広告:ここはグリーン・ウッド (第6巻) (白泉社文庫)
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■女の子たちのインターハイ・高3編(4)

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「わあ、すごい階段」
 
と伊香保温泉に着いたN高校メンバーの間から嫌そうな声が上がった。
 
「この石段を上まで往復してきてから晩御飯な」
と暢子が言い出す。
 
「うっそー!」
 
「何段あるんですか?」
と揚羽が訊くと、駅から温泉まで案内してきてくれた温泉宿の人が
「315段です」
と言う。
 
(この石段は2010年に更に伸びて365段になった)
 
「往復で630段なら1段1秒として10分半かな」
と暢子。
 
「それ絶対無理」
「よし、行くぞ!」
「ほんとに行くんですかぁ!?」
 
結局荷物はそのあたりに置いて旅館の人と宇田先生に見てもらい、選手12人と薫・川南・葉月・南野コーチの16人がこの階段を登り始めた。
 
言い出しっぺの暢子、出羽の山駆けで鍛えている千里、凄い山の中の地区出身で小さい頃から山道に慣れている揚羽、そしてド根性で頑張る絵津子の4人が先行する。少し遅れて薫・留実子・夏恋・睦子が続き、最後の方を登って行ったのは寿絵・葉月らで、南野コーチは彼女らを励ましながら、しんがりを務めてくれた。
 
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結局10分近く掛かっていちばん上まで登り切り、そこから少し歩いた所にある伊香保神社でお参りして少し休憩する。いちばん最後が神社まで到達した所で
 
「よし降りるぞ」
と暢子が声をあげて下り始めるものの、今たどりついたばかりの寿絵たちは
「待って。少し休ませて」
などと言っていた。結局全員が登り降りし終わったのは出発してから40分近くたった頃であった。荷物は旅館の人が手分けして運び込んでいてくれたので、メンバーは手ぶらながらも息も絶え絶えに旅館まで行き、まずは温泉に入って石段往復の疲れを癒やした。
 
「明日から毎日この石段の往復、な」
「そんなぁ」
 

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「試合で走り回るのより疲れたかも」
という声もあがるが
 
「いや単純に登り降りするだけなら、頭は使わなくていいから」
「むしろ頭の中が真っ白になってリセットされた」
 
といった声もある。取り敢えずみんな湯船の中で手足の筋肉をよく揉みほぐす。指圧の得意な薫が声を掛けて、特に凝りの強い子のは上手にマッサージしてあげていた。
 
「しかし昭ちゃんがここに居ないのは残念だ」
などと川南が言い出す。
 
「昭ちゃんはV高校の宿泊施設のほうでお風呂に入っているはず」
とリリカ。
 
「あの子、女の子たちと一緒にお風呂入っても平然としてましたね」
と従妹の絵津子が言う。
 
「だいぶ女湯に連れ込んだからなあ」
と葉月。
 
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「仕方ない。薫で遊ぶか」
などと寿絵は言っている。
 
「勘弁してよぉ」
「ね、実際問題としておちんちんはもう無いんでしょ?」
「他のお客さんもいるから、そのあたりの話はまた今度ね」
 
「サーヤ、脱衣場で何かごそごそしてたね?」
とメグミが言う。
 
「いや、ボクおちんちん付けたままだったから、慌てて取り外した」
と留実子。
 
「もしかしてサーヤ、試合中もおちんちん付けてたの?」
「うん。だいたいいつも付けてる」
「トイレどうしてた?」
「会場では自粛して多目的トイレ使った。南野コーチから男子トイレ使っててトラブったらいけないからと言われたから」
「ああ、千里はその逆で以前トラブってたな」
「サーヤは女子トイレで悲鳴をあげられかねないからな」
「いや今回は背の高い女子が多いから大丈夫でしょ」
 
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インターハイ2日目。7月30日。旭川N高校は初戦を迎える。
 
この日の朝、千里は暢子から尋ねられた。
 
「千里、掌に何か書いてるね」
「あ、これ力が出るおまじない」
「へー、だったら私にも書いてくれない?」
 
千里は《くうちゃん》に確認する。
『別に害は無いよ』
と《くうちゃん》が言うので、千里は暢子の左手掌に例の梵字を書いてあげた。
 
「消えるのに3−4日掛かるから、それまでは有効」
「じゃ8月2日くらいに念のためもう一度書いてくれ」
「OKOK」
 
とは言ったものの、暢子はこの件はその後、すっかり忘れてしまっていた。
 

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今年の女子の会場は本庄市内3つに別れているのだが、今日の千里たちの試合会場は本庄市と合併した旧児玉町の体育館(エコーピア)である。
 
第2試合(11:40-)だったので、朝食後軽くウォーミングアップをしてから会場に入る。第1試合に出ていた山形Y実業の試合を見学してから、再度準備運動をした上で、フロアに入った。
 
今日の相手は富山県の高岡C高校である。インターハイでは過去にあまり上まで勝ち上がったことはないものの、皇后杯には過去数回出ている。今年の皇后杯にも出ていたチームなので、充分警戒して当たることにする。向こうは昨日の1回戦で地元埼玉県代表に70対56で快勝して2回戦に上がってきている。
 
最初雪子/千里/寿絵/暢子/留実子というメンツで出て行くものの、第1ピリオドで早々に10対20とダブルスコアである。そこで第2ピリオドはメグミ/夏恋/敦子/睦子/リリカ というメンツに交代するも、点数はどんどん開いて行く。その後は揚羽も含めて適宜交代しながら試合を進め、最終的に86対36で大勝した。
 
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この試合では絵津子は使わなかった。むやみに情報を与える必要は無いという薫の提案に沿ったものである。15番を付けている1年生選手を使わないのは全く不自然さが無い。
 
「この試合、ビデオで撮っていた所がたくさんあったよ」
とその薫は試合後言っていた。
 
「まあ撮るだろうね。こちらの新戦力を確認しておきたいでしょ」
 

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旭川N高校は今回応援チームが結成されていたのだが、初戦はおそらく勝つであろうと見て、明日3日目から入ってくれることになっている。応援チームは参加者が自費参加(生徒会から一応交通費分の補助だけは出している)なので、できるだけ滞在日数を短くしたいということから、そういうスケジュールになったようである。
 
一方の高岡C高校の方には皇后杯の時と同様、チアチームが来ていたものの、あえなく敗戦してがっかりした表情で観客席から去った。
 
来ていたのは皇后杯(オールジャパン)の応援チームとしてきていた16人から「品行の問題」で桃香が外され、他に受験勉強に専念したいという3年生が前回リーダーの鈴子を含めて5人外れており、代わりに1年生が8人入って18人になっていた。
 
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「昨日は凄くいい試合したのに」
と1年生の子が言うが、リーダーの鏡子は
 
「今日の相手は皇后杯でも2勝したし、去年のインターハイ3位だからね。ちょっと格が違ったよ」
などと言っている。
 
この後の日程については、自費で残って翌日以降の試合も観戦したい人は毎日定期連絡を入れることを条件に認め、帰る人は今日の夜行バスで選手たちと一緒に帰ることにする。
 
とりあえず18人で一緒にファミレスに入って遅いお昼御飯を食べながら(ついでにここのトイレを借りてみんな着替えた)鏡子が希望を訊いたところ、残るのが3年生では鏡子と織絵、他2年生と1年生が4人ずつの10人ということになった。残り8人は今日帰ることにしてバスケ部の引率の先生に連絡し、3年生の優子が率いてそちらに移動することにした。一方の鏡子たちはホテルを8月2日まで確保し、とりあえず夕方までは自由時間とする。
 
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「必ず2人以上組になって行動すること。危ない地域には絶対に近寄らないこと。定期的に私の携帯に連絡メールを入れること」
 
など鏡子が注意を与えて解散した。実際には2年生の4人と1年生の4人は各々団体行動になったようである。
 

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「織絵、どうする? 今日はこのあとの試合見る?」
と鏡子は訊く。
 
「今日はあまりいいカードが残ってないのよね。明日からは強豪同士がぶつかり始めるから、今日は都心に出て新宿でも歩こうよ」
と織絵。
 
「ああ、それもいいかもね」
 
ということでふたりは児玉駅からJR(八高線)で寄居に出たあと東武で池袋に出て、その後再度JRで新宿に移動した。新宿に着いたのが16時過ぎである。それでふたりでマクドナルドに入っておしゃべりする。
 
「でも今回は桃香を連れてこなかったから、夜間レイプ騒動は起きないだろうな」
と鏡子。
 
「優子はもう帰したしね」
と織絵。
 
「あの子も危ないんだっけ?」
「桃香より色情魔危険度が高い」
「むむ。昨夜、織絵、同室で大丈夫だった?」
 
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「まあおっぱい舐められるくらいは平気だよ。処女は厳守したし」
「あっぶねーなー」
 
と言ってから鏡子はふと考える。
 
「あんた、今夜私を襲わないよね?」
「大丈夫だと思うけどなあ」
 
などと織絵は言っている。
 
「結局、桃香をめぐっての恋愛関係はどうなってんのさ?」
と鏡子は訊く。
 
「桃香は恋人をたくさん作りたがるタイプなんだよ。ひとりじゃ満足できないみたいなんだよね。優子とは何度かセックスしたみたいだけど、私にも鈴子にもちょっかい出してるし、弥生とも進行中だし、広実ともメール交換してるし」
 
「どういう奴なんだ?」
と鏡子は顔をしかめる。
 
「鈴子がバンドやめたの、たぶん私への嫉妬だと思う」
と織絵は難しい顔で言う。
 
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「あんた、桃香のこと好きなの?」
「うーん。どうなんだろう・・・」
 
実は高岡に帰ってきたらデートしようと誘われているのである。今回の滞在を取り敢えず伸ばしたのも、その問題があったからである。
 
「ところで女同士のセックスってどうやるの?」
と鏡子が訊く。
「私もよく分からない」
と織絵。
 
「織絵はしたことないんだ?」
「今のところまだバージンだよ」
「バージンを喪失するようなことするの?」
「優子は中学生時代に女の恋人にバージン捧げたって言ってた」
 
「なんか、そのあたりの原理的な話がわからないんだけど!?」
と鏡子は言った。
 

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マクドナルドを出た後は、ふたりで楽器店をのぞいた。
 
「わあ、いいなあ」
などと言って織絵はフェンダーのストラトキャスターを見ている。
 
「凄い値段だね」
と鏡子が言う。
 
「うん。とても買えない」
「でも今使っているのに似てるね」
「うん。あれはこれを真似て作られたものだと思うよ」
 
織絵が使用しているのはヤマハのパシフィアである。
 
「だけど織絵のキーボードも凄い値段だよね」
「バンドで使っている奴は大したことないよ。8万くらいの奴だから」
「充分高いじゃん! でもおうちにあるグランドピアノは凄いんでしょ?」
「お姉ちゃんが使ってるS6は500万円くらいだけど、私が使っているC3は200万くらいかな。でもお姉ちゃんが出かけている時は結構勝手にS6弾いてる」
「そのグランドピアノが2台もあるところが凄い」
「取り合いでよく喧嘩してたからね。それに、あれ買ってくれた頃はお父ちゃんも景気が良かったんだよ」
 
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「ヴァイオリンも弾くんだよね?」
「小学生の時はレッスンに通ってたけどね。でも私はヴァイオリンよりピアノが性(しょう)に合ってる」
「ヴァイオリンは値段いくらくらいの使ってたの?」
「大したことないよ。たしか60万円くらいの量産品」
 
「それでこのストラトが2本買えるんだけど!?」
 

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楽器店を出ておやつでも見ようかなどと話していた時、ばったりと織絵の知った顔に遭遇する。
 
「あら、桂木さん」
「白浜さん、おはようございます」
 
「そちらお友達?」
「はい。一緒にバンドやってるんですよ」
「へー。凄いね。担当は何?」
「私がギターで、この子、鏡子がキーボードなんです」
「わあ、楽器ができるっていいなあ。私は音楽の仕事してるのに、楽器はハーモニカも吹けなくて」
「あ、私もハーモニカ吹けないです」
 
「あ、そういうもの? 今日は何で東京に出てきたの?」
「うちの高校の女子バスケ部がインターハイに出場するので応援に来たんですよ」
 
「インターハイって凄いね!」
「でも負けちゃって」
「あらあら、だったらもう帰るの?」
「せっかくだから、この後の試合も観戦してから帰ります」
 
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「あ、だったら時間あるよね。今、ちょっと新しいユニットの音源製作してるんだけど、見学しない?」
「行きます!」
 
ここで織絵が白浜の話にのったのが、織絵にとっても鏡子にとっても大きな運命の転換点となったのである。
 
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