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2008年7月28日。今年のインターハイ・バスケット競技は開会式を迎える。
今年のインターハイ・バスケット競技は男女が完全別開催になった。どちらも埼玉県内なのだが、男子は深谷市、女子は本庄市で行われる。千里たちは朝から本庄市の本庄総合公園体育館(シルクドーム)に出かけた。
(本庄市と深谷市はどちらも埼玉県北部の市で本庄市から少し西に行くと藤岡JCTのある藤岡市がある。大雑把に言うと西から藤岡市・本庄市・深谷市・熊谷市と並んでいる(途中に神川町・美里町もある))
入場行進の時に流れる曲はFireFly20が歌う『あのゴールを目指して』である。昨年はParking Serviceだったし、やはり選手たちと同世代くらいの歌手ユニットというのが、いいのかなと千里は思った。
全員整列したところでステージにFireFly20が登場して場を盛り上げてくれる(彼女たちはこのあと深谷市に移動して男子の開会式にも出るらしい。ご苦労様である)。その後更に地元本庄市の高校のチアリーダーチームが華麗なパフォーマンスを見せて選手たちの中からも「すごーい」という声があがった。
その後、大会長の代理さんが登場してインターハイ・バスケットボール競技の開始を宣言(大会長さん本人は男子の開会式に行っている)。更に数人からの祝辞の後、優勝旗の返還をする。昨年優勝のJ学園・大秋さんが優勝旗を大会長代理に手渡した。
その後、君が代と高体連の歌を斉唱し、選手宣誓となる。今年の宣誓をしたのは女子は福岡K女学園である。昨年のインターハイでN高校の練習場所を提供してくれた学校だが、今年は福岡C学園とともに福岡県代表として出てきた。宣誓をしたのも昨年練習相手になってくれた時に、スターターに入っていた子であった。
開会式の後で、協会の人がN高校の所に来て、千里に
「村山さんの参加資格の確認書が出ていますのでお渡ししておきます」
と言った。
「何何?」
と寿絵が訊くので、別に隠すものでもないしということで見せてあげる。
《村山千里(平成3年3月3日生・本籍地北海道留萌市)は間違い無く女性であり、平成20年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会女子の部に参加資格があることを確認します》
と書かれている。
「へー。間違い無く女性であり、か・・・」
と寿絵はまるで感動したように言う。
「あんたは女性であることを確認してもらわなくていいの?」
「あんたこそ、実はちんちん付いてたりしないの?」
「ちんちん付いてるなら、見付からない内にチョキンと切っておきなよ」
などと、揉めている子が数人居た。
この日は開会式だけなので、いったん引き上げるのだが、開幕前の最終調整を兼ねて、秋田N高校が宿泊している東松山市内の私立高校に行き練習試合をした。例によってAチーム戦・Bチーム戦・Cチーム戦をしたのだが、Aチーム戦はお互いあまり無理せずに調整をするような感じにして、Bチーム戦・Cチーム戦はマジでやった。
「秋田N高校さんのシューターさん、凄いですね」
と絵津子が言う。
「たぶん千里と高校1,2位を争うシューターだよ」
と暢子が言う。
「私にマークさせてくれませんか?」
「ほほぉ!」
「よし、絵津子、頑張れ」
ということで、この日のAチーム戦では絵津子が中折さんのマークについた。最初の頃は簡単に抜かれていたが、何度もマッチアップする内にけっこう停めるようになる。しかし中折さんは停められると即シュートを撃つので、向こうとしてはそんなに困っていない感じではあった。ただ、中折さんのシュートは千里ほど百発百中ではないので、中折さんが撃った場合、リバウンドが鍵となる。これを秋田N高校のセンター・沼口さん・杉与さんと、留実子・揚羽・リリカで争い、留実子は7割・揚羽も半分を取って、結果的にはその差が出て試合は旭川N高校の方が優勢で進んだ。
また中折さんも、絵津子のように背丈はなくても素早いタイプの選手との対決は貴重だったと感想を言っていた。秋田N高校は3回戦で愛知J学園とぶつかる組合せなので、道下さんや佐古さんなどにマークされた場合のシミュレーションになったようである。
練習試合が終わった後、V高校に戻るのに電車を待っていた時、千里はどこかで見たことのある人の姿を見た。暢子に一言声を掛けてその女性のそばに駆け寄る。
「すみません。人違いだったらごめんなさい。北原さんのお知り合いの方では?」
その女性は千里を少し見て考えていた。そして言った。
「あなた、去年の8月(*1)に居たわね」
その女性の声は千里には男性の出す疑似女声に聞こえた。
(*1)2007-08-24 東京で緊急会議が行われて雨宮一派で手分けしてAYAのインディーズ・デビューアルバムを制作した時。彼女は足を怪我している北原さんをサポートしていた。
知り合いに会ったので、少し話してから帰るということで宇田先生の許可をもらい、千里はその人と少しお話しすることにする。立ち話も何だしということで、いったん改札を出て、駅近くのドトールに入る。
「私、お腹空いちゃった。ミラノサンド食べちゃおう。あなた要らない?おごってあげるよ」
「じゃ、頂きます」
ということで千里もミラノサンドとコーヒーを頼む。
「あら、あなたブラック?」
「ええ。いつもブラックです。たまにミルク・砂糖入れることもありますけど」
「高校生でしょ?すごいね」
「私、けっこうコーヒー飲むから、砂糖入れているとカロリーオーバーになるから」
「でもスポーツやるんでしょ。そのユニフォーム。あなた背が高いしバレーか何か?」
「バスケットです」
「なるほどー」
「インターハイに出るのに出てきたんですよ」
「あら、じゃこの辺に住んでる子じゃないの?」
「北海道なんです」
「すごいねー。インターハイなんて」
「北原さんのお友達なんですか?」
「うん。あなた私の性別が分かったみたい」
「そのお声で」
「声パスしてるつもりだったんだけどなあ」
「普通の人には分からないと思います。私も同類だから」
「ほんとに!?」
「村山といいます」
「私は仮名・喜岡ということで」
「仮名なんですか!?」
「実はあの子とは去勢手術を受ける病院で知り合ったのよ」
「へー!」
「それで色々話していて意気投合して、3年くらいの付き合いかな」
つまり北原さんは3年半ほど前に去勢手術を受けたということか。
「何度かセックスはしたことあるけど、恋人というわけではなかったのよね。って、こんな関係、高校生に分かるかなあ」
「何となく分かりますよ」
「彼女が怪我した時は、サポートで1ヶ月くらいずっと付いてたけどね」
「ありがたかったと思います」
「彼女が死んだのはmixiで見て知ってたけど、あまり騒がれたくなかったからお葬式には行かなかったの。せめてお墓参りくらいしたいなとは思ったけど、場所訊くのもはばかれて」
「では今から一緒にお墓に行きませんか?」
彼女は少し考えていたものの、やがて言った。
「そうしようかな」
それで千里は仮名・喜岡さんの同意を取って新島さんに連絡する。すると新島さんから、お墓のあるお寺の正確な位置がメールで送られてくる。お寺には新島さんから少し遅くなるが墓参りしたいと連絡を入れてくれるということであった。
「どこにあるの?」
「館林なんですよ」
「だったら1時間くらいかな」
「はい」
ふたりは東武線で館林まで行き、駅前からタクシーでそのお寺に入る。お寺の人に尋ねて、墓の位置を教えてもらった。線香などの用意が無かったのでお寺で購入する。ご住職の奥さんが対応してくれたが、線香1束とろうそく1本にチャッカマンを買っていて、千里はふとそのそばに並んでいる人形に気付いた。
「この人形は何ですか?」
「身代わり人形というんですよ。これを持っておくと災厄などをこの人形に移せるというんです」
「へー。面白いですね。それも1つもらえます?」
「はいはい。どの色がいいですか?」
「じゃグリーンで」
結局、奥さんが墓の所まで案内してくれた。仮名・喜岡さんがチャッカマンでろうそくに火を付け、線香に火を移す。それを墓の前にそなえて2人で合掌した。
千里がお寺を出てから、東武線に乗り久喜駅で仮名・喜岡さんと別れた頃、大阪では貴司が目の前におかれた服を見て
「これを着るんですか〜?」
と嫌そうな顔をして言った。
「今日の試合、5ファウルで退場になった罰」
「え〜!?」
「ウェストは87だから入るはず」
「よくそんなサイズのスカート見付けましたね!」
「数橋さんが大きいサイズのコーナーで買ってきてくれた」
「パンプスも28cmだから大丈夫のはず」
「よくそんなサイズのがありましたね!」
「真弓が女装用品売ってる店で買ってきた」
「これウィッグね。さすがにその頭では女に見えないし」
「お化粧した方がいい?しない方がいい?」
「した方がいいかも」
すると職場の40代の女性・数橋さんが入ってくる。
「眉毛が太いね。これ剃ってもいい?」
「いいですよー。この際」
それで数橋さんは貴司の眉毛を細くカットした上で化粧水・乳液・メイクアップベース・ファンデーション・アイライナー・アイカラー・アイブロー・頬紅と塗り、最後に口紅を塗って完成させた。
「よし。それで御堂筋を往復歩く」
「え〜〜〜!?」
「トレーニングだよ」
「難波駅と大阪駅の間、往復10kmくらいかな」
「細川の足なら1時間半かからないだろ?」
「心斎橋筋でもよいが」
「御堂筋のほうがまだマシのような気がします」
7月29日。試合は始まるがN高校は1回戦不戦勝なのでこの日もたっぷり練習をする。ただ明日に疲れが残ってはいけないので、午前中に基礎練習をした後、午後からAチーム対Bチーム(+薫・川南・葉月)で練習試合をした。すると薫とソフィアが大活躍でAチームが結構焦るほどの勝負になった。
この日は練習は15時で切り上げ、インターハイ出場メンバーおよび3年生の川南・薫・葉月は期間中の宿舎にする渋川市内の旅館に移動した。今回は本庄市にはホテル・旅館がそう多くないことから伊香保温泉を抱えている渋川市内に宿舎を確保した学校が多かったようである。
(JR高崎線で、大宮−本庄が約1時間、本庄−高崎が20分、高崎−渋川が24分)
千里は伊香保まで来てから、この更に山奥に草津温泉があると旅館の人から聞いて1月に北原さんが倒れて、雨宮先生を迎えに来た時のことを思い出していた。もっともあの時は前橋で先生と落ち合ったので、渋川までも来ていない。
一方、2年生以下で出場メンバー以外の子はV高校に引き続き宿泊して、そこから毎日会場に入って撮影や応援をすることになる。そちらでは他校Bチームとの練習試合も組んでいる。この日も、昨年九州でお世話になった福岡K女学園のBチーム・Cチームと練習試合を行った。
渋川市から会場までは電車で1時間弱だが、V高校から会場までは2時間かかる。しかし伊香保温泉も各校の選手で満杯なので、ひとつの高校で大量の枠を確保するのは遠慮したのである。また練習試合の場所確保の観点からも実はV高校は便利である。
なお、北海道勢の初日の成績だが、P高校は岩手D高校に快勝した。D高校といえば、1年半前に見に行った新人戦東北大会で秋田N高校と決勝戦を争ったチームだ。千里はあの時出会った背の高いセネガル人留学生のことを思い出していた。あの子、きっとあの時よりうまくなっているだろうな、インハイが終わったらビデオ見せてもらおう、などと千里は考えていた。
男子の方では、札幌B高校も接戦の末何とか勝ったが、札幌Y高校はいきなり強敵に当たって初戦敗退となった。Y高校は昨年も1回戦でいきなり強い所と当たって敗れており2年連続くじ運に泣くこととなった。
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女の子たちのインターハイ・高3編(3)