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■女の子たちのインターハイ・高3編(1)

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(C)Eriko Kawaguchi 2015-04-03
 
2008年7月23日(水)。その日はみんな埼玉遠征の準備とかもあるだろうからと言って、バスケの練習は午前中で終わった。昭ちゃんはそれで町に出て、靴下を少し買っておこうと思った。日々非常に激しい練習をしているので靴下の消耗が激しいのである。そしてついでに・・・・女の子の下着を買っちゃおうかなという下心もあった。
 
大型スーパーに寄って婦人服売場に行き、靴下を見る。靴下なんて男物も女物も見た目の区別は付かないものの、昭ちゃんは女性用として売られているものを買うことで、自分のアイデンティティの確認をしていた。
 
結局何の変哲も無い白い綿の靴下、5足セットを2つ買ってレジのほうに行く。その途中何気なく通って行く途中の下着を見ていた時、たくさんレースが使ってある下着を見て、ドキっとして足を止めてしまった。
 
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ぼく、多分女の子に見えるよね? だから、ここで女物の下着を見ていても、誰も咎めたりしないよね? 昭ちゃんは自分にそんな言い訳をする。そして、わあいいなぁなどと思っていた時
 
「こら」
という声がする。
 
「ごめんなさい!」
と思わず言ってから、そちらを見ると川南である。
 
「あ!川南さん!」
「何してたの?」
「靴下買いに来たんですー。すぐ穴開いちゃうから」
「ああ、確かに私も靴下の消耗は激しいよ。でもそこのガードル見てたね」
 
「ええ。ちょっと。レース使いがすごいなと思って」
「ガードルにはこういうの多いよね。昭ちゃんも使ってるの?」
 
「ガードル、ぼく持ってないです」
と言って昭ちゃんは少し恥ずかしそうにしている。
 
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「あれ?いつもガードルであそこ抑えているのかと思った。試合中に突然大きくなったりはしないの?」
「そういう経験は無いですー」
「へー。でも女子の試合に出てたら、女子選手と身体が接触するじゃん。感じちゃうことない?」
「どちらかというと、男子選手と接触する時の方がドキドキします」
 
「昭ちゃん、ほんと心が女の子なんだねー!」
「薫さんからも言われました」
 
「だったらさ、女の子だったらガードル1枚くらい持っておくといいよ」
「そうですかねー」
「このガードル気に入ったんでしょ?」
「ええ。いいなあと思って」
「じゃ、買っちゃおう、買っちゃおう。お金持ってる?」
「ええ。1万円持って来たから」
 
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川南は
「へー。たくさん持って来てるね」
と言ってから
 
「昭ちゃん、遠征中の着替えはあるの?」
「一応、お母さんが用意してくれました」
「男物?女物?」
「女物です」
「良かったね」
「嬉しかったです。女子部員たちと一緒に泊まるんだから、女の子下着でないといけないよね、と言って」
 
「どんなの買ってもらった?」
「スポーツブラ3枚と、白いショーツ10枚です」
「無地?」
「はい」
 
「だったら、可愛いプリント柄とかさ、花柄とかのも買わない?」
「えー!?恥ずかしいです」
「でも、君、女の子だろ?」
 
「・・・はい」
 
「女の子は可愛い下着もつけるんだよ」
「そうですよね」
「だったら、私が見繕ってあげるからさ、可愛いの少し選ぼうよ」
 
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「買っちゃおうかな・・・」
「よしよし」
 
それでふたりはブラショーツのセットを売っているコーナーに一緒に行った。
 

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7月24日(木)の午後。インターハイを直前にして、女子部員全員に注意がある。
 
これから長期間の遠征があるので、安全に関すること、健康に関すること、また秘密保持に関することなどである。基本的に遠征中は私用外出禁止であり、いつでも連絡がつくように携帯電話を持っておくこと(所有していない数人の部員には学校でレンタルして貸与する)、夜は基本的に11時就寝6時起床で、夜更けまでゲームやチャットなどしていたら、たとえベンチ枠の選手であろうと強制帰還させると警告する。
 
またドーピング問題があるので、使用できる薬が極めて限られることを説明した上で、生理痛・頭痛・腹痛、また風邪などの薬を勝手に飲まないこと、必要な場合は山本先生からもらって飲むことをあらためて言う。ドーピング検査の対象になるのは選手だけだが、何かの間違いで選手の口に問題のある薬が入ったりしないよう、部員全員に持たせないようコントロールする方針だ。
 
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また自校あるいは他校の選手に関する噂話などを安易にしないよう言っておく。周囲に外部の人がいる場ではインハイに関する話は注意するよう言った。こういう大会では他校の選手と親しくなることも充分あるが、そういう場で「うちの○○は凄いんですよ」などと言っちゃったら、自分たちが不利になるということを説明すると、みんな理解してくれたようであった。
 

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その後選手12名および選手と行動を共にする3年生部員のみ残して更に特別な注意がある。風邪を引いたりしたような場合に、他の選手に移したりすると物凄くまずいので、風邪の初期症状などがあった場合はすみやかに申告することが通達される。
 
「風邪くらい引いても出たいという気持ちは分かる。でもその結果、他の子まで巻き込んだら責任重大だから、風邪引いた場合は潔く申告して欲しい」
と南野コーチはみんなに説くように言う。
 
「それから今月初めからみんな基礎体温を付けてもらっていたと思うけど、本戦に生理がぶつかりそうな子居る?」
 
上旬にも確認していたことではあるが、やはり敦子がぶつかりそうということでぶつかったらタンポン使いますと言っていた。
 
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「わあ、タンポンなんて勇気あるなあ」
という声が出る一方で
「試合の時はタンポンだよ」
と暢子などは言っている。
 
「暢子ちゃん調子どう?」
「昨日来ました。予定通りです」
「千里ちゃんは?」
「今朝来てました。私も予定通りです」
「雪子ちゃんは?」
「そろそろって感じなので多分明日来ます」
 
それでその日はそのメンバーと南野コーチだけでお寿司を食べに行った。資金は教頭先生が出してくれたということであった。
 
「インハイ期間中は基本的に生ものは避けるからね。今日は前祝い」
「優勝して築地のお刺身食べましょう」
「私は美味しいステーキ食べたいなあ」
「優勝したら、そのくらい理事長さんがおごってくれるでしょ」
「よし頑張ろう!」
 
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とみんなその日は気合いが入っていた。
 

7月25日(金)。旭川N高校女子バスケ部はインターハイ出場のため大移動をする。参加者は女子バスケ部48名(昭ちゃんを含む)、宇田先生・山本先生・教頭先生、南野コーチ・白石コーチで合計53名である。
 
この日は朝からお昼過ぎまで練習した上で、いったん各自帰宅し、荷物を揃えて17時に旭川空港に集合。ここでユニフォームなど荷物の確認をするが、暢子がバッシュを忘れていることに気付いて慌てて連絡して、叔母さんに持ってきてもらうなどという事件があった。
 
「部長、しっかりしてください」
と2年生から言われると
「まあ、忘れ物があったら大変だという見本だよ」
などと開き直っていた。
 
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旭川空港19:05のエアドゥ機に乗り、羽田に20:50に到着。そこから電車を使って冬にも合宿をさせてもらった東京校外のV高校まで行った。インハイが始まるまでそこでミニ合宿である。
 
人数が多いので、最初、選手だけ飛行機を使い、それ以外の部員は苫小牧−大洗のフェリーを使う案もあった(その場合約27時間掛かる)のだが、エアドゥ機を使用すると北海道から東京への往復は割引率が高いので、結果的にフェリー利用の場合と料金は大差無いということで全員飛行機を使うことになった。それでも53人の往復運賃は約200万円である。なかなか恐ろしい。むろん滞在費はもっと掛かる。N高校やP高校は資金力があるので全部員を連れて行くし個人負担は食費を1日分につき1000円徴収しているだけだが、やはり選手だけで行くところがほとんどのようであるし、交通費宿泊費の調達に苦労する学校も多いようである。
 
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なお旭川N高校は昨年のインターハイで3位だったので今回シードされている。シードは昨年のインターハイとウィンターカップの成績で定められる。今回シードされたのは、愛知J学園(IH-1,WC-1)・東京T高校(IH-3 WC-2)・岐阜F女子高(IH-2)、旭川N高校(IH-3)、愛媛Q女子高(WC-3)の5校である。ウィンターカップ3位ならY実業もそうなのだが、昨年のインターハイでQ女子高はBEST8だったのに対してY実業はBEST16だったので、その差が考慮されたのだろうか。
 

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26日。午前中、千里は特にひとりでシャワーを使わせてもらって身体を洗った上で、チームと別れて都心の病院に赴いた。そこで検診を受けるようにバスケ協会から言われていたのである。昨年もインターハイの前に精密検査を受けさせられて「男ではない」ことを確認されたものの、その後1年経過して身体が男性化してないかを再度チェックしておきたいということのようであった。
 
尿と血液を採られた上で、例によって全裸にされて体つきの目視チェックをされる(どうもこれがいちばん重要っぽい)。それから心理テストもされたし、全身のレントゲンとMRIを撮られた上で心電図も取られ(何のためだろう?)、最後は女性器の内診もされた。
 
「生理は定期的に来ていますか」
と何気なく先生は訊く。
 
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「私に生理がある訳ないです」
と千里は答える。
 
「ですよねー」
と先生は言ってから
 
「このヴァギナ、人工的に作ったものとは思えない精巧さですよ」
などと言う。
 
「そうですか? 私はそのあたりよく分からないのですが」
 
「このMRI写真で卵巣や子宮が無いのを見てなかったら、他の女子選手が身代わりで受診しに来たのではと疑いたくなるくらいですよ」
「へー。そんな例もあったんですか?」
 
などと言いながら、千里は内心「危ない危ない」と思った。事前に《いんちゃん》が『生理のことを訊かれたら無いと言え』と念を押しておいてくれたのである。
 
飲んでいる女性ホルモン剤も見せてくれと言われるので、いつも持ち歩いているホルモン剤の錠剤シートを見せる。
 
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「プレマリン(エストロゲン)とプロベラ(プロゲステロン)の、どちらもジェネリックです」
と説明する。
 
エストロゲンは12錠の内の6錠が使用済み、プロゲステロンは10錠の内4錠が使用済みで、どちらも6錠ずつ残っている。ここでエストロゲンの方は実は年末に昭ちゃんから取り上げたものである。昭ちゃんは女性ホルモンを飲むのも高校を卒業してからとお母さんと約束したという話で今の所一応それを守っている雰囲気ではある。もっともかなりエステミックスを飲んでいる感じでもあるが。恐らく彼はホルモンニュートラルに近い状態にある。
 
「どのくらい飲んでいますか?」
「毎日3錠ずつです」
「念のため1錠ずつもらっていいですか?」
「このシートの残りでよければ全部差し上げます」
 
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私には不要だしね〜。
 
先生は「じゃこれ丸ごともらいますね」と言って、取り敢えず1錠ずつ出して分析に回したようであった。
 
検査結果は28日(開会式の日)までに通知しますと言われた。
 

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女の子たちのインターハイ・高3編(1)

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