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■娘たちの逃避行(16)

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12月21日の朝は4時半に起きた。取り敢えずお米を6升研いで2升炊きの炊飯器3個に入れる。
 
(御飯大盛1杯は半合程度なので6升は120食分。しかし朝から2杯食べる子が多いので朝食だけであっという間に4升くらいは消えてしまう。残った分は梅干しおにぎりとおかかおにぎりにして持たせる:これもお昼前には無くなってしまう)
 
塩鮭の丸魚3匹を発泡スチロールの箱から取り出して鱗を落とし、頭を切り落として各々三枚に下ろす。それをスライスして切り身にしていたら夏恋が起きてきたので
 
「私、今鮭を切ってるから、夏恋はお味噌汁の具を切ってくれない?」
と言う。
「OKOK」
と夏恋も言って、大根を切り始める。
 
「でもそんな大きな魚、三枚に下ろすの大変じゃない?」
と夏恋が訊く。
 
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「魚を裁くのは小さい頃からやってるから。私、一応漁師の娘だし。お母ちゃんから、このくらいできないと漁師のお嫁さんにはなれないからねと言われてた」
と千里が答えると
 
「お嫁さんにね・・・」
と言って夏恋は何だか悩んでいた。
 
やがて川南も起きてきたので、彼女にはサラダを作ってもらう。レタスとかトマトを切っていたが、冷蔵庫を見ていて「あっ」と言う。
 
「どうしたの?」
「昨日、ドレッシング買うの忘れてた」
「ありゃー。じゃ、私コンビニにでも行って買ってくるよ。まだ少し魚を切り身にする作業が残っているけど」
「あ、切り身にするくらいなら私もできるよ。野菜切ってからそちらやろうかな」
 
と川南が言うので、千里はお任せして、宿舎を出、自分のインプレッサに乗り、近所のコンビニに出かけた。あいにくいちばん近い所には2個しか無かったので、更にもう少し先のコンビニまで行く。そこで更に4個買ってレジに並んだら・・・
 
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「あ」
「あ」
 
「お久〜」
「お久〜、愛してるよ、千里」
「なんかまたレオちゃんに告白されちゃった」
 
そこに居たのは佐藤玲央美であった。
 
「私、近くで旭川N高校がウィンターカップで出てきて合宿してるからそのお手伝い」
と千里が言うと
「私は近くで札幌P高校がウィンターカップで出てきて泊まっているから、ちょっと顔出して練習相手」
 
「そういえば去年も宿舎はわりと近かったね」
 

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列ができているので、商品の陳列をしていた他の店員さんがもうひとつのレジの所に入り「こちらどうぞ」と言う。千里と玲央美で譲り合い、結局玲央美がそちらのレジに行く。結果的に千里も玲央美も同じくらいで精算が終わる。
 
玲央美がカップ麺を買っていたのでお湯を入れるのに、入口近くのポットの所に行く。千里もそこに行って並ぶ。
 
「私の住んでる所の近所のコンビニにペヤング置いてないのよね〜」
と玲央美は言っている。
「玲央美がカップ焼きそばを食べている図って、高校時代からすると想像できない」
「うん。栄養管理てきとーにしてるから」
「それもいいかもねー」
 
「ところでさ、千里と一緒にシェルカップって出たよね? あれいつだったっけ?」
 
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「8月8-9日」
と千里は答えた。
 
「その直前に福岡で会ったのはいつだったっけ?」
「8月3日」
 
「U19世界選手権っていつ終わったっけ?」
「日本がどこまで行ったか次第。決勝トーナメントに残ったら8月2日までだけど、そこまで行けなかったらもっと早く終わっている」
 
千里も昨夜、そのあたりの日程を再確認していたのである。ただどうしてもU19に関する情報を見付けることができず不思議に思っていたのである。
 
「私、シェルカップの時は半年ぶりくらいにボールに触った気がしたのよね」
と玲央美。
「スカイ・スクイレルに入団する時って実技テストみたいなの無かったの?」
「やってない。あんたなら文句なしに合格って言われて。年俸800万円でいい?はい、いいですって、それだけ」
「すごーい。800万円か!」
「まあ女子は安いからね。1000万円超してる人はWリーグ全体でも数人しかいないと思うよ」
「ああ、そんなものかなあ」
「破格の待遇だったと思う。でも倒産したから結局1円ももらってない」
「ありゃー」
 
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ふたりはまた無言で微笑んだ。どうも玲央美も「その問題」に気づいているような気がする。でも、こんなこと言ったら頭おかしくなったとでも思われないだろうかと、少しためらう。
 
「そういえば高田コーチは私たちを拉致してでもバンコクに連れてくって言ってたね」
「そうそう。ショッカーの戦闘員みたいなのがでてきたりしてとか言ってた」
「改造手術されたりして」
「バンコクで手術って言ったら誤解を受けそうだ」
 

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そんなことを言っていた時、突然コンビニのドアを開けてショッカーの戦闘員が入って来た。
 
千里と玲央美は思わず顔を見合わせた。
 
「まさか高田コーチの戦闘員?」
「実は高田総統という名前で多くの改造人間を支配下に?」
 
ショッカーの戦闘員のマスクを被った男(?)はレジの所に行くと包丁を出して「金を出せ」と言った。
 
千里たちはまた顔を見合わせた。
 
「最近のショッカーって強盗とかするんだっけ?」
「ショッカーも落ちぶれたのかなあ」
 
しかしコンビニの店員は非常ベルを鳴らす。すると戦闘員(?)は慌てたようでレジの所に置いてあった募金箱を左手でわしづかみにすると、逃げだそうとした。
 
千里は飛び出すと、男の後ろ側から右手の手首をガシッと掴んだ。
 
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シューターの強烈な握力で握られた男は「ぅっ」と低い声を出して包丁を落とす。玲央美はその包丁を向こうの方へ蹴って飛ばすと、男を平手打ちした!
 
すると男は座り込み「ごめんなさい」と言った。男の左手から募金箱が転がり落ち割れて小銭が散らばった。
 

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110番通報で、5分ほどで警察がやってきて男を強盗の現行犯で逮捕した。割れた募金箱の中に入っていたお金を店長さんと一緒に拾い集め、店長さんが奥から持って来た適当なガラスの瓶に入れた。千里が追加で五百円玉を1枚入れると、玲央美も微笑んでやはり五百円玉を入れた。店長さんが「済みません!」と言って自分でも百円玉を入れていた。現場検証していた警察の巡査部長さんまで「協力」と言って百円玉を入れてくれた。そのあと、かなり伸びてしまったカップ焼きそばを結局千里と玲央美で分け合って食べた。
 
ふたりはその巡査部長さんから住所・氏名などを尋ねられ、身分証明書を求められたのでふたりとも運転免許証を提示した。あとでもしかしたらあらためて事情聴取させてもらうかも知れないということではあった。ふたりが解放されたのは事件が起きた30-40分後である。
 
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「参った、参った。私ドレッシング買いに来たのに」
「今朝のごはんはドレッシング抜きかな」
「今から戻れば食卓には間に合うと思う。あ、玲央美の宿舎まで送っていくよ」
「サンキュサンキュ」
 
それでふたりは千里のインプレッサに乗り込んだ。
 
「でも玲央美も免許取ったのね?」
「うん。5月に取った。気分転換にもいいよと言われたから。車は買ってないけど」
「まあ都会に住んでいると、あまり車を使う必要は無いからね」
 
「あ、私を宿舎に連れて行く前にドレッシングを先に置いて来たら?」
「そうする!」
 
それで千里はそのままV高校まで走り、調理室に駆け込んで
「何やってたの?」
と言う暢子に
「ショッカーと戦ってた」
と言ってドレッシング6本を置くと
「ちょっと佐藤大幹部を送ってくるから」
と言って飛び出して行き、車に戻る。その時、車の時計は 5:55 であった。あ、数字がきれいだなと思い、念のため自分のスントの腕時計も見てみるとMON 21 DEC 5:55 という表示であったのを覚えている。
 
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「ね。やはり言っちゃおう」
と玲央美は言った。
 
「昨日P高校のメンバーが来たからそれを迎えてさ、お疲れ様。私たちが実現できなかった高校三冠を今年こそは取ってねと言ったらね。佐藤先輩も凄い活躍でしたね、って言われるんだよね。私何のことか全然分からなくて」
 
と玲央美は言う。今年札幌P高校はインターハイと国体を制したのでウィンターカップも優勝すれば夢の高校三冠である。玲央美の時はインターハイとウィンターカップは優勝したが、国体は旭川選抜が出場したので三冠はならなかった。もっとも千里たちの旭川選抜が国体で優勝したので「北海道が高校三冠」という報道もなされていた。
 
「実業団関東2部で優勝したからじゃないの?」
「まあ2部だからね」
 
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玲央美が所属するJI信金《ミリオンゴールド》はこの秋のリーグ戦2部Aで全勝。2部Bの優勝チームにも勝って2部1位が確定している。年明けに1部の最下位のチームとの入れ替え戦にも勝てば来期は1部昇格できる。部員がわずか6名のチームというのに凄い成績である。
 
但し来期からはJI信金がKL銀行に吸収されるため、今期は4部で優勝した同銀行のチーム《ジョイフルサニー》との合併が決まっている(そのためジョイフルサニーは3部には昇格せず廃部扱いとなり、ミリオン・ゴールドが手続き上は存続チームとなる)。
 
そしてそのジョイフルサニーには熊野サクラと池谷初美(旭川L女子高出身)が居る。
 
「それで話を聞いていたらさ、私はU19世界選手権に出て大活躍したらしいんだよね」
「なるほどねー。私もU19世界選手権で活躍したらしいんだよ。その時期、私は奄美に日食の観察に行っていたはずなのに」
 
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「ああ、あの時期か!」
 
玲央美も日食は覚えていたようだ。
「その時期、私はずっと博多でバイトしてたんだよね」
「ああ、その頃から博多にいたのね?」
「それでちょうど夜勤明けに日食を見たんだよ」
「なるほど」
 
「U19世界選手権の日本代表の集合写真も見たよ」
「私も見た!」
 
それで千里はいったん車を脇に停めて言った。
 
「どうなってるんだっけ?」
「私も分からない。何か不思議なことが起きているっぽいけど」
 

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ふたりが悩んでいた時、その車のそばに真っ赤なランサー・エボリューションが、やや荒っぽく停まった。千里の真っ赤なインプとその真っ赤なランエボが並んでいると、走り屋さん仲間か?と人は思うかも知れない。
 
そのランエボから降りてきたのは鞠原江美子である。
 
「あ、いたいた」
と言って江美子はこちらの車を覗き込んでいる。
 
「鬼ごっこは終わりだよ。千里、玲央美、高田総統が待ってるからおいで」
と江美子は笑顔で言った。
 
「何があるの?」
と千里は尋ねる。
 
「何って今日からU19日本代表の第1次合宿だからね。NTCだよ」
と江美子。
「何か大会があったっけ?」
「何言ってるの。今月末はU19世界選手権じゃん。ふたりとも代表として発表されているからね。性転換でもしてない限り参加してよね」
 
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「U19世界選手権って終わったのでは?」
「まさか。今月23日からだよ。ふたりとも今月いっぱいは日本代表にたっぷりつかることになるから、所属チームにはほとんど顔出せないと思うし、覚悟決めてね」
 
千里は玲央美と顔を見合わせた。
 
「今日は何日だっけ?」
「ふたりともボケてる? 7月1日に決まってるじゃん」
「何年?」
「2009年だけど」
 
千里はハッとして愛用のスントの腕時計を見た。
 
そこには WED 1 JUL 6:06 という日時が表示されていた。
 
 
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