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■娘たちの逃避行(15)

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「遠征中に性別が変わってしまった子もいたし」
と敦子が言うと
「ああ、誰かさんが唆してたからね」
と夏恋。
「本人の持つ潜在的な欲求を顕在化させてあげただけだよ」
と川南は言っている。
 
「昭ちゃん、そういえばどうしてるんですか?」
と千里が訊くと
 
「あの子、性転換手術したよ」
と南野コーチが言うので、千里はびっくりする。
 
「もう今年は春から完全に女の子になっていた。2年生の時までは女の子たちと一緒に居るのを結構恥ずかしがっていたんだけど、3年生になってから完全に女子として溶け込んでいたんだよね。練習もほとんど女子チームと一緒。公式戦だけ男子の方に出る。オープン戦では許可をもらって女子の方に出していた。それでインターハイに行けたらその後、行けなかったら道予選の後で手術を受けるつもりだったんだって。今年男子は道予選の決勝リーグを全敗して4位に留まったから、7月上旬に性転換手術を受けた」
 
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「わぁ・・・」
 
「千里ちゃんも7月上旬に手術受けたんでしょ?」
「ええ。あれは夏休みにぶつけるしかないんですよ」
「千里ちゃんはもう9月にはふつうに学校に出てきてたけど、あの子は回復に時間がかかったみたいでそのあと1学期いっぱい休んで、10月の連休明け、2学期から出てきたんだよ。期末テストは自宅に副担任の先生が言って自宅で受けさせた」
「あれ、時間のかかる人は半年くらい寝てると言います」
と千里はコメントする。
 
「それで戸籍上の性別は20歳まで直せないけど、名前は法的に昭子に改名したんだよ。だから学籍簿上も昭子になった。性転換手術を終えたということを重視して学籍簿上の性別も女子に変更した」
「ああ」
 
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「女子選手としてはいつから活動できるんですか?」
「あの子、実は2008年8月に去勢手術を受けていたらしい。その手術証明書を持っていたんだよ」
「え〜!?」
「そんなに早くですか」
 
「だから2年後の2010年8月から女子選手として大会に出られる」
「じゃ1年生の内からインカレに間に合うんだ!」
「うん。でもあの子、大学には行かないって」
「そうなんですか?」
「関東の強豪実業団チームに誘われているらしいんだよ」
「それ、女子の?」
「そうそう。関東実業団選手権には間に合っちゃうからね」
「すごーい」
「いや、あの子のスリーを見たら、過去の性別なんか気にせず勧誘したくなると思うよ」
「ですよねー。さすが千里の愛弟子」
 
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「結局、あの子は男子高生として入学して、女子高生として卒業していくことになるね」
と南野コーチは言う。
 
「千里や薫もかな?」
と川南が言うが
 
「私は、最後まで学籍簿上は男子だったんだよ」
と薫が言う。
「だから男子高校生として入学して男子高校生として卒業している」
「あれ〜?そうだったの?」
「男子高校生。でも女子制服を着てもいいよという扱い」
「へー」
「今は女子大生?」
「うん。そうだよ」
と言って、薫は自分の学生証を見せる。「歌子薫・平成2年6月28日生・女」と印刷されている。
 
「おぉ!」
 
「千里はどうなってたんだっけ?」
「私は最初から女子だったんだよ」
「ふむふむ」
「だから女子高生として入学して、女子高生として卒業している」
「つまらん」
「千里の学生証は?」
「うーん。うちの学生証は性別記載されてないんだよ」
と言って千里は自分の学生証を見せる。
 
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「いや、ふつうわざわざ性別まで書かなくても、見れば性別はだいたい分かるから」
「まあ、千里のその学生証の写真見て男とは思わないよな」
 

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「そうだ。千里ちゃん、例の賭けは千里ちゃんの負けだね」
と南野コーチが笑顔で言った。
 
「賭け?」
「去年のウィンターカップの時、千里ちゃん、この大会でバスケ辞めるなんて言うからさ、暢子ちゃんが本当に千里ちゃんが1年後までにバスケ辞めてたら暢子ちゃんが千里ちゃんに100万円払うなんて言ってたじゃん」
 
「あ・・・」
 
そういえばそんな話があったっけ?
 
「あ、聞いた聞いた」
と川南が言う。
 
「それで千里は1年後に現役続けていたら1000万円N高校バスケ部に寄付すると言ってたと」
 
うーん。。。と千里は悩んだ。そういえばそんなこと言ったっけ?でも今の自分の状態って現役なんだろうか?それで素直に訊いてみる。
 
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「私って現役なんですかね?」
「バスケ協会に現役選手として登録されているでしょ?」
「ええ。でも好きな時に好きなだけ練習するだけのクラブチームだし」
「関東選抜で優勝したんでしょ?充分強豪チームじゃん」
 
「そのチーム、設立者が凄いよね。札幌P高校の堀江希優、愛知J学園の母華ローザ、岐阜F女子高の山高初子、福岡C学園の渡口留花。インターハイやウィンターカップで表彰されたことのある人ばかり」
と川南。
 
「いや、確かに凄いメンバーで設立されたんだけど、その4人は実際問題としてみんな幽霊部員だったんですよ」
と千里は言うが、薫は
 
「いや。今だって凄い。U18,U19日本代表の千里、U18日本代表でインターハイ・ウィンターカップのリバウンド女王・元プロの森下誠美、国体優勝を経験している溝口麻依子。他にも元プロの小杉来夢、更に全国大会の経験は無いけど充分強い愛沢国香、一応インターハイ経験者の石矢浩子。それに私も入っていて、結構な強豪チーム」
などと言う。
 
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「うむむ」
 
千里は薫が「自分のことをU18,U19日本代表」と言ったのが少し気になった。私、U18代表にはなったけど、U19には出てないのに。
 
「ということで、やはり千里ちゃんはバリバリの現役ということで」
と南野コーチ。
 
「じゃ、千里は1000万円寄付だな」
と薫。
 
「まあ1000万円は大変だろうから1万円くらいでもいいよ」
などと南野コーチは言っている。
 
「済みません、ちょっと考えておきます」
「はいはい」
 

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「でも実際、私先月、千葉県秋季選手権(オールジャパン千葉県予選)で千里たちのチームと当たったけど、実業団の上位とやってるみたいな強さを感じたってキャプテンたち言ってたよ」
と川南が言う。
 
「佐藤さんは結局そちらから離脱したのね?」
と敦子が訊く。
 
「ああ、佐藤玲央美は一時期一緒に練習してたんだけどね。シェルカップには出たんだけど」
 
「そうそう、それ。私シェルカップを見学してたんだよ。さすが日本代表が2人も入ったチームは凄いと思った。決勝戦は日本代表vs日本代表になったし」
と敦子。
 
「うん。さすが彰恵たちは強い」
と千里も言う。
 
「前田さんにしても橋田さんにしても、やはり世界と戦ってきて一皮剥けたって感じがした。千里と佐藤さんはいまひとつ調子が良くなかったね。ふたりが万全だったら、勝負は分からなかったろうけど」
と敦子は言う。
 
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「私は春以降、ほんっとにあまり練習してなかったんだよ。せいぜい週に20時間くらいでさ」
と千里が言うと
 
「それ、私のふだんの練習量より多いじゃん」
と川南が言う。
 
「玲央美にいたっては、あの時点で4−5ヶ月全くボールに触っていなかったらしいんだよ」
と千里は言うが
 
「んなこといっても、ふたりともそのシェルカップ直前に世界選手権やってきてるじゃん。選手権の前には1ヶ月間濃厚な合宿やってるしさ」
と敦子は言う。
 
へ?
 
千里は敦子の言葉が理解できなかった。
 
「でもやっぱり世界は強いよね。日本も頑張ったと思うけど」
などと言いながら敦子は部屋に置いてあるノートパソコンを操作して、やがて1枚の写真を表示させた。
 
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「千里も佐藤さんも、こうやって並んでいるともう既に日本代表の顔って感じだもんね」
と敦子が言うので千里は覗いてみたが、そこには信じがたい写真があった。
 
日本代表のユニフォームを着た選手が並んでいる。見ると、前田彰恵・橋田桂華、鞠原江美子、熊野サクラなどと並んで千里や玲央美の顔もある。千里は一瞬これは高校3年の時のU18日本代表の写真ではないかと思った。しかし日付が2009.7.1となっているし、ユニフォームのデザインも違う。またそこには森下誠美の顔が無く、代わりに?U18代表には居なかった高梁王子の顔があった。
 
この写真何〜!?
 
7月1日といえば、千里はローキューツに入って間もない頃である。あの当時は実際には性転換手術からまだ3ヶ月ほどのボディ(まだ結構人工的に作ったヴァギナの傷が痛かった)を使って、トレーニングを再開したあたりで高校時代に本格的に身体を鍛える前であり、身体もかなり華奢だった時代である。千里は今年の5月から9月に掛けて、半ばリハビリを兼ねたトレーニングを積んだ結果、高校時代にインターハイで戦えるだけの身体を作り上げたのである。
 
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千里の性転換手術→体内時 2007.11.12 歴史時 2012.7.18
手術後の療養期間→体内時 2007.11.13-2008.2.13 歴史時 2012.7.19-10.19
その後の練習期間→体内時 2008.2.22-7.10 歴史時 2009.5.7-9.23
高2インターハイ→体内時 2008.7.11-10.6 歴史時 2007.5.21-8.3
 
だから(歴史時刻)2009年7月1日の時点ではとても日本代表に入れるような肉体は無かったはずなのだ。
 
でも私って、U19世界選手権に出たの? 全然そんな記憶無いし。
 

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千里はいったん頭を休めるべきだと思った。
 
「ごめん。ちょっと先に寝る」
「あ、おやすみなさい」
「そうだ。今日は試合があったんでしょ?」
「疲れてるよね」
「じゃ朝は5時起き、よろしくー」
 
それで千里は先に宿泊室に行って寝ることにした。
 

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V高校の研修施設は4階建てで、基本的には3階は男子生徒、4階は女子生徒の宿泊用である。トイレも3階には男子トイレのみ、4階には女子トイレのみがある。1〜2階には公演や特別授業用の大教室、会議室などの他、職員用の宿泊室も1階と2階に10個ずつある。生徒の部屋は4人部屋だが職員用の部屋はベッド兼テーブル付き2畳ほどと狭いものの、とりあえず全室個室になっている。ここに宇田先生・白石コーチ・大島先生の3人と千里たちボランティア9人の内通いを選択した月原さん以外の8人が泊まり込んでいる。実際には千里を含む女性9人が2階の宿泊室、宇田先生・白石コーチが1階の宿泊室を使っている。南野コーチは女子生徒と一緒に4階に居て、しかも階段の傍の部屋なので女生徒が夜中に出入りしようとすると見付かる確率が高い。
 
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なお、教頭先生は対外交渉が多いので都心部のホテルに泊まっている。
 
千里は自分の部屋に入ってから寝ようとしたものの、やはりどうにも気になるので、パソコンを開いて、U19バスケット女子世界選手権を検索してみた。
 
ところが千里が検索してもなぜかU19世界選手権に関する情報が表示されない。おかしいな。さっきは敦子はいとも簡単に写真を表示させてたぞ? 千里はバスケット協会のサイトにアクセスしてみたものの、なぜかU19世界選手権の情報を見付けきれない。
 
なんで〜〜?
 
うーん。。。。。
 
千里は10秒ほど悩んだが結論を出した。
 
「寝よう」
 

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