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■女の子たちのインターハイ・高3編(8)

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千里たちと同時刻に行われていた、高松S高校−福岡C学園の試合は橋田さんや熊野さんたちのC学園が勝った。第3試合では、愛知J学園が中折さんたちの秋田N高校に勝ち、静岡L学園が倉敷K高校に勝った。
 
そして第4試合は、東京T高校−福岡K女学園と、札幌P高校−愛媛Q女子高という組合せである。
 
T高校は竹宮さんや森下さんたちのチーム、K女学園は昨年のインターハイで千里たちに練習場所を提供してくれて、練習相手にもなってくれたチームである。そしてP高校とQ女子高は昨年のウィンターカップで対決してQ女子高が「天空の戦い」でP高校を倒しており、今回はP高校がリベンジに燃える因縁の対決であった。
 
千里たちは両方の試合が見やすい場所に陣取り、両者を並行して観戦する。
 
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P高校はここまでの2日間では1度もコートに立たせなかった伊香さんをスターターに入れてきた。
 
PG.徳寺(162)/SG.横川(164)/SG.伊香(167)/PF.宮野(180)/C.佐藤(181)
 
というメンツである。一方のQ女子高は
PG.海島(182)/SG.菱川(180)/SF.今江(181)/PF.鞠原(166)/C.大取(186)
 
と、キャプテンの鞠原さん以外、180cm代の選手が4人も並んでいる。ウィンターカップではP高校はこの背の高さにやられたのである。180cm代の身長でポイントガードをしているなんてのは日本の高校女子選手の中ではかなりレアであろう。しかし彼女は完璧にガード性格なのである。また大取さんの186cmという身長は今大会に参加している日本人センターの中でも最高身長である。(留学生センターにはD高校の子など、190cm代の子が数人いる)
 
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試合は激戦であった。P高校はこの試合で今まで見せたこともない速いスピードでコートを駆け回った。更にパス回しも物凄い速度であり、向こうの今江さんや大取さんがボールのある場所を見失ってキョロキョロする場面があった。
 
千里たちの近くで試合を観戦していたC学園の橋田さんが「すげー。男子の試合みたい!」などと声をあげていた。
 
そして横川・伊香のダブル遠距離砲は威力を発揮した。特に伊香さんは高確率でスリーを成功させるので、相手がどんなに高身長の選手で構成されていても関係無い。着実にP高校は得点を取っていく。
 
「これ、外国人チームと日本代表との国際試合みたいですね」
と隣で雪子が言うが、暢子も頷いていた。
 
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「雪子、私や千里はこのインハイで引退しちゃうから、11月のウィンターカップ道予選ではあんたたちがあの伊香さんを倒さないといけないんだからね」
と暢子が言うと、雪子は唇を噛みしめていた。
 

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今回鞠原さんと佐藤さんのマッチアップは痛み分けの感じであった。ウィンターカップでは鞠原さんが圧倒し、5月のU18日本代表で対戦した時は佐藤さんが勝っていたものの、その後鞠原さんも物凄く練習したのであろう。佐藤さんも道予選の時から更に進化している感じなのだが、今回はお互い半々停められていた。千里はふたりの対決を見ながら自分だったら、どうやって佐藤さんを抜くかというのをかなり脳内シミュレーションしていた。
 
このインハイでも決勝戦で当たる可能性があるが、インハイが終わった後、8月の中旬には、国体の道予選でほぼ確実に彼女と対決する必要があるのだ。
 
試合は結局74対68というロースコアでP高校が勝利した。
 
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千里はこの試合は今年のインターハイの中で最も凄い戦いであったかも知れないと思って、悔しそうな表情で佐藤さんと握手する鞠原さんを見ていた。
 
また、もし国体予選でP高校を中心とする札幌選抜に勝てたら、自分たちが鞠原さんと対決する可能性もある。自分たちは逆にどうやったらあの高身長チームに勝てるのだろうと考えたが、千里はすぐには答えを見付けることができなかった。
 

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なお、もうひとつの試合は東京T高校が福岡K女学園に快勝した。3日目を終えてBEST8が出そろった。ここまで残っているのは、札幌P高校・旭川N高校・山形Y実業・東京T高校・静岡L学園・愛知J学園・岐阜F女子高・福岡C学園である。
 
「なんか凄い顔ぶれですね。うち以外、みんな優勝候補ですよね?」
と対戦表を見て蘭が言ったが
 
「うちもきっと優勝候補」
と揚羽が言うと
 
「すごーい!」
と蘭は感動したような声をあげた。
 

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その日宿舎のV高校の方には、福岡C学園のBチーム、Cチームが来訪してN高校のBCチームと練習試合を行った。福岡C学園も決勝戦まで当たらない組合せなのである。もっともBEST8まで出そろった段階になると
 
「うちとそちらのトップチーム、マジで決勝戦で当たるかも知れませんね」
「まあ、その時はその時で」
 
などと言いながら試合をする。もっともどちらもベンチ枠に入っている子は参加していないのだが、不用意な情報漏れを防止するため、双方とも選手には箝口令が敷かれているようで、お互い黙々と試合運びをする。
 
昨年秋に旭川に来訪した時に居た子で、トップチームに入れなかった子が数人居て、蘭や結里などと手を振り合っていたが、今回は会話無しということになっていた。
 
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試合としてはBチーム戦はN高校が、Cチーム戦はC学園が勝ったものの、どちらも接戦であった。
 
「ウィンターカップではトップチームに入ってくる子いるでしょうね」
「来年のインターハイはこのBチーム同士に近い対決になるかも」
 
などといった話も交わしたようである。
 

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伊香保温泉に泊まっているトップチームの方も、会場から引き上げてきたあと、宿舎に入る前に川南・葉月・薫も含めた15人で、渋川市内の小学校の体育館を借りて軽く汗を流した。
 
「今日の試合も手強い相手だったけど、明日はなかなか厳しいですね」
と一息付いていた時に雪子が言う。
 
「あれ?明日の相手ってそんなに強い所なんですか?」
と絵津子が訊く。
 
「日本の高校女子バスケでトップといったら誰もが愛知J学園と答えるけど、そこと並び称されるのが明日の相手だね」
と暢子。
 
「そんなに強いんですか!?」
と絵津子。
「去年はあそこの試合を見て、みんなビビっちゃったよね」
と千里も言う。
 
「だけど、あそこ昨年のウィンターカップでP高校に負けましたよね」
と揚羽。
「まあ相手がP高校だからね」
と寿絵。
「そのあとの皇后杯エキシビションではC学園が勝ってますよね」
とリリカも言う。
「まあ相手がC学園だからね」
と暢子。
 
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「だけど、うち、P高校にもC学園にも勝ってるよね」
とメグミ。
「うん。だからうちにも勝機はあるということだよ」
と千里は言った。
 

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練習を終えて旅館の送迎バスを小学校の校門そばで待っていた時、小さな男の子が木の陰からこちらを見ているのに夏恋が気付く。
 
「君、どうしたの?」
と夏恋が優しい笑顔で声を掛けたので、少年はおずおずと出てくる。パジャマ姿である。
 
「お姉さんたち、小学生じゃないよね?」
「うん。ちょっとここの体育館を借りたんだよ。高校生だよ」
「すごくせがたかいけど、みんな女の人?」
「そうだね。私たちバスケットするから背が高いんだよ」
「へー。女の人みたいに見えるけど、せがたかいから、女の人みたいな男の人だろうかとかなやんじゃった」
「ああ、男と間違えられるって人もよくいるよ」
と寿絵が言うと
「元男の人だったけど、女の人になっちゃった人もいるけどね」
などと川南が言う。
 
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「えー?男の人が女の人になることあるの?」
と少年。
「まあ、ちょっと手術を受ければ」
と葉月。
 
「しゅじゅつで女の人になることあるの?」
と少年。
「そうだね。男の人に付いてて、女の人に付いてないものを切り取っちゃうと」
と川南。
「それって、おちんちん?」
と少年。
「たまたまもだね」
と葉月。
 
こらこら。
 
「どうしよう? ぼく、女の人にされちゃったりしないかなあ」
と少年が不安そうに言う。
 
「君、手術受けるの?」
と夏恋。
 
「うん。あした、しゅじゅつなの」
と少年は答える。
 
校門から50mほど先に大きな病院の建物が見える。そこに入院しているのを抜け出してきたのだろうか。
 
「何の手術か聞いてる?」
「よくわからないけど、おなかをきって、わるいものをきりとるんだって」
「おなかの中のものなら、ちんちんは切らないのでは?」
「そうそう。ちんちんは身体の外に出てるもん」
 
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「そうだよね。あんしんした!」
 
ちょっと微笑ましい会話にみんな笑っているが千里は笑うことができなかった。《こうちゃん》が千里に話しかける。
 
『千里、笑ってないから気付いたんだよな?』
『うん』
『あの子の寿命は・・・』
『言わないで!』
『はいはい』
 
と《こうちゃん》は、やれやれという顔をしている。
 
「でも、おちんちんきられないならいいけど、おなかきられるのもちょっとこわい」
と少年は言う。
 
「大丈夫だよ。お姉さんも去年の秋にお腹の中の悪いもの切り取る手術受けたけど、平気だったよ」
 
と昨年秋に盲腸の手術を受けた暢子が言う。
 
「おねえさんは、そのしゅじゅつで男から女になったんじゃないよね?」
 
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どうも男の子はまだおちんちんを切られないかと心配なようだ。
 
「お姉さんは生まれた時から女だったよ。この子が最初男だったけど、手術して女になったんだよ」
と暢子は千里の腕を引いて、少年の前に出す。
 
もう!
 
「えー?おねえさん、もと男の人だったの?」
 
「うん。でも君はきっと女の子にされちゃったりはしないから頑張って手術受けてきなよ」
と千里は笑顔で言う。手術前の不安をできるだけ取り除いてあげるのがこの子への、せめてものはなむけだろうと千里は思った。
 
「おちんちんきられるのいやじゃなかった?」
と少年は訊く。どうも気になってしょうがないようだ。
 
「私はおちんちん要らないと思ってたから取って欲しかったけどね」
「ぼく、おちんちんいるよぉ」
「まあ、普通の男の子はそうだろうね。君、明日の手術は何時から?」
「おひるの1じからだって」
 
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「ちょうど私たちの試合と同じくらいの時刻だね」
と寿絵が言う。
 
その時、川南が口を出して言った。
 
「お姉ちゃんたち、明日は凄く強い所とやるけどさ、お姉ちゃんたち頑張って勝つから、君も病気に負けるなよ。手術くらい平気だよ。頑張って手術を受けておいでよ」
 
千里は緊張した。
 
「うん。ぼくがんばる。おねえちゃんたちもがんばってね」
と男の子は初めて笑顔で言った。
 
「手術が終わったら、何かしたいことある?」
と葉月が訊く。
 
「ぼく、空をとんでみたいなあ」
 
何人かが一瞬近くの子と顔を見合わせた。この状況で「空を飛ぶ」というのは危険な象徴だ。おそらく今多くの子がそれを感じ取ったのだろう。
 
「きょねん、おばあちゃんちいくのにひこうきのれるかとおもったら、しんかんせんになっちゃったの。でもぼくね、どうせなら、ワンピースのチョッパーみたいに、トナカイのソリにのって空をとびたいの」
と少年。
 
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「君、それは誤解してる。チョッパーがトナカイだぞ」
「あれ?そうだっけ?」
 
そんなことを言っていたら、向こうの方から若い看護師さんが焦ったような顔をしてやってきて、男の子を保護した。
 
「その子と、私たちが明日の試合頑張るから、君も手術頑張れと約束したんです。その子の名前を教えてください」
と暢子が言った。すると看護師さんは
 
「ながの・りゅうこ君というんですよ」
と若い看護師さんは教えてくれた。
 
「《こ》の付く名前って女の子みたい」
と川南が言うと
 
「ぼくの《こ》は《とら》だよ」
と少年は抗議する。
 
「空を飛ぶ龍に吼える虎で《龍虎》なんです」
と看護師さん。
 
「かっこいー!」
という声が女子たちの間であがる。
 
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「でも確かに音で聞くと《こ》が付くので女の子と誤解されて嫌がるみたいです」
 
なるほどー。それでよけい、おちんちん取られるかもなんて話に敏感な訳か。
 
「じゃ、龍虎君、お姉ちゃんたちと明日頑張る約束」
と川南は彼と指切りをした。
 
「龍虎、頑張らなかったら、手術が失敗して、おちんちん切られちゃうことになるかもよ。そうしたらおちんちん無いなら女の子になりなさいと言われて、龍虎の《こ》の字を女の子の《こ》の字に名前変えないといけなくなるぞ」
などと川南は脅す。
 
「ぼく、しゅじゅつがんばる!」
と少年は物凄く焦ったような顔で言った。看護師さんが笑っていた。
 
 
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