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■娘たちのムスビ(11)

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14時頃、朋子・美由紀・日香理・千里が到着したが、その直後に住職もやってきて、慌ただしくお経をあげると「じゃ他に回るから」と言って立ち去った。居たのは5分くらいだった。
 
「しまった。お布施渡しそこねた」
と青葉。
 
「私が後で渡しておくよ」
と慶子。
「すみませーん!」
 
「もう忙しすぎて、どこ回ったかも忘れてるよね、あれ」
「たぶん、うっかり2度行ったりした所もあると思う」
 
住職が来る直前に、青葉の友人たちが5人と、鵜浦さんを含む未雨の友人たち4人が来てくれたので彼女たちは住職のお経を聞くことができた。その後で祖父母の友人たちが来たが、菊枝がお経をあげていたので、特に問題はなかった!
 
「焼香の時に100円玉を置いてった人が何人かいるけど、これどうしよう?」
「焼香銭は宗派や地域で、する所としない所とあるからなあ」
「東北ではわりと少ないのだけど」
「それもお布施と一緒に持って行くよ」
 
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和実と淳は住職が帰ると「作業があるから」と言って石巻に戻った。浅沼さんは旦那さんが帰宅するまでに帰りたいということだったので、真穂がライフで盛岡まで送っていった(運転したのは浅沼だが)。白石さんは住職が帰った後に来て焼香をしてくれたが「男手が少ないみたいだから、撤収まで居るよ」と言って残ってくれた。
 

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夕方くらいまで、青葉の大船渡の友人がパラパラときてくれた。みんなあちこちの法事を回っているようである。
 
18時で祭壇を撤収(撤収作業は彪志・彪志の父・藤原民雄・白石、および若い子たちでおこなった)。その後、みんなで食事に行く。この食事会の出席者は下記21名である。
 
 小沼早紀と母・海老名椿妃と母、菊池咲良と母、佐竹慶子
 青葉・朋子、彪志・彪志の両親、桃香・千里、藤原夫妻
 美由紀・日香理・舞花、山園菊枝、白石、
 
その後、白石、慶子、早紀の母、椿妃の母の4人が帰り、残りの17人で旅館に泊まり込んだ。部屋割りはこうなっている。
 
早紀・椿妃・咲良/美由紀・日香理/彪志の両親/直美夫妻/菊枝と舞花/咲良の母と朋子/千里と桃香/青葉と彪志/
 
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もっとも、青葉と彪志は「セックスできないくらいまで起こしておこう」という早紀の意見で早紀たちの部屋に連れ込まれ、そこに美由紀・日香理も加わって、7人で遅くまで騒いでいたようである。青葉と彪志がこの夜できたのかどうかは定かではない。
 

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桃香と千里は同じ部屋に泊まったが、この夜桃香は千里を襲おうとしなかった。
 
「今夜は無事夜を過ごせた」
などと千里が言うが
「結婚したから自粛してる」
と桃香は言う。
 
「指輪とか交換したの?」
「誕生石の指輪を彼女に贈った」
「お、すごい」
「それでこれをふたりでお揃いで買った」
と言って、桃香はプラチナの指輪を取り出す。
 
「結婚指輪なら普段からつけていればいいのに」
「じゃ取り敢えずつけておこう」
と言って桃香はプラチナの結婚指輪を左手薬指につけた。
 
「桃香それしてると浮気防止になる気がする」
「うっ」
 
「千里は彼氏と結婚すると言っていたけど」
「これもらった」
と言って、エンゲージリングを出してみせる。
 
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「すげー!石が豪華!負けた!」
「負けなくていいと思う。指輪は贈る人の気持ちだもん。桃香はまだ学生で、私の彼は社会人だから」
 
「そうだよな。結婚指輪はまだ?」
「それは結婚式までには用意するよ。でもこんなのももらった」
と言って、先日もらったプラチナ風プラスチックリングを取り出してみせる。
 
「そちらはプラチナ?」
「触ってみていいよ」
 
「プラスチックかい!?」
 
「プラチナみたいなプラスチックということでプラスチーナ。彼の会社で作っている製品なんだって。金属アレルギーの人のために日常付けていられる指輪、普段着マリッジリング」
「へー!」
 
「プラチナみたいな外見にするのに、発色技法にしても表面加工にしても、凄い技術使っているから、プラスチックなのに5000円もするんだよ」
「高ぇ!」
 
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「でもこうやってつけているとプラチナリングに見えるよね〜」
と言って、千里は左手薬指にプラスチック・リングをつけてみせた。
 
「確かにプラチナの結婚指輪しているように見える」
「でしょ?」
 
「私もこれで良かったかも知れん」
「結婚の印がプラスチックでは、寂しいよ」
「まあそれはあるけどね」
「それにさすがに本物のプラチナほどの耐久性は無い。日常的につけていたら多分10年持たないと思う」
「ああ、プラスチックなら、そんなものだろうな」
 

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3月11日、朝御飯の席で青葉は桃香と千里が白金色の指輪をつけているのを見た。桃香に訊いてみた。
 
「桃姉たち、その指輪は?」
「ああ、これはマリッジリング。結婚したから」
「へー!おめでとう」
 
青葉は近くで見たのは桃香の指輪だけである。桃香の指輪は確かにプラチナPt900(*1)なので、千里のも当然お揃いのプラチナの指輪だろうと思ってしまった。が、千里がつけていた指輪は、プラスチックである!さすがに近くで見たら金属ではないことに気付いたはずだが、青葉は桃香と千里が愛し合っていると勝手に思い込んでいるので、桃香の「結婚した」というのは「千里と結婚した」ということなのだろうと思い込んでしまったのである。
 
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(*1)金の純度は24分率で表すので18金は18/24=75%の金が使用されているが、プラチナや銀の純度は1000分率で表すので、Pt900は900‰=90%のプラチナ、Ag925(Sterling Silver)は925‰=92.5%の銀である。プラチナの割金にはルテニウム、パラジウム、イリジウムなどといった「プラチナ族」の金属が使用されることが多い。
 
(まともな宝飾店の製品では)一般的にパラジウム割が多いが、パラジウムは金属アレルギーを起こしやすい問題がある。アレルギー体質の人はルテニウム割やイリジウム割が良い。なお、イリジウムはプラチナより希少な金属で値段もプラチナより高い。国際キログラム原器はイリジウム割のPt900で作られている。
 
日本では“プラチナ・ジュエリー”を名乗って良いのはPt850以上と定められているものの、市場にはPt750, Pt650, Pt585, Pt505 などといった品位の低い合金も多く出回っている。"585Plat0PGM"は最近ホワイトゴールドの代用品として使用が広まりつつある。0PGMは no platinum group metal つまり非プラチナ族ということで、実際には銅やコバルトである。
 
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Pt100などと表示したものも存在するらしいが、100‰=10%であり、メインではない金属で表示すること自体がおかしい。これは千分率ということを知らない消費者が100という数字を見て純粋なプラチナと誤解することを狙っているとしか思えない。
 

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この日は午前中に大船渡市が主宰する震災追悼イベントも行われたので、みんなそれにも出席した。お昼を一緒に食べてから解散する。
 
彪志の母がCR-Vに咲良親子を乗せて一ノ関まで行き、咲良親子はその後新幹線で八戸に戻った。
 
一ノ関17:14-17:52盛岡17:26-18:05八戸
 
千里と桃香はホンダ・エディックスを借りて、舞花と藤原夫妻を乗せ花巻空港まで送って行った。エディックスは前3列・後3列という面白い車で、各々の中央の席を後ろにずらして「1.5列目」「2.5列目」とすることができる。そうすることで、実は真ん中の席に座った人が、両隣の人と身体を接触させずに済むのである。
 
実際には、運転席に千里、助手席に舞花、1.5列目に桃香、2列目に藤原夫妻が乗った。車の中央に座ることになった桃香は、飲み物やおやつの中継係!になっていた。
 
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「この車おもしろーい!」
と舞花が嬉しそうに言っていた。
 
藤原民雄も
「前列がベンチシートで3人乗れる車はクラウンとかプレジデントにもあるし、外車でもよく見るけど、独立シートで3人というのは珍しいね」
などと言っていた。
 
藤原夫妻は伊丹軽油、舞花は新千歳経由で帰った。
 
花巻15:55-17:15伊丹空港/新大阪18:45-19:30岡山20:05-23:00出雲市
花巻17:25-18:25新千歳
 
藤原夫妻を見送った後は空港内のレストランでおやつを食べながら、新千歳行きの時刻まで3人でおしゃべりしていた。
 

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舞花は千里と桃香が左手薬指に指輪をつけているのを見て言った。
「おふたりとも、結婚したんですか?」
「ええ。気持ちの上で」
「ちなみに各々別の人と結婚したんですよね?」
と舞花は確認する。
「そうですけど!?」
 
「いや、違う指輪だからペアリングではないよな、と思って」
と舞花。
 
「私は女の子と結婚する趣味は無いし」
と千里は言う。
 
「私の相手は女の子なんで、式とかも挙げずにと思ったんだけど、友人たちからは式あげたら祝賀会してあげるよとか言われているんで、その気になりつつあります」
と桃香。
 
「ああ、女の子同士でもいいと思いますよ〜」
と舞花。
 
「どっちみち彼女の親に挨拶しに行かないといけない。たたき出されるかも知れないけど一度行ってきます」
と桃香。
 
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「それ怒鳴られても叩き出されても、行っておく意義は大きいと思う」
と舞花も言う。
 
千里はそれって自分の父へのカムアウトも同じだよなと思った。父が自分の性別変更と男性との結婚を許してくれるはずもないが、言いに行く必要がある。
 

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「私は自分の好きな人と結婚とかさせてもらえない気がする」
と舞花が言うと
「お金持ちは大変ですね!」
と千里も桃香も同情するように言った。
 
桃香が「千里のつけてる指輪おもしろいですよ」と言うので千里は指輪を外して舞花に見せてあげる。
 
「プラスチックだったのか!」
 
「まるでプラチナに見えるプラスチックということで、プラスチーナというんですよ。金属アレルギーの人のための普段着リングということで」
 
「千里さん、金属アレルギー?」
「アレルギーではないですけど、彼氏の会社の製品なんで、今モニター中なんです。本物は夏に買う予定です」
「なるほどー!」
 
千里は貴司からもらったパンフレットも舞花に渡しておいた。
 
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「千里、エンゲージリングも見せてあげるといい」
「うん」
 
それで千里がバッグから取りだして見せると
「すごーい!石が大きい!」
と言う。
 
「舞花さんはそれの倍くらいのエンゲージリングをもらうといいですよ」
「ああ。そういうの要求するのもいいなあ。相手が選べないのなら、せめてそういうのでこちらの要求を通させてもらおう」
 
「ですです」
 

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千里と桃香は舞花を見送った後、エディックスを一ノ関まで回送して宗司のお店に返却する。そして、この便で帰った。
 
一ノ関19:28-22:00東京
 
東京駅近くの駐車場にインプレッサを駐めていたので、桃香を乗せてバイト先に連れて行って下ろした。桃香は今夜は夜番である。
 
「サンキュ、サンキュ」
「お疲れ様〜」
 

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