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■夏の日の想い出・影武者(7)

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「私のパスポート、男になってますけど」
と青葉が言う。
「今持ってる?」
「持ってますよ」
と言って、青葉が見せている。
 
「あ、中学の女子制服着て写ってる」
「中学の時にアメリカの病院で検診受けに行くのに作りましたから」
「女子制服着てても性別Mなのか」
「仕方ないですね」
 
このパスポートは2011年9月に作ったものなので、あと少しで期限が切れる。青葉としては来年5月の誕生日が来たら即裁判所に性別変更の申請をして、それが認められた時点で性別Fの新しいパスポートを作ろうと考えていると言った。
 
「なんか紙がはさまってる。medical certificate?」
「性転換手術を受けているという証明書です。それを持ってないとパスポートの性別と本人の性別が一致してないので、入出国でトラブるんですよ」
 
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「大変だね〜」
 

「冬は最初から女のパスポートだよね?」
と政子が尋ねる。
 
「最初は男だったよ。性転換手術を受けるのにタイに行くのに作ったから」
「性転換するんなら女でパスポート作れないの?」
「性転換が終わらないと女のパスポートは作れないから」
「面倒くさいな」
 
「千里もタイだったね?」
「ええ。私が国内で手術受けたのと同じ日にタイで手術したんですよ」
と青葉が言う。
 
「じゃ千里も最初は男で作ったんだ?」
「それがあの子、最初から女でパスポート作ってたんだよね」
と花野子が言う。
 
「なぜ?」
「パスポート申請する時、何も考えずに性別女と書いておいたら、ふつうに性別Fで発行されたと言ってたけど」
と花野子。
 
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「なぜそうなる?」
「事務的なミスかもね」
 
「うん。パスポート作る時に性別が間違っているというのはごく稀に発生しているみたい。ふつうはそれでは見た目と違うから、即修正してもらわないといけない」
 
「あの子の場合、むしろ男のパスポート持ってた方が入出国で揉めると思う」
 
「言えてる言えてる」
 
「私も性転換手術でタイに行ったとき、揉めたもん」
と私が言う。
 
「私、男のパスポートと航空券持ってアメリカに行った時は別室で裸になって男だというのを確認されましたよ。それで高校の修学旅行に行く前に病院でさっきの証明書を書いてもらったんですよ」
と青葉。
 
「なるほどー」
「あの時、千里姉も別室に行って裸になったと言ってましたけど、あれがよく分からない」
と青葉。
 
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「それって、いつのこと?」
と花野子が訊く。
 
「2011年の10月なんですよ」
 
と青葉が答えると、花野子は少し悩むようにしてから言った。
 
「千里は2012年に性転換手術を受けたと主張していたけど、誰も信じてくれないからと言って最近は2006年、高校1年の夏に手術を受けたと周囲には言ってますね。実際問題としてバスケット協会に言われて性別検査を受けさせられて女であるという判定が出たのが2006年秋なんだから、それ以前に性転換していたのは間違い無い。でも私の友人が高校1年の1学期の時点であの子のお股を目撃していて、既に女の子の形だったと言っているんですよ。それと私も後で聞いたんだけど、あの子高校1年の6月の段階で、ドーピング検査受けていてその時、女子選手として異常なしと判定されているらしい。ということは実際には、中学生の内に性転換していたと思うんですよね。それであの子がパスポートを取ったのは2008年ですよ」
 
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「性転換手術が終わってたから女のパスポートが取れたのでは?」
と政子。
「性転換手術が終わってても戸籍は20歳まで直せない」
と私。
 
「面倒くさいな」
 
「しかしパスポートが女で本人の見た目も女なら何も問題起きない気がする」
と政子が言う。
 
「じゃなんでアメリカに行く時にトラブったんだろう?」
 
「航空券が男だったのでは?」
と梨乃。
 
「あ、それはあるかも。航空券の手配は桃香姉がしたと思うので」
と青葉。
 
「しかしそれなら別室で裸になっても、女だということが確認されるだけという気がする。パスポートが女である以上、男の航空券ではそもそも乗れない」
と梨乃は不思議そうに言う。
 
「私も後でそのあたり考えたんですけど、あれは凄く謎です」
と青葉。
 
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「うーむ・・・」
 

「ねえ、青葉ちゃん、そのアメリカ行きでトラブった時って、青葉ちゃんと千里と一緒に裸になったの?」
と梨乃が訊く。
 
「いえ。各々別室ですが」
「だったら、裸になって男だと確認してもらったというのは千里が自分で言っているだけなのでは」
 
「あ・・・・」
 
「それ絶対裸になってないよ。きっと自分は間違い無く女で、パスポートも女、航空券も女だから問題無いはずと説明したんじゃないの?おそらく航空券もちゃんと女で発行してもらっていた」
 
「そう言われればそうかも知れないような気もしてきました」
と青葉は悩むようにして言った。
 
「でもそれならなぜ別室検査になったのかな?」
と美空が自然な疑問を呈する。
 
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すると青葉は考えてから言った。
「桃香姉のせいかも。この子たち女みたいに見えるけど間違いなく男ですからと入出国の所で横から言ってました」
 
「ああ、それが全ての元凶かも」
 

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10時半になると今度はFステージで始まったスウィンギング・ナイツの演奏の様子が流れてきた。
 
「さすがいい音出しますね」
と青葉が感心したように言う。
 
「メンバーは全員70歳近いのに、全く演奏力が衰えてない」
「多分日々物凄い練習しているのだと思う」
「身体も鍛えてますよね」
「だろうね。マジで今時の若いもんには負けんって感じ」
 

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10時半過ぎから、小雨が降り出した。私たちは全員レインコートを着る。他の客もだいたいレインコート持参で来ているようである。
 
こういう興奮しやすいライブでは、むしろ雨が少し降っているくらいのほうが観客の異様な興奮を抑えることができてよい。
 
やがて10:40くらいに楽器が運び込まれ、ケーブルをつないで、PAからちゃんと音が出るかの確認をする。ギター・ベースはチューニングも確認しているようであった。確認が終わると、楽器にはビニールカバーを掛けていた。
 
10:58。エレメントガードおよびサポートミュージシャンがステージ上に登場し所定の位置につく。歓声が上がる。伴奏者たちが各自自分の楽器の音を出して最終確認している。
 
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11:00。物凄い歓声に包まれてアクアが登場する。観客が総立ちになる。政子も「きゃーきゃー」と凄い声をあげて立ち上がった。
 

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アクアは今日は青い半袖のジャージに白いハーフパンツを穿いていた。ジャージの胸にはJAPANの文字があり、オリンピックを意識した衣装のようである。
 
「皆さん、こんにちは!アクアです。これから1時間、一緒に楽しみましょう。でも席は移動しないでくださいね」
 
と言ってからアクアは最初に来月12日公開の映画『時のどこかで』のエンディングテーマ『エメラルドの太陽』を歌い出す。
 

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「なんつー歌詞なんだ?」
と花野子が呆れている。
 
「これ誰の作品ですか?」
と梨乃が訊くので、私が
 
「岡崎天音作詞・大宮万葉作曲。つまりマリ作詞・青葉作曲」
と説明する。
 
「ここだけの話。クスリやってませんよね?」
と花野子が小さな声で訊いた。
 
「またまた薬物検査させられてたけど陰性。まあ色彩崩壊は別に珍しくないし。ただし一部私が歌詞を修正させてもらった」
と私。
 
「あれ不満〜」
と政子は文句言うが
 
「いえ、あそこは修正しないと危なすぎます」
と作曲者の青葉も言う。
 

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この曲は完璧に初公開になった。この曲を青葉が書き上げたのは7月17日。下川工房のイリヤさんの手で編曲が完了したのが20日。実はまだ音源制作もしていないできたてホヤホヤの作品である。音源制作はアクアがどっちみち今日1日映画撮影から抜けることから、今日このステージを終えた後、エレメントガードや他のサポートミュージシャンと一緒に高崎市内に移動して、そちらのスタジオでおこなうことになっている。アクア自身まだ充分練習しているとは言い難いが、まるで1ヶ月くらい練習したかのようにしっかり歌っているのがこの子の才能であろう。
 
「あ、歌詞間違えた」
と政子が言う。
 
「仕方無いよ。これ本人に見せたのが一昨日。でも映画の撮影で朝から夜遅くまで現場に張り付いていて、ほとんど練習時間無かったはずだもん」
と私はアクアを擁護する。
 
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「でも間違ってもそれを感じさせずに堂々と歌うのがあの子の才能ですね」
と青葉。
 
「私も歌詞を間違うのは日常だな」
と花野子が言う。
 
「2番と3番の歌詞が混線するのとかも日常茶飯事だよね」
と梨乃。
 
「あ、確かに。1番はちゃんと歌えるけど、2番以降が怪しくなる」
と政子自身も言っている。
 

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そのあとアクアは『ときめき病院物語II』のエンディング曲『ナイスなナースになるっす』、『ねらわれた学園』の挿入歌『テレパシー恋争』と歌っていく。
 
30分ほど歌った所で、青葉が「あっ」という声を出した。
 
「どうしたの?」
「ケイさん、一緒に来て下さい」
 
と青葉が言うので、私は政子と美空の「監視」を花野子と梨乃に頼んで、ブロックを出る。ブロックの出口の所のスタッフが「演奏中は移動しないで下さい」と言ったが、私はバックステージパスを見せて「関係者です」と言い、出してもらった。
 
そして私たちがステージに向かっている最中にステージ上で歌っていたアクアが突然崩れるように倒れた。
 
会場が騒然とする。
 
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「これが分かったの?」
「意識が遠くなりながらも歌い続けようとしてました。この子凄いです」
「うん。この子、精神力がハンパじゃないんだよ」
 
エレメントガードのヤコが演奏を中断してアクアに駆け寄る。ステージ脇からも秋風コスモスと川崎ゆりこが階段を駆け上ってアクアの所に行った。
 
私たちが小走りでステージに向かっているので、途中何度かスタッフに呼び止められたものの、バックステージパスを見せると行かせてくれた。
 

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ステージ上ではコスモスがアクアと話している雰囲気だ。何度か頷くようにした。そしてアクアが持っていたマイクを取るとコスモスは会場に告げた。
 
「お騒がせして申し訳ありません。ちょっと疲れが溜まっていたので、一瞬気が遠くなったようです。すぐ演奏を再開しますが、5分間だけ猶予を下さい」
と言った。
 
会場全体から拍手がある。
 
「アクアに休憩をあげる間、私が1曲歌います」
と川崎ゆりこが言い、それにも拍手があった。
 
そこでヤコも自分の定位置に戻る。アクアは男性スタッフに抱えられてステージ脇に下がる。エレメントガードがアクアのヒット曲『ぼくのコーヒーカップ』の伴奏を始める。ゆりこがこの曲を歌う。
 
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ちょうどその頃、私と青葉はステージ脇に到達した。
 

楽屋は壁で会場とは仕切られており、ドアの所に警備員が立っている。警備員が私たちを停めるが、ちょうど近くに居たTKRの鮫川さんが
 
「あ、その人たちは通してあげて」
と言うので、私と青葉は楽屋の中に入ることができた。
 
「おお、ケイちゃん。どうしたの?」
と三田原さんが言う。
 
「この子は凄腕のヒーラーなんです」
と私が言うと
「それは助かる。頼む」
と三田原さんは言った。
 
アクアは頭を高くして寝せられており、スポーツドリンクをストローで飲んでいる。
 
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夏の日の想い出・影武者(7)

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