゃんがいつ生まれるか占ってくれない?」
「ウィウィ。オォ、トワ・フェヴリエ?メルシ」
 
それで若葉は電話を切った。
 
「千里が言うから間違い無いよ。赤ちゃんは2月3日に産まれる」
「嘘!?」
 
「だから、マリちゃんは3月10日に出演できる。何なら秋のツアーでやったように椅子に座って歌わせればいい。ドーナツ座布団付きで」
 
「でもその前提で進めていいもんだろうか?」
「万一マリちゃんが歌えなかった場合は、アクアが女装してマリの代理を務めますとか言っておけばいいんだよ」
「うっそー!?」
 
「あ、そうそう。会場だけど、福島県でやるなら、福島ムーランパークを使ってよ。こけら落としで」
 
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「何それ?」
 
「福島市内に体育館作ったから。ついでにムーランの福島支店も作った」
「うっそー!?」
 

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私はコスモスと話し合いを持った。
 
「私は千里さんの占いというより予言めいた発言を何度も聞いている。彼女が言ったのなら、間違い無いと思う。だからそれで進めましょうよ。それでもしマリさんの出産が2月10日以降になった場合は、アクアを女装させてマリさんの代理をさせるというのでいいですよ」
 
「やっちゃおうか?」
「やろう」
 
それで私とコスモスは握手した。話を聞いたマリは
「千里が言うなら、本当にあやめちゃん、2月3日に出てくるよ」
と言ったが、アクアは
「うっそー!??」
と叫んだらしい。
 
「あのぉ、マジで女装しないといけないんですか?」
とアクアが訊いたので
「何を今更?」
と言われたらしい!
 
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そういう訳で、今年の震災イベントは年内に準備を進め、いつものようにカウントダウンライブ終了後の1月2日に発表されたのであった。
 
日程 2018.03.09-10(Sat-Sun)
場所 福島市ムーランパークアリーナ(屋内会場:定員10000人)★こけら落とし
チケットは4種類発売
3.09 AM アクア(10:00-12:00)
3.09 PM §§ミュージックオールスター
13:00桜野レイア、13:20山下ルンバ、13:40原町カペラ、14:00石川ポルカ、14:30桜木ワルツ、15:00花咲ロンド、15:30白鳥リズム、16:00姫路スピカ、16:30西宮ネオン、17:00今井葉月、17:30高崎ひろか、18:00品川ありさ、18:30川崎ゆりこ (19:00終了)
3.10 AM アクア(10:00-12:00)
PM 08年組+α
13 Golden Six/ 14 Olive Lemon/ 15 Flower Four/ 16 KARION/ 17 XANFUS/ 18 Rose+Lily (19:00終了)
 
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ローズ+リリーの公演で、マリは2月10日までに出産した場合に限り出演します。マリが出演できない場合、驚くべきゲストが女装して代役します。
 
この最後のコメントはTV CMではアクアが読み上げた。
 
そのため、UTPに「驚くべきゲストってまさかアクアちゃんですか?」という問い合わせが殺到するが、例によってUTPでは何も聞いていないので回答不能でまたもや電話が丸一日使えない状態になって須藤さんが悲鳴をあげたらしい。
 
しかし「アクアが代役するのでは?」という憶測から、チケットはこのCMが流れた後、即ソールドアウトしてしまったのである!
 
「でも女装して代役って書いてあるよ」
「アクア様の場合、女の子の服を着るのは普通の格好であって女装ではない気がする」
「アクアじゃないのかな?」
「ひょっとして西宮ネオンだったりして」
 
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いつの間にか自分の名前が多数ツイートされているのを大学のクラスメイトから聞いて、ネオンは仰天したらしい。
 
3月10日午後のイベントは、ゴールデンシックス、ローズ+リリー、Wooden Fourのファンクラブで1000枚ずつ、KARION, XANFUSのファンクラブで500枚ずつ売っており、1000枚は福島県内のテレビ局で募った。普段のローズ+リリーのコンサートならファンクラブの申し込み倍率は3倍くらいあるのだが、今回は1.2倍しか無かった。やはりマリが出る確率は半々くらいとファンは判断したかなと思った。
 
それで一般発売された5000枚の内、発売日の午前中に2000枚売れたのだが、午後にアクアがコメントを読み上げるCMが流れるとその後わずか10分!で残りの3000枚が売れた。
 
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つまり、アクアファンに買い占められた可能性があるのはその3000枚である。
 
「あれはアクアがCMやってなかったら、残り3000枚が全部は売り切れなかったかも知れない。アクア様々だよ」
と私は言った。
 
「まあアクアは営業の材料として今最高だからね」
とコスモスは言う。
 
「ねえ、でもこれでアクアが出なかったら暴動が起きたりしない?」
と私は心配してコスモスに訊く。
「その時はアクアに司会でもさせればいいよ」
「なるほどー!」
「振袖でも着せて」
「それは凄い!」
 
「だってあの子、振袖が異様に好きだよ」
「あれはお母さんの思い出があるんだよ」
「お母さんって、長野夕香さん?」
「そうそう」
 

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政子が妊娠で休養していて、私自身の作曲活動も昨年の8月以降は実質休業中ではあるが、私は他のアーティストのお世話や企画などの仕事で結構多忙な状態が続いていた。
 
松前社長の時代は★★レコードからずっと監視役を派遣してもらっていたのだが、村上社長になってからそれも無くなっている。この時期は、一応午後(13-18時)には、ドライバー会社の佐良しのぶさんに来てもらうことにしていた。彼女は4年近い付き合いで政子の信頼もあついし、何と言っても政子のワガママに負けない数少ない人物である。
 
しかし彼女が居てくれる時間帯以外では、結果的に政子を放置してしまうこともあるので
 
「私が居ない時に産気づいたら、誰も助けてあげられないかも。実家に帰ってる?」
と訊いたのだが、
「マンションに居たい」
と言う。きっと実家ではわがままができないからだろう。それに実家からでは、かかりつけの病院まで遠いという問題もある。病院は三軒茶屋駅の近くなのである。
 
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それでそのまま恵比寿のマンションに置いていたのだが、私も少しずつ不安になってきた。それで私は政子に訊いた。
 
「だったら入院する?」
「うーん。仕方無いかなあ」
と本人も言うので、1月中旬、妊娠34週になった所で入院させることにした。
 

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入院中は毎日午前中にお母さんが来てくれることになったので、午後か夕方に私か詩津紅が顔を出すことにした。妃美貴の方が時間が取れるのだが、彼女は優しい性格なので、政子のワガママに振り回されてしまう。かなり大変なことをやらされる可能性があり気の毒なので、流されにくい人物でないと務まらないのである。結局お昼から夕方くらいまでは佐良さんに病室に居てもらうことにした。つまり
午前:お母さん
午後:佐良さん
夕方以降:詩津紅か私
 
という分担にするのである。
 
「でも詩津紅には、うちの仕事の手伝いでだいぶ会社を休んでもらっているけど、大丈夫?」
 
「もし首になったらサマーガールズ出版かAI-Museとかで雇ってよ」
「§§ミュージックも募集出してるんだけど」
「あそこ入ったら過労死しそうだ」
「あぁ・・・」
 
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実際鱒渕さんは過労死寸前だったからなと思う。入院中は腎臓透析までしていたようだが、奇跡的に腎機能が回復して、退院後はもう透析は不要になったらしい。やはり若いから体力もあったので何とかなったのだろう。
 
政子が入院している病院には、他に10月に赤ちゃんを産んだばかりの仁恵がその赤ちゃん付きで時々顔を見せたし、★★チャンネルで現在係長の肩書きを持ちかなり多忙な琴絵も毎週1度くらい顔を見せてくれた。
 
政子の親戚ではもとより仲の良い君歌ちゃんが現在横浜に住んでいるので、2〜3日に1度来てくれて、おしゃべりをしていっていた。彼女にはファンから大量に送られてくるお見舞いの品を随分持ち帰ってもらった!
 

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1月中旬、私は大林亮平から相談があると言われて、横浜郊外のレストランで会った。
 
「実は原野妃登美のことで相談に乗って欲しい」
「・・・亮平さん、妃登美ちゃんと何か関わりがあったんだっけ?」
「実は交際していた時期がある」
「そうだったんだ!」
 
「それで彼女は昨年の上島騒動の余波で事務所とレコード会社からリストラされてしまって、退職金100万円もらって田舎に帰っていたんだよ。100万円じゃ引越代にもならないから、実際の引越代は僕が出した」
「へー!」
 
と言いつつ、彼女の実家どこだったっけ?と考えていた。
 
「それで田舎で見合いして結婚したんだ」
「で離婚した?」
「よく分かるね!」
「あの子に奥さんとか務まらない気がするよ」
「うん。あの子は料理のセンスが無い」
と言うので、私は吹き出す。
 
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「亮平さん、そういう女性と交際することが多くない?マリの料理も酷いし、以前噂になったことのある**ちゃんも料理なんてプロの料理人を雇えばいい、なんて発言したことあったし」
 
「あの子には100万円のIHシステムと、15万円の高級炊飯器に、オーブンレンジまで壊された」
「あははは」
 

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「まあそれでさ。量産作曲家グループが夏以降活動し始めて、やっと歌謡界も曲が行き渡り始めただろう?それで歌手に復帰できないかなあというので連絡があったんだよ。僕との恋愛関係は切れてはいるけど、たぶん僕が一番相談しやすかったんだと思う。それであの子を拾ってくれそうな適当なプロダクションが無いかなと思って」
 
「それなら@@エンタテーメントがいいよ。XANFUSが所属している所」
「あそこか!」
 
「@@エンタテーメントというのは、実際にはペーパーカンパニーに近い。スタッフも斎藤社長と白浜さんに後は事務の女の子しか居ない。ほとんど営業もしてもらえないし専任マネージャーとかも付けてくれないけど、どこかテレビに出たいと言ったら番組を探してくれるし、ライブやりたいと言ったらお膳立てしてくれるし、CD作りたいと言ったらスタジオやミュージシャン、プロデュースしてくれる人を手配してくれる。ただこちらから何か言わない限り何もしない。その代わりマージンも低い。ギャラは事務所が2.5でタレントが7.5だよ」
 
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「それはまた安い!」
 
「楽曲はあの子、あまり歌唱力無いから、松本花子作品を使うのがいいかも。木ノ下先生が窓口だし、事務取扱している内瀬瞳美さんともコネがあるよ。それに§§ミュージックでも大量に松本花子作品使っているし」
 
「夢紗蒼依の歌は難しい曲が多いから、確かにあの子には辛いかも知れん。あの子、声域が1オクターブ半しか無いから」
 
「まあ松本花子作品の多くは1オクターブ出たら歌える曲が多い」
「その程度しか歌えない歌手が多いからね!」
 
それで私は斎藤さんに連絡を取ったら、あの子ならいいよということだったので、原野妃登美に1度東京に出てきてもらうことにした。その交通費と滞在費は大林亮平が出してあげることにしたようである。
 
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