[携帯Top] [文字サイズ]
■夏の日の想い出・影武者(3)
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
その後、毛利はビジネススーツ姿で、シレン・コトリに個別に面接して大先生を含めた企画会議で決めたこととして、ふたりはコーラス&ダンスで、メインボーカルはヤマトという方針を伝える。
シレンは「若い子がいちばんアイドル性高いからそれでいいと思います」と言って納得し、あわせてこのユニットのリーダーに指名された。
コトリは「私もメイン取りたいですー」とは言ったものの「でも決定には従います。頑張って練習して、大先生がこの決定を後悔するくらい頑張ります」と言って納得してくれた。彼女はサブリーダーに任命された。
最後にヤマトの所に伝達にいくと、彼女は「私がいちばん下手なのに」と戸惑う姿勢をみせたものの「でもシレンちゃん、コトリちゃんに負けないくらい頑張って練習しますね」というアドリブで締めてくれた。
この「通告シーン」はあくまで「放送用」である。構成作家が書いた台本に、シレン・コトリの希望を入れて少し調整したものを使っているが、全員演技力があり、不自然さの無い通告シーンが撮れた。
実際には毛利さんはシレン・コトリ・ヤマトと保護者同席で個別に会った上で、まず「メインボーカルはヤマト、シレンとコトリはダンス&コーラス」という方針を通告して彼女らをひとりずつ説得した。実際にはシレンは「ヤマトちゃん若いし可愛いから仕方ない」とすぐ納得してくれたものの、コトリは「自分の方が歌は上手いのに」と主張して大変だったのだが、毛利さんの熱い語り口、そしてこの手の説得作業に慣れていて少しも揺るぎのない姿勢に、2時間にもわたる議論の末、最終的には受け入れてくれた。
番組ではその後、3人が集合して、名古尾プロデューサー、毛利さん、と一緒にΘΘプロを訪れ、当面1枚目のレコードをインディーズからリリースするまでの事務的な処理の取り扱いを依頼する。
ここで対応してくれたのは、旅役者風の国定忠治のコスプレをしたシアター春吉社長と、大きな杯まで持って黒田武士のコスプレをしたターモン舞鶴取締役である。
ドライの3人が「ここ大丈夫かな」という感じの不安そうな顔をしたものの、この事務所がステラジオやナラシノ・エキスプレス・サービス、東山三六九などを抱えた事務所ということを毛利さんから説明されると
「すごーい!ナラシノ・エキスプレス・サービス、うちの母が好きで全部CD持ってると言ってました」
などとシレンが言って感動しているようである。
この部分は台本無しの撮影だったのだが、ここで事務所のトップ・アーティストの名前を挙げるのはシレンは筋が良い。
「まあそういう訳でこの3人、CDが3万枚売れたらデビュー、売れなかったら性転換ということになっているんですが」
と名古尾さんが言う。
「ああ、じゃ売れた時は引き続きうちが担当してもいいし、売れなかった時は性転換手術してくれる病院を紹介するね」
などと春吉社長は言っている。
「社長、性転換なさるタレントさんもあるんですか?」
「ここだけの話だけど、海野博晃(ナラシノ・エキスプレス・サービスのリーダー)は密かに性転換してるんだよ」
「え〜〜〜!?」
「実は僕も3年前に性転換したし、ターモン舞鶴君も去年までは美青年だったのが手術して美女に生まれ変わったし」
と社長が言うと
「社長、私まだ嫁入り前なので実は元男なんて噂流されると困るんですけど」
などとターモン舞鶴さんが笑いながら言っていた。
しかしドライの3人はどこまでがジョークなのか判断に苦しんでいる雰囲気だった。
結局この日は「女性歌手オーディション」の様子が50分近く流され、もうひとつの「街角からテレビへ」のコーナーはスタッフが町で何人もの女の子に声を掛けるものの全然捕まらない様子が1分ほど流されただけだった。
ネットの反応。
「海野博晃って前々から性転換でもするのではという噂あるよな。とうとうやったのか?」
「まさか。ジョークだろ?」
「以前入院していた時は、子宮筋腫でしたってジョークかましてたし」
「女装姿はたびたび曝してる」
「女装するとまあ普通のおばちゃんに見えるよな」
「いや、海野博晃はただのホモであって、女になりたい訳では無いと思う」
「海野博晃って男役なの?女役なの?」
「たくましい男が好きという噂もあるから女役だろ」
「だったら性転換してもいいのでは?」
「ホモの女役は入れられてチンコで逝きたいんだと思う。オカマの場合は男の機能自体を使いたくないから、入れられて、なおかつ脳逝きしたいんだと思う。そこがホモとオカマの決定的違いだよ」
「その話は微妙な気がする」
「オカマであってもチンコという便利なものがついてると、ついそこで逝ってしまうから」
「それでもチンコで逝くとオカマは凄い罪悪感持つんだよ。これ使いたくないのにって」
「確かにホモの場合は自分は男だと思っているからチンコで逝くのは普通であって罪悪感は無い」
「でも脳逝きって知らない奴多いから」
「すまん。俺も知らん。それどういうの?」
「ぐぐれ」
「ドライともいう」
「まさか、それがあのユニット名の語源か」
「それはさすがにあり得ない!」
「ついでにトコロテンも検索してみるといい」
「男の潮吹きというのもあるんだよなあ」
「何それ!?」
「男は、チンコで逝く、潮吹きで逝く、ドライで逝くという3通りの逝き方があるんだけど、チンコ以外での逝き方を知らない奴がほとんど」
「女は逆にドライ以外での逝き方を知らんやつがほとんど」
「女はチンコで逝けないと思うが」
「さすがに俺もそれは聞いたことが無い」
「潮吹きは男にしても女にしても素質の問題があると思う。潮吹きで逝ける体質ってのがある気がする」
「ところで大先生って誰なの?」
という疑問には
「毛利五郎って本来、雨宮三森の弟子だよ」
というのがすぐ出てくる。さすがネットの論客たちは詳しい。
「じゃ大先生って雨宮?」
「違うと思う。雨宮が男装する訳無いし。雨宮なら隠す必要も無い」
「ひょっとして雨宮や上島たちの師にあたる東堂千一夜では?」
「確かに東堂千一夜なら『大先生』だろうな」
「でも東堂千一夜ならマスコミ好きだから、顔を隠したりしない。出番が無くても無理矢理カメラの前にしゃしゃり出てくると思う」
「そもそも東堂千一夜が今更こんな若いアイドルのプロデュースなんてしないと思う。もっと実力派の歌手ならあり得るけど」
「そういえばこの番組始まった時に、ラララグーンのソウ∽がプロデュースして歌詞も書いて曲をコンペで募集なんて話が無かった?」
「どうもその話は無かったことにされてる雰囲気だよな」
「番組のプロデューサーが解任されちゃったから、その時、ソウ∽の件も吹き飛んでしまったのでは?」
「あれ実際はソウ∽の許可を取らないまま森原プロデューサーが暴走してそういう発表しちゃったんじゃないの?あの人過去にも似たようなことしでかして吉野鉄心さん怒らせてるよ」
「そもそもソウ∽が詩だけ書くという話に俺は違和感を覚えた」
「うん。ソウ∽って、詩と曲を同時進行で書いていくタイプのクリエーター」
「え?ソウ∽(そうじ)が詩を書いてキセ∫(きせき)が曲を書いてんじゃないの?」
「あれは印税を山分けするためにそういう名義にしてるだけ」
「うん。キセ∫は何もしてない。せいぜい楽譜の清書だけだと思う」
「ソウ∽って速筆だから、自分しか分からない記号で楽譜書くんだよ。だからそれを普通の人が読める楽譜に直すのがキセ∫のお仕事」
「昔ライブでソウ∽の書いた楽譜をハル√(はると)が晒してたけど、例えばC2と書いてあったら、ミソドレドらしい」
「どういう規則なんだ〜?」
番組はこの後、5月26日はレッスンに励む3人の姿が映される。ここで3人の指導役として登場したのは元ラッキーブロッサムの相馬晃である。彼はラッキーブロッサムの解散以後、都内の音楽学校でギター・ベース講座の講師をしていた。今回のレッスンもその学校の設備を使ってやっている。
実際には3人は連休明けにドライとして3人でデビューを目指すということになった段階で、全員東京都内に引っ越してきており、学校も都内の中学・高校に転校している。高校生のシレン・コトリに関しては転校ではなく退学させるべきという意見もあったものの、プロジェクトの統括者となった★★レコードの佐田常務が
「10代の内はふつうの学生としての社会経験もあった上で音楽活動もした方がいい。芸能馬鹿にしてはいけない」
と主張し、転校させることになった。更に「赤点取ったら活動禁止」という条件付きである。どっちみちヤマトは中学生で義務教育中なので、ドライの活動は当面放課後と週末だけに限定されている。しかし3人は5月中旬から、学校が終わった後、毎日9時まで発声やダンス、それに音楽理論などの勉強もさせられている。また体力をつけるため毎朝2kmのジョギングを課されている。
高校生の2人は単身で上京してきたが、ヤマトにはお母さんが付いてきている。
6月中はそのレッスンをこなしながら、中間試験のため一所懸命勉強する様子などが映される。幸いにもシレン・コトリは赤点は取らず、ヤマトも全教科60点以上で活動停止は免れた。
6月後半には、立山みるくのライブのバックダンサーを務める(事前公表無し)ことになり、そのためのレッスンの様子、実際のライブの時の映像などが流れたが、立山みるくは
「私のライブがテレビに流れるなんて、デビューした年に2度あって以来」
と発言して視聴者の笑いを取っていた。
そして6月30日の放送で、とうとう3人に曲が渡されることになる。
その曲の作曲者のクレジットを見てネットは大騒ぎになる。
『ステラジオ作詞作曲』というクレジットになっていたのである。
ステラジオはゴールデンウィーク中に行われる予定であった野外ライブを体調不良のためということで突然中止している。その後「アルバム制作準備のため」と称して、一切のメディアに登場していない。
つい先日、6月25日に大阪で行われたロックフェスタにも登場予定であったものの出場をキャンセルし、空いたステージはナラシノ・エキスプレス・サービスの海野博晃と胡堂平祐が『ミニスカート姿』で登場して観客を沸かせてくれた。
「可愛い20代の女の子のデュオ期待していた人ごめんな」
「ちょっと年食ってて、女かどうか怪しい2人組だけど頑張って歌うから」
などと2人は言った。
「しかしスカートなんて初めて穿いたけど、なんかすごく頼りない。まるで裸で歩いているみたいだ」
と胡堂さんが言う。
「まあ特にミニスカートは頼りない。お前もこれを機会に時々女装するといいぞ」
と海野さん。
「お前は何度も女装でテレビに出てるよな」
「なんか、おもしろがって女装させるプロデューサーがいるんだよ。こんな40男の変態みたいな女装姿、需要も無いと思うんだけど」
ともかくも2人はその格好でステラジオのバックバンド・トリテリスに伴奏させステラジオのヒット曲を30分間歌ったのである。
「これはこれで凄くいい」
「これCDで出して欲しい」
と観客の評価はとても高かった。
ただステラジオがこのイベントも欠場したことから、おそらくホシが何かの病気なのではという観測がファンの間には広がった。
ちなみにステラジオはホシがスカート嫌いという事情があり、実際のライブ衣装では、ナミも一緒に裾の広がった、いわゆるパンタロンを穿いていることが多い。(まだ売れていなかった頃はホシも渋々スカートを穿いてライブをしていた)
[*
前p 0
目次 8
時間索引 #
次p]
夏の日の想い出・影武者(3)