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■娘たちの逃避行(11)

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それで最終的には、今美輪子が使っている部屋を夫婦共同の部屋にすることにはするものの、すぐには荷物が整理できないということで、取り敢えず賢二の荷物を3月まで千里が使っていた部屋に運び込んだ。
 
(ここは数年後にはふたりの子供の部屋になる)
 
友人の軽トラを借りてきて、賢二の友人数人に協力してもらって荷物を運び込んだのだが、すぐには使わない物の入った段ボールを取り敢えず天袋に放り込もうとしたら、そこに何か入っている。
 
「あれ、何かバッグが入ってますよ」
「ありゃ、もしかして千里ちゃんの忘れ物かな」
 
それで美輪子に見せると
「あ、これ千里が探していたバッグだ。こんな所にあったのか」
と言う。
 
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先月千里は自分のナイキのバッシュが無いことに気付き、それを入れたはずのスポーツバッグが旭川に残ってないか訊いてきていたのである。
 
「じゃ送ってあげよう」
ということになり、千里の住所を書いた紙を美輪子が賢二に渡し、賢二はバッグを持って近くのコンビニに出かけた。
 

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同じ6月28日、札幌P高校の女子寮。
 
P高校はいくつかの女子寮を持っているが、ここはバスケ部・バレー部・ソフトボール部の選手だけが入寮できる寮である。この高校には道内各地から生徒が集まってきているし、特に強豪として知られるこの3つの部の部員には寮に入っている子が多い。
 
その日、たまたま寮を訪れたOGの太平さんが渡辺純子の部屋を見て
「汚い!掃除しなさい!こんなんだからこないだN高校に負けたんだよ」
と言った。
 
純子の部屋の散らかりようは前々から寮母さんをはじめ、たまに見に来る高田コーチ(男性でこの寮の中に入れるのは高田コーチとバレー部の杉岩コーチくらいである)からも言われていたのだが、簡単には譲らない太平さんから、しかも先日の敗戦に絡めて言われると、純子も「ごめんなさい」と言って、渋々掃除を始めた。
 
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「手伝ってあげるよ」
と言って、親友の江森月絵・伊香秋子も一緒に掃除をしてくれる。
 
床に散らばっている下着類(純子の部屋には平気でブラジャーや生理用品が転がっている)をとりあえず押し入れに入れようと秋子がふすまを開けると・・・・押し入れに詰め込んであった物体群が雪崩を起こして秋子の上に落ちてきた。
 
「きゃー!」
「大丈夫?」
「これ、どういう入れ方してあったのよ?」
 
太平さんが睨んでいるので、結局床を放置して先に押し入れの整理をすることになった。
 
それでしばらく整理していたら、見慣れないスポーツバッグが出てくる。
 
「これ誰のだっけ?」
などと純子は言っている。
 
「それ、確か玲央美先輩のだよ」
「なんでここにあるの?」
 
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「もしかしたら玲央美先輩がこの部屋に来た時に忘れていったものを、あとで返してあげようと思っててそこに放り込んだままになっていたのかも」
 
「何が入っているのかな」
と言って太平さんも一緒になって開けてみる。
 
「着替えがたくさん入っているね。遠征用のかな」
「バッシュも入ってるじゃん。無くて困ってないかな」
「いや、先輩はバッシュは何足も持ってるから困らないとは思うけど」
「あれ、でもこれウィンターカップの優勝記念にもらったバッシュじゃん」
「だったら探しているかも」
「あ、パスポートまで入ってる」
「これは困ってるよ。送ってあげなくちゃ」
 
「じゃそれ私が玲央美先輩の所に宅急便で送りますよ」
と途中から見に来ていた小平京美が言い、送り先を確認しようと高田コーチに電話した。すると高田コーチは少し考えていたが、
 
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「じゃ、今から言う住所に送ってくれる?送料はあとで僕が払うから送り状を持って来てよ」
と京美に住所を告げた。
 

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千里は7月に父の知人の紹介で塾の夏季講座の講師をすることになった。しかも父の知人は千里のことを男の子と思い込んでいるので、背広を着てやるはめになったのである。この背広は貴司のものを借りた。
 
取り敢えず7月は18日と25日にお願いしますと言われて了承した。この日程なら、ちょうど雨宮先生から頼まれた19-23日に奄美に行ってくるのも大丈夫だなと千里はこの時は思った。25日はU19大会とまともにぶつかるけど!
 
ところが千里が塾の面接に行ってきた翌日、雨宮先生から電話が入った。
 
「千里、こないだの奄美行きの件だけど、ちょっと予定が変わった」
「あ、はい」
「鹿児島発・鹿児島着でツアーに申し込んでいたのに、このルートが最少催行人数に到達しなかったらしいのよ」
「あららら」
「それで鹿児島発・沖縄着に変更した」
「なるほど」
「それで沖縄で1泊してから鹿児島に飛行機で移動するから、悪いけどエンドが1日ずれて茉莉花さんとのランデブーが24日になってしまう」
「はい、いいですよ。24日までは空いてました」
「じゃそれでよろしく。もしかしたら24日が夕方になってしまうかも知れないから、その場合はその日は福岡で泊まって東京帰着が25日朝になるかも知れないけど」
 
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千里は考えた。福岡に泊まるのであれば朝1番の飛行機に乗ったら確か8時半くらいに羽田に着いたはずだ。それなら何とか塾の講義には間に合うだろう。
 
「はい、それで何とかなると思います」
 
ところが雨宮先生との電話を切った直後、今度は塾の方からメールが入る。
 
《村山先生。昨日お打ち合わせさせて頂きました講義の日程ですが7月25日(土)に大規模な電気工事のため停電があるとの連絡がありました。大変申し訳ないのですが24日(金)に振り替えることはできませんでしょうか?》
 
何〜〜〜!?
 
千里は少し考えた。
 
『ね、きーちゃん』
『ん?』
『申し訳ないけどさあ、24日、私の代わりに背広着て塾の先生してくれない?』
『うーん。まあ私は男装はあまり得意ではないけど、元々千里の男装が凄まじく不自然だから、その代わりなら何とかなるかな。でも何の教科だっけ?』
『英語だよ』
『それなら行けると思う。私も漢文とかは教えきれないけど』
『漢文なら青龍が教えられる』
『俺は女装したくない』
『今回は男装だよ』
『うーん。それならいいか』
『じゃもし漢文も教えられませんかと言われたら、せいちゃんに頼もう』
 
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そこで《きーちゃん》は千里の奄美行きに同行せず千葉市内に残って24日に夏季講座の講師をすることにし、塾の方にはOKのメールを返信した。
 
そうして7月24日に千里が沖縄と千葉に同時に居たという事態が発生するのだがこの件は1年ほど後に偶然玲羅の知る所となる。しかし玲羅も知らなかったのだが、実は7月24日に千里は3箇所に存在したのである。そのことは、この時点では千里自身でさえ知るよしも無かった。
 

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7月22日。桃香と玲央美は午前0時から9時まで(途中休憩あり)のオペレータ勤務を終えて「疲れたね−」と言いながらコーヒーを飲みながら少しおしゃべりし、私服に着替えた後、マクドナルドででも朝御飯を食べようと、明治通りに出た。その時、道のあちこちで立ち止まって空を見上げている人たちがいる。みんな手に博多にわかのお面?みたいなものを持っている。
 
「何だろ?」
と言ってふたりも空を見上げる。
 
「あ、太陽が欠けてる」
「日食があってたのか」
 
ふたりも思わずそれに見とれていたら、40歳くらいの男性が声を掛けた。
 
「君たち、あれを直接見たら目を痛めるよ。これあげるから使いなさい」
と言って日食用の観察グラスを2枚渡してくれた。雑誌の付録のようである。
 
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「ありがとうございます」
 
ふたりはそれで太陽を見たが、太陽の右上の方が少し掛けている。
 
「なんか凄いね」
 
この日は曇りがちな空だったので、しばしば太陽は雲の向こうに隠れてしまうのだが、それでも結構顔を出すし、また雲を通しても欠けているのは結構見えた。
 
日食はもうしばらく続きそうということでふたりはマクドナルドでマフィンをテイクアウトし、公園に移動してから食べながら日食を見続けたが、太陽はどんどん細くなっていき、10:56には左側がわずかに三日月のように残るだけとなった。
 
「あと少しで全部消えるかな」
などと言っていたのだが、福岡ではそこまでのようで、太陽の上の方が少しずつ太くなっていく。30分も経つと太陽はもう上半分くらいが見えている状態になった。そして12時17分には天体ショーは完全に終了した。
 
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「何か凄かった」
「皆既食になるかと思ったらちょっと残ったね」
 
そんなことを言っていたら、近くで観測していたおばちゃんが言う。
「悪石島まで行けば皆既が見られたんだけどね」
「それどこですか?」
「鹿児島の南の方にある小さな島らしいよ。今日は人口100人くらいの島に千人くらい詰めかけたらしい」
「すごーい」
「食料が無くなるのでは」
 
「そういうのも持参。ゴミは持ち帰り。でも飲料水とかトイレとかの用意も大変だったらしい。そもそもそんな人数を1日では運べないから島に入るのも出るのも1週間がかり」
「わあ」
 
「無秩序に来られたらたまらんから、近畿日本ツーリストのツアーの人しか入島できないようにして。でもそのツアーが1人40万円以上」
「ぎゃっ」
「さすがに出せないから諦めたよ」
 
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「でも一度完全な皆既も見てみたいもんですね」
 
ふたりはそのおばちゃんと一緒に華麗な天体ショーの余韻にひたっていた。
 
しかし実際には高額のツアーで悪石島に行った人たちは折からの豪雨で日食どころか太陽自体が全く見えなかったし、小学校の校舎の中に避難したりで大変な目に遭ったのであった。
 
悪石島よりずっと日食の継続時間は短いものの収容能力の高い奄美大島に行った千里や雨宮先生たちは、やはり曇ってはいたものの、雲を通して何とか皆既の様子を観測することができた。
 

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