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■女の子たちのインターハイ・高3編(7)

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第3ピリオド、N高校が川南の言った通りのオーダーで出て行くと、相手は慌てたようであった。
 
梅川/伊丹/時任/住吉/京橋というラインナップだったのだが、開始早々タイムを取って、水晶・春紅・晩翠という、雪子・千里・暢子の専任マーカーを投入してきた。
 
ほぼ第1ピリオドの組合せが再現される。但し絵津子の相手は時任さん、留実子の相手は京橋さんである。
 
ボールを運んでいった雪子を水晶さんが厳しくマークする。雪子は高い軌道のパスを絵津子に送る。時任さんが割り込んでカットしようとしたが、絵津子は更にその前に回り込んでしっかりボールをキャッチした。そしてドリブルしながら千里と春紅さんがマッチアップしている所に強引に走り込んで来る。春紅さんが「え!?」という表情をする。千里が2歩下がると絵津子はそのまま、ふたりの間を通過した。春紅さんが「スイッチ!」という声を掛けて絵津子を追う。絵津子を追いかけてきた時任さんが春紅さんの居た場所に入ろうとする。
 
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が、春紅さんは数歩行ったところで初めて、絵津子がボールを持っていないことに気付く。
 
「嘘!?」
と声を挙げて振り返った時はもう千里がシュートを撃つ体勢に入っている。
 
絵津子はわざと春紅さんの前をドリブルしながら通過して、通過した次の瞬間、ボールを千里に渡したのである。しかし絵津子はドリブルしている仕草だけは継続したので、春紅さんがそれに気付くのに遅れてしまった。
 
きれいに入って3点。
 
N高校の反撃が始まった。
 

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春紅さんにしても、暢子の専任マーカー晩翠さんにしても、何が起きても他は見るなと厳命されている。一瞬でも他に気を移せば、その瞬間マークを外されるというのは、E女学院がN高校の試合のビデオを詳細に分析して得られた結論である。
 
しかし他を全く見ないということが、結果的に絵津子のスクリーンプレイを易々と許してしまう結果になってしまった。
 
絵津子は時任さんを巧みに振り切って雪子からパスを受け、その時の状況次第で千里、あるいは暢子の近くまで行って、2対1の状況を作り出し、千里や暢子にシュートさせるというプレイをした。逆に相手がそういうプレイを警戒していると見ると、雪子からもらったボールを直接ゴール下までドリブルで運んで自らも得点する。
 
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この絵津子のプレイによって第3ピリオド開始3分でN高校は14点を奪い取り、42対24と、かなり点差を改善した。
 

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「ひょっとして逆ワンサイドになってたりして」
とT高校の池田さんが言う。
 
「前半はE女学院のワンサイド、後半はN高校のワンサイドだったら面白いね」
と竹宮さんも言った。
 
「しかしいったんスイッチが入ると村山さんは凄まじいな」
と萩尾さんはむしろ難しい顔でコートを見つめていた。
 

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絵津子の投入が試合の雰囲気を全く変えてしまった。N高校の勢いは止まらず、第3ピリオド5分を過ぎた所で、44対34とE女学院を完璧に射程距離に捉える。このピリオド前半に取った24点の内、実に18点が千里のスリーである。
 
さすがにE女学院も絵津子を何とかしなければと考えるものの、このピリオドでは開始早々に1度タイムを使ってしまっているので、交代させることができない。河原さんと富田さんが交代席で待機しているのだが、投入できないのである。
 
絵津子が千里と春紅さんの間に割り込んだ上で、千里にパスしようとした時、E女学院のコーチが思わず
 
「ぶっ飛ばしてでも停めろ〜〜!」
と叫んだ。
 
すると、絵津子を追ってきていて結果的に千里の近くに居た時任さんがボールを受け取ろうとしていた千里に体当たりした。千里は腕に当たって来るかなと思い腕に「気」を集中していたので、体当たりは予想外でそのままサイドラインの外まで吹っ飛んでしまった。時任さんは173cm 75kg のがっちりした体格、千里は168cm 56kg。完璧に体格の差が出た感じである。
 
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笛が吹かれる。
 
ボールはまだ絵津子の手の中にあった。
 

「大丈夫?」
と暢子が駆け寄って千里を起こした。
「何とか」
と千里は答えた。
 
審判も近づいて来て
「君、怪我は?」
と尋ねる。
 
千里は身体中の気の巡りをチェックする。
『いんちゃん、私どこか怪我してる?』
『左の卵巣がちょっとびっくりしてるけど、大丈夫これは私がメンテしておく。次の排卵は右の卵巣からだから生理も乱れないはず』
『私卵巣あるんだっけ?』
『知ってる癖に』
『うーん・・・』
『それから左太ももがちょっと切れてる』
 
それで千里が左の太ももを見ると確かに擦り傷ができている。
 
「ちょっとかすっただけです。大したことないです」
と千里は答えた。
 
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「ああ、このくらい、ツバ付けておけば治るな」
と暢子は言って、ほんとに自分のツバを付けてる!
 
審判は千里に大きな怪我は無いようであると見て、時任さんにアンスポーツマンライク・ファウルを宣告した。(千里がプレイ続行不能なほどの怪我をしたり、気絶したりしていたら、ディスクォリファイイング・ファウルで一発退場になっていたところ)
 
故意に行ったファウルはそれだけでアンスポーツマンライク・ファウルを取られることもある。ただ、この場合、時計を止めることが目的であったので、その場合は「時計を止めようとすることは通常のプレイである」という考え方から、故意であっても普通のファウルとして処理されることが多い。
 
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しかし、腕を掴んだり抱きついたりするくらいならまだ良いが、ボールを持っていない選手への意図的なボディアタックはさすがに「通常のプレイ」の範囲を逸脱する。それで原則通り、アンスポーツマンライク・ファウルが宣告されたのである。
 
なお、通常のファウルは5回で退場だが、アンスポーツマンライク・ファウルは2度で退場になる。
 
また「ぶっ飛ばしてでも」と叫んだコーチにもテクニカル・ファウルが宣告され、あわせて厳重な警告が与えられた。
 
しかしとにかくもこれでE女学院は選手交代をすることができた。時任さんは千里のそばに行って「ごめんなさい」と謝ってから退いた。
 

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「今のケースさ、おとなしいファウルだと、審判は流したかも知れないよね」
と山岸さんが言った。
 
「うん。負けている側のファウルプレイは戦術として確立しているから、普通取ってもらえるけど、リードしている側のファウルは、停めることで追い上げようとしている側が不利になるから、審判の判断でファウルを取らずにそのまま流してしまうこともある。結果的にはあのくらい激しいファウルをしない限り、選手交代はできなかったかも」
と竹宮さん。
 
「まあそれにしても、さすがに体当たりは、やり過ぎかもね」
と萩尾さんは言った。
 

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試合はフリースローから再開される。千里は当然2本ともきれいに決めて、得点は44対36となる。更にアンスポーツマンライク・ファウルの後はファウルを受けた側、つまりN高校がセンターライン横からのスローインで試合再開である。雪子がスローインのためその位置まで行き、審判からボールを受け取る。
 
千里はそのボールを取り行くかのようにそちらへダッシュする。するとマーカーの春紅さんが必死に走ってパス筋を塞ぐように千里より中央側に入り込もうとする。すると千里は一瞬にして反転してゴール方面へ走る。雪子はその千里の背中めがけて速いパスを投げる。
 
雪子がパスを放った次の瞬間千里は振り向きボールをキャッチ。春紅さんが必死に戻ってくるが、その前に千里はきれいにシュートを放っていた。
 
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入って3点。44対39。
 
この千里の「5点プレイ」で試合の行方はもう全く分からなくなった。
 

投入された河原さんは絵津子を厳しくマークするが、絵津子は強い相手ほど燃える。しかもポーカーフェイスで緩急の付け方が巧いので、河原さんも簡単には停めきれない。それで第3ピリオドの後半も絵津子は前半ほどではないものの、けっこうフリーになって千里や暢子とのコンビネーション・プレイを成功させた。
 
また千里は第1ピリオドの10分+第3ピリオドの前半を春紅さんと対峙していて、彼女の呼吸をかなり読むようになっていた。千里のマーカーに任命されただけあって気配を読むのが上手いし瞬発力もあるのだが、停止状態から走り出すのは速くても、走っている状態からのストップはやや遅い。恐らく足腰があまり強くないのだろう。さきほど千里が見せたような急激な反転には弱いことを千里は見抜いてしまった。
 
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そこでそのような急激な反転をしたり、あるいは逆に反転するかと見せて、一旦停止の後、更に同じ方向にダッシュするといった動作を見せると、瞬間的に春紅さんとの距離が離れる時間が発生する。すると雪子がすかさずそこにボールを送る。ボールをもらえば多少体勢が悪くても千里は高確率でボールをゴールに放り込む。万一外れても留実子がしっかりリバウンドを取ってきちんと入れ直してくれる。
 
また暢子も千里同様、15分間の晩翠さんとの対決で、かなり相手の癖を見抜き、いろいろな変化を使って相手を出し抜いてフリーになれるようになってきた。そして雪子も水晶さんとの対決をかなりやって、やはり相手の癖を見抜き、第1ピリオドに比べると、ぐっと自分の好きなようにプレイできるようになってきていた。
 
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結果的に第3ピリオド後半は前半ほどではないものの、千里の5点プレイを含めて16点をもぎ取り、このピリオドだけで40点、合計で50対50ととうとう同点に追いついてしまった。
 

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「E女学院はしっかりN高校のメンツを研究して癖を見抜いたんだけど、この試合の中でN高校のメンバーは自分の専任マーカーの癖を見抜いたね」
と竹宮さんが言う。
 
「癖の読み合いだね」
と萩尾さん。
 
一方N高校のベンチではハーフタイムとは打って変わって全員のテンションが上がっていた。
「ここまで来たら最後はもう点の取り合いでしょうね」
と雪子。
「まあそうなるだろうね」
と暢子。
 
最後のインターバル、千里たちはそんなことを言いながら水分補給してラストピリオドのコートに向かう。最後は雪子/千里/絵津子/暢子/揚羽というメンツで行く。向こうは梅川/伊丹/河原/住吉/京橋である。こちらは実は留実子が体力限界なのだが、向こうも富田さんは前半ずっと出ていて第3ピリオドも後半出たので体力限界になったようだ。172cmの京橋さんと174cmの揚羽との勝負ということになった。
 
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予想通り激しい点の取り合いになる。こちらが第3ピリオド同様に絵津子絡みのコンビネーションプレイを軸に点を取っていけば、向こうは河原さん・住吉さんを軸にやはり激しい攻撃を仕掛けて来る。
 

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観戦していたT高校の萩尾さんが言う。
 
「こうなるとひとつのゴールが何点になるのかという重みが利くね」
 
T高校のマネージャーが付けていたスコアをのぞき込んで竹宮さんも同じことを言う。
 
「このピリオド、ゴールの数はここまでE女学院が8回とN高校が9回で1個しか違わない。だけど点数はE女学院の16点に対してN高校は22点」
 
「やはりスリーは怖い」
と山岸さんが言った。
 

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試合終了のブザーが鳴る。最後にボールを持っていた伊丹さんの投げたボールがゴールに飛び込んでブザービーターで3点を取ったものの、伊丹さんはその得点を喜ぶこともなく座り込んだ。
 
審判が整列を促す。
 
「80対71で旭川N高校の勝ち」
「ありがとうございました」
 
お互い握手する。河原さんはキャプテン同士暢子と握手し、そのままハグした後、絵津子ともハグしていた。千里は伊丹さん・春紅さんと握手した後、時任さんにも笑顔で握手を求める。時任さんは再度ペコリと頭を下げてから千里と力強く握手をした。
 

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「先日練習試合した時も思ったけど、今年の旭川N高校って、優勝を狙えるパワー持ってるね」
 
と観戦していた萩尾さんが言う。
 
「うん。どうしよう? N高校とは決勝戦まで当たらない組合せというかさ、実際問題として当たることはあるまいと思って練習試合をしたけど、本当にここと決勝戦をすることになるかも」
と竹宮さん。
 
「けっこう手の内をバラしちゃったよね」
と山岸さん。
 
「でも手の内を曝したのは向こうも同じだよ。今日大活躍した15番(絵津子)もボクたちは先日長時間プレイを見て、その後、対策を話し合ったしね」
と森下さん。
 
「まあ実際にあの子とコート上で対戦した所しか、15番対策は思いつかないだろうね」
と萩尾さんも言った。
 
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「ただ私たちも、あの15番が決勝まで上がってくるまでの間に更に成長したら、あの日話し合った方法では対処できないかも知れない」
と竹宮さんは言う。
 
「伸び盛りの選手って怖いからね」
 

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女の子たちのインターハイ・高3編(7)

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