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■夏の日の想い出・戯謔(16)

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「こちらのマンションに泊めるの?」
「それやったら政子に叱られる」
「政子との関係ってどうなってんだっけ?」
「切れてるよ。でも僕が他の女の子と付き合うと嫉妬される」
「面倒な子だ」
「月に1度くらい唐突にやってきて、他の女の持ち物とか服とか無いかチェックされる」
「え〜〜〜!?ストーカーなのでは?」
「女除けにって、すっごく可愛いタンスひとつ置いてるし、トイレに自分の使うナプキンを置いているし」
 
「えーっと」
「更に僕の身体のサイズに合う女物の服とか下着を僕のタンスに押し込んでいく」
「あの子は誰でも女装させたがるから」
 
「ケイちゃんだから言っちゃうけどセックスもさせてくれる。さすがに12月以降はしてないけど、代わりに手や口で逝かせてくれている」
 
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つまり11月(妊娠7ヶ月)までしてたのか!
 
「それって実は付き合っているのでは?」
「僕も最近よく分からなくなって来た。その内、僕の赤ちゃんも産んであげるからって言われているし」
 
「うーん・・・・」
「僕が去勢しても大丈夫なようにって精子の冷凍作ったけど、僕は去勢するつもりは無いんだよね」
「アクアを去勢できない腹いせに去勢されたりして」
「え〜〜〜!?」
 
アクアは・・・たぶん去勢されないように千里が守っている気がする。何度か誘拐未遂もあったのだが、山村マネージャーのお陰で事無きを得ている。もっとも、山村自体がどうも危険人物のような気もするのだが!?しかし山村はコスモスの指示をきちんと守っているし、きっと自分が担当している限りはアクアに危害は加えないだろう。それに彼(彼女?)は千里に頭があがらないようである。かなり昔からふたりは知り合いだったようだ。
 
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でも千里も西湖については適当っぽいから、西湖はその内、アクアと間違われて拉致されて、女の子に改造されてしまいかねない気がする。しかしあの子はよく男とバレずに女子高に通っているよ!
 

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「え?森元課長が入院したんですか?」
 
その日私は氷川さんから話を聞いて驚いた。
 
「やはり3年前に村上社長の体制になって以来、社内の指揮系統が混乱しているでしょう?その調整で走り回って、森元さんがいちばんきつかったみたい。それで無理がたたったみたいで」
 
「それどうなるんですか?」
「お医者さんは慢性疲労症候群と診断しました。町添専務は取り敢えず半年ほど休んで治療に専念するように言いました」
 
「じゃ休職ですか?」
「そうなると思います。取り敢えず課長の役職からは外して、専務付けに異動したんです」
「後任は?」
「南上級係長が課長代行に指名されました。たぶん4月に正式に課長に昇格することになると思います」
 
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「南さんも死ぬほど忙しいのに!」
「ええ。私も南君が過労死したりしないか心配」
 
★★レコードの制作部には、町添部長(専務)の下に、加藤銀河次長は別格として、JPOP部門の森元課長、クラシック部門の大高課長、民謡部門の佐原課長、企画部門の山江課長がいるが、実際にはこの4部門は各々がひとつの会社のような形で独立した予算を持って動いている。つまり森元さんはいわばJPOP部門の社長のようなものである。
 
JPOP部門では森元課長の下に南上級係長・北川上級係長が居て課長をサポートしていた。その下には氷川・八重垣・八雲・佐々木の4人が係長の肩書きを持ち、他に主任の肩書きを持つ人が8人いる。
 
「北川さんの負担も凄まじいでしょう」
「北川は3月いっぱいで退職するんですよ」
「うっそー!?」
「5月に結婚するんで、3月がキリがいいだろうということで」
 
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「そうしたら氷川さんや八重垣さんの負担が・・・」
「私も逃げだそうかな。ケイちゃん結婚してくれません?」
「私、女だから無理です」
 
しかし結局氷川さんは南さんの後任の上級係長に任命されてしまった。氷川さんは事実上のローズ+リリー専任で、そのローズ+リリーが現在マリの休業で比較的時間があることから、全体的なお世話も頼むと町添専務から言われたらしい。
 
氷川さんが上級係長に任命されたことから、氷川さんの助手を務めていた秩父光恵さん(2018入社)が、ローズ+リリーの第1専任ということになった。秩父さんは他にもいくつかのアーティストの担当助手をしていたのだが、それは他の人に代わってもらってローズ+リリーのみを担当する。
 
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氷川さんの上級係長就任で、一時的にJPOP部門の上級係長は2人とも女性になるが、3月で北川さんが退職するので、その後、八重垣・八雲・佐々木の3人の内の誰かが上級係長に昇任するか、あるいは他の部署から転任してくることになる。しかし性別の怪しい人が多いなと私は思った。
 
(八重垣さんは男性にしか見えないが、元女性である。性転換手術も終えているし、戸籍上の性別も男性に変更している。彼は女子高の出身だが高校生時代は男が女装しているようにしか見えず、校内のトイレでしばしば悲鳴をあげられていたらしい)
 
(八雲さんは男性として勤務しているものの、実際にはMTFで性転換手術も受けて完全な女性の身体になっているらしい:マリは彼のヌードを見せてもらっている。しかし彼は女性の身体にはなりたかったものの、女性として生活するつもりは元々無かったので、男性としての社会生活を継続しているし、戸籍上の性別も男のままである。つまりMTFの仮面男子という複雑な生き方である。彼は恋愛対象も女性らしいが、男性器は取ってしまったので女性との性交はできない。彼をストレートに分類すべきかレスビアンに分類すべきかは、私もよく分からない)
 
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(佐々木さんは・・・ふつうの男性に見えるが、実は私は彼の女装写真を持っている:樹梨菜がわざわざ私の携帯にコピーしてくれた。あまりにも美人だし、また違和感が無いので、趣味なのかジョークなのか尋ねるのが怖い。彼は実はDream Boysの元担当なので、もし彼が普通の男子だったら貞操が危なかったかもという気もして、ひょっとするとひょっとするのかも知れない)
 

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その日、花見啓介がお父さんと一緒にマンションに来訪し、2012年1月に私からお金を借りて、少しずつ返済していた分の残額を払ってくれた。花見自身の冬のボーナス、お父さんの冬のボーナスで残りを返すことにしたらしい。
 
「私の方はいつでもよかったんですが、無理してませんよね?サラ金とかに借りたりしてませんよね?」
と私は念のため確認した。
 
「大丈夫です。それにこいつ、ブラックリストに載っているから、あと3年はクレカとかも作れないし、もちろん銀行やサラ金からも借金できないんですよ」
 
「なるほどですね」
 
「本当にあの時は政子にも唐本さんにも凄い迷惑を掛けてしまって」
と言って、花見は再度私に謝った。
 
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2012年1月に私が彼に貸したお金は998万円(1000万円を越すと手続きが複雑になるため、敢えて1000万円未満にした)で、毎年80万円ずつ12年掛けて返すという公正証書を作成していたのだが、実際には約束の金額よりも少しずつ多く返してもらい、この日の支払いで完済となった。
 
私は借用書をお父さんに返した。
 
「こいつもマジメにずっと仕事をしていて、3年前から主任だったんですが、この春からは係長になってもらうと言われているらしくて」
 
「花見さんも頑張ってますね」
 
花見は政子がいたら、再度政子に謝るつもりだったようだが、私は今会うと、政子はあらためて激怒するだろうし、精神的に混乱して妊娠によくない影響があるので、会わないで下さいと言った。お父さんもその方がいいかも知れないですねと言って、政子にはこの件は何も言わないことにした。
 
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それでふたりが帰ろうとした所で私は言った。
 
「そういえば花見さん、結婚するんでしょう?」
「どうしてそれを!?」
「谷繁さんから聞きましたよ」
「そうか・・・」
 
「これ御祝儀」
と言って私は祝儀袋を渡した。
 
「すまん」
「結婚前にこの件が解決できて良かったですね。良い家庭を作って下さい」
「ありがとう。頑張る」
と言って、花見は泣いていた。
 

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その日の夕方、石川県金沢市在住の従姉・浜田千鳥(37)から電話があった。
 
「うちの旦那が東京に転勤になった」
「へー。それいつ付け?」
「明日」
「それいつ知ったの?」
「さっき」
「うっそー!?」
 
「東京支店で大規模な不正があって、支店長はじめ主立った幹部が多数懲戒免職」
「え〜〜!?」
「明日の新聞に載ると思う。支店長と経理部長は逮捕された。それで緊急に全国の支店から管理職を15人転任させることになって、うちの旦那は副支店長」
 
「それ無茶苦茶たいへんな仕事なのでは!?」
「住宅の準備が間に合わないから、調布市内のアパートを丸ごと借りあげて、新任の15人はとりあえずそこに単身赴任だけど、できるだけ早く家族を呼び寄せてという話なのよ。大変な仕事だけに、家族と一緒に暮らさないと精神的にもたないかもという話で」
 
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「過労死しないように気をつけてあげて」
「私もそれが心配!それでさ、うちの一家4人が引っ越せるようなアパートか何かでも、冬ちゃん見つけてくれない?日本一忙しいミュージシャンに頼むのは悪いんだけど」
 
「いや、それは何とかする。子供は何歳と何歳だったっけ?」
「多歌良が小学3年、茉莉香が小学1年」
「だったら3DKくらい?」
「うん。3DKから4LDKくらいで。家賃は全額補助してもらえるから多少高くてもいい」
「マンション?1軒屋?」
「それはどちらでも大丈夫。でも駐車場が1台分でもいいから欲しい」
「分かった。駐車場付きの物件を探してみるよ。場所は調布市がいいの?」
「そうそう。事務所が調布市内なのよ」
「分かった」
 
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もっとも私も自分で探す時間が無いので、友人でもあり現在親戚でもある麻央にこの家探しを頼むことにした。
 
麻央は適当な物件を1日で見つけてくれて、即契約。それで1週間以内に千鳥は2人の子供と一緒に東京に引っ越してくることになった。
 
なお、千鳥の娘・茉莉香は後にEliseの娘ミズキと親しくなり“ガーデンズ”というバンドを組むことになる。これが松元蘭と上島雷太の娘・貴京(たかみ)が作ったバンド“フラワーズ”と合体して“フラワーガーデンズ”が誕生することになる。このバンドができた要因のひとつはここで茉莉香が東京に引っ越してきたことである。
 

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3月の08年組を中心とした震災復興支援イベントについて、協力してくれているTKRから★★レコードに、自分たちだけでは足りないので、スタッフを貸してもらえないかという打診があった。
 
それに対して★★レコードの佐田副社長が、昨年同様自分のポケットマネーでバスをチャーターして社員を送り込むと言ったのだが、労働組合からクレームが入る。昨年はそういう事故は無かったものの、万一怪我などをする社員が出た場合、労働時間なのかどうか曖昧な状況であった場合、きちんと労災として認定されるのか不安だというのである。
 
それで佐田副社長が村上社長・町添専務と話し合った結果、今年は★★レコードから業務として必要な人数の社員を派遣することになった。結果的には★★レコードはそれに必要な費用をこのイベントに寄付する形になる。
 
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夏の日の想い出・戯謔(16)

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