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■女の子たちのインターハイ・高3編(6)

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「破瓜って16歳のことなんですか?」
「数え年の16歳だよね」
「だから早生まれの場合は中学3年のお正月で破瓜、遅生まれの場合は中学2年のお正月で破瓜」
「なんだ、もうみんな過ぎているのか」
 
「でも私、破瓜ってHしちゃうことかと思ってた」
「そうそう、そういう意味もある。昔はそのくらいが結婚年齢だったしね」
「ああ、昔なら私たちみんなもうお嫁さんに行ってますよね」
「現代は晩婚化してるからね」
「最近は10代で子供産むのを批判する人もいるけど、元々は女の子は12-13歳でお嫁に行って、このくらいの年代ではもうお母さんになっていたわけで」
 
「笄年(けいねん)ってのもありますよね?」
「そうそう。笄年で成人式になる」
「それは何歳ですか?」
「数え年の十五歳。だから破瓜は成人して1年後」
 
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「やはりさっさと男とやっちゃえよという意味では?」
「瓜の字が女性器に似てるから、それを破るということでしょ」
「ああ、真ん中の線が割れ目ちゃんですよね?」
「やはり開通することか」
「八の字に棒が刺さっているようにも見える」
「きゃー!」
「なんつー、あからさまな」
「八はヴァギナの形」
 
「でもなんで破瓜は16歳なんですか?」
「瓜の字が八八と並んでいるようにも見えるから、8+8=16」
「ああ、そういうことか」
 
「破瓜は性転換かも」
「なんで?」
「真ん中の棒を破壊するんでしょ」
「ほほぉ!」
「下にある横線はタマタマで、それも一緒に取っちゃう」
「棒と玉を取って瓜から八になると」
「瓜は棒が上向いてるもんね。立つようなものを除去しちゃって、ちゃんとヴァギナを確保する」
「じゃ女の子は16歳で棒を入れて成人式、男の娘は16歳で棒を取って成女式」
 
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などと言っていたら、南野コーチが睨んでいるので、そのあたりで暴走は停止する。
 

 
2008年7月31日(木)。インターハイは3日目に入る。今日以降の試合は全て本庄総合公園体育館(シルクドーム)で行われる。
 
千里たち旭川N高校はこの日、第2試合で強豪の大阪E女学院と対戦する。
 
ここもインターハイ・ウィンターカップの上位常連校である。昨年までは御堂さんという卓越したパワーフォワードがいたのだが、今年はもう卒業して抜けて、3年生のスモールフォワード河原さんが中心のチームになっている。3月のトップエンデバーにも招集されていたので千里と暢子はお互いに結構相手を見ている。そのほか1年生ながらもU18代表候補に選ばれてこちらも5月に代表合宿で会っている181cmの富田さんがいる。このふたりが要注意である。
 
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7月初めに組合せが発表された段階で、こことの対戦は必至とみて大阪府予選のビデオを充分に検討して対応を考えている。富田さんのプレイを見た留実子は「僕は負けない」と言った。留実子も(自称)180cmで少なくとも身長ではそんなに差は無い。正直な所、ほんとうは留実子の方が背が高くないか?と富田さんを実際に見ている千里は思っていた。
 

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朝ご飯を食べて少し休んだあと、軽く身体をほぐしてから会場入りする。第1試合の途中であったので観戦する。岐阜F女子高と宮城N高校、山形Y実業と金沢T高校の試合であった。
 
「ねえ、金沢T高校のユニフォームの背中のロゴ、よく見たら KANAZAWA じゃなくて、KANAGAWA と書いてあるね。GAを《ざ》と読むんだっけ?」
とひとりの子が質問する。
 
「いや、神奈川県の高校だから」
「え?金沢って石川県じゃないの?」
「横浜の金沢だよ」
「えー?」
「石川県代表は私たちと同じ時刻に隣のコートでやる高松S高校」
「高松って四国じゃないの?愛媛県に高松ってあったよね?」
「四国の高松は愛媛県じゃなくて香川県。石川県にも高松があるんだよ」
「難しい」
「あれ?じゃ愛媛県の県庁所在地ってどこだっけ?」
「松山だよ」
「私、松江かと思った」
「松江は島根県」
「あんた、受験で地理は選ばないほうがいいよ」
 
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「宮城ってのは仙台県でいいんだっけ?」
「仙台が宮城県!」
「まあ宮城N高校は実際、仙台市内の高校」
「せんだいって字の違うところが宮崎県の方にもありましたよね」
「川内と書いてせんだいと読むけど、宮崎県じゃなくて鹿児島県」
「やはり、あんた社会は世界史か何かで受けなよ」
 
F女子高と宮城N高校の試合は、ひじょうにハイレベルで3回戦でやるにはもったいないような感じだった。F女子高のシューター左石さんと、N高校のシューターで昨年千里たちとも戦った金子さんの対決もなかなか凄かったが、それを観戦していてもN高校のメンツは全く動揺しない。昨年はF女子高と倉敷K高校の試合を見たメンバーがレベルの高さにビビってしまい、海に行って各自叫んだりして気持ちを切り替えたりしたのだが、今年はもう平気である。千里は昨年のことを思い出し、ほんとにみんな強くなったんだなというのを思っていた。
 
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「F女子高は凄い背の高い選手が2人いますね」
「セネガルからの留学生なんだよ」
「でも見てたら交代でしかコートに入らないみたい」
「外国人選手はオンコート1名の制限があるから」
「でもリバウンドは圧倒的ですね」
「そうそう。それは割り切るしかないよ。多くのチームの場合は」
と薫は言って、留実子を見る。留実子は薫の視線を黙殺してコート上に鋭い視線を落としている。
 
「宮城N高校のシューターさんも精度いいんだけど、外すと全部ボール取られちゃうから、結果的にあまり遠くからは撃たないみたい」
「リバウンドがそういう戦い方を強制してしまうんだよね」
 
試合はやはりその差が出てF女子高が勝った。もうひとつの試合は山形Y実業が勝った。
 
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第2試合の時間である。わざわざ旭川からやってきてくれた応援のチアチーム10名(+現地徴用?されてチアの衣装を着たバスケ部1年生16名)のエールに送られて、千里たちはフロアに入った。
 
(1年生でチアに入ってないのはベンチに入っている絵津子と、試合をよく見ておくよう厳命しているソフィア・不二子・耶麻都・愛実の合計5人)
 
こちらは、PG雪子/SG千里/SF寿絵/PF暢子/C留実子といういつものスターティング5で出て行く。向こうはPG水晶/SG春紅/SF河原/PF晩翠/C富田 というメンツで来た。
 
相手のスタメンを見て千里と暢子は顔を見合わせた。予想と全く違うメンツだったからである。向こうのベスト5は多分梅川/伊丹/河原/住吉/富田である。つまりキャプテンの河原さん、U18代表候補の富田さん以外の3人は控え選手と思われた。県予選や昨日・一昨日の試合でも、出場機会がそう多くなかった選手である。あるいは、うちには楽勝と見て、主力を温存する作戦なのであろうか。
 
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暢子と河原さんでキャプテン同士握手をしてからティップオフ。これをきれいに留実子が取って、こちらが先に攻め上がった。
 
雪子に水晶さん、千里に春紅さん、暢子に晩翠さんがピタリとマークに付いた。寿絵に河原さん、留実子に富田さんである。身長を考えれば留実子のマークは富田さんにしかできない。
 
千里が雪子からのパスを受けようと左右に動き回って相手のマークを外そうとするのだが、春紅さんはしっかりと千里を見ていて、簡単には外せない。千里はわざと横を向いたりするのだが、その手のフェイントにも引っかからない。
 
千里には無理と見て雪子は暢子の方へパスを送る。ところが瞬間反応した水晶さんがそのボールをカットしてしまった。そのまま走り出す。N高校は急いで戻る。俊足の雪子が何とか水晶さんの前に回り込むが、水晶さんは真後ろへボールをバウンドさせ、それを河原さんが掴むと、水晶さんを壁に使って雪子を抜き、華麗にレイアップシュートを決めた。
 
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試合はE女学院が先制する形で始まった。
 

客席では東京T高校の竹宮さんや森下さんたちも見ていたが、
 
「E女学院はN高校をかなり研究したね」
などと言っていた。
 
「とにかくこのチームで最も危険なのが村山さん、それから怖いのが若生さん、そして全ての得点の源になるのが森田さん。この3人を徹底的に押さえ込む作戦なんだ」
 
「水晶さんは森田さんの、春紅さんは村山さんの、晩翠さんは若生さんのプレイを相当数再生して見て癖をつかんでいる。1ヶ月前に組合せ抽選の結果が発表された時にN高校との激突は必至とみて、各々がその専任のマーカーとして練習を重ねている」
 
「恐らく、伊丹さんが仮想村山、河原さんが仮想若生、梅川さんが仮想森田になって実戦練習も相当重ねている」
 
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「この3人が抑えられるとN高は厳しいね」
 

実際千里はこんなに押さえ込まれるのは初めての体験であった。
 
大抵の選手は左右の動きを緩急つけて行なうことでマークを外せる。優秀な選手でも、一瞬の意識の隙や、他の人の動きを見ようとして一瞬視線を他にやった瞬間に足音も立てずに移動すれば、かなりの確率でこちらはフリーになれる。またハイレベルな相手と対峙している場合も、雪子がこちらの真後ろなど、飛びつかないと取れないような場所にボールを投げれば、相手はそれをカットできない。
 
ところが千里が対峙している春紅さんは全く隙が無い。他でどんな動きが起きていようと絶対に千里から目を離さないのである。しかも雪子まで水晶さんに厳しいマークを受けているので、雪子も微妙なパスを送ることができない。
 
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結果的に千里・暢子・雪子の3人が厳しくマークされているし、寿絵も相手のキャプテン河原さんとマッチングしているので、この試合の最初の方でN高校の得点は雪子が何とか頑張って留実子にボールを送り、留実子がU18代表候補富田さんとの厳しいマッチングに何とか勝ってゴールにボールを放り込んだ6点だけであった。
 
第一ピリオドを終えて18対6とまさかの大差である。
 

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「完璧に押さえ込まれたね。選手変えるよ」
と南野コーチが言い、第2ピリオドはメグミ/夏恋/敦子/睦子/揚羽というメンツで出て行く。向こうはどうもその交代を予測していたようで、梅川/伊丹/河原/阿倍/富田というラインナップにしてきた。恐らくベストメンバーに近い布陣である。
 
ここで本来はセンターであるがパワーフォワードの位置に入っている阿倍さんが夏恋を激しくマークした。夏恋は器用だし、スクリーン・プレイやピック&ロールのような複合技も得意なので、彼女がコート上にいることでN高校は様々なバリエーションによる攻撃が出来る。ところが彼女が押さえ込まれてしまうと難しいプレイが困難になり、攻撃は単純なものとなって、結果的に個々のプレイヤーの実力勝負ということになってしまう。
 
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しかも、この第2ピリオドの布陣では、相手がほぼベスト5というメンツなのでとても勝てない。メグミも梅川さんには勝てないし、睦子は河原さんにはかなわない。揚羽も富田さんには身長で負けていた。
 

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「なんかワンサイドゲームになってきたね」
とT高校の萩尾さんは言う。
 
「昨年は旭川N高校はチャレンジャーだった。でも今年はチャレンジされる側になってしまった」
と山岸さんが言う。
 
「N高校って情報戦が凄いんだよね。出場する各チームの戦力をほんとによく分析しているから、それでやられてしまう。でも今年は自分が研究されてしまった感じ」
と池田さん。
 
「サーヤ(留実子)を戻すべきだと思う。みっちー(富田さん)に勝てるのはサーヤだけだよ」
と森下さん。
 
「まあ、このままやられっぱなしになるようなN高校ではないとは思うけどね」
と竹宮さんは言った。
 

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試合は第2ピリオドで河原さんや伊丹さんがどんどん得点をして、前半を終わった所の得点は38対10というクアドゥルプル・スコアになってしまった。
 
チアリーダーたちが半ば悲痛な感じの声を挙げながら声援を送ってくれる。ハーフタイムの間、N高校のベンチでは最初誰も声を出すものがなく沈んだ雰囲気になってしまった。
 
おもむろに宇田先生が発言した。
 
「うちがこの試合に勝てる確率は何パーセントくらいだと思う?若生君」
 
暢子は3秒くらい考えて言った。
「90%くらいだと思います」
 
「村山君は?」
「98%くらいかな」
 
「ふたりとも見通しが暗いね」
と宇田先生が言う。
 
「佐々木君はどう思う?」
 
マネージャーとしてベンチに入っている川南はまさか自分に指名が来るとは思っていなかったようで慌てたが言った。
 
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「100%です」
 
「じゃ佐々木君が第3ピリオドの選手を指名して」
と宇田先生が言う。
 
「分かりました。雪子/千里/絵津子/暢子/留実子で」
「ほほぉ」
 
「暢子も千里も雪子もかなり研究した相手に厳しいマークを受けたけど、それを振り切れなきゃ、優勝なんかできませんよ。だからこの3人には根性で頑張ってもらう。それとやはり181cmの富田さんには183cmの留実子でしか対抗できないと思う。そして絵津子はたぶん相手が未研究です。でも絵津子はあと半年もしたら暢子に肩を並べるくらいに成長するレベルだと思う。だからここはこれからの20分でせめて4ヶ月分くらい一気に成長して河原さんを倒して欲しい。絵津子の投入が絶対、相手のペースを乱します」
 
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と川南は言った。
 
「みんな女なら頑張ろうよ」
と川南は付け加える。
 
確かにそのメンツで行く場合、絵津子は河原さんとマッチアップすることになるだろう。
 
「ではその線で」
と宇田先生は笑顔で言った。
 

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