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試合は第2ピリオド、前田さんによる千里封じが成功して、26対16とF女子高が大きくリードを奪う。第1ピリオドと合わせて前半合計38対34とF女子高が4点のリードである。またこのピリオド、ラーマさんは相手選手との接触にかなり慎重になっていたので、ファウルは1個しか犯さずにピリオドを終えることができた。それでも4ファウルである。
それ以外では前田さんが1、大野さんが2、左石さんが2、芳岡さんが3個ファウルを取られている。一方のN高校側は誰もファウルを取られていない。
「N高校はほんとにファウル少ないよね」
と大秋さんは感心したように言う。
「こういうクリーンな試合ができるのは、うちとN高校、P高校の3校くらいだと思う」
と中丸さんが言う。
「手を動かす時に相手の身体の動きを予測して正確にボールを叩くんだよね。だから、きれいにスティールが決まる。今のピリオドでも、村山さん・森田さん・白浜さんが相手から美しくスティールを決めたよね」
と白子さん。
「正確なプレイができるように訓練されているんだと思う。シュートも正確、パスも正確、スティールも正確」
と大秋さんは言う。
「ただ今のまま、前田さん・大野さんが向こうの主力2人を封じたままだと、試合はF女子高の流れになるだろうね」
と白子さんは言う。
「きっと15番(絵津子)を投入してくるよ」
と大秋さん。
第3ピリオド、N高校は雪子・夏恋を休ませてPGにメグミ、SFに絵津子を入れてきた。千里・暢子・留実子はそのままである。一方F女子高はラーマさんが4ファウルなのでアヤさんを入れて来た。
前半はロースコアで推移していたのだが、このピリオドは一転して点の取り合いになった。N高校側は、前田さん・大野さんで千里・暢子が封じられていても、絵津子がたくみに相手ディフェンスの隙間をかいくぐって得点を重ねていく。あまりにも点数が取られるので、大野さんがついそちらに注意を奪われてしまうと暢子も得点するし、また千里とのスクリーンプレイを決めて千里がスリーを撃ち込む。
このあたりは昨日E女学院がさんざんN高校にやられたパターンなのだが、絵津子のプレイは昨日初めて見ているので対策を取るだけの時間が無かったようであった。F女子高も夏恋絡みのスクリーンプレイについては研究していた形跡があったものの、絵津子の仕掛け方は夏恋とは全く異なる。夏恋がオーソドックスに理論的なプレイをするのに対して絵津子は野生派である。理論より本能でプレイしている。
一方F女子高側も、前田・大野のコンビがどんどんシュートを狙い、リバウンドもアヤが留実子と激しく争いながらもボールを取り、攻撃を続ける。もっともアヤはかなり積極的にリバウンドを取りに行ったため、このピリオドだけで3つもファウルを犯してしまった。
「F女子高さんのセンター、やばくない?」
と白子さんが言う。
「うーん。3つやっちゃったらさすがにこの後は慎重になるんじゃない?」
と大秋さん。
結局このピリオドは点の取り合いながらもわずかにF女子高が多く点数を積み重ねて 32対28とし、ここまで70対62である。
「けっこうじわじわと点差が開いてきましたね」
と佐古さん。
「15番を投入してもやはり相手がF女子高だからなあ。基礎的な力が違う」
と佐倉さん。
「ここまで来たら、N高校は追いつくの厳しいかもね」
と道下さん。
最後のインターバル。千里は、はあはあ大きく息をつきながら、窓の外の空を見ていた。劣勢になっているが、観客席のチアリーダーたちは必死で応援のエールを送ってくれている。千里は彼女たちの熱気をその身体に受け止めた。
しかし龍虎の手術はうまく行っているだろうか。試合は負けている。まさかあの子の心臓止まってないよね? おちんちんくらい無くしても生き延びろよ。おちんちんなんて必要なら誰かから、ぶん取ればいいんだから。命を無くしたら、生き返られないぞ。
千里がかなり消耗しているようだし、暢子も辛そうにしているので、南野コーチがふたりに訊く。
「少し休む?」
「いえ、このまま行きます」
と千里。
「私も大丈夫です」
と暢子。
それで最終ピリオドは、雪子/千里/寿絵/暢子/留実子 というメンツで出て行く。
向こうのセンターは引き続きアヤさんである。
このピリオドでは、ここまで出番の無かった寿絵が積極的にスクリーンプレイを仕掛けて、千里や暢子を強引にフリーにした。それで最初こちらが立て続けに点数を取って74対70と、相手を射程距離にとらえる。
ところが向こうは今度は寿絵対策で守備のうまい椙山さんを投入し、前田さん・大野さん・椙山さんで、千里・暢子・寿絵を抑えている間に、芳岡さんが連続で得点を奪って80対72と、また8点差に戻す。
ところが次にN高校が攻めていった時、留実子が中に飛び込んでシュートしようとしたのをアヤさんが停めようとしてブロッキングを取られてしまう。これでアヤさんも4ファウルである。しかしもう残り時間は6分しか無いのでそのまま出場継続する。点数はフリースローを与えられた留実子がきっちり2本とも決めて80対74である。
ここでN高校は寿絵の代わりに絵津子を出す。すると絵津子が椙山さんを圧倒して立て続けにひとりで6点取り、82対80と2点差まで詰め寄る。ここでF女子高は大野さんが絵津子のマークに回り、暢子対策には新たに3年生の友綱さんを入れる。友綱さんは暢子を完全には停めきれないものの、かなり動きを制限する。ファウル覚悟で停めに来るので2個もファウルを取られたものの、残り1分になるまで暢子の得点を4点に抑えた。ここまで88対84である。
向こうが攻めて来る。千里も暢子もずっと強い相手にマークされてかなり疲れている。しかし千里はこの試合は龍虎のため絶対負けられないという気持ちでいた。芳岡さんからアヤさんへのパスを超絶飛び出しでカット。体勢を崩しながら雪子にパスする。が、そこに大野さんが必死で飛びついて彼女も体勢を崩しながらボールを停め、友綱さんのほうへ送る。が、それを絵津子がカット。根性の筋力で自らドリブルして、そのまま走り出す。
これが速攻になって88対86と2点差。残り40秒。
向こうが慎重に攻めて来る。前田さんには千里が、大野さんには暢子が、友綱さんには絵津子がマークに付いている。芳岡さんはアヤさんにパスする。そのまま中に飛び込んでくる。留実子が守っているが、右を抜こうとして接触。
笛が鳴る。
がアヤの放ったシュートはそのままゴールに飛び込んでしまった。
そして審判のサインはダブルファウルであった。つまり留実子のブロッキングとアヤのチャージングの両方が取られた。そしてこの場合、ゴールは有効である。従って90対86になるが、ダブルファウルの場合は、通常の「ワンスロー」は与えられない。このままN高校のスローインから試合は再開されることになる。
が、アヤさんは5ファウルで退場である。
交代でラーマさんが入る。残りは30秒。
N高校は暢子がスローインして雪子がドリブルで攻め上がる。
絵津子が大野さんの一瞬の隙を突いてフリーになり、雪子からパスを受ける。そのまま飛び込んでシュートを撃つ。ラーマさんと接触して笛が鳴る。
ボールはゴールに飛び込んだ。
さっきと似たような状況だ。
しかし今回審判は、絵津子のチャージングのみを取った。
従って得点は無効になる。
F女子高の前田さんが脱力するような、ホッとしたような顔をしている。
残りは18秒である。点数は90対86でF女子高4点のリード。
24秒計はもう停まってしまう。F女子高は残り18秒をボールを取られないようにだけしていれば勝てる。
この瞬間、この会場にいる誰もがF女子高の勝利を確信した。
J学園の子たちがいる席でも
「勝負あったね」
と大秋さんが言い
「N高校も頑張ったけどね」
と佐古さんが言った。
しかし中丸さんは黙ってコートを見つめていた。
客席ではもう立ち始める人たちもいる。N高チアリーダーたちはもうボンボンを振るのも忘れて「頑張って!」と叫んでいる。千里は暢子を見た。暢子が雪子を見る。雪子が絵津子の所に行きささやく。
試合がF女子高のスローインで再開される。
当然N高校は必死のプレスに行く。
F女子高は8秒以内にフロントコートにボールを運び、残り時間はボールを回していれば勝つことができる。
雪子が激しく芳岡さんをチェックする。ボールは5秒以上保持することはできない。何とか雪子を振り切り、大野さんの方へボールをバウンドパス。
・・・したつもりがなぜか大野さんとの間に千里が居る。
「えーー!?」
と芳岡さんが声をあげる。
千里は芳岡さんから見た時大野さんの陰になる位置で気配を殺していたのである。こういう戦法は、F女子高やJ学園のような強豪にはふつう通用しない。それで千里はこの試合まだ1度もこれを使っていなかったのだが、相手が疲れているとみて仕掛けたのである。
千里はそのままボールをドリブルして数m先に行き、スリーポイントラインの手前でピタリと停まる。そして撃つ体勢に入る。目の前にいたラーマさんが必死でチェックに来る。
前田さんが「ラーマ!だめー!!」と叫んだが、間に合わなかった。
ラーマさんの腕がボールを取ろうとして誤って千里の腕に接触する。しかし千里が放ったボールは美しい軌跡を描いて、ダイレクトにゴールに飛び込んだ。
得点は当然認められる。
そして更にフリースローが1本もらえる。
スリーポイントの「バスケットカウント・ワンスロー」である。
得点は今の3点で90対89になっている。ラーマは5ファウルで退場である。なんと外国人センターが2人とも5ファウルで退場になってセンターが居なくなってしまった。
取り敢えず代わりに椙山さんを出す。千里が審判からボールを受け取り、慎重にボールをセットする。きれいに決める。
90対90!
この千里の4点プレイで旭川N高校は土壇場で追いつくことに成功した。残り時間は10秒である。
F女子高が攻めてくる。N高校は留実子だけが戻り、残り4人で強烈なプレスを掛ける。しかし何とか7秒ほどでボールをフロントコートに進めることに成功する。しかし残りは3秒しかない。
前田さんにボールが送られる。
千里とのマッチアップ。
複雑なフェイント合戦の末、前田さんは確かに右を抜いた。そしてシュートしようとしたのだが
「え!?」
前田さんの手の中にボールは無い。
その時、前田さんの後ろで千里がボールをドリブルして向こうへ走り出していた。
「うっそー!!」
と前田さんは叫んだものの、千里が4−5歩も走った所でピリオド終了のブザーが鳴る。千里はそこから向こうのゴールめがけてボールを投げたが、さすがに入らなかった。
同点・延長戦である!!
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女の子たちのインターハイ・高3編(11)