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■夏の日の想い出・影武者(17)

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(C)Eriko Kawaguchi 2016-09-12
 
場面は北海道のラベンダー畑である。
 
和夫はそこに、自分自身と神谷真理子・浅倉吾朗の3人がいるのを見る。あれ?深町君は?と思うものの、そこにはその3人しかいない。
 
「何で深町君いないの?」
と和夫がつぶやいたところで画面はブラックアウトする。
 

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どこか未来的な雰囲気の部屋にいた。
 
そこに白いドレスの少女が入ってくるが、これがアクアである。
 
思わず政子が「きゃー!可愛い!」と叫んでしまったのを私は慌てて口を押さえた。
 

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「あら、あなた誰?お兄ちゃんのお友達?」
とドレス姿のアクアが言う。
 
「僕は芳山和夫」
と和夫が言うが
 
「あら、まるで男の子みたいな名前ね」
と少女は言う。
 
「私はニナ・ソゴル。ケン・ソゴルの妹なの。お兄ちゃんったら、どうも古い時代にタイムリープしたみたいなんだけど、肝心のタイムリープ刺激薬を忘れて行っちゃってさ。これ無しでどうやって戻って来るつもりなのかしら。もし、まだラベンダーが存在した時代まで行っているのなら、その成分を抽出して作る方法あるんだけどね。やり方は高校の化学でも習っているし」
 
と少女が言う。和夫は訳が分からないという顔をしながらも言った。
 
「その薬を分けてくれない?」
「うん、いいよ」
 
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と言って少女が和夫に薬のアンプルの入った箱を1箱渡した。
 
この場面、少女と和夫は向かい合っており、カメラは決して同時にふたりの顔を映さない。片方は実際には今井葉月が後ろ姿だけ演じている。
 
「でも、あなた私にちょっと似てる。お兄ちゃんってシスコンだからなあ。お前が妹じゃなかったら恋人にしたいとか言ってたこともあるし。結局私に似た彼女を見つけたのね」
 
「えっと僕男だけど」
 
「うっそー。お兄ちゃんったら同性愛に走っちゃった? あ、それともあなた性転換して女の子になる予定?私はそれでもいいけど。従弟のユキちゃんは12歳の誕生日に手術して女の子になったけど、凄い美人でボーイフレンドもいるみたいだし」
 
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「うーん。性転換かぁ。どうしよう?」
と和夫は困ったような顔をして言った。
 
画面がブラックアウトする。
 

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和夫は不思議な色彩の空間に落ち込んでいた。そこで浮遊しているかのようである。身体も不規則に回転して、どちらが上か分からない感じになる。自身の服装まで、ワイシャツ姿、セーラー服、学生服、女子高生のようなブレザー&スカート、背広姿、ドレス姿、警官のような服、看護婦のような服など様々に変化する。緑色の太陽が昇ってきて、紫色の海に青い砂浜が広がる。やがてその太陽が沈むと、今度はブリリアンカットのダイヤモンドのような月が昇ってきて、水色の星が多数輝いている。
 
この場面の背景に挿入歌『エメラルドの太陽』が流れる。
 
そこに深町君がどこからともなくやってくる。
 
「ここは時間の狭間だよ。あの日、金曜日の理科実験室に行くんだ!」
 
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と彼が言う。彼は泳ぐようにして、どこかに消えて行く。
 
「金曜日、理科実験室」
と和夫がつぶやくように言うとまた画面がブラックアウトする。
 

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場面は理科室である。和夫・吾朗・深町の3人が掃除をしている。吾朗が文句を言っている。やがて掃除が終わり
 
「じゃゴミは僕が捨てて来るから、浅倉と深町はもう手を洗ってくるといいよ」
と和夫が言う。
 
ふたりが出て行く。実験室で音がする。和夫はドアを開けた。
 
「やはり君だったのか」
と和夫が言う。
 
そこに立っていたのは白衣を着た深町であった。
 

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そこから映画は10分以上、和夫と深町ふたりだけの会話が続く。深町は自分は本当はケン・ソゴルという未来人でタイムリープしてきたのだが、時間跳躍の刺激薬をうっかり忘れてきてしまい、仕方ないので、この時代にはまだ存在していたラベンダーの花を取ってきて、それをもとに自分でその薬を調合しようとしていたのだと言う。
 
それでほぼ完成していた時に和夫に見つかり、びっくりしてその薬の入った試験管を落としてしまったのだと。その薬を嗅いで、和夫はタイムリープの起きやすい状態になっているものの、これは一週間程度もすれば収まっていくから、あまり心配する必要は無いと語る。
 
「僕、君の妹さんに会った。これを渡してくれと言われた」
 
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と言って和夫はケンに薬の入った箱を渡す。
 
「ニナに会ったの?凄い。でもこれ助かる」
とケンは喜ぶ。
 
「いや、実際問題として自分で調合した薬の品質が不安定で、どの程度の時間を跳躍できるか自信が無かったんだ。でも僕の作った薬であの時代まで飛べたのなら、問題無かったのかな」
 
とケンは言う。
 
「行くの?」
「うん。ごめんね。そしてありがとう」
 
「僕の記憶を消していったりするの?」
 
「未来の世界でも人の記憶を消したりはできないなあ。ただ、深町一彦という人物は本当は幼い頃に死んでいたんだよ。それを催眠術であたかも生きているかのように周囲の人にだけ思い込ませていた。その催眠術は、もう僕を保護してくれたご両親、そして浅倉君や先生たちからは解いた。だからこの一週間の記憶は、夢か何かと思うだろうね。でも君に掛けた催眠術は解かないことにする」
 
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「どうして?」
 
「だって催眠術と関係無く、君は僕の存在を知ってしまったから。だから催眠術を解いても解かなくても同じことなんだよ。それに君はこのことを人に言いふらしたりはしないと思うし。それに僕、君のこと好きになっちゃったし」
 
「僕男だけどぉ!」
 
「君女の子になる気ない?もう一度僕の時代まできてくれたら、僕の時代の医療技術では女の子になって子供も産めるんだよ」
 
「でも僕はこの時代の人間だから」
「そうだね。でも僕は君のこと好きだよ」
 
そう言ってケンは和夫と見つめ合う。ふたりの顔が近づく。
 
ケンがキスしようとした時
 
「待ってぇ!僕男だってのに」
「僕の時代では性別なんてあまり気にしないんだけどなあ」
「僕は気にする!」
 
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「じゃ握手」
「うん。握手」
 
それで和夫とケンは笑顔で握手した。
 
「じゃ行くね」
「また会うことある?」
 
「うん。多分」
 
ふたりが微笑んで見つめ合うシーンで映画は終了する。そしてラベンダー畑の中で、夏服セーラー服姿のアクアが主題歌の『∞の鼓動』を歌いながら歩いている場面に重ねてエンドロールが流れる。
 
(主題歌は本来は山森水絵の担当で映画の冒頭には山森の歌で流れたのだが、このエンドロールではアクアが歌っている。3オクターブ使う難曲だが、アクアもかなり広い声域を持っているので充分この曲が歌える。実を言うと北海道にロケに行った段階で『∞の鼓動』は出来ていたものの『エメラルドの太陽』はまだ出来ていなかったという事情もある)
 
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政子がこのシーンを見て「きゃー!アクアちゃん可愛いぃ!」と声をあげるのをまた口をふさぐ。近くに座っているFM局の顔見知りのナビゲーターさんがその政子の様子を見て、笑いをこらえるのに苦労していた。
 

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8月5日。
 
その日発売された週刊誌のタイトルを見て、私は頭を抱えた。
 
『ローズ+リリーのマリ、恋愛発覚。吉本選手は影武者、こちらが本命』
 
という文字が躍っていたのである。
 
取り敢えずコンビニに行ってその週刊誌を(お店にあった分全部)買ってきて中身の記事を読んでみる。それでどうしたものかと思っていたら、6時半頃、町添専務から電話が掛かってきた。
 
「週刊誌見た?」
「マリに記者会見させましょう。それで問題は収まるはずです」
「ほんとに?」
 
「先方もその気は無いと思いますよ。こないだはメッセージ発表で済ませたけど、2度目なので、ちゃんと記者会見して質問に答えた方がすっきりすると思います。先方はメッセージのFAXでもいいですけど。向こうとの事前交渉はお願いできますか?」
 
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「分かった」
 
なお雑誌はその日の昼頃までに主要都市のコンビニ・書店から全部消えてしまったらしい。
 

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それでその日のお昼から、★★レコードで記者会見を行うことになったが、この時点でマリ本人は何が問題なのか認識していない。記者会見には私とマリ、氷川さんと加藤次長が出席したものの、加藤さんと氷川さんは視線を合わせるのを避けていた。
 
「マリさんと新田金鯱さんが交際しているという報道があったのですが、事実でしょうか?」
と代表の記者さんが質問する。
 
「その雑誌の記者さんの思い違いではないでしょうか。マリが誰か男性と交際しているような事実はありません」
 
と氷川さんが代わって答えた。
 
「マリさんは新田さんとお会いになったんですか?」
「こないだから5回くらい会いましたよ」
 
とマリはあっけらかんと答えるので記者席がざわめく。加藤さんは心配そうな顔をしているが、私も氷川さんも余裕で微笑んでいる。
 
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「どのような状況でお会いになったんでしょう?」
「最初に会ったのは、去年、盛岡に行った時なんですけど、わんこそばの大会があっていて、その会場で会ったんですよ」
 
「わんこそばですか?」
 
「私は126杯しか食べられなかったんですけど、新田さんは140杯食べて優勝したんです。この時は吉本さんも一緒で彼は118杯でした」
 
記者席から笑い声が出る。どうも大半の記者はこういう展開を予測していたようである。新田さんの大食いも昔から有名である。現役時代から大食い番組に出演したこともあった。
 

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「その後、どこで会われましたか?」
 
「広島でお好み焼きの食べ比べでまた遭遇したんです。ミニお好み焼きを食べる競争なんですけど、私が48枚、新田さんは60枚で、また私が負けたんです」
 
「マリさんが負けるって手強いですね」
と記者さんが笑顔で言う。
 
「そうなんですよ。それでリベンジしたいから、蟹に付き合いませんか?と私から誘って。札幌で蟹対決しました」
 
「豪華ですね」
「この時は私が勝ちました」
 
「それは良かったですね」
 
「この対決は柔道の吉本さん、プロレスの高橋さんも一緒で4人でやって、私が足60本で優勝。新田さんは59本の1本差。吉本さんは50本、高橋さんが54本です」
 
記者の間からは笑いが漏れている。
 
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「そのあと、先日の苗場でまた新田さんと会って、そうめんの食べ比べしたんですけど、またまた私が負けたんです」
 
「あらあら」
 
「そのあと先週は東京でしゃぶしゃぶの食べ比べをして。私に同行したお友達に数えてもらったんですけど、これは引き分けでした」
 
そのしゃぶしゃぶ屋さんに居る所を盗撮されて記事になったのである。
 
「ああ、お友達と一緒だったんですか?」
「そうですよ。なんか私が男の人と一緒にいる所を去年何度か盗撮されたというので、私をひとりにしないようにとお偉いさんから指令が出たみたいで、私たいてい誰かと一緒に出かけるんです」
 
とマリが発言するとまた記者席には笑いが起きている。加藤次長が頭を掻いているので、その仕草で★★レコードの上層部の指令と多くの記者が想像したようである。
 
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「それでその日もお友達と一緒に行ったんですけどね」
とマリは言う。
 
どうも★★レコード内で状況を確認した所、写真を撮られたのは、政子に付いていた★★レコードの奥村さんがたまたまトイレに立っていた時らしい。食べている最中にどこかに行くことはあるまいというのでトイレに行ってきたようであるが、そんな場面を盗撮されるというのは想定外だったろう。しかし盗撮した人はマリに同行者がいたことも認識していたのではないかという気がする。それを記事にしたのは、やや悪質である。
 
奥村さんは話を聞いて青くなり、始末書を書きますと言ったが、町添さんも村上社長も彼女に落ち度は無いと言った。
 
「ではデートではないですね」
「はい。私だってデートは男の人とふたりきりで会いたいです」
 
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「誰かいつも付いているのなら、そういう時はどうなさるんですか?」
「恋人ができた時に考えます」
 
マリはその後、新田さんとは次はちゃんこで勝負だ、という話をしており、駿河湖が所属する荒岩部屋にお邪魔して駿河海をはじめ部屋の力士たちも参加して食べ比べをする話になっていると言う。
 
「駿河湖さんとは何か関係が?」
「駿河湖さんともよく鹿鹿鹿ラーメンとかで会うんですよ」
 
この発言にまた記者席は笑いが起きていた。
 
加藤次長が
「その話が楽しそうなので◇◇テレビの***の枠内でレポートすることになりました。新田さんや吉本さんも参加する予定になっています」
 
とコメントした。
 
その後マリは食べることに関していろいろ楽しくお話をした。せっかく出てきた記者さんたちも、それを聞いて頷きながらメモしていた。
 
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