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■娘たちのムスビ(7)

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「でも桃姉たちも結婚してもいいんじゃない?」
と青葉は言った。
 
ここで青葉は桃香と千里が恋人同士と思っているので、ふたりで結婚してもいいんじゃないかという意味で言った。しかし桃香も千里もそう取らなかった。
 
「結婚するには性別を変えないといけない」
と桃香は言っている。それを聞いて千里はやはり桃香は季里子との結婚を考えているんだなと思った。
 
「入籍しなくて事実婚でもいいんじゃない?」
と青葉。
「それは既にしている」
と桃香は真顔で答える。桃香は実は今日は結婚指輪をつけてこようかと思っていたのだが、恥ずかしくなって千里と落ち合う前に外したのである。
 
一方千里は、確かに桃香、季里子ちゃんちに入り浸りになっているもんなあと思った。
 
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「そうだったんだ?」
と千里も笑顔で言いながら桃香の恋路を応援するつもりになる。
 
「ちー姉はどう思っているの?」
と青葉は訊いた。青葉は千里の桃香への気持ちを訊いたつもりである。しかし千里は自分と貴司のことを考えていた。
 
「うん。結婚しちゃうつもり」
と千里は答える。
 
「いいと思うよー」
と青葉。
「まあ、いいんじゃない?」
と桃香も言った。
 

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青葉が上越新幹線の改札口をくぐっていくのを見送り、桃香と千里は千葉方面に帰ることにする。
 
東京21:53-22:26千葉
 
「桃香は彼女んちに帰るんでしょ?」
「もちろん。千里も最近アパートにいないみたいだけど、彼氏んちに居るんだっけ?」
「ううん。私は最近仕事場で夜を明かすことが多い」
「大変そうだな!」
「デートは木曜日の夜にしたから大丈夫」
「結婚するの?」
「桃香もするんでしょ?」
 
「実は本当に結婚したんだよ」
「そうだったんだ!おめでとう!」
 
「それで籍を入れるのに、私、手術して男になったりしなくてもいいよね?」
「その問題はこないだも話したけど、桃香は女の子だと思うよ。だから堂々と女同士で結婚してていいと思う」
「私たち2人の間では夫婦のつもりでいるけど、正直、彼女の親を説得できる自信が無い」
 
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「だから事実婚のままでいいんじゃない?何ならふたりだけで結婚式を挙げればいいよ。私は桃香たちの結婚式に出席してあげるよ」
 
「そうか?」
「美緒とか朱音も出席してくれると思う」
「その線でいくかなあ・・・」
 

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やがて千葉駅に到着する。
 
「今夜はどうするの?」
と桃香が訊く。
「今から仕事場に行くよ」
「ごめん!」
「平気平気。桃香、季里子ちゃんちに送って行こうか?」
「あ、だったらコンビニで買い物してから」
 
と言って、コンビニで食料品やお酒などを買っている。それで駐輪場に連れていくとびっくりしている。
 
「バイクなのか!」
「これも借り物〜」
「ほんっとに千里は借り物が多い」
「ヘルメットかぶってね」
 
と言って千里は収納から2つヘルメットを出すとひとつを桃香に渡す。桃香の荷物は収納に入れる。
 
「しかし凄いバイクだ!」
「パワーも凄いよ」
「だろうな!」
「じゃ行くよ」
 
それで千里は桃香を後ろに乗せて季里子のアパート近くまで行った(*1)。収納から桃香の荷物を出して渡す。
 
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「ありがとう。じゃお仕事頑張ってね」
「桃香も頑張ってね」
 
と言って別れた。
 
(*1)千里は二輪免許を取ってまだ1年経ってないので二人乗りは違反である。千里は12月にも麻依子を乗せて二人乗りしていた。
 

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そのままZZR-1400を運転して葛西のマンションに戻り、千里は作曲作業を続けた。
 
翌2月25日(土).
 
昼過ぎにティファニーの野沢さんから千里に電話が入る。
 
「婚約指輪ができましたのでご連絡致しました。ご来店頂ければ、いつでもお受け取りになれますので」
「もうできたんですか!ありがとうございます。今ちょうど彼が仕事で東京に出てきていて、今日の夕方には片付くと思うんですが、今日は何時まで営業ですかね?」
「一応20時まででございますが、多少でしたら遅くなっても対応できますが」
「分かりました。20時までに行くようにします」
「お待ちしております。もし20時すぎてお店が閉まっていた場合はこちらにお電話下さい」
と言って、野沢さんは携帯の番号を伝えてくれた。
 
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千里は少し考えてから母に電話した。
 
「あのね、お母ちゃん、私貴司と結婚するから」
「ああ、いいんじゃない?」
「婚約指輪ももらったんだよ」
「おお、それは凄い」
「それでその婚約指輪見せにそちらに行こうかなあと思っているんだけど、明日お母ちゃん、家に居る?」
「いるよ」
と母が答えるので千里はおそるおそる訊いた。
「お父ちゃんは?」
「今週末はスクーリングで札幌まで泊まりがけで行っているんだけど」
「わぁ・・・」
 
「でもあんたが“お嫁さんになる”という話したら、あの人激怒してきっとまともに話ができないよ」
「うーん。。。そんな気はした。でも結婚までに一度話さないといけないし」
 
「その件はまた今度にしたら?」
「そうだなあ」
「今回は指輪を見せにだけおいでよ」
「そうしようかな」
「貴司さんも来るの?」
「行けると思う」
 
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千里は貴司の携帯にメールして、婚約指輪ができたこと。できたら今日そちらの合宿が終わってから一緒に取りにいきたいこと、そして明日留萌に行って、双方の親に指輪を見せに行こうよと書いた。
 
それで千里は少し考えてから、《こうちゃん》に西千葉の駐車場からインプを持って来てくれるよう頼んだ。
 
車を回送してもらっている間に、サンローランのドレスを着て、お化粧もする。1年前に貴司からもらった18金のイヤリングを付ける。やがて車が到着するので、フェラガモのパンプスを履いて《こうちゃん》の運転で銀座に出た。
 
三越の近くで下ろしてもらう。紳士服売場に行って、ラルフローレンの紳士用スーツを買う。更にそう高くない範囲で、ネクタイ・ワイシャツ・紳士靴と買う。タグは切ってもらい、靴も箱は不要と伝えて袋に入れてもらった。
 
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《こうちゃん》に迎えに来てもらい、板橋区内のガストに行き、そこでお茶を飲みながら待機する。時間を見計らって自分でインプを運転して、ナショナル・トレーニング・センターのゲート付近に行く。ちょうど貴司が出てくる。手を振る。貴司がびっくりしたような顔でこちらを見て、助手席に乗り込んでくる。千里が車を出す。
 

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「凄い。この付近で待機してたの?」
「ううん。今着たよ。ちょうどピッタリになったのは愛の力かな」
「すごい」
 
「で、一緒に指輪取りに行くよね?」
「待って。この格好」
 
貴司はジャージ姿である。貴司はそもそも大阪からジャージで出てきていた。
 
「適当な服を用意しておいたから、よかったら後部座席で着換えて」
「そうする!」
 
千里がいったん車を脇に停め、貴司は後部座席に行く。
 
「適当な服というかこれ凄く良い服のような気がする」
「まあ宝石店に行くのに適当な服かな」
「確かに」
「指輪作りに行った時はけっこう適当な服で行っちゃったもんね」
「後でやばかったかなと思った!でも日本語って難しいね!」
 
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貴司は銀座に向かう車の中で母・保志絵に電話し、千里に婚約指輪を贈ったので明日見せに行くと言った。向こうは慌てているようだったが、まだ結納とかいうことではないというので、ホッとしていた。
 
「お互い挨拶に行くとかするんだっけ?」
「そんな大げさなことはしなくていいと思う」
 
その件に付いては、保志絵と津気子で少し話し合いたいと言っていたので、それは任せることにした。
 

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「合宿はどうだった?」
「みんな強い強い。物凄く刺激になった」
 
「ロースターに残れそう?」
「無理〜! どの段階で落とされるか分からないけど、落とされるまで頑張って練習するよ」
 
「やはり貴司は毎日の練習時間が短すぎるね」
「それは痛感した」
 
「やはりbjでもいいから、どこかバスケだけをやれる所に移籍しなよ。生活費はもっと安いアパートとかに引っ越せば何とかなると思うよ」
 
「それ本気で考えるかも。取り敢えず今年度はもう押し迫っているから、今回の日本代表候補の活動が終わってから考えるよ」
 
「うん。一緒にオールジャパンに行こうよ」
「オールジャパンかぁ・・・。千里凄いよな。2度も行ったし」
「今回は4年ぶりだったけどね。次はまた4年後だったりして」
「来年は?」
「結婚式とか卒業準備とかで、とてもバスケやってられない気がする」
「あぁ!」
 
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「そうだ。指輪代の今月分受け取ったよ。ありがとう」
と千里は言った。
「ごめんね〜。時間掛けてしまって面目ない。残りは来月ちゃんと返すから。そちらこそ大丈夫?」
「うん。全然問題無いよ。貴司が250万くらいまでと言ってたのに、私のわがままでオーバーさせちゃったし」
 
1月6日に千里のカードで払った指輪代257万については、一緒に大阪に戻った1月9日(月)にいったん80万(預金から)、1月12日に150万(株式を売却して)もらい「残りは月末まで待って」と言われた。
 
1月26日に「給料出たから残額払う」と電話があったのだが、千里は「230万ももらった直後に本当に大丈夫?」と訊いた。すると「実は少し心許ない」と言うので「今月末はパスして2月末と3月末に半分ずつもらえばいいよ」と提案した。それで貴司も「じゃ悪いけどそうさせてもらおうかな」と言った。
 
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貴司の給料は税込みで月75万あるらしいが、その内の25万は家賃補助なので実質50万である。そこから税金や社会保険に社員会費などが引かれて手取りは32万ほどになる。更にここから生命保険(1.5万)と自動車保険(2.5万)を払い、光熱費と携帯代を払うと残るのは25万である。つまり本当は物理的に27万千里に払う余力が無い。
 
(実際には残業手当・海外出張手当のおかげで、何とか27万払えるのだが、それでも2月の生活費がほぼ無くなる所であった。取り敢えず1月は外食もせずお昼は毎日スーパーのパンで頑張っていた)
 
それで1月末はパスして今月まず半額をもらうことになっていた。
 
貴司の給料日は26日なのだが、今月は26日が日曜なので、その前の昨日24日(金)に給与は振り込まれた。それで貴司は合宿所から昼休みに携帯を操作して、千里の口座に14万振り込んでくれたのである。残り13万は3月末もらうことになる。
 
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ちなみに千里のカード代金引き落としの方は1月6日のショッピングなので1月10日で締められ2月6日に引き落とされていたが、千里の方は資金が潤沢なので全く問題無い。
 

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やがて銀座に到着。ティファニーに比較的近い、タイムズの駐車場に駐める。歩いてお店まで行く。着いたのが19時半頃である。
 
入って行くと、いらっしゃいませと声を掛けられる。
 
「指輪ができたと連絡があったので受け取りに来たのですが」
と言って、控えを見せる。
 
「はい、こちらでお待ち下さい」
と言って商談ルームに案内される。紅茶と豪華そうなお菓子が出てくる。
 
「マジで待遇がいいね〜」
と言い合う。
 
ほどなく、野沢さんと店長さんが来て、ティファニーの水色のジュエリーケースを持って来てくれる。
 
「こちらでございます」
 
「じゃつけてみてよ」
と貴司。
「貴司が私につけてよ」
と千里。
 
それで貴司が指輪を取って千里の左手薬指につけてくれた。
 
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「記念写真でもお撮りしましょうか?」
「あ、お願いします」
 
と言って、貴司のGalaxyと千里のT008で、ふたりが並び、千里が指輪を見せているところを写真に撮ってもらった。
 

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