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■娘たちの逃避行(7)

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そんな感じで半ばおのろけのような話までしていた時、唐突に雨宮先生は
「そうだ」
と言って、どこかに電話を掛ける。
 
「ああ。やはり悪石島はもう一杯か。うん。じゃ奄美でいいよ。2つ押さえてくれない。え?フェリー?何それ? うっそー、飛行機満杯なの? まあいいや。じゃその日程で」
 
どうも日本の旅行会社の人と話しているようである。
 
「あ、ちょっと待って。それ沖縄発着じゃなくて、鹿児島発着にはできない?あ、そちらの方が余裕があるんだ? OKそれで。うん。2人・・・待って、フェリーになるんだったらツアーは3人分押さえてくれない? うん。それで。え?性別?ひとりは男、ひとりは女みたいに見えるけど男、もう一人は・・・」
 
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と言ってから雨宮先生は千里をチラっと見る。
 
「もう一人はたぶん女だな。うん。名前は帰国してからFAXする。うん。今フランクフルトなのよ」
 
それで電話を切る。
 
「三宅先生と奄美においでになるんですか?」
「ううん。雷ちゃんとデート。千里、あんたも付き合って」
「はい?」
 
そして次に先生は別の人に電話をする。
 
「こないだの件だけどさ。ふたりでどこか旅行にでも行ってこない?旅先ならお互い気分も変わるし、何より開放的になるから愛を深めるにもいいわよ。うん。それがうまい口実があるのよ。詳細はまたあとで連絡するけど。あなた運転免許は持ってたっけ? うん。それならいい。じゃまた後で」
 
それで雨宮先生は千里に言った。
 
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「あんたさ、ちょっとバイトしない?」
「どんなお仕事でしょう?」
「私と雷ちゃんの2人を東京から鹿児島まで車で送って欲しいのよ。合計でたぶん5日間拘束、25万円払うから」
「それはまた破格の報酬ですね。随分時給が高いようですが、何をすればいいんです?」
 
「さっき瞬間的に思いついたのよ。ちょっともう少し茉莉花さんと話を詰めてからまたあんたに頼むわ」
 
「ああ、今の電話の相手は春風アルトさんですか」
 
雨宮先生の話はこうであった。
 
実は上島先生と春風アルトさんの仲がここ数ヶ月ぎくしゃくしているらしい。ふたりは昨年秋に結婚したものの、年明けに上島さんの浮気発覚から、アルトさんが同衾拒否し、上島さんも何日も自宅に戻らず愛人の家に泊まるなど、最近は破綻寸前の状態になっているらしい。
 
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「あのふたりお似合いだと思うんですけどね」
「私もそう思うんだよ。茉莉花さんも愛想が尽きた訳ではないので、やり直せるならやり直したいと言っているんだ。そのためには、雷ちゃんにも浮気をちょっとセーブしてもらいたいんだけどね」
 
浮気常習犯の雨宮先生が言うと全く説得力が無いものの、千里もアルトさんのためならできるだけのことはしたいと思った。
 
「それであのふたりに旅行をさせようと思う。でも雷ちゃんはスケジュールが厳しいから、旅行にでも行っておいでよと言っても無理だと言われる。ところが7月に日食があるんだよ」
「へー。それが奄美ですか」
「うん。奄美大島の北部でなら皆既日食が見られる」
「北部?」
「南部では見られない」
「微妙なんですね」
「いちばん観測条件のいいのは悪石島というところなんだけど、そこのツアーは既に満杯らしい。小さな島なんで収容能力に限度があるのよ」
 
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「まあ島の面積を超える人間は入らないでしょうね」
「そうそう。それで奄美まで観測に行く。皆既日食を見て曲を書くためといえばレコード会社も雷ちゃんの旅行をOKしてくれる」
 
「そのついでにアルトさんとデートさせようという魂胆ですか」
 
「そうなのよ。それを思いついたのよ。だから車中泊できるようにゆったりした車を持っていく。何がいいかなあ。行く時は私と雷ちゃんが寝ないといけないけど、雷ちゃんと抱き合っては寝たくないから3列シートの車がいいな」
 
「エスティマとかですか?」
「ああ、それでもいいな。そしてそれを2人に押しつけて私たちは別途帰る」
「その行きの運転をすればいいんですね」
「うん。帰りは私と千里の2人になるけどね」
「車は上島さんに渡して帰るんでしょ?」
 
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「そうそう。だから茉莉花さんに別のレンタカーを借りてきてもらってお互いの車を交換すればいい」
 
どうも雨宮先生も千里と会話しながら計画を練っている感じである。
 
「じゃ東京から鹿児島まで走るのもレンタカーですね」
「うん、そうなる」
 
日食が7月22日にあるらしく、前後5日間7月19日から23日まで空けておいてくれと言われたので千里は手帳のその日付の所に線を引いた。その時千里は7月23日から8月2日まで「U19世界選手権バンコク」という記述があるのを見て心に痛みを感じた。
 
高田コーチから何度も「U19世界選手権に招集したいので連絡が欲しい」というメールが来ている。しかし実は今千里はとても世界で戦えるような身体ではないのである。
 
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今千里が使っているのは高2のインターハイに参加した時より半年も前の身体である。千里がこれから半年ほど身体を鍛えた結果、何とかインターハイで戦える程度の身体になるのである。そして実際問題として当時はまだ性転換手術の傷跡の痛みが結構あったのである。
 

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千里と雨宮先生は、ふたりともレーマー広場で楽曲を2本書いた。それからフランクフルト空港に戻り、夕食を取ってから出国手続きに行った。しかしここで雨宮先生はパスポートも航空券も性別Mなのに本人がどう見ても女なのでトラブる。結局別室で検査されていたが
 
「なんで私だけ引っかかるのよ。あんたはふつうに男に見えたのかね?」
などと言っていた。
 
雨宮先生は千里のパスポートと航空券の性別がFであることに気づいていない。
 
21:05(JST 5/18 4:05)の成田行きに乗り、翌日5月18日(月)15:25に成田に到着する。入国の時は自動化ゲートで入国したので雨宮先生も性別の件で咎められることは無かった。千里は日本までの機内ではほとんど寝ていたが、結果的に0泊3日の弾丸ツアーになった。
 
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こうして千里のパスポートには昨年のオーストラリア・インドネシアに続いて2009年5月の日付でフランス入国・ドイツ出国のスタンプが押された。また、この後、千里はパスポートは免許証や学生証・保険証などと一緒にバッグに入れて常時持ち歩くようになった。
 
今回千里は現金を100万円(内40万円は三宅さんから預かったもの)持って行ったものの、居酒屋の支払いと雨宮先生が借りたベルリンからハンブルグまでの交通費の返却が大きく、その後の食事やフランクフルトの市内交通費等も使った残りは約12万円である。それを三宅さんに報告したところ、
 
「それは申し訳無かったね。じゃ鴨乃さんに借りた48万円はすぐ振り込むね。口座番号教えて」
というのでお伝えすると、即100万円が振り込まれていた。千里がびっくりして再度連絡すると
 
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「差額52万円は無理言ってドイツまで行ってくれた御礼ということで」
 
と言うので、ありがたくもらっておくことにした。
 
しかしさすがに疲れたので火曜日は1日寝ていた。月曜と火曜の授業は他の女の子が代返してくれていたようである。
 

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鍋島康平のレコード協会葬は5月24日(日)におこなわれ、千里は今度は自分で喪服を購入してそれを着て出て行った。雨宮先生は新島さんと一緒にあちこち挨拶してまわっていた。それを遠くからじっと三宅さんが見ているのを千里は認識した。千里は三宅先生の目に嫉妬の感情を感じた。
 
そういえば新島さんって彼氏とか居ないんだっけ??
 
そんなことを思いながら千里が三宅さんを見ていたら、こちらに気づいたようで、ニコっと笑う。そして寄ってきて言った。
 
「こないだは無理言ってごめんね」
「いえ。充分な報酬も頂きましたし」
 
正直香典に140万も出したのは結構辛かったので50万円ほどもらえたのは嬉しかったのである。蓮菜に連絡したら「20万円も無いからしばらく貸してて」と言っていたし!
 
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「そうだ。君、バスケットするんだって?」
「あ、はい。趣味程度ですけど」
「だったらさ、バスケットのゴールもらってくれない?」
「ゴールですか?」
 
「いや、人からもらったんだけど、使い道がなくて困ってた」
 
それは使わない人にはどうにも困る代物だろう。
 
「でも私アパート暮らしだから、置き場所が」
「サイズは45cmx30cmなのよね。壁とかドアに掛けられる」
「小さいですね!」
 
本来のバスケットのゴールは180cmx105cmである。
 
「まあ子供のおもちゃだと思うんだけど、僕たち子供作れないから」
「そうですね」
「まあそのうち雨宮がどこかで作るだろうから、それを僕の子供と思うことにする」
 
千里は頷いた。
 
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「じゃそちらに送るよ。住所教えて」
 
それで千里は自分のアパートの住所を書いて三宅さんに渡した。
 
この小さなおもちゃのバスケットゴールは2日後に届いた。ミニバス用の5号のボールもセットで入っていたが、ほんとに可愛いゴールで、千里はこれをアパートの居室の窓の真ん中に(ガラスの破損防止に)カーテンを引いた上で取り付けた。するとふだん千里が暮らしている台所側から4m弱の距離ということになる(千里のアパートの居室は雨漏りが酷くて居住不能なので千里は台所で暮らしている)。ここから「天井にぶつけずに」ボールをゴールに放り込むのは結構な要領が必要で、これは千里の格好の「暇つぶし」と「ストレス解消」になった。
 
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6月中旬。桃香は九州での仕事に志願した。
 
福岡で7月中旬から9月にかけて「日米音と劇の博覧会」(略称音劇博)という大規模な博覧会が行われ、その中核イベントの劇場公演の電話予約を受け付けるのに九州の電話予約センターのスタッフだけでは足りないということで他の地区からもオペレータを20人くらいずつ派遣するというのである。予約作業は7月頭から9月末まで続くものの、応援が必要なのは発売開始当初の7月1-12日と夏休みに突入した後の、7月18日(土)〜8月2日(日)の合計28日間。その間報酬が1日2万というのが魅力的であった。しかも宿舎は無料で使えるし、その宿舎や会場付属のスタッフ食堂で食べる分には食費も実質無料である(チケットをもらえる)。結果的に1ヶ月近い勤務で50万円以上もらえる。桃香は8月3日から学校の期末試験が始まるのだが、試験勉強をするつもりは無いし試験直前の授業に出る気もないので前日の2日までフルで働くつもりである。
 
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「佐藤さんも行く?」
「うん。あんた体力ありそうだから頼むと言われた」
「そうそう。報酬がいいだけあって、結構ハードな仕事っぽいね」
「うん。3ヶ月分、平日は音楽公演と劇場公演で2つ、土日祝はどちらも2回公演になって全202公演、約40万席を売るらしいから、オペレータも8時間交代の24時間体制で」
 
「深夜はさすがに若い子ばかりになるらしいね」
「40代のオペレータに徹夜はつらいよね」
 
「例の練習はどうすんの?」
「向こうに行っている間これをしなさいと言ってメニューをもらった」
「頑張るね!」
「ジョギングの自転車並走とか頼める?」
「OKOK」
 

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娘たちの逃避行(7)

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