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■娘たちのムスビ(14)

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茉莉花は困惑していた。
 
別の先生から紹介されて、ここにやってきたのだが、玄関の所に貼紙があったのである。
 
《吹風さんへ。急な親戚の用事で3〜4日留守にします。家に勝手にあがっていてください。布団は用意しておきました。冷蔵庫のものとかも自由に食べてね》
 
それでとりあえず勝手に中に入ったものの、どうも居心地がよくない。どこか他の知り合いの所に行こうかとも思ったものの、その知り合いというものがあまり無い。芸能関係者の知人は多いが、そういう所に接触すると、結果的に上島に自分の居場所を知られる気がした。
 
茉莉花は念のためアドレス帳を見てみようと思い、自分のスマホを取り出した。その時、スマホと一緒に紙が1枚飛び出してきた。ふと見ると、家出する直前に掛かってきたケイの電話のメモである。
 
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茉莉花はじっとそのケイの携帯の番号を見つめていた。
 

龍虎は今日って最悪と思っていた。
 
「わあ、凄い可愛い子ね。妹さん、小学5〜6年生くらい?」
と女子大生くらいの女の子から尋ねられて
「まだ小学4年生なんですよ」
と川南は答えていた。
 
「そういえばまだ胸が無いもんね。でもあんた、美少女アイドルになれるかもよ」
「この子、歌もうまいから、アイドルになれるかも知れないですね」
「わあ、歌もうまいのなら、中学生くらいになったらオーディションとかに出てみるといいですよ」
「ああ、そういうのもいいですよね」
と川南は答えている。
 
そういう訳で龍虎はスーパー銭湯に来ているのである!
 

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病院を出た後、川南は
「今日は暑いね。なんか汗掻いちゃったよ」
と言った。それで龍虎もうっかり
「ほんとに。ボクも汗掻いちゃった。帰ったらお風呂入らなきゃ」
と言ってしまった。
 
すると川南は
「だったら、帰る前にスーパー銭湯に寄っていこうか」
と言った。その時点では龍虎もまだ《事の重大性》に気付いていなかった。
 
仙台市郊外のスーパー銭湯に着いて川南が料金を2人分払う。これは田代の母からもらったお金の中から払っている。それで龍虎は中でジュースをおごってもらってから脱衣場の方に行こうとした。
 
ところが男湯の脱衣場に入ろうとすると、
「君、小学生でしょ?お父さんと来たの?でも小学生はちゃんと女湯に入らなきゃダメだよ」
 
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と言われて、つまみ出されてしまったのである。
 
「どうしよう?」
と困ったような顔で訊く龍虎に川南は平然として言った。
 
「普通に女湯に入ればいいと思うけど」
「え〜〜〜!?」
「だってその格好で男湯に入れる訳が無い」
 
それで川南に連れ込まれて女湯に入ってしまい、今浴槽に浸かっている所である。
 

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3月10-11日に大船渡に青葉、桃香と千里、和実と淳、などが集まっていた頃、冬子と政子は宮崎県の酒造メーカーの依頼で、CMの制作のため九州に行っていた。またもや町添さんや丸花さんなどの画策で、政子のやる気を起こさせようという作戦であった。
 
冬子のカローラ・フィールダーに2人で乗って、東名・伊勢湾岸道・新名神・名神・山陽道、九州自動車道と走り、いったん阿蘇に寄ってイベントで歌う。この時、本当はケイひとりで歌う予定だったのだが、政子が「歌ってもいいかな」と言い、ふたりで歌った。ローズ+リリーが人前で歌ったのは昨年12月のマキの結婚式以来である。わりと重要な出来事だったのだが、ローカル紙の片隅に載っただけであった。
 
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“歌手が歌った”ことを特別なことと思う人は、普通居ない!
 
その後、九州自動車道に戻り、宮崎自動車道を走って宮崎県まで行くのだが、その途中、3月11日の朝、ふたりは一緒に結婚式を挙げる夢を見た。
 
親友の琴絵が巫女さんの格好をしていて、ふたりの持つ素焼きの杯にお酒を注いで、冬子と政子は三三九度をしたのである。
 
冬子と政子が一緒に同じ夢を見るというのは、時々起きていることで、2010年3月24日早朝にも鬼怒川温泉でふたりは同じ夢を見て、その時に書いたのが、名曲『影たちの夜』である。
 
ふたりはその日都城の酒造メーカーでCMの制作をし、その後、12日にずっと高速を走って3月13日朝、東京に戻ってきた。そしてその翌々日の15日、ケイの携帯に、春風アルトからの電話があったのである。
 
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ケイは
「誰にも言いませんから、一度会いませんか?」
と言った。
 
ケイとしてはアルトが変なことを考えたりする前に、確保しなければと思ったのである。状況によっては、上島先生に義理のない知人、たとえば若山流の親戚などを頼ってアルトさんを保護しようとこの時点では考えた。
 
アルトも帰ってきてとか言われるかと思ったのを単に会おうということだったので、
「そうだなあ。ケイちゃんたちとなら会ってもいいかな」
と言った。
 
それで、その日の夕方、冬子と政子は再びフィールダーに乗り、伊豆の三島まで行った。
 
三島駅前でアルトを拾い、その日はそのまま国道136号を南下し、伊豆長岡温泉の温泉宿に泊まった。伊豆半島の中央山岳部の温泉としては修善寺温泉があまりにも有名だが、その修善寺温泉まで行く途中、修善寺より15kmほど北にあるのが伊豆長岡温泉である。ここはある種の穴場になっている。
 
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「上島からケイちゃんたちにも連絡無かった?」
「アルトさんから連絡がある少し前に訊かれたんですよ。だから知りませんと答えたのですが、嘘つかずに済んで良かった。もちろんアルトさんからの連絡の方が先だったとしても、私は知りませんと答えていたでしょうけど」
とケイは語った。
 
「あの人、やはり私を探してる?」
「かなり探しているみたいですね。最初は§§プロ関係に訊いて、それでも誰も知らないから、アルトさんと共演したりして親しいタレントさん数人に訊いて、それでも行方をつかめないから、高校時代のお友だちとかにも訊いたりしていたみたいです」
 

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アルト(茉莉花)は食事の後、夜通し、ケイとマリにこれまでのことを泣きながら語った。
 
「私、自分の性別に疑問を感じてしまった」
 
「アルトさん、男だったら子宮もないし、生理も無いです」
「あ、そうか。私、生理はあるから、やはり女なのかな」
「だったら間違い無いですね」
 
「ケイも生理があるから、本当は天然の女の子だね」
とマリが突っ込むが
「話がややこしくなるから、その話はやめなさい」
とケイは注意する。
 

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ケイはアルトに言った。
 
「上島先生の浮気について『我慢しよう』と思ったらダメです。気にしないかあるいは離婚しちゃうかです」
 
「要するにあの人の浮気癖は直らないということね」
「直りません」
とケイは断言した。
 
アルトは、それって結婚する前に醍醐春海ちゃんからも似たようなこと言われたよなと思った。あの時も迷ったけど、浮気は気にしないことにして結婚を選択した。しかしここまで酷いとは思っていなかった。結局は、やはりその二択しかないのかとアルトは改めて思った。
 
3月16日は御殿場まで北上し、富士五湖道路から富士急ハイランドに行った。そしてアルト、ケイ、マリ、の3人で思いっきり遊んだ。
 
「かっなり、来るね、これ」
「男の人だと、玉が縮むって奴?」
「私玉がないから分からない」
「私も玉は取っちゃったから分からない」
 
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「よし、あの人をここに連れて来よう」
「縮むかどうかの確認ですか?」
「そうそう。私、物じゃ許してあげない。私との時間を持ってもらう」
 
「帰ります?」
「うん。帰ろうかな」
 
「茉莉花さん。御守りにこれ差し上げます」
と言ってケイはアルトに素焼きの杯・大中小のセットを渡した。
 
「これもしかして三三九度の杯?」
「先週、宮崎にお酒のCM制作で行ってきたんですが、その時酒屋さんからこれを頂いたんですよ。2セットもらったから1セットはお裾分け」
「へー」
 
「これで三三九度やり直すといいですよ」
「うん。そうしよう! 実は私たち人前式だったから結婚式の時は三三九度しなかったんだよ」
「だったら、あらためてやるといいですね」
 
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スーパー銭湯を出た後、龍虎はふつうに可愛いブラウスとスカートを着て、川南の運転するマーチで東北道を南下した。
 
「仙台は新しい建物が多かった」
と龍虎はポツリと言った。
「少しは復旧してきたね」
と川南も言った。
 
夕方、ふたりが田代家に帰還すると、両親とも帰っていた。
「ただいまあ」
と言って、龍虎が家の中に入る。
 
「お疲れ様」
「川南ちゃんありがとうね。御飯食べていって」
「頂きます」
 
龍虎はスカート穿いていることを親から何か言われるかな?と思ったが特に何も言われなかった。何かボク、こういう格好しているのが日常になりつつあるなあ、と龍虎は思っていた。
 
別にボク、女の子になりたいとか、そういう気持ちは無い・・・と思うけどね!
 
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ケイとマリはフィールダーでアルトを上島宅の前まで送っていった。そして彼女が玄関の中に入るまでを見守った。
 
上島雷太は茉莉花の前に土下座して、これまでたくさん浮気をしてきたことを謝った。そして茉莉花からの「三三九度やろうよ」という提案に応じ、ケイからもらった清酒『花霧』で三三九度をした。
 
「このお酒美味しい!」
「都城のお酒なんだって」
「南九州は焼酎所だけど、日本酒の美味しいのもあるんだね〜」
 
少し落ち着いた所で、雷太は、支香の件について少し説明させて欲しいと言った。これは騒動が起きた時にすぐ説明したかったのだが、あの時期は、あまりにも茉莉花が怒っていたので、とても説明できる自信が無かったのだと言った。
 
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「そりゃ怒るよ。ってかまだ怒っているんだけど」
「ほんとにごめん!」
「で何を説明したいの?」
 
「支香には2004年以来ずっと送金をしている」
 
それは茉莉花が家の中を『探索』して発見した預金通帳から分かっている。
 
「それは支香と恋愛関係があったからではない。支香との恋愛関係ができたのはここ半年くらいのことだったのだけど、それまではただのワンティスの同僚というだけの関係だったんだよ」
 
「じゃ何のための送金?」
「本来夕香が受け取るべきだったお金を代わりに僕が遺族である支香に送金していた」
 
と言って、雷太はワンティスの作詞者が偽装されていたことを語った。
 
「だったら、高岡さんのお父さんが、夕香さんの遺族が受け取るべき印税を受け取っているわけ?」
 
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「そういう流れが、事務所とレコード会社の間でできあがっていたから、僕たちは抵抗できなかった。高岡が亡くなった後も、事務所の社長からは絶対に偽装のことは言わないようにと釘を刺された」
 
そして更に、雷太は初めて、龍虎のことを茉莉花に打ち明けた。
 
「あなた、他にも隠し子が居たの!?」
と茉莉花は怒って言った。
 
「違う!僕の子供じゃない。高岡と夕香さんの間の子供なんだよ」
 
「うっそー!?」
 
「だから僕が支香に送金しているお金は、夕香の遺族が受け取るべき印税に加えて、龍虎の養育費・病院代が含まれているんだよ」
 
「へー。でも“りゅうこ”ちゃんって、どういう子?何年生?」
 
「今小学4年生なんだよ。だから僕の子供たちよりずっと年上」
 
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上島雷太の隠し子たちは7,6,5,4歳である。
 
「ふーん。可愛い子?」
「可愛い。歌もうまいし、もしかしたらあの子は芸能デビューしたいと言い出すかも知れない。ただその時は、高岡の子供だというのは伏せてデビューさせたいと思っている」
 
「うん。そのほうがいいと思う」
と茉莉花も賛成した。
 
雷太は龍虎の写真も見せる。
 
「すごーい!美少女じゃん。お母さんに似たのね」
「ああ、女の子と思われることもよくある」
「へ?女の子じゃないの?」
「男の子だけど」
「だって、名前は“りゅうこ”って言わなかった?」
「うん。だから空を飛ぶ龍に、吠える虎で、龍虎なんだよ」
「その字か!」
 

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アルトを上島宅に送っていった後、ケイとマリは続いて鬼怒川温泉に行き、そちらのイベントに出席した。ここでもマリはケイと一緒に歌った。
 
東京に戻ると、高校時代の友人、仁恵と琴絵がやってきた。3月11日に見た夢では、琴絵が巫女さん役をしていたのだが、実はその琴絵本人も同じ夢を見ていたというのであった。
 
「政子と冬子ってだったら結婚したの?」
「結婚したのはむしろ2010年3月23日の晩だと思う」
「今回正式に式も挙げた感じかな」
 
それで仁恵たちに乗せられて、冬子と政子は再度ふたりの前で三三九度をした。琴絵が巫女さん役をしてくれた。
 

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ふたりが帰ってから、冬子と政子はラジオの番組に出るのに放送局に行ったのだが、その帰り、冬子は政子に言った。
 
「指輪買ってあげようか?」
「エンゲージリングはいいから、マリッジリングがいいな」
と政子は言った。
「いいよ」
「でも指に付けるんじゃなくて腕に付けるの」
「随分大きな指輪だね」
「だからブレスレットだよ」
「へー!」
「それなら、いつでも付けてられるでしょ?私たち27歳までは結婚・出産禁止だし」
「それもいいかもねー」
 
それで冬子と政子は宝飾店に行き、おそろいのプラチナのブレスレットを求めたのである。これは2012年3月19日のことであった。
 
ふたりはそのまま美容室に行って髪をセットすると、自宅で適当なドレスを選んで着て、写真館に行って記念写真を撮った。
 
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「ね、ね、振袖写真も撮ろうよ」
と政子が言うので、ふたりは翌20日には美容室に行って振袖を着付けしてもらい、お花(胡蝶蘭の花束)なども買ってきて飾り、自宅マンションでセルフタイマーで写真を撮ろうとした。ところがそこにちょうど冬子の姉・萌依が来たので、これ幸いと撮影係をしてもらった。
 
萌依は冬子と政子が結婚したと言うと驚いていたが
「まあ実質プライベートでもほぼ一緒に暮らしているしね」
と言っていた。
 
そういう訳で、このプラチナのブレスレットがふたりの夫婦の証であることをこの時点で知っていたのは、仁恵・琴絵・萌依の3人だけである。
 
「このお花きれいね〜」
「お姉ちゃん、何なら持ち帰る?私たち不在がちだから、枯らしちゃうし」
「じゃ持ち帰る〜」
 
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「結婚式の花束を持ち帰るから、きっと萌依さん、次の花嫁ですよ」
と政子は言った。
 
「そうだなあ。私もレスビアン婚しちゃおうかな」
「あ、いいと思いますよ」
 

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