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■娘たちのムスビ(13)

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(C)Eriko Kawaguchi 2018-05-15
 
龍虎は最初から嫌な予感がしていた。
 
仙台の祖母が入院したというのはとても心配した。それで支香叔母から
「おばあちゃん、わがままばかり言って、お医者さんの言うことも聞かないから、あんたから少し注意してやって」
と言われて、お見舞いも兼ねて母(田代幸恵)と一緒に行ってくることにした。
 
ところが行くことになっていた当日、(教師をしている)幸恵が、緊急に学校から呼び出されて、そちらに行ってこなければならなくなった。父の涼太も部活の引率で朝から出ている。それで困ったね、と言っていた時、
 
「龍、元気してるか?」
と言ってやってきたのが、佐々木川南である。
 
川南は、田代幸恵が龍虎と一緒に仙台に行ってくるつもりだったのが、急に学校から呼び出しがあったと聞くと
 
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「だったら、お姉ちゃんが仙台まで連れて行ってあげるよ」
と言った。
 
「ほんと?でも川南ちゃん、時間は大丈夫?」
「今春休みだから大丈夫ですよ〜。ちゃーっと車で往復してきますよ」
と川南は言っている。
 
そういう訳で龍虎(小4)は祖母・松枝が入院している仙台市内の病院まで、佐々木川南の車(マーチ)で往復してくることになったのである。
 
龍虎は「いや〜な」予感がしたのである。
 

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上島雷太の度重なる浮気にとうとう堪忍袋の緒が切れた茉莉花は2月20日に家出をすると、中学時代の恩師・比嘉先生が住んでいる甲府に行った。先生は既に教師を引退しており、悠々自適の生活を送っている。
 
「2〜3日泊めてもらえませんか?」
と言う茉莉花を暖かく受け入れてくれた。
 
そして比嘉先生も先生の家族も、茉莉花に何も尋ねなかった。また芸能人とか有名作曲家の妻としてではなく、ふつうの教え子として扱ってくれた。
 
「2〜3日と言わず、一週間くらい休んでいくといいよ」
と言われたので、お言葉に甘えて、一週間ほど居候させてもらった。
 
さすがに長居しすぎかなと思い「行きます」と言うと「行くあてある?」と尋ねられる。茉莉花は中学時代からモデルなどのお仕事をしていて17歳で高校をやめてデビューしたので、実はあまり友人がいない。
 
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「仁山先生に話を付けたから。今松本に住んでいるんだよ」
「ありがとうございます」
 
それで茉莉花は結局、何人かの先生の家を渡り歩くことになる。どの先生も茉莉花のことについて何も詮索したりしなかった。
 

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携帯の番号とアドレスは家出した翌日に変更してしまったので、電話やメールには煩わされずに、12年ぶりくらいの、のんびりとした時間を過ごしていた。
 
思えば中学の頃は歌やダンスのレッスンに通う一方で様々なオーディションを受けたりしていたし、アイドルとしてデビューしてからは凄まじく忙しい日々だった。ずっと生理不順を抱えているのも、以前醍醐春海ちゃんに指摘されたように、当時の無理な生活から来ているのだろうと思う。
 
「私、赤ちゃん、産めないかも知れないなあ」
と独り言をつぶやく。
 
20歳になる頃から事務所の大先輩・上野陸奥子さんのアドバイスもあって、アイドルからバラエティタレントへの転身をはかり、それは結構うまく行ったと思う。そして人気絶頂の中、22歳で上島雷太と結婚。上島も当時作曲家として成功しつつあった所で、玉の輿とか、勝ち組とか言われた。
 
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雷太と以前付き合っていた4人の女性が4人の子供を産んでいて、雷太が毎月その母親たちに仕送りしているのは結婚前から知っていた。雷太はその各々の女性と本当に結婚するつもりで交際していたものの、様々な事情で結婚できなかったのだと言っていた。4人目の子供の妊娠中に自分は雷太と付き合い始めた。そして結婚したが、ふたりの間に子供はできていない。
 
雷太と他の女性の間に子供ができたということは、不妊の原因の多くが自分にあるのだろうなと茉莉花は思っていた。
 
雷太が浮気をするのは更に子供が欲しいからだろうか?とも考えてみるものの、4人もいれば充分という気もする。現在25歳。まだ子供を諦める年齢ではないが、この先、自然妊娠できる自信が無かった。
 
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「でもなんで私、妊娠しないんだろうなぁ」
とつぶやいてから、唐突にそのことを考えた。
 
「まさか私、実は男だってことはないよね?」
 

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龍虎は、最初から嫌な予感がしていた。
 
朝9時に自宅を出た後、川南の運転するマーチは羽生ICから東北自動車道に乗ると仙台方面に走った。バスケで身体を鍛えているので川南はだいたい5時間くらいはぶっ通しで運転しても平気である。しかし龍虎はそんなに長時間は、まずおしっこがもたないので、だいたい1時間半くらいおきに小休憩をしながら行くことにした。
 
最初に10時半頃、矢板北PAで休憩する。車を降りてトイレに行く。入口が男女に別れている所で、むろん川南は女子トイレに行くが、龍虎は男子トイレに入っていった。川南は中に入らずに、腕を組んで入口の所で待っていた。
 
「君、こちらは違う!」
という声が聞こえてくる。
 
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やがて困ったような顔をした龍虎が男子トイレから出てきた。
 
「龍ちゃん、何やってんのさ?こちらにいらっしゃーい」
と言って、川南は龍虎の手を引いて、女子トイレに連れ込んだ。
 

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「あんた、実は男でしょ?だから妊娠しないんでしょ?とか言われたんです」
と阿倍子は泣きながら貴司に語っていた。
 
前の夫とは職場の同僚であった。ごく普通に親しくなり、ごく普通に恋人時代を送り、3年の交際を経て結婚した。そしてごく普通の結婚生活を送った。夫は優しかったので、阿倍子は幸せな日々を送っていたものの、ただひとつ子供ができないのだけが気がかりだった。
 
結婚して5年経っても子供ができないので、夫の母は不妊治療してみたら?と言った。それで夫と一緒にクリニックに通った。最初はタイミングの話をして基礎体温なども記録して、生理周期の排卵のタイミングに合わせてセックスするというのをしてみるものの、うまく妊娠しない。
 
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1年ほど経っても妊娠できないので、色々検査を受けた。卵管に水を通す検査などもした。各々の生殖細胞を採取して検査してもらう。その結果、夫の精子の活動比率が悪いものの、妊娠が困難という程ではないことが分かる。阿倍子の卵子も特に問題があるという訳ではない感じであった。
 
人工授精を試みるが、どうしても着床しない。人工授精を1年ほど続けた所でとうとう体外受精をしてみようという話になる。それで卵巣から卵子を採取して夫の精子とシャーレの中で受精させる。受精自体はうまく行く。しかし子宮に投入しても着床してくれない。10回目の挑戦でやっと着床したものの5週目に流れてしまった。
 
それでそのお母さんから言われたのが「あんたほんとは男じゃないの?」ということばだった。
 
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人工授精の費用は1回3万円くらいだが、体外受精になると費用もその1桁上になる。不妊治療に費やした期間は4年を越え、費用だけでも700万円くらいに及んでいた。これにあまりにも費用が掛かってしまったため、マイホームを建てようなどという計画も吹き飛んでしまっている。
 
何度も病院に付き合わされる夫との間の感情はこじれていき、子供を作ることを優先するためセックスも自由にはできない状況で、愛情自体が冷めていった。
 
そしてお母さんとの関係悪化もあり、阿倍子はその流産を機に離婚に至った。不妊治療を始める前までは夫との関係も良好で幸せだったが、不妊治療を始めてからは、ただただ精神的な苦しさと、医療上の痛み(不妊治療には異様に痛いものが多い)や苦しみ(ホルモン剤の影響で頭痛や気分の悪さに耐える日々になっていた)で、辛いだけの日々だった。夫の冷たい視線、義母の突き刺すような視線で針のむしろだった。
 
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阿倍子は泣きながらここ10年間のことを貴司に語った。
 
「母からは、しばらくひとりでいればいいし、またいい人がいたら結婚してもいいだろうしと言われたんですけど、また結婚したら、結局妊娠できないことから、同じことの繰り返しになるんじゃないかと思って。私、どっちみち幸せになることはできない気がして。もう死んでしまおうと思って」
 
「それで自殺しようとしたんですか」
「はい」
 
「別に結婚しなきゃいけないということもないし、結婚するにしても、子供はできなくても構わないという男性もいますよ」
と貴司は言う。
 
「そうですよね」
「それにそもそも妊娠って相性もあるんです。別の男性とならひょっとして妊娠するかも知れませんしね」
 
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「それは実は電話占いで相談した占い師さんからも言われました!」
 

市内のレストランで偶然遭遇したことから、貴司は長い長い阿倍子の話を聞くことになったのだが、貴司と3時間くらいにわたって話をしたことで、阿倍子はかなり落ち着いた感じであった。
 
それで彼女はもう少し詳しい話をしたいと言い、再度約束して会うことにしていたのだが、その待ち合わせの場面に唐突に緋那が現れ
 
「私この人の妻なんですけど、あなたなんですか?」
と阿倍子に言った。
 
それで阿倍子は「ごめんなさい!もう会いません」と言って立ち去ったのであった。阿倍子には気の毒だと思ったが、確かに彼女と会ったこと自体が軽率だったかもと貴司は反省した。
 
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「貴司、千里さんと結婚するんでしょ?浮気もたいがいにしなよ」
と緋那は貴司に苦言を呈したが、本当に緋那の言う通りだと思った。
 
「ありがとう。軽率だったと僕も反省する」
と貴司は緋那に言った。
 
「そちらは順調?」
と貴司は尋ねた。
 
「うん。順調だよ。秋には赤ちゃんも生まれると思うし」
「ほんと?おめでとう!」
「研二ったら、マタニティ着たりして嬉しがっているし」
 
「・・・・妊娠してるのは緋那だよね?」
「さあ、どっちだろ。ジャンケンして負けた方が産もうかと言っているんだけど」
「はぁ!?」
 

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龍虎はやはり悪い予感は当たったなと思っていた。
 
祖母の入院している病院に行ってみると、祖母は思いの外元気な様子であった。
 
「ね、ね、川南ちゃん。病院の御飯が少なくておなか空いちゃって。お菓子か何か買ってきてくれない?一緒に食べようよ」
と松枝は言ったが、龍虎がダメ出しをする。
 
「おばあちゃん、支香叔母ちゃんからも聞いてます。あばあちゃん食生活に問題があるから身体が悪くなっているんでしょ?病院に入っている間だけでもきちんと食事コントロールしないと。病院で出る食事以外のものを食べてはいけないよ。僕が結婚して子供ができて、その子供が結婚するくらいまでは生きててくれないと困るし」
 
小学4年生でも龍虎はひじょうにしっかりしている。口調だけ聞いていると中学生くらいに感じる。やはり早くに親を亡くしたことで、自立心が確立したんだろうなと支香や上島などは思っていた。
 
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「そうかい?確かにあんたの子供は見たい気がするね」
と松枝は言ってから少し考えて尋ねた。
 
「ところであんたはお嫁さんに行くんだっけ?あんたがお嫁さんもらうんだっけ?」
 
「僕はお嫁さんには行かないよ!」
「だってあんたスカート穿いてるし」
 
龍虎が“2度も”男子トイレに入ろうとして咎められたことから、川南に「やはり性別を間違えられないような服装にしようよ」と言われ、ちょうど通りかかったイオンに寄って“かぁいいスカート”とか“かぁいいブラウス”とかを買って、着せ替えられたのである。可愛い髪留めとかもつけさせられている。むろん下着も女の子用を着けさせられている。龍虎自身『このスカート、ホントに可愛い!また着ちゃお』などと思っている。
 
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「最近は男の子でもスカート穿くよ」
と龍虎は言っておく。
 
ちなみにこの病院に着いてからも男子トイレを使おうとしたら、看護婦さんから「あら、女の子はこっちよ」と言って、女子トイレに連れ込まれてしまった。龍虎みたいな子がスカートまで穿いていたら、まず“性別を間違う”人は居ない!
 
「へー。最近はそうなんだ?」
と松枝は納得しているようであった。
 

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