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■娘たちのムスビ(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-05-11
 
千里の大学では2月16日(木)までに試験期間は終了し、追試や追試代わりのレポートに追われている桃香のような子を除いては春休みに入る。
 
千里はどっちみち試験は受けない(普段の授業にも出ていないので試験に通る訳が無い。きーちゃんに代理で受けてもらう)ので、2月8日(水)の最終授業を受けた後は、葛西のマンションに籠もって作曲の作業をし、2月11-12日に冬季クラブ大会・シェルカップに出場あるいは対応した後、大阪に向かった。
 
12日(日)夜の打ち上げを終えた後、インプレッサに乗り《こうちゃん》の運転で豊中市の貴司のマンションまで行く(千里は後部座席で寝ていた)。
 
千里が到着すると貴司は熟睡していたので、用意していた食材を使って朝御飯とお弁当を作った。そろそろ起こした方がいいかなという時刻を見計らって貴司をキスで起こす。
 
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「あなた、起きて」
「わっ、千里来てたんだ?」
「朝御飯できてるよ」
「セックスしたい」
「それやってると遅刻するね」
「夕方まで居る?」
「今日1日居るよ」
「いつ帰るの?」
「今夜かな」
「明日の朝にしようよ」
「いいよ」
 

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それで一緒に朝御飯を食べる。
 
「これバレンタインね」
「わぁ、ありがとう!」
 
中身は結構値の張る洋菓子店のチョコレート詰め合わせ、それに新しいバッシュである。
 
「このバッシュ、かなり高そう」
「そのバッシュで日本代表をつかみなよ」
「うん。頑張る」
 
貴司を会社に送り出した後は、丸一日掛けてマンションの掃除をした。ゴミ袋が8個も出た! どうも普段全く掃除をしていないようである。
 
だいたい掃除が片付いた所で、パソコンを開いて作曲作業をする。夕方くらいから夕食にシチューを作る。21時半頃、チーム練習を終えた貴司が帰宅するのでキスで出迎える。
 
「あなた、お風呂にする?ごはんにする?それとも、わ・た・し?」
「えっと練習の後だからシャワーして、食事してから、ゆっくりと夜の楽しみを」
「OKOK」
 
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2月14日(火)の朝、「ハッピーバレンタイン」と言って、この日もお弁当を持たせて貴司を会社に送り出してから千里は東京に帰還した。
 
2月15日(水).
 
夕方、千里は電車で北与野駅(大宮駅の1つ南側)まで行くと、JAFの埼玉支部に行った。雨宮先生の指示でB級ライセンスを取っておいてくれということであったので、この日行われる講習会を受けに来たのである。
 
(四輪)自動車レースの国内B級ライセンスというのは、実は講習会を受けるだけで取れる。筆記試験も実技も無い。
 
ともかくもこの日千里は受付で運転免許証(二輪免許を取ったのでブルーになっている)とJAF会員証を見せて受講料を払うと講習会に臨んだ。内容は自動車レースに関する基本的なことの説明である。講習会終了後にライセンスの申請書類を書いて写真・申請料と一緒に提出。その場で取り敢えず仮ライセンスをもらった。正式のものは後日交付ということであった。
 
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なお国内B級ライセンスと同時に、、審判員ライセンスのコース・技術・計時B3級も一緒にもらえる。なおB級ライセンスは毎年更新料が3100円必要である!
 

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2月16日は葛西のマンションで作曲作業をしていたら冬子から連絡があり、事情は言えないけど、今自分は東京に居ないことになっているので、★★レコードに持って行くハードディスクを代わりに届けてくれないかということであった。快諾して彼女と新橋駅で落ち合い、ディスクを受け取って★★レコードに届けた。
 
受付の所で氷川さんを呼び出してもらおうとしていたら当の本人が到着する。受付の女性が
「あ、氷川さん、醍醐春海先生がいらしてます」
と言うので、千里は彼女と名刺を交換した。
 
「ああ、ローズ+リリーの担当になられたんですか?」
「実は正式入社前なんですけどね」
 
「大変ですね!実は旅先でケイちゃんと会いましてね。東京に戻るんだったら届けてくれないかと頼まれたんですよ」
と千里は言ってハードディスクの入った紙袋を渡した。
 
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「ありがとうございます。ケイもローズ+リリーの制作しながら、ローズクォーツのツアーで飛び回っていて、その間にAYAの音源製作に参加したり、スリファーズ、ELFILIESの制作もやっているし、無茶苦茶忙しいみたいですね。自分が2人欲しいなんてこないだは言ってましたし」
と氷川さんは言う。
 
その話し方を聞いていて千里は、氷川さんはケイが今東京に戻っていることを知っているなと感じた。
 
むろんそんなことは彼女とは話さない。
 
「きっとケイって3〜4人居るんですよ。でないと、あり得ないですね」
「ああ、私もそんな気がしています。多分ケイは4つ子か5つ子くらいじゃないですかね」
 
そんなことを氷川さんとは話してその日は帰った。
 
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2月18日(土).
 
土浦市の霞ヶ浦文化体育館では、シェルカップの準決勝と決勝が行われた。
 
ローキューツBチームがベンチに座るが、Aチームの面々や、4月からローキューツに合流することになった“晩餐”の4人(の内実際に合流するのは2人)と揚羽は観客席に座って応援していた。準決勝に残ったのはこの4チームである。
 
ローキューツ、TSブライト、多摩ちゃんず、茨城S学園
 
江戸娘も参加を検討していたようだが、関東クラブ選手権と日程がダブったので、こちらはキャンセルしたらしい。多摩ちゃんずは関東クラブ選手権を逃したので、こちらに出てきたようだ。
 
準決勝の相手はその多摩ちゃんずであった。
 
こことは2008年12月の純正堂カップの準決勝で当たっている。東京のクラブチームではBEST4くらいには入るチームで関東クラブ選手権や選抜にも何度か出ている。3年前に対戦した時は、ひじょうに卓越した選手がいてひとりでチーム得点の半分稼いでいたのだが、今回はその選手の姿は見なかった。
 
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「ああ、酒井さんは実業団のMS銀行に行ったよ」
とソフィアが言った。
 
「不二子がいるチームか!」
「そうそう。それで聞いたんだよ。ヘッドハンティングされたみたいね」
「あの人はWリーグでもいいと思うのに」
「本人もたぶんMS銀行はステップのつもりだと思う」
「かもねー」
 

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その酒井さんが抜けていても、多摩ちゃんずは結構強いチームであった。むろんローキューツのAチームの敵ではないのだが、Bチームで勝てるだろうか?とやや不安があった。
 
しかし、Bチームはやはりソフィアの存在感が大きい。ソフィアがいることで司紗が活きるし、結果的に夢香・夏美・瀬奈というBチームの主力がのびのびとプレイできる。
 
かなりの接戦になった。最後は1点ビハインドの場面からソフィアがシュートしようとした所を相手ファウルで停められる。フリースローになるがシューターのソフィアが外す訳は無い。きっちり2本とも決めて、ローキューツが勝った。
 
Bチームの面々が凄い喜びようだった。
 

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「茜が凄い喜んでいる。きっと茜は4月からはかなり活性化すると思うよ」
と千里は言った。
 
「うん。彼女は最近入って来たメンバーがあまりにも強すぎて、こんなチームに居ていいのかなと悩んでいたんだと思う」
と麻依子も言った。
 
「薫、あの子にあまり厳しい言葉掛けないようにしてね」
と千里。
「うん。私は楽しみながらやってるメンバーにはあまり要求しないよ」
と薫。
「ということは私たちには厳しくあたられそうだ」
と元代。
 

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そういう訳でローキューツBチームは決勝にまで進出した。相手は高校生チームに勝ったTSブライトである。
 
TS大学の1年生で構成されたチームである。
 
TS大学は最初、橘花や彰恵たちの世代(現3年生)が、入学した当初強すぎて上の学年で誰もかなわなかったので“TSフレッシャーズ”という称号を与えられた。むろんフレッシュマンの意味である。
 
しかしその後、1つ上の学年の部員たち(現4年生)がオープン大会に出る時にフレッシャーズに対抗して「TSメロディアン」を自称した。コーヒーフレッシュに掛けたのである。それで彰恵たちの次の学年(現2年生)は「TSマリーム」を名乗り、それで今の1年生は同じ発想で「TSブライト」を名乗っているのである。
 
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「じゃ来年の新一年生はきっとTSクリープだ」
「もしかしたらTSスジャータかも」
「そう思わせてTSクレマトップ」
などといった声が出ていた。
 

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試合は勝負にならなかった。
 
「うーん。ここまでだったか」
 
やはり強い大学だけあって、優秀な選手揃いである。こちらで対抗できているのはソフィア・夢香・瀬奈の3人くらいであった。
 
最後に司紗のかなり遠くからのスリーが決まり、思わず歓声が起きたものの、遠く及ばず。結局82-64で敗れた。
 
「いや、この相手に18点差は充分善戦したと思う」
「準決勝はダブルスコアで勝ち上がってきているからなあ」
 
そういう訳で、今回のシェルカップで、ローキューツは準優勝に終わったのである。
 

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千葉市内に戻ってから、打ち上げをしたが
 
「私、バスケットがまた好きになった気がする」
と茜が遠い所を見るような目で言うのを見て、麻依子と千里は顔を見合わせて微笑んだ。
 
「玉緒ちゃん、来年はこの手のオープン大会にたくさん参加しようよ」
と浩子が言う。
「うん。情報集めてみる」
と玉緒も言う。
 
「交通費・宿泊費は全部出すから、九州とか北海道の大会でもいいよ」
と千里。
 
「大会を名目にして北海道旅行とかもいいね!」
 

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桃香はその日、季里子に言った。
 
「ね、結婚しちゃわない?」
 
季里子は少し考えてから言った。
 
「浮気しない?」
「しないよ!」
 
「でも今桃香、女の子と同居してるでしょ?」
「あの子とは単なるルームシェアだよ。何も関係無いよ」
「ほんとに〜〜?つまみ食いとかしてない?」
「してない、してない(つまみ食いすると殴られるし)。だいたいあの子、彼氏いるし。あの子はストレートだよ」
 
と言いつつ、桃香は千里の場合は男の子を好きになるのがストレートということでいいんだろうな、と考える。
 
「へー!そうだったんだ!」
「よく外泊しているみたいだし、たぶん頻繁に彼氏の所に泊まっているんだと思う」
 
季里子はまた少し考えた。
 
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「だったら、指輪買ってくれるなら結婚してもいいよ。私、男の子との恋愛経験無いし、今後も男の子と恋愛したり結婚するとは思えないしね」
 
「だったら指輪買いに行こう」
 
それでふたりは東京に出ると御徒町(おかちまち)で電車を降りた。ここは安い!宝石店が多いことで昔から有名である。指輪と聞いてここに来るのは安物好きの桃香の習性である。
 
いくつかのショップを見て回ってから、わりと雰囲気の良いお店に入る。
 
「ここは少し高い気がする」
「でも何か安心感がある気がする」
 

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